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G-062 マーシャ達との別れ


 ギルドの暖炉傍にあるベンチは私の定位置になってしまった。

 他所から来るハンターもこの場所には座らない。在にハンターに注意されてる光景をたまに見掛けるんだけど、私物化しているようでちょっと反省してしまうな。


 そんなベンチで何時ものようにシガレイを咥えていると、レリエルが外から帰ってきた。

 直に私の前のベンチに座って体を温める。


 「どうだったの?」

 「ちゃんと、傷が塞がっていました。抜糸して【サフロ】で終了です」


 麦の刈り入れで左手を深く鎌で斬った婦人の手当てをレリエルに任せたのだが、どうやら完治したようだ。木から落ちた木こりの怪我はもう少し掛かるみたいだな。


 「だいぶ慣れてきたわね。もう大丈夫じゃないの?」

 「怪我が四肢ならば何とか出来ると思いますが、腹部はまだ自信がありません」

 

 それは仕方があるまい。解剖学が全く無いからな。それでも罪人の解剖でおおよその知識を得ているだけでも他の人間より数歩は進んでいる。

 

 「お腹はできる限りの事をすれば良いわ。私だって試行錯誤だもの。でも、青かびを使う時は【クリーネ】を上手く使うのよ。アルコールだってあるんだからね」

 「はい。そして来春には王都に戻ります。神殿が新らしい治療院を作ったものですから、そこで治療に専念します」

 

 この世界で始めての外科病院が出来るようだ。

 【サフロ】と祈りから比べれば、助かる者が数段増えるだろう。

 そして、その資金は王族から流れているんだろうな。現国王の治世に大きな足跡を残すことになる筈だ。


 そんなところにダノンがお茶のカップを持ってやってきた。

 私達の前にカップを置くと、暖炉でパイプに火を点ける。


 「だいぶ寒くなってきたな。あれだけ来てたハンターも他所もんは2つのパーティが残っているだけだ。たぶん数日中には南に向かう筈だ。白レベルでは冬越しは厳しいからな」

 「マーシャ達はどうするのかしら?」

 

 お茶のカップを持ちながら聞いてみた。そして一口飲んでみる。


 「そろそろ、他の町に移るような話をしていたな」

 「なら、餞別をあげなくちゃね。色々世話になってるし……」


 「どちらかというと、世話をしたんじゃないか? まあ、その辺りはどうでもいい。確かに何か贈ってやりたいものだな。それで姫さんは何を贈るんだ?」

 「ちょっとしたものよ。使い方も覚えただろうしね」


 そう言って、席を立ってギルドを後にした。

 目的地は武器屋だ。頼んであるものが出来たか確認しとけば、マーシャ達がこの町を出掛けるときに慌てずに済む。

 

 武器屋の扉を開けると、若いけどちょっとズングリした女性が挨拶してくれる。

 早速、頼んだものを確認するとカウンターの上に採取ナイフを並べてくれた。

 

 「生憎、主人は手を離せません。一応頼まれたものは出来たと言っていましたが……」


 ケースから引抜いて造りを見た。

 柄は鉄を丸めた管だ。少し先端に向けてテーパーが付いている。採取ナイフにしては幅が狭く少し長い。身は5割増しって感じだな。

 もう1つの採取ナイフをケースから引抜いて軽く両者を叩いてみると澄んだ音がした。

 かなり練成したようだ。前回グライザムを狩った時よりも腕が上がってるんじゃないか?


 「十分よ。かなり腕を上げたわね。お爺さんに引けをとらないって言ってあげて。……それで、値段は?」

 「前回頂いた分で十分です。小さな町の武器屋ですから、前回頂いた分で半年以上暮らせます。それに、主人の自信にも繋がりましたし、王都からも注文が来るようになりました。来春には里から弟子を呼ぼうか……という程、店は繁盛してます」


 そう言って、直にナイフを纏めて包んでくれた。

 そんなに繁盛してるとは思わなかったな。

 ひょっとして、ガリウスがたまにこの町に来るのはそんな理由かもしれないな。

 

 『ありがとう』と言って店を後にしたけど、先行投資はしたがタダというのも気になる。

 今度、狩りに行ったら、獲物を届けてあげよう。

                ・

                ・

                ・


 数日後、暖炉傍のベンチに朝早くマーシャ達のパーティがそろって座っている。

 これから、この町を去って南へと旅立って行くということだ。


 「色々教えて頂きありがとうございました」

 「ずっといて欲しかったけど、色んな狩りも経験したほうが良いわ。こっちも、色々手伝って貰ったから、これをあげるわ」


 そう言って、採取ナイフを取出した。


 「抜刀許可は貰ってあるから、抜いてもいいわよ」


 私の言葉に5人がケースから採取ナイフを引抜いた。


 「変わってますね。握りが少し太くなってますが、穴が空いてますよ」

 「これって、槍なんですか?」


 「正確に言うなら、槍の穂先よ。その穴に杖を差し込めば直に使えるわ。この町での狩りで槍の有効性は分かったでしょ。グライザムまで使える筈よ。良い狩りをしてね」

 

 一旦、杖を差し込んだら抜く時には苦労しそうだが、それは狩りが終ってからのことだ余裕時間は十分にある。それよりも、直に槍として使える方がハンターとしてはありがたいだろう。


 「貴方達なら、どの町や村に行っても通用するわ。でも、初めての獲物を狩るときは必ず高レベルのハンターに教えを請うのよ」

 「だいじょうぶです。それでは失礼します」


 そう言って席を立つのを見て、ダノンがカウンターから走って来た。

 

 「これは俺からだ。ちびっ子共の面倒をみて貰ったからな」

 

 そう言って、マーシャ達に手渡したのは毒消しの小瓶だ。

 確かに結構使いそうだからな。

 その小瓶をしっかりとバッグに入れると、私達に再度頭を下げる。

 軽い挨拶は『行ってきます』と『行ってらっしゃい』だ。またどこかで合うこともあるだろう。その時にレベルを聞くのが楽しみだな。


 「行っちまったな。この町も少し寂しくなるな」

 「何を言ってるの。まだ、グラム達にロディ達がいるでしょう。それに来春にはネリーちゃん達だって狩りを始めるのよ。どうにかクレイ達は目処が立ったけど、あれは彼等に下地が出来てたからだわ。マーシャ達のレベルまでグラム達を鍛えないと大変よ」


 ダノンが先程までマーシャ達がいた席に腰を下ろしてパイプを取出す。

 私もシガレイに暖炉で火を点けた。


 「だが、早いもんだな。あれから1年半でだいぶレベルを上げてる。クレイなんか白の4つだぞ。グラムも白1つにまでなってるし、ロディ達も赤の7つだ」

 「色々と手伝って貰ったからね。……問題はクレイ達よ。このままこの町にいてくれれば良いんだけどね」


 「何かあるのか?」

 「一応、家を飛び出してるけど貴族出身だわ。パイドラ王国の新らしい取り組みがどんな影響を及ぼすかちょっと検討がつかないの」


 そう言って、貧民街の福祉政策として貴族の私兵を使った狩りの話をダノンに教えた。

 

 「まあ、少しは役に立つんじゃねえか。ひもじい冬は辛いもんだしな。……だが、そうなると、有能なハンターの青田刈りが始まりそうだ。なるほどな」

 「家に戻るチャンスではあるのよ。有力貴族の私兵ならばそれなりの見返りは期待できるわ。それとなくガリウスを使って状況を探ってるんだけどね」


 「あまり、深入りしねえ方がいいぜ。俺達は他人だからな。そりゃあ、一緒の鍋を囲んだ仲だが、他人に踏み込まれたく無い事もあるだろうよ」

 「そうね。あまり深入りしないでおくわ。ありがとう」


 「それよりもだ。一応、マーシャ達には姫さんの正体を教えといたぜ。いやぁ、吃驚してた」

 

 そっちの方が余計なお世話に違いない。

 でギルドのちょっと高レベルのお姉さん、のスタンスを取っていたんだけどね。

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                ・


 「そうですか。マーシャさん達は南に向かいましたか」

 「もう直、雪が降るわ。この町のハンター暮らしはきびしいのよ。最初の冬で分かったでしょう」

 

 「それで、下宿を探したんです。今では全員同じ家に下宿してますよ。老夫婦の家なんですが、けっこう自由にさせてもらってます。冬の暖炉での夜話はたのしいですよ」

 「なら、いいんだけど……」


 「それで、前のお話ですが……。確かに母親には元気でいると伝えて欲しいんです。でも……」

 「どこで暮らしているかは、告げないわ。」

 

 「お願いします。この手紙とお金を渡してくれませんか。僕達の家はまずしい暮らしです。少しは兄弟に……」


 小さな革袋には相手の名前が書いてある。今年の冬を越す最低限の金額を除いた、自分達の狩りの報酬が入っているのだろう。

 これなら、ジゼルに託せば問題なく届く筈だ。

 

 その小さな皮袋をバッグに仕舞い込むとガリウスの来訪を待つ事にした。


 10日程経った頃に、ガリウスがやってきた。

 たぶんウザーラの顛末を報告しに来たんだろう。

 にこにこしながら私の前のベンチに座ると早速話を始めた。


 「上手くいったぞ。獲物と契約書のサインを眺めて感心していた。これで万々歳だが、あまりの上首尾に、外交の一端を担った謝礼が金貨2枚というを気にしだす始末だ。『確かにお礼としての金貨はいるまい。だが、武器なら受取ってくれよう』という事だ。好きな武器を作れば支払いは俺が代理で行う」

 「それって、数はこちらの自由になるの?」


 「好きな数を作れば良い。山沿いの町の武器屋ではたかが知れている」

 「クレイは知ってるわね。彼等の武器を揃えたいの。少なくとも3つは作りたいけど……」


 「十分だ。先に話を付けてくる」

 「これも、お願い出来るかしら?」


 そう言って、クレイに預かった革袋を手渡した。

 リウスが、袋の木札の宛名を見て頷いている。


 「ジゼルに渡せば良いな。出所は告げぬように言っておく」

 「あの子なりに考えているみたい。それでお願い」


 私に、軽く頷くとガリウスはギルドを出て行った。

 

 その日の夕暮れ時、狩りから帰ってきたクレイ達に、経緯を話す。

 男達3人の武器を特注出来ると知って驚いてたが、詳しく話したら納得してくれた。

 貴族社会にはそんなことが沢山あるんだろうな。

 クレイ達がそんな世界から足を洗ったのは正解かもしれないぞ。


 「だいぶ助かります。この長剣も数打ちですからね」

 「だが、山の町だ。武器屋の腕はだいじょうぶか?」


 「腕は保証するわ。たぶん黒になっても使って行けるぐらい得物がつくれるわよ」


 クレイ達は互いに頷くと私に頭を下げてギルドを出て行った。早速注文する気だな。

 となると……残った者で武器を新調していないのは、ネリーちゃん所の男の子になる。

 狩りをするといっても、とりあえずはダノンの指導で町周辺での罠猟になるだろう。となれば、長剣や片手剣よりも、細工や解体に使う短剣が良いのかも知れない。

 レベルが上がっても、必ず使うものだし無駄にはならないだろう。

 

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