表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/140

GⅡ-06 盗賊狩り

 パイプから抽出したニコチンを皿に入れて、ヤスリでヤジリの側面に傷を付けると、ヤジリを皿に浸しては暖炉に並べて乾燥させる。

 何度も何度も繰り返すとヤジリが濃い飴色になった。墨で色を付けたようにも見えるが、良く見れば濃い茶色であることが分かる。

 完成した毒矢のヤジリを布で包み、暖炉の上に纏めて置いておく。皿は裏庭の片隅にある井戸で綺麗に洗って、更に【クリーネ】を掛けたからニコチンの痕跡は皆無になったが、この皿で物を食べるのも問題だな。バッグの魔法の袋に入れて保管することにした。

 色々と本では読んだ事はあるのだが、果たしてこの毒矢は効果があるのだろうか?

 かなり強力な神経毒と聞いているけど……。


 次ぎの日。朝早くから、ギルド内には昨夜の連中が集まってきた。

 警邏隊長からの知らせを受けたのだろう、ガリウスまでが私の前にいるぞ。昨晩の内に王都に早馬を出したようだな。


 「それで、これが毒矢だというんだな?」

 「ええそうよ。知識はあったけど、実際に作ったのは初めてよ。グライザムでさえ殺せると思うけど」


 ガリウスはヤジリ部分を布で巻いた矢を取り上げると、包みを解いて先端のヤジリを眺めている。

 それを隣のダノンが食入るように眺めていた。


 「だが、これを使う相手は」

 「クレイを射った盗賊達になるわね。【デルトン】が効くかどうかも怪しいわ。一応、使う前に掛けておいたほうがいいとは思うけど」


 「通常の毒矢はヤジリに穴を開けてそこに仕込むんだが」

 「ヤジリにヤスリで傷を付けてそこに滲み込ませてあるわ。その上から何度も毒を塗って乾燥させているの。これは一応神経毒だから即効性なんだけどね」


 「使うのは初めてだから、どれ位の効き目かは分からんと言う事だな。そして、毒の材料はたぶんこのパイプに関連があるんだろうが、どうやって作ったかは誰も知らんという事になる。パイプを持ってるものを全て捕縛するわけにもいくまい。……隊長。どうだ、たまたま当たり所が悪かったという事では?」


 「それなら、誰も文句は言わんでしょう。正直に話しても、誰も信じないでしょうね」


 そんな話で、私の作った毒矢は当たり所がまずい矢(ADMと名付けたぞ)という事になってしまった。


 「クレイ達はここで襲撃を受けたんだな」

 「そうです。狩りの帰りにこの岩場を通ったところで矢を受けました」


 「そうなると、この辺りの岩場に逃れてきたという事かしら?」

 「たぶんな。街道沿いの森で大規模な盗賊狩りが行なわれた。殆ど始末したらしいが数人が逃げ出したらしい」


 麓の大きな森からあの岩場までは距離にして数十kmほどだ。やはり盗賊の一味と考えて問題なさそうだな。ならば、この毒矢を使っても問題はあるまい。レイクを苦しめた報いは受けてもらわないとな。


 「姫さん、その薄笑いは止めてくれ。俺達がびびってしまう」

 「あら、笑ってた?」


 私の質問に周囲のハンター達が無言で頷いた。

 

 「まあ、黒姫の怒りに触れたという事だな。で、どうやるんだ?」

 「意外と簡単よ。クレイの仲間に弓使いがいるわね。それにパメラを加えて、ここで待てば良いわ。この辺りに焚き木と雑草を積み上げて、カラリーナの実を投入しながら燃やせば盗賊はこんな風に移動してパメラ達の前を通るわ。そこを攻撃しなさい。ADMは弓を持つ相手に撃てば良いわ」


 「その下は俺と隊長でいいな。これで根絶やしにできる」


 「俺達は?」と詰め寄るハンター達をダノンが役目を与えている。

 大まかな作戦が分かれば、後はレベルに見合った役目を与えれば良い。そんな分配を苦もせずにダノンが行なえるとはね。時代は替わっていくものなんだろうな。


 「ざっとこんな感じだな。姫さん、外に何かあるか?」

 「そうね。山手から煙で相手を追い出すことになるから、風をしっかり読むのよ。その辺りはダノンに任せるわ。ネリーちゃん達は私達が戻るまでは薬草採取で我慢して頂戴。湖沿いの森に近付かなければいいわ。それと、臨時にキティちゃんをお願いできるかしら?」


 「荒地の斜面の上の方なら良いという事ですね。ちびっ子達の面倒もあわせて行ないます」


 ちびっ子達の薬草採取は家庭の生活を助ける為でもあるからな。ネリーちゃん達がいれば安心だろう。精々野犬程度だからな。


 「良いか。直ぐに出掛けるぞ。マリー、弁当を配ってくれ」


 2つのお弁当を貰ってハンター達が次々とギルドを出て行く。


 「キティちゃん。ネリーお姉ちゃんの言う事をちゃんと聞いてね!」

 

 私の言葉に大きく頷いて、ネリーちゃんと手を繋いだキティちゃんがギルドを出て行った。


 「さて、俺達も出掛けるか」

 「そうね。準備はいらないけど、焚き火ぐらい作っておけば十分かな? ダノン、明日の夜明けでお願いね」


 「ああ、分かった。夜明け直前なら丁度いいな」


 ダノンもこの辺りの気象には詳しいのだろう。私の言葉が何を意味するか分かったようだ。この辺りは日中は山に向かって風が吹くのだが、夜間は麓に向かって風が吹く。

 夜明け前なら丁度いい具合に煙が地表を這うように麓に向かうのだ。


 ダノン達は北門へと歩き出したが、私達は南門へと歩き出す。

 ハンター達は獣は狩るが人を殺める事はない筈だ。かつてはそんな時代があったし、私も何人かの盗賊を殺めている。まだ若い連中が果たして毒矢を射ることができるかどうかは疑問だが、彼らにできなければ私達3人が対応すればいい。ガリウスは絶対に何人か殺めているんじゃないかと思うけど、隊長さんはどうだろうな? 私を見た鋭い眼光は、人を殺めた過去を持つ者のそれだった。期待しても良いだろう。


 2時間程歩いたところで、休憩を取る。

 グラム達はダノンに同行してるが、パメラとクレイのパーティの4人が一緒だ。直ぐにお茶を沸かして、私達のカップに注いでくれた。


 「ずっと、気になっていたんだが、その背中の板も今回の討伐に関係があるのか?」

 「これのこと? 何だと思う?」


 「ロディ達から聞いたにゃ。投げると戻る不思議な板にゃ!」

 「魔道具なのか? 初めて見る品だ」


 「そんな分けないでしょ。ただの板よ。でもね、こんな風に削り上げると立派な武器になるのよ。こんな風にね!」


 ブーメランを持って立ち上がると、近くに1本だけピョコンと生えている雑木目掛けて投付けた。

 フュルフュル……と特徴的な音を立ててブーメランが飛んで行き、雑木の先端をパシ!っと折ると、弧を描いて私の手元に戻ってきた。


 「何だ、その動きは? それで魔道具ではないというのか?」

 「ただの板よ。少し削り方を工夫してあるんだけどね。使えそうなんで持ってきたわ」


 「ラビー狩りに使えそうにゃ!」


 パメラに微笑んで頷いた。直ぐにこの板の使い道に思い立ったらしい。

 作ってあげようかな。グラム達もたまにはシチュー用の肉が欲しいだろう。

 

 一息付いたところで、さらに南へと歩いて行く。クレイ達が襲撃を受けた岩場は伊豆海の丁度反対側だ。白レベルの連中は近寄らないけど、クレイ達のレベルなら大型の草食獣を狩る良い猟場になっている。その狩場を荒らすなどもってのほかだ。


 まだ日のある内に、岩場の下にたどり着いた。

 見上げると、大小の岩がごつごつと連なっている。そんな岩場の上の方で一筋の煙が上がっているのが見えた。


 「堂々と焚き火をしているとは思わなかったぞ」

 「野犬や、ガトルが徘徊してるからでしょうね。私達も焚き火を作らなくてはならないけど、日が暮れてからにするのよ。あの岩棚の下なら、上からは見えないわ」


 若い連中が焚き木を集めて準備を始めた。

 ガリウスが厚手の布を広げて岩棚の上から下げるように広げている。これなら周囲に漏れる明かりも少ないだろう。相手が数人なら、岩陰に隠れて夜を明かすだろうから、少しやりすぎなのかもしれないけどね。


 日が暮れると同時に焚き火を作って、夕食を食べる。

 明日は早朝から動く事になるから、食事が終ると順番に軽く睡眠を取る。

 

 ふと目を覚ます。

 2時間程寝たのだろうか? そんな事を考えながら焚き火の傍に行くとポットのお茶を頂く。


 「まだ時間が早いぞ」

 「でも、後少しで始まるわよ」


 星空を見ればおおよその時刻が分かる。ハンターならではの技能だよな。

 そんな私に金属製の小さな水筒をガリウスが渡してくれた。バッグから小さな金属製のカップを取り出して半分ほど注ぎ、水筒を返す。ポットからお茶を注いで、蜂蜜酒のお茶割りが出来上がる。

 チビチビと飲みながら、シガレイを楽しんで時間を潰そう。

 

 「それで、配置はどうするんだ?」

 「そうね……。この辺りで一番足場が良いのが、あそこの出口なのよ。その先で私が待つわ。貴方と、隊長さんで、手前の岩陰に隠れてくれない。挟み撃ちにできるわよ」


 弓使いは少し上の大きな岩の上で待機させればいい。残った連中は弓使いの援護をさせれば良いだろう。【メル】が使えるから十分だろう。


 「だが、カラリーナを使うのは俺なら願い下げだな。目は涙が止まらんし、喉はひりひりする」

 

 カラリーナは前の世界の唐辛子に似た植物だ。結構野生種があちこちに生えている。そんな採取が依頼される事もあるのだが、別な使い方もあるのだ。

 焚き火にカラリーナを大量に投入すると、煙にその成分が混じることになる。そうなると……、一種の化学兵器だな。死ぬ事は無いんだが、著しく戦闘力を奪う事もできる。上手く使えば大型の肉食獣にも効果があるんだが、風向きを考えないと、使った方が酷い目に合う事になってしまう。

 ガリウスは1度どこかで試みたようだな。私もかつて失敗した事がある。あの時は酷かったな。かろうじてがガトルを殲滅させたが、下手をしたらこっちが全滅だった。涙は止まらないし、喉は痛くなるし、咳き込むと更に酷くなった。


 「この季節で夜明け前に使うなら問題ないわ。それに、それ程長くは続けないから、ここまでは届かないと思うけどね」


 そんな希望的な話をしてガリウスを慰めておく。

 更に1本、シガレイを楽しんでいると、仲間たちが起きだしてきた。

 眠そうな彼らに、濃いお茶を渡す。

 空を見上げると、だいぶ星座が動いたようだ。あの星が見えるという事はそろそろダノン達が始める頃だな。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ