G-060 ウザーラ狩り 2nd
ウザーラ狩りの目的地に着くと、各パーティが手際よく作業を開始する。
長い棒を採ってきたグラム達は、棒で藪を突付きながらレイドルを探し始めた。
クレイ達の集めてきた蔦を使って、10m位の区画を『コ』の字形に地上30cm程の高さで2段の柵を作る。これで、この中にはレイドルが入ってこれない。
柵から距離を取って天幕用の布で簡単な寝床を作っておく。周りを木の枝で覆えば隠れ家にもなる筈だ。
マーシャは薪用の小枝を集めてきて、その中の太いものを選んでいる。
「さて、罠を作るわよ。大型の罠だけど原理は同じ。輪を作って、周囲の木をしならせて結べば良いわ。キチンとしならせた木を革紐で杭に結ぶのよ。数個作っておいて」
「罠の輪はあの辺りで良いですね」
クレイが少し凹んだ地形を指差して言った。
「そうね。それで良いわ。輪の上にレイドルを集めるから」
クレイ達がグラム達と罠作りを始める。
その罠の場所に杭を打ってレイドルを入れる柵をマーシャ達が作り始めた。
私は薪を集め始めた。
しばらくはこの場所で待つことになるから、それなりに集める必要がある。
マーシャ達の集めた分に両腕で抱えられる位追加すると、焚火を作ってお茶のポットを載せておく。
そして、作業を終えた連中が焚火の周りに集まってきた。
各自が適当にバッグから敷き物を取り出して、焚火から距離を取って座る。
ハンター暮らしが長いから、何時の間にかそんな物を準備できるまでになったようだな。敷物はガトルの毛皮が一番良いんだけど、野犬の毛皮を使ってるようだ。
マーシャがスープを作って、買いこんで来たお弁当の黒パンサンドを皆に配り始めた。
「食べながら聞いて。今夜は交替で番をします。餌はまだ無いから、ウザーラが出てくることはないと思うけど、厄介なのはレイドルなの。こちら側は柵を作ってあるから、もんだいないけど、焚火の外側はよく見ておくのよ。光球を1個作って浮かべておくから、もし見つけたら長い棒で突付いて近づけないでね。毒消しは明日の朝まで有効だから、万が一刺されても死ぬ事は無いわ。でもしばらくは痛い思いをすることになるからね」
そう言って、数本の長い棒を指差す。
レイドルの動きは鈍いから、棒で突付いて刺される事はないと思うけどね。
そんな私の話を皆が真剣な表情で聞いている。
「そして、明日はこれでレイドルを引っ掛けてあの檻に集めるのよ」
私が取り出したのは30cm程の木の枝を使った錨だ。幹から枝が出たところを3本革紐で結べば即席の錨が出来る。これを棒の先に付けてレイドルを引っ掛けて移動するのだ。
「何となく、使い方は分ります。引っ掛けて運ぶんですね」
「そう。10個以上欲しいわ。ところでレイドルはいたの?」
「何匹かいたにゃ。でもこっちの方では見掛けなかったにゃ」
さすがにネコ族は周辺監視に優れてるな。
指差した方向は山手の方向だ。ということは、レイドルの生息地の上限に近いところに私達はいるのだろう。
そして、夜が更けて行く。
今は2番目の焚火の番らしい。グラム達が緊張した表情で周囲を伺っている。他の連中は、寝床に毛布やマントを広げて休んでいるようだ。
「そんなに緊張してたら、疲れるだけよ」
「でも、相手は毒を持ってます。俺達が気付かなければ大変な事態になりますよ」
グラムに微笑みながら話しかけたら、真面目な答えが返ってきた。
「他の獣じゃないんだから、たまに見れば良いのよ。こんな場所で焚火を囲むハンターなら、パイプを楽しみながら昔話をして時間を過ごすのよ。そして思い出したように周囲を見るの」
真面目なのは良いんだけどね。緊張しすぎだぞ。
そんなグラム達に女の子がお茶のカップを渡してあげた。
私も受取ると、その場に置いて冷めるのを待った。
「やってきたぞ!」
闇の奥からのそのそと言う感じで植木鉢を被ったようなレイドルが現れた。
早速、棒を持った2人が突いて向うに追い払った。
「ね。たまに見るだけで良いでしょ。人数がいるんだから。暇なら槍を作っておけば明日は役に立つわよ。棒の先に採取ナイフを付けて革紐で縛るだけで良いわ」
お茶を一口飲んで、私も一眠りだ。
明日も結構忙しくなりそうだな。
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次の日、朝食を終えたところで当座の作業を告げる。
「2つのパーティでレイドルを集めて頂戴。1つのパーティは常にここに残ること。残ったパーティは採取ナイフを棒の先に付けて簡単な槍を作っておくこと。
槍はウザーラ狩りにも使えるし、レイドルを始末するのにも役に立つわ。くれぐれもレイドルから10D(3m)は離れるのよ」
話が終ると直ぐに、長い棒と棒の先に錨を付けた捕獲具を持って周囲に散っていった。
残ったのはマーシャ達だな。
朝食を片付けると、薪を集めに出かけたが、私が残っているから大丈夫か。ついでに数本長い棒を採って来るように言い付けといた。
「採って来ましたけど、これは何に使うんですか?」
「柵の中にたくさん入れるから、逃げたりしたら困るでしょ」
直径3mほどだからな。どれだけ集まるか問題だけど、参加者分は確保したいところだ。レイドルの魔石は低位だけれど20Lにはなるからな。
昼近くになると、檻の中が賑わってきた。30匹を越えるレイドルが動いてるぞ。
そして、最後の仕上げに掛かる。
クレイとグラムに周囲の立木を利用して蔦を張り巡らせる。
東の方向だけには張っていないから、ウザーラが接近するにはこの方向に限られる筈だ。
「マーシャ。レイドルの群れに【メル】を2発放って。檻にぶつけちゃダメよ」
火炎弾が放たれると、檻の中は途端に賑やかになった。
そしてかすかに肉の焼ける匂いがする。
近くの立木にネコ族の少女を登らせて東を監視させる間に急いで食事の支度を始めた。
「これで、何時来るか分からなくなったわ。ウザーラは昼でも夜でも行動するの。軽く食事を取ります。次に食事が取れるのは何時になるか分らないわ」
それでも、数時間は何事も無く過ぎ去っていく。
焚火の火を小さくして代わりに光球を2つほど木の高さにあげて周囲を照らし始めた。
「そろそろかもね。【アクセル】はまだ使えないか……。毒対策は食事の時にしたから、私が【アクセル】を掛けるわ」
そう言って、1人ずつ【アクセル】を掛けていく。最後に自分にも掛けた。
魔法力はエルフ並みだから、これ位で魔法力が切れる心配はまるで無い。
そんな時、ネコ族の少女がスルスルと近くの木に登り始めた。
そして直ぐに降りてきた。
「来たにゃ!……100D(30m)以上先にゃ」
「罠に掛かるまでは攻撃はしないで隠れてるのよ。掛かったら槍と矢それに【メル】は顔と足。毛皮は高く売れるわ。クレイと私で罠を使います。もしも、罠に掛からなかったら私がし止めるからね」
そう言うと、クレイを残して全員が素早く天幕に隠れた。
静かにクレイと罠を繋いだ革紐の所に向かった。
そして、ウザーラが光球の明かりの下に姿を現した。
ほう、結構大きいぞ。これは高く売れそうだ。
ゆっくりと、周囲を覗うようにして近付いてきたウザーラはレイドルの檻に近付き、その中に入っていく。
「今よ!」
私と、クレイがナイフで革紐を切る。
ブン!っと音を立ててしならせた立木が元に戻ると、輪にしたロープが次々と空を飛んで行く。
そして、2本のロープがウザーラの足を捉えた。
檻から2m程のところで右の足を2本高く吊られている感じだ。
懸命にロープを外そうとしているところに、矢が次々に突き刺さっていく。
「ウオォーラ!」
大声で叫び声をあげたグラムが手製の槍を投げる。
数本の槍が投げられ、3本が横腹に突き刺さる。次いでマーシャ達が槍を投げた。
足元には魔道師達が次々と【メル】の火炎弾をぶつけている。
「クレイ、今よ!」
「ウオォォー!」
蛮声を上げたクレイがウザーラの前に飛び出すと袈裟懸けに頭に斬り付けてそのまま走り去る。
刺されるかと思ったが、上手く抜けたようだ。
そして、ドサリと音を立ててウザーラはその場に倒れこんだ。
「皆、怪我はない!」
「「「……大丈夫です」」」
少し、間があったのウザーラの大きさに驚いていたのだろう。
「やれました。罠と助けてくれる人がいれば赤でも黒の獲物を狩れるんですね」
「ウザーラは簡単な方なのよ。でも、グライザムはそうはいかないわ。このパーティなら、私1人を残して全員死んでる筈よ」
たぶん、重傷者が半数と言うところだろうが、一応釘を刺しておく。
狩りに危険は付き物だ。さっきも、レイドルの毒針を受ける危険性はあったんだからな。
光球を更に2個増やして焚火に薪を追加する。
先ずはレイドルを全て始末しなければならない。
【メルト】を2発放って、1個ずつ檻から出すと、徹底的に殻を破壊する。全く動かないことを確認したところで殻の中心を採取ナイフで壊して魔石を取り出す。
面倒な作業だが、1個20Lの値段を聞いて、皆がんばってやっているぞ。
それが済むと、ウザーラの皮剥ぎだ。
いったい幾らの値が付くか楽しみではあるな。
そんな作業が深夜まで続くと、ようやく食事にありつける。
汚れた体を1人ずつ【クリーネ】で綺麗にしてあげる。
携帯食の夜食でも、上手く狩りが運んだ後だから美味しく頂けるな。
食事の後でゆっくりとお茶を飲んでいる皆に、シガレイを咥えたままで次の狩りの話をする。
「さて、これで終わりだと思ったら大間違いよ。あの大きなウザーラの肉とレイドルがこんがり焼けてるから、ガトルか野犬の群れが来るわ。このまま暗闇の中を町に帰るのは危険だから、ここで迎撃します。ガトルの群れを迎え撃つ態勢でいくわ。前衛は長剣、弓は中衛で魔道師が後衛よ。この焚火を基点に左は私とグラム、右はクレイとマーシャで行くわ。中衛は魔道師を守ってね」
「ほんとに来ますか?」
「来ない方がおかしいと考えるべきね。周囲の虫の鳴き声に注意してね。音が止んだら襲ってくるわよ」
それだけ伝えると、シガレイに火を点けて待つことにした。
それぞれのパーティは与えられた場所に移動しやすいように焚火に座る位置を変えている。
まぁ、ガトルが来たとしても、【アクセル】状態を保っているから、早々遅れを取るようなことにはならないだろう。
「止んだにゃ! あっちにゃ」
ネコ族の少女がやってくる方向を指差した途端、1頭のガトルが光球の明かりの中に現れた。
「準備して、相手はガトルよ。連携して倒しなさい!」
焚火の傍から立ち上がると、少し前に出る。
「グラム、後ろに行くガトルを頼むわ。あの剣使ってみたら?」
たちまち後ろで剣を抜く音が聞こえてくる。グラム達も使ってみたかったに違いない。
そして、新たな狩りが始まった。