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G-006 下宿をすることに

 宿の酒場は賑わっていた。

 私が入って来たのをおかみさんが気づいたようだ。

 「おや、帰ってきたね! 話は聞いたよ。あんたが手術を知っていたとはね。その上男を押さえ込んだ連中に振舞って上げたって聞いたよ。ホントはその男のパーティが出すんだろうけどね」

 「私が頼んだことですし……」

 「あんたらしいね。連中に係わったら食事も出来ないよ。部屋に運んであげるから直ぐに部屋に行きな」


 おかみさんがそう言って鍵を渡してくれた。

 騒いでる連中には確かに近付きたくないな。そうっと階段を上って部屋の鍵を開ける。

 服を見ると点々と血が付いている。【クリーネ】を掛けて汚れを落としたところで、手術に使った小さなナイフと片手剣を取り出して同じように【クリーネ】を掛ける。

 この剣は特殊な剣だ。ダマスカス紋様のある片手剣等何処にも無いだろう。若干反りのある剣は小太刀に近い。

 数十年のハンター暮らしで色々助けて貰った事も確かだが、未だに刃こぼれすら見当たらない。


 トントンと軽く扉が叩かれた。

 扉を開けると、おかみさんがトレイに乗ったシチューと丸いパン、それに小さなカップに入ったワインをベッドの脇の木箱にトレイごと載せてくれる。

 

 「前に、下宿を探してあげるって言った件だけど……。お薦めが見つかったんだよ。明日一緒に、行く訳にはいかないかね?」

 「ええ、良いですよ。ギルドからは離れてるんでしょうか?」

 「そうでもないさ。此処までの距離の2倍ってところだろうね。ハンターの夫婦が住んでいたんだが、今は娘とその子供だけさ。娘の旦那は数年前に亡くなったんで、結構広い家なんだが暮らしているのは2人だけさね」 

 そう言っておかみさんは部屋を出て行った。

 

 食事を取りながら考えてみる。

 たぶん、旦那もハンターだったんだろうな。ハンターの死亡率は結構高い。

 そして、残された者はその僅かな蓄えで暮らしていかねばならないのだ。

 この世界の福祉政策はお粗末なものだ。王都でさえ餓死者が出ることが度々ある。

 おかみさんも、そんな2人の生活を忍びなかったのかも知れないな。

 食事を終えると、トレイごと食器を扉の外に出しておいた。

 今夜はゆっくり休もう。明日からはどんなベッドで寝られるか分らないからな。

               ・

               ・

               ・


 翌日、朝食を終えたところで、おかみさんに連れられて大通りを南に歩く。

 雑貨屋の四つ角を曲って路地を西に歩いて4軒目の路地の外れが目的の家らしい。

 作りは周囲と同じログハウスだ。屋根裏部屋が2つあるように見える。

 

 木製の2段の階段を上って、おかみさんが扉を叩く。 

 しばらくすると扉が開き、痩せた感じの30代のおばさんが出て来た。

 2人でしばらく話していたが、おかみさんが私を手招きしておばさんに紹介する。


 「家にいたハンターだけど、1年の契約を受けたそうだ。宿で暮らすよりあんたのところがいいと思ってね」

 「ミチルといいます。しばらくギルドでお世話になることになりました」

 「まぁ、それは良かったですね。どうぞ、中に!」


 俺達を家の中に案内してくれた。

 確か、子供が1人と言っていたが男の子ではなさそうだ。家の中がキチンと片付いている。

 大きな暖炉のあるリビングには、丸い6人程が座れるテーブルが置いてある。

 そのテーブルに案内されて腰を降ろすと中々具合がいい椅子だな。

 暖炉からポットを下ろしておばさんがお茶を入れると、俺達にお茶のカップを渡してくれた。


 「どんな人が来るかと思いましたが、ミチルさんを見て安心しました。ハンターと聞きましたが、ギルドの仕事ならば安心出来ますよ。私も夫もハンターでしたが、夫はグライザムに襲われて亡くなりました。今は、たまに娘と近くで薬草をつんでくらしています」

 「それはお気の毒です。私の仲間も多くは土に還りました。今では私1人です。縁あってギルドで1年の契約を結びましたので、出来れば此処にご厄介になりたいのですが?」

 「もちろん構いません。それで、厚かましいお願いですが家賃の方は……」

 「一月、銀貨6枚で良いと思うんだがね」

 横からおかみさんが口を挟む。たぶん相場よりも少し高い金額のはずだ。

 

 「それで、結構です。毎月、月初めにお支払いするという事で、……今月は残り12日ですが、これを収めてください」

 そう言って銀貨を3枚おばさんの前に置いた。それを見て、おばさんが慌てている。


 「そんなに頂けませんわ。余っているお部屋を使っていただいて、食事も贅沢なものは出せませんもの」

 「問題ありませんわ。私は現役ですから、あまり贅沢に慣れると後が大変です」

 「あんたがそう言うんなら、それで良いじゃないか。ミレリー、後は頼んだよ。私は店があるからね」

 

 そう言って宿のおかみさんが席を立って、リビングを出て行こうとしていた。

 俺は慌てて席を立つと、おかみさんにお礼を言った。

 

 「なぁに、そんなこと気にしなさんな。でも、たまには店に飲みにおいでよ」

 「はい。でも、売り上げにはあまり貢献できませんよ」


 俺の言葉に笑い声を上げると、おかみさんはこの家を出て行った。

 そして、リビングには私とおばさんが残った。


 「リビングではシガレイを吸っても良いですよ。私もたまに吸いますから。……それと、貴方のギルドカードを見せていただけないかしら?」


 やはり……。このおばさん、結構レベルが高そうだとは思っていたんだが、俺のレベルを聞くという事は、少し身のこなしが不自然だったかな。

 とはいえ、これから先、厄介になることは確かだ。秘密は無しにしよう。

 首からギルドカードを抜取るとおばさんの前に置いた。


 おばさんはチラリとカードを見ると、そっと俺の前にカードを返してくれた。

 エプロンのポケットからシガレイをとりだしたので、俺もポーチからシガレイを取り出す。

 火を点けてあげようとするよりも早く、指を鳴らすような仕草でシガレイに火を点けると、テーブルの片隅にあった灰皿を私達の前に持ってきた。


 「まさかとは思いましたが、光栄ですわ。我が家に黒姫をお泊めする事が出来て……。祖父達もさぞ喜んでくれるでしょう。たまに帰る長女がきたらどんな顔になるのかしら?」

 「あまり、世間には……」

 「大丈夫ですよ。これからはミチルさんとお呼びします。私の事もミレリーで結構ですよ。祖父は祖母とハンターをしている時に貴方に助けられたと言っていました。ですから、私は貴方を歓迎します」

 「そう言われても、私には記憶がないんですが……」

 「それは当たり前です。会った全てのハンターを覚えること等、出来るものではありません。でもね、ミチルさん。祖父は貴方に助けられたことを一生忘れませんでしたよ」


 そう言って嬉しそうに俺の顔を見る。シガレイが尽きると、ミレリーさんが部屋を案内してくれる。2階は2部屋だ。


 「こちらの部屋を使ってくださいな。長女の部屋です。隣は次女の部屋ですけど、あいにく今朝早く薬草を採取に出掛けたようですわ」

 

 部屋は板張りだが丸いカーペットが敷いてある。ベッドや布団も女の子用だな。窓に掛かったカーテンは暖色のギンガムだ。

 

 「良い部屋ですね。ありがとうございます」

 「娘も喜びますわ。次ぎは1階です」


 1階はミレリーさんの部屋と小さな客室それに先程のリビングに台所がある。更に嬉しいことにこの家にはお風呂があった。


 「祖父が作ったんです。汚れは【クリーネ】で落ちますが、寒い冬には入るとあたたまりますわよ」

 「昔、育ったところには風呂がありました。使えるなんて夢のようですわ」

 再びリビングに戻ると、ミレリーさんが鍵を取り出して私に渡してくれた。


 「リビングに明かりが付いている時は私は起きていますが、お仕事で遅くなる時は鍵を使ってください」

 「分りました。預かります。それと、場合によっては狩りに出掛けることがあると思います。その時には連絡しますので……」


 今日も仕事があることを告げて、ミナリーさんの家からギルドに向かう。ちょっと遅くなって昼近くなってるけど、相談があるかもしれないからな。


 ギルドまでの道程は15分程度だった。扉を開けてマリーさんのところに行くと、午前中の状況を確認する。

 

 「そうですね。特段変った依頼はありませんでした。私が見ても問題となるようなものは無かったですから安心してください。それと、昨日の手術でしたが、マスターが感心してました。直ぐに、手術の道具を王都に発注してましたから、次ぎはもう少し道具が増えると思いますよ」

 「次があれば、マリーに教えてあげるわ。……そうそう、私下宿することになったの。それで遅くなったんだけど、ミレリーさんという親子の家よ」

 「あぁ、それなら近所です。斜め向かい側が私の家なんですよ」

 

 そう言って、喜んでくれた。確かにご近所なら嬉しいのかも知れないな。

 マリーに片手を振って分かれると、掲示板を覗いて、何時ものテーブルに座る。

 直ぐに、お茶が出て来たので、シガレイを吸いながらのんびりと掲示板を眺めていた。

 昼過ぎになると、薬草採取を終えた若いハンター達が帰ってくる。報酬を貰って、テーブル席で分配する者達も現れた。それが終ると、明日の依頼を掲示板で眺めるのが彼等の日課のようだ。良い出物があれば、そのまま明日の依頼にするつもりのようだな。


 そんな中、見知った若いハンター達がギルドに入って来た。

 確か、レイドルを狩ったはずだが、上手く狩ることが出来たんだろうか?ちょっと心配になる。

 カウンターで報酬を受けたった若いハンター達が、俺のところにやってきた。


 「ありがとうございます。上手く狩る事が出来ました。都合5つの魔石を手に入れました。それに、槍というのも初めて見ました。近くを通ろうとしたハンターが槍を受けたみたいです。突然昏倒したんで驚きました。

 でも、あの薬草は……。しばらくは飲まずに済む依頼を探します」


 私に頭を下げると、仲間と一緒にギルドを出て行った。

 ちゃんと挨拶が出来るとはたいしたものだ。何処のギルドに行っても他の者達と仲良くやっていけるだろう。

 レベルが高くなると、それに連れて高慢になる者が多い。かつての私もそうだった気がする。でも、仲間を失って初めて他のハンターに助けられた時から、態度を変えたんだっけ。

 ハンターは孤高でも良いけど、仲間意識だけは持っていたい。ハンターに上下はない。狩れる獲物に制限があるだけだと思えば良い。

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