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G-061 ウザーラの毛皮の使い道


 襲ってきたガトルは、20匹にも満たない小さな群れだった。

 まるで舞うように小太刀で群れにぶつかる。

 後は、彼らで対応出来るだろう。

 

 ひとしきり喧騒が続いて、周囲に再び静寂が訪れる。

 へたりこんだり、肩で息をしてるけど、とりあえずは無事みたいだな。

 だいぶ、強くなったと思う。


 「皆、無事ね?」


 私の声に、こっち顔を向けるけど言葉も出ないって感じだな。

 比較的元気なアレクのパーティの女の子が全員にお茶を入れてくれる。


 「夜のガトルは初めてです。少し昼間と違いますね」

 「それが、分れば十分よ。より狡猾になるって感じでしょ。でもね、各自の役割を決めて当れば問題ないはず。……一休みが済んだら、ガトルの処理をお願い。これで収入が少し増えるわ」


 レベルの低いハンター生活だから、少しでも実入りが必要だ。

 牙と毛皮の報酬だけで銀貨10枚近くになるんじゃないか?

 

 そして、長い夜が明けると私達は町へと足を進める。

 ギルドに到着した時はだいぶ日が傾いていた。


 「ちょっと、おもしろい事を考えたから、ウザーラの毛皮は私に預けてくれない? 雑貨屋に売るよりも高値で取引が出来ると思うわ」

 

 私の提案に全員が頷いてくれた。

 レイドルとガトルの代金だけでも十分だと思ってるに違いない。


 カウンターにクレイ達が魔石と牙を並べる。

 グラム達は、ギルドを出て雑貨屋にガトルの毛皮を持っていく。

 私は、カウンターで筆記用具借りて、簡単な手紙を書いた。


 「これを護民官の姉のミゼルに届けて欲しいんだけど……」

 「明日の朝に王都に発つ商人に預けます。護民官への手紙ならタダで請け負ってくれますよ」


 後は暖炉で、皆の揃うのをシガレイを吸いながら待つことにした。

 そんな私の周りに3つのパーティが集まってきた。

 マリーにお茶を頼んで、それを飲みながらリーダー達の報告を聞く。


 「今回の狩りに係わる依頼書の事後確認は、ウザーラの討伐報酬銀貨5枚、レイドルの魔石が50L、そしてガトルの討伐10匹の50Lが該当するそうです。あわせて600Lです。続いてガトルの牙が18匹分の360L、魔石31個分の620L。全部で1580Lになります」

 「それに、ガトルの毛皮が15匹で225Lだ」


 「全部で1805L……凄いな」

 「更に、ウザーラの毛皮が別に売れるわ。それは少し待って欲しいの。王都で競売にかけるわ。あれ程大きいのはしばらくぶりだから、高く売れると思うの。参加者全員で分ければ1人110Lってことになるわね。残金の45Lは私が頂くわ」


 「でも、均等割が原則ですよ?」

 「一応、私が参加したことになってるけど、私は指導的立場であって狩りは貴方達が主体だからそれでいいわ。それにまだ今回最大の獲物の毛皮の代金を受取っていないのよ。10日程は待って頂戴。今日以上に分配できるんじゃないかと思うの」

 

 そんな楽しみが別にある。

 今回の報酬など、御隠居から頂いた報酬の中に含められるだろう。

 変わった依頼だったが、それに見合った働きをしなければこの町を去る事も出来ないぞ。


 各パーティのリーダーがそれぞれ報酬を受取り、パーティのメンバーに配っている。

 人数が多い分、分配は少ない。だけど、ウザーラの狩りを行なったという経験を得ることができた筈だ。

 それに……。


 「帰る時に、カウンターでレベルの確認をするのよ。全員あがっってる筈だわ」


 私の言葉に、皆が席を立つ。

 そんなところをクレイがパーティ毎に調整してるのも見ていておもしろいな。

 

 そして、グレイ達からカウンターに向かった。

 その光景を見ていたダノンがカウンターからやってくる。


 「グレイの奴、白1つになってるぞ。ウザーラって奴はそれ程レベルが高いのか?」

 「ウザーラも高いし、レイドルだって30個程狩ったのよ。それに、ガトルだって倒してるし……」


 「たった3日で、それだけ倒せば一気に上がるか。もうあまり教える機会も無くなるな……」

 「むしろこれからをダノンに頼みたいところよ。青までは面倒を見てあげて、白が一番ハンターとして大事な時期なの」


 『分ってるよ』と言うように小さく頷く。

 そしてパイプを取り出して一服を始めた。


 「金貨が届くぞ。」

 

 ダノンの言葉に笑みを浮かべる。


 「どこに落着くかしら? そっちの方が興味あるわ」

 「例の公爵が絡むとなると、裏で綱引きって訳だな。姫さんがその世界に手を出すのはどうかと思うぞ」


 まぁ、その危惧は分る。

 私も、あまり影響力は持ちたくないし、利用されるのはまっぴらだ。

 

 「あまり、伝手は使いたくないけどね。今回は別の依頼もあるからちょうどいいのよ」

 「別の依頼って?」

 

 「クレイ達の家の状況よ。駆け落ちして1年過ぎてるでしょ。その後どうなったかクレイ達も知りたいと思うの。その内、子供でも出来たら一度帰れば良いけどね」

 「まぁ、それはそうだよな。かといってそれを面と向かって聞く訳にもいかねぇか。だが、姫さんもそんなことに気を回すってのは、やはり俺達と違って、女ってことだな」


 そう言って笑いながらカウンターに帰っていった。

 私は、こんな体だが精神的には男だぞ!

 ちょっと頭に来たけど、ぶん殴る訳にもいかないしな。


 何時の間にか、ギルドのホールには私1人が残っている。

 こんな時には、早めに帰るに限るな。

 マリー達に片手を上げて挨拶をすると、雑貨屋で蜂蜜酒を買いこみ下宿に向かった。

               ・

               ・

               ・


 「確かに、余計なことかも知れませんが、あの2人には何よりの知らせでしょうね」

 「それに気を回すようではと……」


 「人様々ですから、私は問題ないと思いますよ。でも、結果を知らせるかどうかは別だと思います。どちらかと言うと、相手の母親に知らせるべきでしょうね。一番心配しているのは、クレイ達の母親です」


 食後に私が買いこんで来た蜂蜜酒をミレリーさんと一緒に飲みながら、ウザーラに託した手紙のもう1つの依頼について打ち明けた。

 こういう事は、母親に聞くべきだろうな。ダノンではちょっとね。


 「下級貴族の暮らしは聞き及んでいます。庶民とそれ程違わない。付き合いで何時も家計は火の車……。名ばかりですね」

 「それでも、名誉を重んじるところがあるので困ります。貴族出身のハンターが他のハンターと馴染めないのもそこに原因があると主人が言ってました」


 そういう意味では、クレイ達は違ってるな。家を飛び出したからには貴族ではないと自分に言い聞かせてるんだろう。

 ガリウスと似たところがあるが、ガリウスは貴族の出身を誇りに思っている。そして、有力貴族の次期当主の身辺警護を任されるまでになったんだから、出身貴族よりも実質的には上になってる筈だ。

 

 帰る場所が無いということは辛いものだが、それをバネにしてクレイ達は頑張ってるのかも知れないな。


 「となると、どうやってあの子達の母親に知らせるかと言うことになりますね」

 「でも、ミチルさんには良い友人がおりますよ」


 そう言ってカップを持って私に微笑みかける。


 「ミゼル……。確かにそうですね。彼女の訪問なら誰も怪しむ事はありませんもの」


 護民官と貴族の付き合いは相当に広いはずだ。

 それは、王都の貧民街に住む人々への寄付が定期的に貴族から行なわれるからでもある。上流貴族は銀貨を中流貴族は使い古した衣服をそして下級貴族はその衣服を子供用に作り直すのが慣わしらしい。それらの事務は護民官の奥方が行なうのだが、今の護民官は妻帯していないから姉のミゼルが行っている筈だ。

 耳打ち程度に話してあげれば母親も安心するだろう」


 「良い事を聞かせてもらいました。早速そのようにして見ましょう。私のやり方はクレイ達に返って里心を付かせることになるかもしれませんもの」

 

 そう言って、カップの残りを飲み終えると、今度はウザーラ狩りの様子を、シガレイを楽しみながらミレリーさんに披露してあげた。

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 数日が過ぎて、何時ものように暖炉の傍でシガレイを咥えていると、ギルドの扉を開けて、2人の男がホールに入ってきた。

 片方がガリウスだが、もう1人は初めて見る顔だな。

 私を確認するなり、こちらにやってくると私達の向かい側のベンチに腰を下ろした。

 

 「公爵の使いでやって来たのだが……」

 「例の毛皮の事ね。どう、高く売れそう?」


 「相談だ。この契約書にミチル殿のサインが欲しい」


 ガリウスの取り出した紙を読んでみると……。


 「私の契約書ってこと? しかも期限は切れてるわ」

 「そうだ。あの毛皮の持ち主を狩ったのが、ミチル殿のパーティと契約したこちらの次期メイデン公爵ということにしたいのだ」


 「是非ともお願い致します。お恥ずかしい話ですが、貴族の嗜みとして行なった狩りで得られたのはガトルのみ。このままでは隣国の貴族の姫君を頂くことが出来ません」

 「私は構わないけど、後で問題にならないの?」


 「大丈夫だ。姫と共にやってくる使者へ、相手貴族への返礼としてあの毛皮を送るそうだ。相手にしても次期メイデン公爵に狩れたとは思わないだろう。そこでこの契約書が役に立つ。パイドラ王国一番のハンターと契約できるだけの力があると相手に思わせるだけで良い」


 良いのかな? 完全に契約書の偽造だぞ。


 「ギルドの依頼書の偽造は大罪だが、期限切れの契約書だからな。偽造にも当らんと思うが……」

 

 私の戸惑いを知ってガリウスが呟いた。


 「まあ、問題はありそうだけど、これにサインをすればお嫁さんが貰えるならサインしてあげるわ。筆記用具はあるの?」

 

 ガリウスがバッグからマリーの使っているようなペンを取り出した。

 それを受取って、テーブルに契約書を広げると一番下に私の名前を書く。

 日本語だから誰にも読めないが、この文字を書くのは私だけで、崩してあるから真似して書く事も出来ない。

 

 「これが、ミチル殿のサインなのか……全く読めん」

 

 契約書を受取ってガリウスが私のサインを眺めている。

 

 「一度、父の部屋で見たことがあります。どの国の文字とも異なり、エルフの使う古代文字とも系統が異なると言っていました。正しく、このサインが黒姫様のサインであることは、知っているものなら直ぐに分ります。これ以外の正式なサインを黒姫様はしませんから、返って僕等が普通に読めるサインであればそれは偽物になります。

 ありがとうございました。そして、これが契約金と言うことになります」

 

 そう言ってテーブルに出したのは金貨が10枚だった。

 

 「王都で競売に掛ければ金貨1枚にはなるのではと思っていました。それに、私への口止め料として金貨1枚。これで十分です」

 「ですが、それでは余りにも少なすぎます」


 金貨2枚を受取ってバッグに仕舞うと、残りを相手に押し返す。


 「十分です。いつまでも仲良く暮らしてください」

 

 私の言葉にメイデン次期公爵が頭を下げる。

 そんな私の仕草にガリウスが笑っている。


 「全く、欲がないな。それで、こっちの方はたのまれたものだ。もちろん礼はいらぬぞ。俺も気にはしていたんだが、行動には移せなかった」

 「後で、ジゼルには追加を頼みたいけど……」

 

 私の言葉にガリウスが頷く。

 次期公爵を促がしてベンチを立つと、ギルドを出て行った。

 そんな光景を見ていたダノンが早速私の所にやってくる。

 

 「確か、王都の有力貴族に雇われたんだよな。例の毛皮の件か?」

 「そうよ。金貨2枚で売れたわ。通常の5倍になったわね。金貨1枚ぐらいにはなるかなと思ってたけど、たまたま必要な人物が現れて良かったわ」


 「ひょう! 1人銀貨10枚はあるぞ。帰って来たら知らせて良いな?」

 「お願い。それと、この金貨を両替して貰えない?」

 

 「だな。このままじゃ分けられねぇ」

 

 その日の夕方、ウザーラ狩りの全員に毛皮の売却値を話して、お金を分配する。1人銀貨12枚だ。今回は私も銀貨を8枚頂くことにした。

 グラム達は始めての大金に目を見開いている。

 マーシャ達は冬越しの資金が出来たと喜んでいる。

 

 そして、クレイ達にはもう1つ、ガリウスより預かった手紙を渡した。


 「中身は読んでないわ。貴方達の家のその後を護民官の姉に調べて貰ったの。連絡は出来なかったけど、私としては母親には元気でいることを知らせたいんだけど……」

 「ご心配をお掛けします。少し皆で話し合ってみます」


 里心ではないけれど、やはり家族は大事だよな。

 

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