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G-007 ガトルの群れの狩りかた

 ギルドから戻って来ると、直ぐに夕食になった。私を待っていてくれたらしい。

 ミレリーさんの娘さんは、例の子供達の1人かと思ってたけど、どうやら違っていたのでちょっと安心した。巻き毛で面長な可愛い子だ。

 

 食事中、ずっと今日1日の薬草採取の話をしてくれたので、微笑みながら食事を取ることが出来た。

 食事は確かに上等ではないが、此処では親子の愛情の味が感じられる。それは食堂では得られないものだ。宿のおかみさんに感謝しなくちゃな。


 「……それで、どうにか数を揃えられたの。ねぇ、私も採取用のナイフが欲しいよ!」

 「そうね。でも、お母さんの使ってたナイフはお姉ちゃんが持ってるでしょう。もう少し待ってくれないかしら?」

 「先月だって、そう言った!」

 

 そういえば、この娘さんは薬草採取をしてるんだったな。この家を維持するのは大変だろう。ミナリーさんも、テーブルの角に毛糸玉が入ったカゴがあるから、内職をしてるんだろうな。

 自分の装備は長女に渡してるから、下の娘さんには新しく購入することになるわけだ。採取用のナイフはピンキリでも、50Lは下るまい。あまり安いと折れちゃうからな。


 「私のお古で良いなら使ってみる?」

 「え!良いの? お姉ちゃん」

 此処で、おばさんと言ったら上げるを躊躇したんだけど、お姉ちゃんならいいだろう。本当はお兄ちゃんと呼んで欲しいぞ。

 「ちょっと待ってね!」

 バッグから魔法の袋をごそごそと探すと……、出て来た。2本あるな。

 「お姉さんは何時も2つ持ってるの。こっちを上げるわ」

 2本とも同じなんだけど、貰った女の子は嬉しそうだ。

 「お姉ちゃん、ありがとう。私はネリーだよ!」

 うんうん、ちゃんとお礼が言えれば宜しい。

 「本当に済みません。ネリー、大事に使うのよ!」

 「大丈夫です。ちょっとのことでは折れませんから」


 私の言葉に、ミレリーさんは慌ててネリーちゃんから採取用のナイフを取り上げてケースから抜いてジッと見ている。口が滑ったか……。


 「これは?」

 「採取用に見えますが、槍として使ってきました。鍛造品ですから折れることは先ずありません。長さ6Dの柄を付ければグライザムの毛皮も突通ります」

 「とても、娘に持たせるには……」

 「今は単なる採取用のナイフです。これが使いこなせるハンターになって欲しいですわ」

 ミレリーさんがゆっくりナイフをケースに戻した。

 「お母さんのナイフよりも遥かに良い品よ。一生の宝にしなさい」


 そう告げると、ネリーちゃんにナイフを返して上げた。

 うん!って元気に返事をするとリビングを出て行った。


 「それにしても、あんな高価なものを……」

 「所詮採取用のナイフです。それにもう1本ありますから、イザとなればこれを使います」


 そんな私に食後のお茶を入れてくれる。朝と同じでお茶は良いお茶を使っているようだ。


 「でも、採取用のナイフでグライザムとやりあうなんて、夫が生きていたらさぞや驚いたでしょうね」

 「前衛担当でしたから、なるべく近寄る前に弱らせようとした結果ですわ。矢では無理でも投槍では?と言う感じでやってみたら上手く行った。というのが真相です」

 「経験はハンターを強くする。でもそれに耐えられない者も多いわ」

 「それを少しでも少なくしようとするのが私の仕事です。私の経験が生かされれば良いのですが……」

 「生かされますわ。それを聞いて、そのまま行なうなら何事も無くハンターを続けられるでしょう。さらに工夫するなら黒を目指せるでしょうね」 

 「実は……」

 そんなことで、今までのギルドの経緯を話してみた。

 ミレリーさんは聞き上手だ。絶妙なタイミングで相槌を打ってくれるな。

 「なかなか面白そうですね。出来ればこれからもお聞かせくださいな」

 「えぇ、喜んで!」


 その後は、久し振りのお風呂に浸かって体を伸ばす。

 お風呂なんて何年ぶりだろう。たぶん、【クリーネ】の弊害だと思うな。宿にだってお風呂が無いんだから。

               ・

               ・

               ・


 次の日、朝食の席に着いてネリーちゃんを見ると、腰のベルトにしっかりと採取ナイフのケースが取り付けてあった。腰の小さなバッグにはお菓子と水筒が入ってるのかな?

 綿の上下に革のベストは中々似合ってるぞ。

 「行ってきます!」

 食べ終えると、椅子に引っ掛けてあった麦藁帽子を被って元気に家を出て行った。


 「まだ、赤1つですから、町の周辺で薬草を採取してるんです。赤3つ以上にならないと、この辺では遠くに出すことはありません。それまでに剣を買うんだと頑張ってますわ」

 「そうですね。私もそんな時代がありました。ネリーちゃんよりもう少し上の歳でしたけど……。それでは、私も仕事に出掛けます。そろそろギルドも賑わいだすでしょうし」


 ご馳走様を告げると、家を出て通りへと歩く。

 今朝は通りに人通りが多いように思えるな。ちょっとした時間差で人が動き出すみたいだ。


 ギルドの扉を開けて何時ものように挨拶をすると、掲示板を眺める。

 まぁ、おいそれととんでもない依頼は無いんだけどね。一応眺めるのが日課になってきたようだ。それが終ると、窓際のテーブルついてシガレイを楽しむ。直ぐにお茶が運ばれてきた。


 「あのう……。この町のハンターの方ですか? ちょっとお伺いしたいのですが」

 「えぇ、この町でレベルを上げましたが、なにか?」

 そう言いながら、話しかけてきた女性に席を勧める。

 少し離れた所にいる男女が一緒のパーティなんだろうな。こちらの成り行きを見ているぞ。

 「私達は4人でパーティを組んでいます。白5つと3つなんですけど、ガトル狩りを受けようかと思っています。そこで、この辺りのガトルについて教えていただこうかと……」

 片手を上げて指を鳴らした。すかさずやってきたのはセリーの方だな。

 「中型肉食獣の狩りの状況と、ここ5日間のガトル狩りの記録を見せて頂戴!」


 直ぐにセリーがカウンターに向かったので、話し掛けてきた娘に仲間を呼ぶように告げた。

 「湖の周囲の森に集まってるわね。結構群れの規模が大きいわ。……それでも、ガドラーは見かけていないようね……」

 記録をセリーに返却して礼を告げる。得に問題はないと思う。

 

 「で、ガトルの依頼頭数は?」

 「20です」


 これか……。1つの群れが対象となるようだ。

 目の前の連中は、長剣に槍、そして魔道師2人。……返り討ちになりそうだ。

 とはいえ、確かにガトルはこのレベルなら何とかなる。諦めろとは言い難いよな。


 「おはようございます!」

 元気な声がした方をチラリと見ると、レイドルの4人組みだ。これは調度良いかも!

 パチンっと片手を上げて指を鳴らすと少年がこちらを向いた。そこを手招きすると……、やって来たぞ。


 「未だ、今日の依頼を受けていないんでしょう。ちょっと背伸びだけど、ガトル狩りをしてみない?」

 「俺達はようやく白1つですよ。ガトルは未だ先だと思うんですが?」

 

 確かにガトルと遣り合えるのは最低でも白3つは欲しい。

 だけど、私が最初にガトルと対峙したのは赤6つの時だった。それが可能だったのは人数と役割分担が上手くいったからだ。

 今回も、この少年達ならキチンと言いつけを守れるだろう。白1つでガトルが倒せたら自信も着くだろう。そして、高慢になるようなハンターとも思えない。


 「貴方達も椅子を持ってきなさい。今日は移動でお終いだから慌てる必要は無いわ。」

 新たに4人が揃ったところで話を始める。


 「まず、白5つでも20匹のガトルを相手にするのは問題だわ。狩れるのは半分。何人かの犠牲者が出る可能性が高い依頼と思って頂戴。

 でも、人数が多ければそれなりの対処が可能になるの。4人なら1人5匹だけど8人なら1人3匹にも満たないわ。

 ガトルの恐ろしさは、群れにあることを覚えておくこと。1匹ならちょっと大きな野犬と考えれば良いわ。

 まず、ガトルの群れを見つけることが大事だけど、これは湖近くにいるから大丈夫よね。

 次に、罠を張るの。自分達の回りに杭を打って、蔓を絡めておくのよ。少なくとも2重に張ること。出来れば3重が良いわ。背後に回りこむのもいるからできれば大木を背にしたほうが良いと思うわ。……弓があったわよね。腕は大丈夫?」


 私の言葉に弓を背負っている少年が頷いた。

 「囮を2匹適当に手に入れなさい。ネズミでもレイムでも構わないわ。杭の外側にバラして散らせれば群れでやってくるわ」

 「夜でもですか?」

 その問いに頷く事で答える。


 「【シャイン】を使う魔道師はいないの?」

 俺の声に2人の娘が手を上げる。

 「一番大きな肉片に枝を縛り付けておけば夜でも分るわ。そしたら光球を2つずつ作りなさい。この柵の中で戦うならそれで十分に明るいわ」

 「大体飲み込めました。外に注意する点はありますか?」


 「斬るのではなく、突くのでもなく殴りなさい! ガトルは素早いから斬り込んだりしてガトルから剣を抜く動作で出来る僅かな隙でさえも襲ってくるわよ。棒で殴るのが一番だわ。弓は有効だし、火炎弾も使えるから、それで牽制するのも忘れずにね」

 「分りました。……申し訳ありませんが、今回は貴方達も加わってくれませんか?報酬は等分という事で」

 「こちらこそ、よろしくお願いします。ガトル20は仲間に誇れますよ」


 2つのパーティが今回は合同で狩りをする。たぶん両者とも初めてなんだろうな。狩りは何時も同じパーティだけとは限らない。獲物に応じて柔軟にパーティを集める事だって、ハンターは必要になるのだ。


 依頼書をカウンターに持って行ったリーダー2人を見ながら、シガレイを取り出して火を点けた。かなり、際どいかも知れないけど、精々怪我ですむはずだ。毒は持っていないから、同行した魔道師に【サフロ】で十分だろう。


 俺に手を振って出て行くハンター達に片手を上げて挨拶する。

 そんな所に、マリーがやってきた。そういえば忘れたな。最初から同席させれば良かったんだ。マリーが席に着いたところで、さっきの依頼の顛末を話してあげた。


 「マリー、昨日の毒を受けたハンター達は今日はお休みなの?」

 「いえ、朝早くやってきましたよ。仲間の傷が癒えるまでは、薬草を採取するそうです。そして、これを置いていきました」

 マリーが取り出したのは銀貨3枚だ。昨夜、手伝ってくれたハンターに振舞った分を返してくれたってことかな。


 「これは薬草を届けに来た時に返しといて。報酬は王国から受取ってます。といえば大丈夫でしょう薬草採取で4人が宿に泊まるのは大変でしょうしね」

 「そうですね。ちゃんと返しておきます」


 意外と義理堅いな。

 悪いことではないけど、たまには義理に甘えてもいいと思うぞ。特に仲間に何かあった時にはね。

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