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GⅡー04 キティちゃんの弓

 「スラバとは限らないようだ。スラバの毒は乾燥すれば効果が薄れる。奴等は他の生物か、スラバの毒を変える性質の何かを見つけたらしい」

 

 ガリウスの言葉に私は絶句した。

 何かに何かを混ぜるということをハンターが行う事はない。となれば、薬剤ギルド!


 「たぶん、ミチル殿の考えが正しいと思う。昔の王女の一件でギルド長は更迭。その息の掛かった者達もギルドを去っている」

 「それって、かなり問題じゃない。1個中隊を使えば4隊に分けて盗賊狩りが出来そうだけど……」


 「どうやら、奴等のアジトを突き止めたようだ。上手く運べば一網打尽にできる。これで、ハンターがやられることは無くなるだろうな。

 帰ってきてくれて嬉しいぞ。妻も喜ぶだろう。晩秋になれば皆でやってくる」


 そんな話をして、ガリウスが帰って行った。

 デルトン草の引き取りに来たんだろう。本来は薬剤ギルドの仕事になるんだが、軍が絡んでいるから貴族達も動いているのかも知れない。


 妻と言うからにはジゼルだろうな。子供も何人かいそうだぞ。

 

 「姫さん、どうした? 扉を見ながら微笑むなんて」

 「ああ、ちょっとね。ガリウスにも子供がいるんだろうな? って考えてたのよ」


 「ガリウスだけじゃねえ。クレイのパーティだって、全員が子持ちだ。俺が名付け親だぞ!」

 

 私の手からシガレイがポトリと落ちた。

 ダノンはイタズラが成功したかのように私を見て笑い声をあげてるぞ。

 

 「お姉ちゃん。まだ帰らないの?」

 「そうね。帰りましょう。……ダノン、ハンター全員が毒消しを持っている事を確認しといて。持ってなければ球根でも、無いよりはマシだから」

 「ああ、分かった。姫さんの危惧は理解できる」


 夕暮れが終って少し通りが暗くなってきたな。

 キティちゃんの手を引いてミレリーさんの家に急ぐ。たぶん私達が帰って来るまで、夕食を食べずに待ってると思う。


 「遅くなりました」

 「ギルドで相談していたとか? 物騒な事が起こらなければいいんですが」


 ミレリーさんが扉を開けて私達を皿が並んだテーブルに案内してくれる。

 席に着くと、直ぐに夕食が始まった。

 今夜はラッピナのシチューだ。たぶんネリーちゃん達がしとめたに違いない。

  

 「そうですか、毒矢とは穏やかではありませんね」

 「軍が動くとなれば、そんな連中も根こそぎに出来るでしょう。でも、ネリーちゃん達も念のために毒消しは持っていてね」

 

 「だいじょうぶ。ちゃんと3本持ってるし、【デルトン】も使えるわ」

 「だから、念の為よ。軍が始末を終えるのに一月は掛かるわ。その間、どんな事があるか分からないから」


 「この辺りにも流れてくると?」

 「ガリウス達が不定期に町に来てるから、あまり心配はないと思いますが、最悪を考えておくのが私の流儀ですから」


 そんな私に相槌を打って微笑んでいる。

 たぶんレベルの高いハンターは私と同じような考えを持っているだろう。楽観的に狩りをするなどとんでもないことだ。常に状況を見守り、最悪の状況を考えて先手を打つ必要があるからだ。高レベルのパーティのリーダーとなると、そんな事を常に考えてると思うぞ。

 グラム達にはまだ無理だろう。クレイ達はどうだろう。まだ会ってはいないが、5年で黒1つとは将来有望だぞ。

 

 「そういえば、今日、ミチルさん宛にギルドに荷物が届いたとかで、ネリー達が運んできましたよ」

 「ありがとうございます。キティちゃんいよいよ狩りができるわよ」


 食事を終えると、暖炉の傍に布を広げて丁寧に包まれた荷を解いた。

 

 「武器なんですか?」


 ネリーちゃんが、キティちゃんの頭の上から覗き込んでいる。


 「武器よ。ちょっと変わった弓なんだけどね」


 弓がバラバラの状態でそれぞれ小袋に収まっている。元々私が欲しい弓などこの世界には存在しない。発注先をバラバラにして頼んでおいたものを、王都のギルドはちゃんと纏めて送ってくれたようだ。


 部品はこの世界では珍しいネジを使って固定するようになっている。

 早速、グリップの上下に短い弓を取り付けた。

 弓の先端には、小型の滑車を付ける。この辺りの工作は精度がいるのだが、何とか上手く滑車を固定する事が出来た。

 グリップの上下にある糸止めに弦をしっかりと固定すると、上の滑車を通して次に下の滑車を通し、戻ってきた弦をグリップの下部に固定した。

 グリップはリスティンの角をキティちゃんの腕の握りにあわせて加工したものだ。その親指の窪みの上には横に1cmほど張り出した矢を受ける坐が作られている。更にその上には丸い穴があいている。中に2重に十字線が入っているのミソだ。

 矢筒には12本の矢が入っているが、その矢と弓があまりにもつりあわない。

 ネリーちゃんが訝しげに、変わった弓と矢を見ている。


 「それって、弓ですよね。パメラさんも使ってますけど、かなり弓が小さい感じがするんですが?」

 「確かに小さな弓よね。コンパウンドボウというのよ。でも、この矢を射る事ができるのよ。荒地のラビーを狩ろうと思うんだけど、ネリーちゃん達の狩りのじゃまになるかしら?」


 「私達は下の森を狩場にしてます。それ程深くは入りません。その先はグラムさん達が活動してますから未だにガトルを見たことが無いんですよ」

 

 ダノンが一緒なら、そうなるだろうな。

 彼は人一倍気を使う。駆け出しハンターを危険な目に合わせることは無いだろう。それに小型の獣と野犬を狩っても、そこそこの収入を得ることができる。それは薬草採取よりも遥かに収入が高いはずだ。無理に中型獣を倒さずとも町で暮らすには十分だろう。


 「あれ? それも武器なんですか?」

 

 私が紙包みから取り出した木片を見て、ネリーちゃんは首を傾げている。

 ミレリーさんも興味深々な様子だ。キティちゃんは自分の弓を手にして嬉しそうに矢筒を装備ベルトに吊るしている。


 「これは、ブーメランという武器なの。本来はコウモリを狩る道具らしいんだけど、あの輪と同じように使う事ができるのよ」

 

 ブーメランを見つめる目は信じていないな。私はあまり嘘は言わないんだけどね。


 「滅多にコウモリを取る依頼はありませんが、私達は1度だけ請け負った事があります。フラフラと飛ぶコウモリはどんな攻撃も避けてしまいます。結局、洞窟に入って天井から下がったコウモリを【メルト】を使って依頼数を確保しました。それ以外にコウモリを攻撃する事が出来るんですか?」


 後片付けを終えて、紙包みをまとめると長さ60cmほどのブーメランを手にしてテーブルに戻った。

 ネリーちゃんはキティちゃんを連れてお風呂に行ったみたいだな。

 新しいお茶をミレリーさんが出してくれたところで、私はシガレイに火を付けると、ブーメランの話を始める。


 「何ですって! 投げると手元に戻ってくる?」

 「それが、この武器の特徴なんです。コウモリは耳には聞こえないとても高い音を出して自分の前方を耳で見ているんです。ところがこのブーメランは……」


 「戻ってくるという事は、後ろからコウモリを襲うんですね」


 ミレリーさんの言葉に、お茶を飲んでいた私が頷いた。


 「諸国を移動して色んな狩りの道具を見ましたけど、その形のものは初めてですわ」

 「その土地土地で工夫されたんでしょうね。原理と使い方が分かれば応用が利く武器も多いですわ。あの弓もその1つですし」

 

 「オモチャのように見えましたけど、弦が3本あるんですね」

 「ちゃんとした弓ですし、弦は1本です。あの弓の最大の特徴は弦を引く力なんです。殆ど半分と言っても過言ではありません」

 

 私の言葉を笑いながら聞いている。やはり信じて無いな。

 まあ、それでも良いか。あの弓はキティちゃん以外の者使わせる気はないしな。

 

 次ぎの日、コンパウンドボウを風呂敷のような布に包んでキティちゃんの背中に背負わせると一路ギルドに向かった。

 私の背中にはブーメランが差し込まれてるんだけど、ミレリーさんが不思議な顔で見ていたぞ。


 ギルドの扉を開けると、右手にある依頼掲示板に行って依頼書を眺める……。あったぞ。ラビーが5匹だ。少し練習させて狩りに向かうか。


 「これをお願い」

 「これって、ラビーですよ。ミチルさんって弓が使えたんですか?」


 「一応使えるけど、この依頼はこの子にやって貰うの」

 

 そう言ってキティちゃんの頭を撫でた。

 

 「裏手の練習場を借りるわよ。ちょっと練習させたいから?」

 「誰も使ってませんからだいじょうぶです」


 裏への扉を開けようとすると、ダノンから声を掛けられた。


 「姫さん、俺達も見ていいか? ネリーから聞いたんだが、どうしても信じられなくな」

 「良いわよ。でも、質問はなし。そういう武器だと思って頂戴」


 ダノンとネリーちゃん、それにグラム達だ。パラムが弓を使うから様子を見ようという事になったのかな。

 

 「ネリーちゃんはこれを見たかったんでしょう。そうね、皆にも見せておいて問題はないでしょう。これは……、こうやって使うの!」


 左手でブーメランを引き抜くと斜めに振り下ろすようにして投げた。

 シュルシュルと特徴的な音を立ててブーメランは大きく円を描くような軌道を描いて再び私の所に戻ってくる。

 パシ! と音を立てて利き腕で受け取ると、ギャラリーの方に振り向いた。

 唖然とした表情をしてるな。

 ダノンは大きな口を開けてるから、咥えたパイプが膝に落ちてるぞ。


 「ね。戻ってきたでしょう? さて、キティちゃん。包みを開けて準備しなさい。ちょうどあそこに的があるわ。半分以上黒丸に当たるようになったら出掛けるわよ」


 「姫さん、それは無理ってもんだ。パメラだってそこまでは当らないぞ」

 

 ダノンの言葉にパメラも頷いている。

 そうかな? 的までは丁度100D(30m)ほどだ。この距離で黒丸に当らなければラビーには当らないんじゃないかな?


 キティちゃんが取り出した弓を見てパメラが驚いてる。

 

 「1度に3本射るのかにゃ? それなら1本ぐらいは当たるかも知れないにゃ」

 「違うわ。射るのは1本よ」


 短い弓は引くだけで力がいる。けれどキティちゃんはずっと弓を引き続けた。力を入れていないのがグリップを持つ手が震えていないことで分かる。

 そんな姿をパメラが瞬きもせずに眺めていた。

 

 パシ! 矢が放たれると、的の中心に矢が突き立った。

 

 「ちょっと待つにゃ!」


 パメラが後に向かって走る。的と矢をジッと見ていたが、ゆっくりと矢を引き抜いた。かなり深く刺さっていたようで、その深さをパメラが確かめている。


 「おかしいにゃ。あの弓の長さと矢の長さが合わないにゃ。それに刺さった矢の深さは私以上にゃ。1度この的で練習したにゃ」

 

 やはり異質さを理解したのはパメラだけだったか。

 ここはキチンと教えておかないとダメかも知れないな。

 

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