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GⅡ-05 目には目を

 簡単にキティちゃんの持つ弓の特徴を教えてあげたけど、テコや動滑車の理論を彼らに説明してもあまり分かって貰えなかった。

 ある程度経験則で、そんなものかと納得してはいるようだけどね。


 「でも、あんなに当たるなんて凄いにゃ!」

 「それは、ここに照準器があるのよ。2つの十字線を重ねれば狙いはぴったりになるわ。遠くを狙う時にはダメだけど、100D(30m)程度ならこれで十分よ」


 コンパウンドボウや照準器は無いほうがいいんだけど、キティちゃんはまだパメラのように弓を引けないし、狙いだって怪しいものだ。

 余分な物が多い分かさばるし、取り扱いも丁寧にしなければならない。その点パメラの弓はシンプルそのものだ。将来的にはキティちゃんもパメラのような弓になるんだろうな。


 「俺はその曲った板の方が気になるぞ。何だ、あの飛び方は何だ? 初めて見たぞ」

 「ダノン達に、丸い輪の使い方を教えたでしょう。あれの代わりよ。ブーメランを投げて蹲った獣をキティちゃんが狩る事を考えてたんだけど……」


 「なら、森の手前の斜面に沢山いますよ。俺達もたまに狩りますからね」

 「ありがとう。罠猟の邪魔をしないように依頼数だけ狩るからね」


 私達は、ダノン達に手を振って別れると北の門を目指す。

 門番のお爺さんと挨拶を交わして広場から東に向かって歩く。昨日よりは距離があるからな。狩りを始める前に休息を取ったほうがいいだろう。


 小さな焚き火でカップ2杯分のお茶を作って一休み。

 歩き疲れたように見えたキティちゃんの表情が、たちまち明るくなる。

 

 「先ずは獲物を探さないとね。見つけたらキティちゃんが、相手に気付かれないように近寄っていくの。100D(30m)ほどのところで弓で狙いなさい。尻尾を振ってくれたら、私がブーメランを投げるわ。相手が蹲ったら矢を放ちなさい」


 「分かったにゃ。狙いを付けたら、尻尾を振るにゃ!」


 キティちゃんが弓を持って、とことこと荒地を下りていく。私は背中のブーメランを引き抜くとキティちゃんの後を付いていった。

 

 突然、キティちゃんが腰を落として前かがみになる。ゆっくりと荒地を進み始めた。何か見付けたようだぞ。目をこらしてキティちゃんの前方を見ると……、どうやら、ラビーらしい。ちょっと大きめのウサギだから、ハンターや肉食獣の獲物になってるんだよな。


 キティちゃんの歩みが止まった。距離は、教えたとおり約100D(30m)ほどだな。ゆっくりと弓に矢をつがえると狙いを定め始めた。

 キティちゃんの尻尾が立って左右に揺れる。

 私は、ブーメランをラビーに向かって投付けた。


 ヒュルヒュルと特徴的な音を立ててラビーの数m上空をブーメランが飛び去り、グルリと回って私の所に戻ってくる。

 ラビーが蹲ったと思った時には、その背中に矢が突き立った!

 

 狩猟本能は天性のものだな。

 キティちゃんが嬉しそうにラビーを高く掲げて私のところに戻ってきた。


 「さすがね。後4匹狩りをしたら町に戻るわよ」

 

 キティちゃんの頭をゴシゴシ撫でると、恥ずかしそうに目を細めている。

 バッグから魔法の袋を取り出して、革袋にラビーを入れて、またバッグに入れた。持ってると邪魔になるからな。数匹ならこれで保管できる。


 次ぎの獲物を狙って、キティちゃんが荒地を歩いて行く。

 もう少し時間が掛かるかと思ったけど、これならキティちゃんのレベル上げに丁度いいな。


 苦労もせずに5匹を狩ったところで、2人で手を繋ぎながら町へと帰る。

 2時間程度だから、休憩も取らずに歩いていると、誰かがこっちに走ってくる。

 

 「おーい! ミチルさん。急いでくれ!!」

 「どうしたの? そんなに急いで」

 「毒矢にやられた。クレイさんが重体なんだ!」


 「何ですって! グラム。キティちゃんをお願い。私が先に戻るわ。キティちゃん、この男の子と一緒にギルドに戻るのよ」


 急いで【アクセル】と【ブースト】を自分に掛けると、町に向かって駆け出した。

 身体機能は5割増しほどに高まっている。まるで長距離ランナーになったような感じで荒地を走ることができる。

 歩いて2時間の距離を30分も掛けずに駆け抜けると、ギルドの扉をバタンと開く。


 ギルドにいた全員が私に視線を向ける。

 

 「大急ぎで手術道具を準備しなさい。それで、クレイはどこ?」

 「こっちだ。既に準備が出来てるぞ。姫さんが帰るのを待ってたんだ」


 ダノンが人込みを開くと、机2つを並べたベッドに寝かされたクレイが寝ていた。

 心配そうに手を握っていたのはメリエルだな。魔道師の杖を握りしめているから、ずっと【デルトン】を掛け続けていたのだろうか?


 「ちょっと見せて。どこに矢が当ったの?」

 「背中です。急いで引き抜いたんですがヤジリが体に残ってしまいました。ヤジリを取り出すまでは、【サフロ】も使えません」

 

 傷口を開いたままにしておいたのか。応急措置としては十分だな。問題は、ヤジリの取出しだが、それを行なう者はいなかったようだ。

 

 メリエルをどかしてクレイの背中を見る。まだ服を着せているから、ハサミで服を切り裂いた。

 傷口は右肩の真下だな。背筋が十分に発達しているから、そこでヤジリは止まっているようだ。傷口の直ぐ下にヤジリが見えている。

 すこし傷口を広げて取り出せば良いだろう。


 「切開して、ヤジリを取り出すわ。パラニアはあるの?」

 「さきほど飲ませました。効いてると思います」


 マリーが私の後ろから教えてくれた。


 「ならだいじょうぶね。念のために、2人ほど肩を押さえてくれない。それと腰に誰か坐って頂戴!」


 クレイの仲間が肩を押さえると、ダノンがクレイの腰に乗った。


 「姫さん、準備完了だ」


 ダノンの言葉に頷くと、アルコール濃度の高い酒をビンから傷口に注ぐ。薄い刃のナイフを手に取ってヤジリの傷に合わせてクレイの背中を切り開く。

 一瞬、背筋が収縮した。かなりの痛みなのかな。

 気にせずに傷口をヘラのような金属板で開くと、小型のプライヤーのような器具を使ってヤジリを取り出して皿に落とす。

 再度傷を酒で洗うと糸で縫い合わせた。


 「これで完了。【デルトン】を掛けて寝かしてあげれば良いわ。3日経って傷口が綺麗なら、糸を抜いて【サフロ】を使えば傷も残らない筈よ」

 「ありがとうございます」


 メリエルが私の手を両手で包み込み何度も頭を下げる。


 「貴方はクレイを連れて帰りなさい。ダノン、運ぶのを手伝って帰りに警邏隊の隊長を呼んできて。クレイの仲間から事情を聞かないとね」

 「そうだな。待っててくれ!」


 クレイを担架に乗せて4人で運び出している。1時間もせずに帰って来るだろう。

 マリー達が道具を片付けて、他のハンター達がテーブルを元に戻している。

 私が暖炉脇にある長椅子に坐りシガレイに火を点けると、初めて見る娘さんがお茶のカップを渡してくれた。


 「ありがとう。初めて見るわね。私はミチル、あなたは?」

 「セリーヌさんの後任のフィーネといいます。ミチル様のことマリーさんから色々と聞いています」

 

 どんな噂を聞いたんだろうか? あまり知りたくないような気がするな。

ダノンが帰ってきたときに丁度、キティちゃんも戻ってきた。カウンターに獲物を渡して得意そうな表情で私の所にやって来る。


 「ちょっと、皆と話があるんだけど……。隣で待っててくれる?」

 

 私の言葉に頷くと、隣にちょこんと座った。

 ちょっと退屈かもしれないけど、待つこともハンターにとっては大事な事だ。


 「姫さん連れて来たぜ。こっちが去年からこの町の警邏隊を指揮しているバリー隊長だ。王国軍の下士官を20年続けてこの町に来たそうだ」

 「初めて御目に掛かります。黒姫殿と言葉を交わすとは、孫に良い土産になります」


 初老に見えるが、決して侮れないな。筋肉はダノンを凌ぐし、鋭い眼光で私を見ている。ちょっとキティちゃんが震えてるように思えるが、これは慣れるしか無さそうだな。


 「クレイが毒矢にやられたわ。マリー、さっきの皿を持ってきて頂戴」


 皿に乗せられた毒矢が私達の前のテーブルに乗せられた。周囲のハンター達も興味深そうに小さなヤジリを見ている。


 「傭兵が徒党を組んで狼藉を働いているのは、王都在住の折、耳にしました。噂では毒矢を使うと聞いていましたが、これは本当に毒矢なんですか?」

 「間違いないわ。通常なら、【デルトン】を続けて使うなど考えられない。例外は魔物の毒矢を抜取る際に、先端部が体に残った時よ。クレイの様態はそれとまったく同じ。毒矢のヤジリが体に残って起きたものなの。とりあえずヤジリは摘出したけど……。腹の虫が治まらないわ」


 私の言葉に周囲のハンター達も頷いている。

 

 「だが、どうしようってんだ? 姫さんの腹たちは分かるが、あいつ等は近付くと逃げちまうんだ」

 「そこで相談したいの。毒矢を3本作るけど、それを許可してくれないかしら?」


 私の言葉に周囲の連中が驚いた。ダノンも大きく口を開けている。


 「穏やかではないですな。ですが、毒矢は魔物の毒を薬草と組み合わせて作ります。その製法は薬剤ギルドが表に出す事はありません。ミチル殿は精製しない液体状の毒をヤジリに塗りつけて使用するおつもりですか?」


 私の言葉を普通に聞けばそう取れるだろうな。思わず自分の考えを思い浮かべて笑みを漏らす。


 「私は毒矢を作ろうと思ってるけど、その毒はこの部屋の連中から少しずつ集めれば作れるものなの。誰もが毒だとは思っていないものだけど、実はとんでもない猛毒で、しかも即効性よ。解毒剤は聞いたことが無いわ。【デルトン】が有効かも分からないわ」


 「ちょっと待ってください。この部屋にそんな毒があるなんて聞いた事がありません。誰が持っているんですか? 参考までに聞かせてください」

 

 バリーさんはそう言いながらパイプを取り出して火を点けた。周りの連中もバリーさんがパイプを咥えるのを見て同じようにパイプを使い始めた。


 「作り方を教えると、後に問題が置きそうですから、持っている者を数人紹介しますね。……ダノンにバリーさん。それに、そこのあんたとあんたよ。バリーさんがつくるのを許可してくれたら、それが何かを教えるわ」


 私の名指しを受けて、吃驚してる連中が私を見つめている。


 「ちょっと、待ってくれ。俺は毒など持っておらんぞ。……ということは、一見毒には見えないという事か? だが、毒として使える薬草や魔物の毒等は全て薬剤ギルドが長年の実験で明らかにしている筈だ。王国では通常領民が携帯する持ち物で毒を作り出すことはできないと考えているし、それほどの毒であるなら持つ事を許さぬ筈だ。

 もし、ミチル殿が俺達の持ち物で毒矢を作ったとしても誰も信じないぞ。それに、そもそも毒と認定されていないのであれば毒を使う事にならないのでは?」


 「では、3本だけ作りましょう。クレイの仇は同じ方法で取ります! 自分のパイプに名前を彫ってこのテーブルに置いて帰りなさい。明日までには綺麗にしておくわ」

 「これを使うのか? こんなもので毒が作れるわけがないだろうに」


 そんな事を言いながらも私の前のテーブルにはパイプが積み重なっていく。

 ニコチンを侮ると酷い目に合うぞ。

 この世界ではタバコの害は知られていないようだが、それはタバコの害に侵される前に他の要因で死んでしまうからに他ならない。


 ネリーちゃんにキティちゃんを頼んで、私は今夜はここで毒矢作りだ。弓使いに3本矢を貰うと、シガレイを楽しみながらハンター達が帰るのを待つ事にした。

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