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GⅡー03 デルトン草の採取依頼

 朝早くに、キティと共にリビングに下りると、ミレリーさんはネリーちゃんと朝食を取っていた。

 朝の挨拶を済ませると、裏の井戸で顔を洗う。今日も頑張らないとな。

 まだ、クレイやロディ達には会っていないが、ロディ達は二十歳前後じゃないか? 青年になったロディは想像が着かんぞ。クレイ達はそろそろ子供が出来ているだろう。まさか背中に背負って狩りはしていないだろうが、ちょっと楽しみになってきた。


 ゴシゴシとキティちゃんが顔を布で拭き取ったところで、リビングに戻ると既に朝食の準備が出来ていた。

 ネリーちゃんは既に出掛けたようだな。

 

 「「頂きます!」」と食事に軽く頭を下げて私達は食事を始める。

 美味しそうに食べているキティちゃんを、ミレリーさんがお茶を飲みながら微笑んで眺めている。

 

 「ネリーちゃんは罠猟ですか?」

 「遊び仲間4人でパーティを作って狩りをしてるそうよ。まだ、不安だとダノンが同行してくれるからあの子達の親達は安心してるわ。湖近くの森を狩場にしていると教えてくれました」


 あの辺りならガトルが厄介だけど、ダノンがいれば対処というか逃げ方は教えてもらえるだろう。

 必ずしもガトルは厄介ではないのだ。ガトル達の狩りを邪魔しなければ襲われることは少ない。慌てて逃げると襲ってくるけどね。だが、10頭を越えると途端に攻撃的になる。湖の岸辺の森は野犬の縄張りだ。

 その辺りは獣同士で申し合わせをしているかのように、滅多にその版図に他者が入る事は無い。


 「私はその少し上の荒地で薬草採取です」

 

 そう言って、キティちゃんと顔を見合わせて微笑んだ。

 

 「たぶん、子供達の薬草採取も今日は北門の広場になるでしょうね。ミチルさんがいれば、親達もその場所を勧めるはずです」


 私は保険ってことかな? まあ、それも親ならではの事だろう。少しでも安全な場所を子供に伝えたいということだな。

 

 食事を終えて、お茶を飲みながらシガレイを楽しむ。

 昨日よりはかなり時間が早い。遠くまで出掛ける分けではないから私達はのんびり出来るな。


 「それでは、出掛けてきます!」

 「頑張るのよ。そして、お姉さんの言う事をちゃんと聞くのよ」


 私の挨拶に、エミリーさんはキティちゃんに声を掛けてくれた。嬉しそうにキティちゃんが頷いてるぞ。

 そんなミレリーさんの見送りを受けて、私達はギルドに出掛けた。


 薬草採取は、採取しただけギルドの統一価格で引き取ってくれるのだが、依頼書があれば依頼報酬は統一価格よりも高額になるし、場合によってはそれ以外に依頼報酬がつく場合がある。

 その額は僅かなものだが、薬草採取を行なうハンターの収入は低いからそのような依頼書をギルドで見つけることが、低レベルのハンターの最初の仕事になる。

 私達はそんなハンターの邪魔をしないようにすればいい。少し時間をずらして仕事に出掛けるのはそんな理由からだ。


 「「おはよう(にゃ)」」と言いながらギルドの扉を開けると、カウンターのマリーに片手を振って挨拶する。

 依頼掲示板に歩いて行くと、掲示板の依頼書を眺めて危険な獣を狩る依頼書がないこと先ず確認した。


 「これにするにゃ!」


 キティちゃんが依頼書を指差して私を見上げていた。

 どれどれ……。身を屈めて下に貼ってあった依頼書を読むと、デルトン草だな。これは荒地をかなり下りなければ群生地に行けないのだが、森に入る事はない。

 足腰の鍛錬に丁度いいか?


 「そうね。それにしようか。それじゃあ、カウンターに行きましょう」

 

 にこにこしながらキティちゃんが依頼書を外してカウンターに向かった。

 そんな後姿を見ながら、先程の依頼書の中身を考えてみた。デルトン草の依頼書はそれ程珍しくもない。だが、それに書いてあった事が問題だ。

 デルトン30個で70L。1個2Lが標準価格だから10Lが報酬になる。かなり率は良いのだが、期限が今日中なのだ。

 これは、王都で何かが起こったって事になりそうだ。そして、王都には魔道師も

多いはず。それなりに対処できる筈なのだが……。

 

 「終ったにゃ!」

 「そう。それじゃあ、出掛けましょう」


 ギルドを出て、北門を通り、広場を南に下がる。

 昨日、サフロン草を採取した場所でちょっと休んで周囲を見ると、ちびっ子達が数人離れた場所で薬草を採取している。

 周囲には野犬の姿も見えないからしばらくは安心できるな。あの子達の下で私達は採取すれば良いだろう。


 荒地の斜面は歩きづらい。転ばないようにキティちゃんが杖を突いて歩いている。

 足場の状況に応じて杖をキチンと使えるようになるのは白レベルになるころだ。かなり危ない手付きで杖を操っているぞ。

 

 「足と杖で3本と考えればいいの。常に2本を地面に着けておけばいいのよ」

 

 私のアドバイスを懸命に実践しようとしてるんだけど、ともすれば地面に着くのは1本になってしまう。まあ、こればっかりは慣れなんだろうな。


 森まで数百mの地点に来ると、荒地に傾斜が無くなってくる。

 この辺りがデルトン草の群生地の1つだ。更に下に行けばもっと大きな群生地があるんだけど、森の中だし、湿気が多いから危険な生物もいる。

 低レベルでデルトン草を採取するならここになるわけだ。難点は数を揃えるのに時間が掛かるってことだな。


 「あったにゃ!」

 

 最初の1つをキティちゃんが見つけたみたいだ。30個だからな。時間がかかりそうだぞ。

 負けないように私も探し始めた。

 ここは分散してるからな。あっちこっちと歩き廻りながらデルトン草を採取する。


 昼食までには20個を越えたから、何とか依頼は達成できそうだな。

 小さな焚き火にポットを乗せて、お茶を準備する。今日はスープは作らずにパンを食べる。パンに中には大きな焼き肉が挟んであったのを見ていたからね。


 食事が終るとお茶を頂く。カップを持って周囲を眺めていると、森の中から出て来た一団がいる。全員が杖を持っているところを見ると、ロディ達なんだろうか?

 私達に近付いてくるのを見て大急ぎでポットに水を注いで火に掛けた。


 「お久しぶりです!」

 「ロディなの! 大きくなったわね。さあ、坐って。お茶をご馳走するわ」


 「ありがとうございます」と言いながら6人が焚き火の周りに腰を下ろした。

 取り出したカップにキティちゃんがお茶を注いでいる。

 

 「今日は?」

 「湖近くで野犬狩りです。どうにか青ですからね。無理はしませんよ」


 十分にガトルは対処できるだろう。ロディは絶対に無理をしない。臆病ではないが、常にパーティの安全を最優先にするからな。

 

 「たぶん20匹ほどの群れを狩ったんでしょうね。貴方達が初心者ハンターの外側を守ってると言っても過言ではないわ」

 「それ程ではありません。ダノンさん達の外側を心掛けてます。それに俺達の近くにはグラムさん達がいますから……」


 グラム達はクレイとロディの中間を狩場にしているのだろう。ある意味、グラム達もこの町のハンターだ。常に危険な獣が近付かぬように周辺を監視しているのだろう。

 その点、クレイ達はちょっと異なる立ち位置にいる。彼らはグラム達が対処できない獣を狩るのだろう。

 クレイ達でダメなら……、そういうことか。ガリウス達の出番ってわけだ。

 私は必要にならないだろうな。強いて言うなら、ガリウス達の出番を待つ事も出来ないほどの緊急事態って事になるだろう。

 ダノンは知らず知らずにこの町を安全な町に変えたようだな。

 たまに他所のハンターが来て、この関係を崩す事があっても、狩場は大きいのだ。特に問題はなかったろうな。


 「ところで、ミチルさんもデルトンを採取してるんですよね。俺達も野犬狩りの帰りにデルトンを取ってきました」

 「となると、ネリーちゃんも罠を回りながらデルトンを採取してると考えるべきね」


 「今朝早い段階ではデルトンの緊急依頼が2つありました。何が起こってるんでしょうか?」


 シガレイに焚き火で火を点けると考え込んだ。

 これほどデルトンを集めるとなると、軍が絡んでいると考えて良さそうだ。デルトンの球根から抽出された毒消し薬の分量は1個で遅効性毒消しなら3個、即効性なら2個ができるぐらいだから、今日1日で1個小隊分位には薬を渡せるだろう。たぶん王都全体に依頼を出している筈だから1個中隊分を揃えるのだろう。

 となれば……、その獲物は何だ? ……考えられるのは1つだな。


 「皆は毒消し薬は持ってるわね?」

 「ええ、ハンターなら必需品です。持ってますよ」


 「なら、一安心。でも、念のために球根は2、3個持ってなさい。既に雑貨では手に入らないでしょうから、手持ちが無くなればそれを使う事になるわ。貴方達なら魔法も使えるから薬を使うような事態にはならないでしょうけど、あくまで念のためよ」

 

 「ミチルさんの危惧は気になりますが、各自1個を残してギルドに引き渡します」

 

 ロディ達はお茶の礼を言うと、去って行った。

 私達も急いで食器をしまい込むと、デルトン草を探す事に専念する。


 王国軍が毒消し薬を大量に欲しがる理由はただ1つ。討伐対象が毒を使う時だ。そんな生物が大量発生したなんて聞いた事もない。だとすれば、盗賊達が毒矢を使い始めたという事だろう。

 

 毒矢を人に使っただけで、極刑にされてもおかしくない。昔の盗賊で毒矢を使う者はさすがにいなかったが、はぐれ者の末路である盗賊にはそんな考えはないのだろうか?


 どうにか依頼より多めの球根を手に入れると、キティちゃんを連れてさっさと町に戻っていく。

 毒矢を持った盗賊なら、気が大きくなっているだろう。傍目には若い姉妹に見える私達なんかは格好の獲物になってしまいそうだ。


 ギルドに戻った私達を待っていたのは、ガリウスだった。2人の供を連れて町まで馬を飛ばしてきたらしい。

 キティちゃんにカウンターの手続きを任せて、私は手招きしているガリウスのテーブルに向かった。既にダノンと立派な青年になったクレイが席に着いている。


 「何人、やられたの?」

 「姫さん、知ってたのか?」


 席に着いてガリウスに訊ねた内容にダノンが驚いてる。

 

 「デルトン草の依頼の数が多すぎるし、期日があまり無いわ。軍の討伐に持たせる為と考えれば合点がいくわ」


 ガリウスは、私の言葉に苦笑いをしている。


 「さすがだな。そのとおりだ。討伐に向かったハンターが20人以上亡くなった。数人が戻って報告した内容では毒矢を使ったらしい。使った毒は……」

 「スラバでしょう。遅効性だから直ぐに気が着かないのが問題ね」

 

 スラバは双頭の大蛇だ。その片方の頭の方に毒を持つ牙がある。

 毒矢を大量に作るとなれば、それだけ大きな毒袋を持つ生物は限られているのだ。ダラシットなら即死に近いだろうが、その矢から作られる毒矢は数本にもみたないだろうし、毒液が乾燥したら効き目が無くなる。

 作る上では安全性が高く毒矢の数を揃えられるスラバを選ぶ事になるだろうな。

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