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GⅡ-07 盗賊団壊滅

 「いい、ちゃんと鼻と口を覆ったわね!」

 「ああ、だが、これはちゃんと効くのか?」


 ガリクスが胡散臭そうな目で私を見ているけど、気にしないぞ。

 全員、布にデルトン草とサフロン草の球根を磨り潰して水に溶かしたものを布に滲み込ませた布で覆面をしているから、私達が盗賊に間違われそうだ。


 「煙がここまで来るとは思えないけど一応念のためよ。あれはかなりきついから。パメラ達はあの岩の上で待伏せしてね。私達3人はここで奴等を止めるわ」

 「出来れば、1人を捕らえてください。生きていれば問題ありません。奴等の全容を調べませんと……」


 警邏隊の隊長さんが私達にお願いしてくる。


 「出来れば……、で良いんだな。努力してみよう」

 

 面倒臭そうにガリクスが呟いている。まあ、確かに生きるか死ぬかでぶつかってくる相手に手心を加えるのは難しい事ではあるんだけどね。


 「1週間ほど生きてれば良いんでしょう?」

 「そんなもので良いでしょう。王都に送って調書を作るのが目的ですから」


 隊長さんも、自分が頼んだ事が極めて困難な事であると分かっているようだ。ここは少し協力してあげるか。

 パメラ達が大きな岩に上っていくのを眺めながら、腰のバッグの魔法の袋から長剣を取り出した。


 「ほほう、長剣を使うのか?」

 「しばらく生き物相手に使って無かったから、たまに使ってあげないとね。ドワーフの最後の作よ」


 ドワーフの鍛冶屋は隠退する前に、自分の持てる技術をつぎ込んで1振りの剣を鍛える。その剣に値段は付けられない。ドワーフは最後の作品をこれはと思う相手に贈る。その使い手と一体となった剣が次ぎの世代に渡る時初めて値段が付けられるのだ。未だかつて、金貨50枚を下回った話は聞いた事が無い。私のこの長剣はいったいどんな値段が付けられるのだろう。


 ガリクスの持つ長剣もかなりの業物だ。似たような品なんだろうな。

 そんな私の長剣が湾曲しているのをケースから察したのだろう。ちょっと驚いたような表情で隊長さんが私を見ている。

 

 「さて、もう少しかな?」

 「そうでもないぞ、既に始まっているようだ。あれを見ろ!」


 岩山の斜面の上の方で大きな炎が上がった。巨大な火の玉が岩山を転がり落ちてきている。

 1個、2個、3個……。まだまだ増えるぞ。ダノン達は、いったいいくつ作ったんだ?

 

 たぶん焚き木を蔦で玉の形にしたんだろう。岩の間を転げ落ちながら火の粉を撒き散らしている。

 しばらくすると、煙が下りてきた。

 もっとも、ここまで来ればだいぶ拡散しているからあまり害はない筈だ。それでも、喉が少し痛みを感じるから岩山の中腹ではさぞかし酷い事になっているだろう。


 そんな中、大きな岩の上に登ったパメラが私に顔を向けて片手で何度も岩山の中間付近を指差している。

 どうやら出て来たようだな。

 パメラに片手で首を斬る仕草をすると、しっかりと私を見て頷いている。

 弓矢の準備を始めたところを見ると、急いで盗賊達が岩山の裾に向かって移動しているらしい。


 「始まるわよ。何人来るか分からないけど、左から狩るわ」

 「なら俺が真中だ。隊長さんは右手を頼む。倒す必要は無い。身を守ってくれ」


 隊長さんは自分の技量を知っているのだろう。ガリクスに軽く頷くと腰の長剣を引き抜いて少し下手に移動する。

 

 道の小石を蹴飛ばしながら、盗賊の群れが下りてきた。だが、岩山の抜け道の真中に横に3人が並んでいるのを見て、その足を緩める。


 パシ! 弦が鳴った。

 続けざまに矢が飛び、何人かが倒れる。

 

 「上だ! 矢が来るぞ」

 

 盗賊達が互いに怒鳴り散らしているが、どうやら魔道師はいないようだ。パメラ達が倒したのは盗賊の弓使い達だろう。

 盗賊からの矢は1本も飛んでいない。パメラ達に攻撃できない事を悟ると、背中の長剣を引き抜いて私達に向かって駆け下りてきた。


 こんな時は、やはり弱いものから狙うんだろうな。全員が私目掛けてやってくるぞ。見掛けはエルフの娘だけど、私は前衛だ。

 

 坂道を駆ける勢いで私に長剣を向けて突っ込んできた。

 軽く体を捻ると、長剣を一閃する。

 盗賊は私の横を数歩駆け抜けるとその場に転倒したようだ。ドサっと音がしたからな。

 坂の上にいる盗賊を見ながら2歩左に移動して、次ぎの盗賊目掛けて袈裟懸けに長剣を振るった。

 「ギャァー!」 大声を上げるのはみっともないぞ。

 3人目を待っていると、手強いと見たのだろう、私の直前でガリクスの方に向きを変えて長剣を振るった。


 「チェェスト!」

 

 ガリクスの声と長剣が空気を斬る音がする。その後にくぐもった音がしたのは盗賊が倒れたんだろう。


「1人逃げてしまうにゃ!」

 

 パメラが逃げ出す盗賊を指差して教えてくれる。

 長剣をその場に放ると、背中のブーメランを取り出して盗賊の進行方向の先に投げた。

 シュルシュルと音を立てて、ブーメランが弧を描いて飛んでいく。

 逃げ去ろうとしても、岩がごろごろしている場所だから、盗賊の足取りは遅い。そこに戻ってきブーメランが斜めに当った。

 盗賊が横腹を押さえて悶絶しているところに、パメラの矢が背中に突き立つ!


 これで、全部なのか?

 周囲を素早く眺めると、ふぅっと一息ついた。

 周囲に煙が来ていないことを確認して、少し口を覆った布をずらして息を吸い込む。

 だいじょうぶみたいだな。


 「みんな! 顔の布を外しても良いわよ!!」

 

 私の声に、ガリクスと隊長さんが顔の布を首に下げる。


 「あっけないものだな」

 「弓使いを最初に倒してるからね。元傭兵ではガリクスに剣で勝てるわけが無いわ」


 何時の間にか周囲が明るくなっている。

 ガリウスと隊長さんが散らばった盗賊を改めているようだ。瀕死の者には介錯してやり、大怪我を負った者には簡単な手当てをして革紐で後ろ手に縛り上げている。

 

 パメラ達が岩から下りてきた。盗賊の弓使いは2人だから、何とか最初の矢で倒したみたいだな。弓を持たない盗賊の肩にも矢が刺さっている。

 それだけで事切れてるんだから、やはり毒矢の威力は凄いものだ。手に毒消しの容器を握っているが、飲むことは出来なかったようだ。


 「これで、クレイの仇を討てたわね」

 「凄い威力にゃ。もう、作ってもらえないのかにゃ?」


 パメラの隣で弓を手にした娘もパメラの言葉に頷いている。毒矢は確かに威力があるが、取り扱いが難しくもある。


 「これで、お終い。獣を狩るには必要ないでしょう」

 

 私の言葉に、渋々頷いてるぞ。

 そんな彼女達の肩をポンポンと叩いて、シガレイを咥える。

 後は、生き残った盗賊を町の警邏隊の建屋に連れて行き、王都に荷車で送ればお終いになる。


 「お~い! 皆無事か?」

 

 岩山の上からダノン達の声が聞こえる。

 どうやら、あの煙も無くなったようだ。ダノン達も顔を覆っていた布を首に下げている。


 器用に岩を飛ぶように降りて来てるけど、ダノンの片足は義足なんだよな。初めて見た人なら気が付かないんじゃないか?


 「まあ、姫さんを怒らせたのが、奴等の運の尽きだな。それで、毒矢の威力は?」

 「あれよ。ガリウス達が見聞してるわ」


 直ぐにダノンはガリクス達の所に向かっていく。

 残ったのはグラム達だ。


 「あの辺りに穴を掘ってくれない? いくら罪人でも獣の餌ではねぇ……。死んで罪を償ったのだから亡骸は埋めてあげましょう」

 

 「そうですね。俺達も賛成です」


 岩山の傍の荒地に数人で交替しながら穴を掘り始めた。

 私の考えは、必ずしもこの世界の道徳観念と合致しない場合もある。だが、今回は特に問題が無かったみたいだな。


 そんな所にガリクス達が私の所に戻ってきた。

 彼らを焚き火に誘って、ポットのお茶を注いであげる。


 「あの傷で、絶命してるということは、やはり毒で間違いないな。しかも、突然倒れたように足跡が乱れていない。ダラシット並みの毒の効果があるんじゃないか?」

 「毒に気が付いて毒消しを飲もうとした者もいました。ですが、それを飲むことが出来なかったという事は、ダラシットよりも即効性が高いという事でしょう。使われたら最後というのは恐ろしくもあります」


 「だが、姫さんはこれを一晩で作り上げた。材料はパイプだけ、いったいどうしたらそんな毒を作れるかは、俺達は知らなくていい」


 ダノンの言葉に2人が頷いた。

 

 「一応、矢は回収してあるが、今でも毒矢の効果はあるのか?」

 「どうかしら? 私が作った毒は水溶性なの。たぶん血液に溶けてしまったと思うけど、出来れば廃棄して欲しいわ」


 私の言葉に、ガリクスは足元の荒地に矢を突き立ててヤジリを折り取った。残った矢を焚き火に放り込む。


 「これで、今回の毒は誰にも分からない。だが、一応、ケイネル殿には知らせておく」


 穴掘りが終ったところで、グラム達が焚き火でお茶を飲む。私達は場所を譲って、盗賊の死骸を穴に放り込んで埋めておく。


 「それにしても、両腕の手首を斬ったのか? その上で、背中を長剣の背で叩いて気絶させるとは恐れ入った!」

 

 そんな事を言っていガリクスも、相対した盗賊の片腕を肩から切断している。隊長さんはブーメランが当った盗賊を刺し殺したようだが、自分の技量で相手をすればいい。殺さずに連れ帰った方が良いのは確かだろうが、そのために自分が傷つくのは問題がある。


 一段落したところで、2人の盗賊を小突きながら町へと戻って行った。

 ギルドで待っていた警邏隊の若者達に盗賊を引き渡して、私は暖炉の傍に関係者を集めた。


 「さて、これで盗賊団は壊滅ってことになるわ。私の我がままに付き合ってくれてありがとう。これは少ないけれど御礼よ」


 そう言って、ガリクス以外の人達に銀貨を1枚ずつ配る。

 

 「姫さん、これは貰うわけには……」

 「いいえ、ちゃんと受け取って頂戴。貴方達はハンターでしょう。なら、正当な報酬と言えるわ」


 「そうだな。俺からも渡さねばなるまい。これは王国軍からの謝礼としてだ。同じく銀貨1枚ずつになる」


 そういういい訳も出来るんだな。たぶん、王国軍ではなく、雇い主の貴族からという事になるのだろう。ハンターを私兵に加えるアイデアを具申しているのだから、少しは責任を感じているに違いない。だが、これで懸念が全て払拭されたはずだ。


 「あんな焚き火で銀貨2枚では、後でクレイに文句を言われそうだな」

 「たぶんね。でも、私は1人でも盗賊を倒しに出掛ける気持ちだったわ。私は私の仲間を傷つけるような輩には容赦できない性質なの」


 そんな私の言葉に、ガリクスが苦笑いをしている。

 普段はそれなりの性格だが、一旦怒ったら、始末に終えないって感じたのかな?


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