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G-059 ウザーラ狩り

 「姫さん、やな奴が居座ったみたいだ」


 窓際のテーブルから暖炉際のベンチに、ギルドでの居場所を移した私のところにダノンが地図を持ってやってきた。

 

 「ウザーラだ。しばらく出て来なかったんだが、ここに居座ってるようだ」


 ダノンが地図を広げて場所を指し示す。

 湖に近い林の中だ。現在ギルドには、収穫の秋でもあって大勢のハンターが押し掛けている。

 そのハンター達の狩りのルートに当たる場所でもあるから、早急に対処しなければなるまい。


 「現在どれ位黒がいるの?」

 「そうだなぁ……。4人か? だが、彼等は、こっちに出掛けたばかりだ。数日は帰って来ねぇぞ」


 となると、クレイ達を使うことになるか…。周辺のレイドルはマーシャ達とグラムが使えるかな……。


 「そうなると、私が手を出すことになりそうね。レイドルの依頼はあるの?」

 「2件あるぞ。今のところは誰も引き受けねぇな」


 「クレイ、マーシャ、それにグラムを今日の狩りを終えたところで待機させて。レイドル狩りとウザーラ狩りをやるわ」

 「分かった。少し距離がありすぎるから今回は協力できねぇが、準備するものがあれば言ってくれ」


 そう私に告げると、カウンターに帰って行った。

 ウザーラを私が狩るなら、それ程苦労はしない。

 だが、できればクレイ達に狩らしてあげたい。まだ、赤の上位だが上手く狩れれば白の中位近くまでレベルが上がるだろう。そうすれば、少しはやりがいのある狩りができるに違いない。


 「6本足の大型ガトルですよね。ガドラーよりも狩りのレベルは高いですよ。先程のメンバーでは一番上のレベルでも白の高位ですが、だいじょうぶなんですか?」

 「一応、建前としては私が依頼を受けて仲間を集めることになるわ。レリエルも連れて行きたいけど、この季節は怪我が多いのよ。3日程狩りに出掛けるから、残って頂戴。」

 

 「重症には対応できません。その時はお呼びします」

 「それでも良いけど、けっこう慣れてきてるわよ。だいじょうぶ、自信を持ちなさい」

 

 私が留守の間に、大怪我の1つも対応していればかなり自信を持つに違いない。

 ちょっとした試練かな? でも、何も無いってこともあるんだけどね。


 そして、その日の夕暮れ近く、暖炉際のベンチには16人のハンターが集まった。

 3つのベンチには座れないので他のテーブルからも椅子を持ってきている。私の座るベンチの前にはテーブルを挟んで3人のリーダーが座っていた。


 「ちょっと、嫌な獣がいるのよ。皆に手伝って欲しいんだけど……。名前は聞いた事があるでしょ。ウザーラという6本足の大型ガトルよ」

 「聞いた事がありますが、確か黒の獲物ですよ。僕達は全員駆け出しに近いですから、手伝いというより足手纏いになるのでは?」


 アレクは模範解答だな。とりあえず微笑で答えておいた。

 シガレイに火を点けて、煙を吹きだすと話を続ける。


 「貴方達だけでは、確かに不安だわ。だから、私が狩りをするの。……でもね、ウザーラには付き物の奴がいるのよ」

 「レイドルですね。それは私達の獲物です」


 マーシャが分かったと言うような顔で私の言葉に続ける。


 「レイドルを私達が狩り、その隙にミチルさんがウザーラを狩るということですか?」

 「それだと、簡単すぎて面白みがないわ。そこで、ちょっと変わった狩をしようと思うの」


 マリーが革で装丁されたノートを開く。だいぶ事例が溜まったようだな。

 シガレイを暖炉に投げ捨てると、お茶を一口飲んで、狩りの段取りの説明を始めた。


 ウザーラの動きはガドラーを上回り、爪には毒がある。だが、ガドラーのように丈夫な体毛を持っている訳ではないから、動きを制限することさえ可能であれば容易に狩れる獣だ。

 

 「問題はどうやって動きを制限するかになるわ。ウザーラの生息地域にはレイドルも多いし、どちらかというとこっちが制限されることになるわ」

 「レイドル対策が重要だということになりますね」


 マーシャの言葉に頷くと、その対策を提案する。


 先ずは、狩場を作ること。

 狩場の条件は2つある。周囲に適当に立ち木があること。そして少し窪んだ地形であること。


 「ロープを張って動きを制限するってことですか? でも、窪みはどう言うことです?」

 「単にロープを張る訳じゃないわ。罠を仕掛けるの。足が多いから掛かるはずよ。そして窪みは餌が逃げないようにしたいの」


 ウザーラはレイドルを食べる。レイドルを集めて転がしておけば、その内向こうからやって来るだろう。グライザムのように丈夫なロープで罠を作れば、何本かのロープでウザーラを捕まえられる可能性が高い。


 「1本でもロープがウザーラを捕らえれば、動きを制限できるわ。矢と魔法と投槍を使えば私がいなくても大丈夫かも知れないわ」

 「大変なのは、レイドルを集めることだと思います。あれには毒槍があるんですよね」


 「そうよ。10D(3m)は離れる必要があるわ」

 「そしてレイドルを殺すことは、この場合できません。餌にならないからです。生きたレイドルを運ぶ方法がこの作戦の最大の課題です」


 そんなに問題なのかな?

 ちょっと考えれば直ぐに考え付くと思うけどね

 

 「それは、皆の宿題にするわ。意外と簡単なのよ」

 「分りました。仲間で考えて見ます」


 そう言って、仲間と顔を見合わせて頷きあっている。


 「それでは、全員参加で良いわね?」

 「「「よろしくお願いします」」」


 グラムに銀貨を3枚渡して全員分の食料と毒消しの小瓶を買い込んでくるように伝える。

 

 「お弁当は全員分を1つ買い込んで。後は全員分の3日分の食料と1人毒消しが2瓶いるわ。それと、レイクはちょっと残って頂戴」


 ぞろぞろと連れ立ってギルドを去っていく。

 マリーとレリエルも席を立った。

 暖炉の前には私とレイクだけになった。


 「クレイ、……今度の狩り、貴方が仕留めなさい!」

 

 私の言葉にクレイは目を見開いた。

 

 「でも……相手は黒の中位の獲物です。僕はまだ白にもなってませんよ」

 「貴方は赤でも、剣の腕はかなりのものよ。それで、一気にレベルを上げなさい。上手くいけば白の中位になれるわ。ガトル狩りを単独で引き受けられるわよ」


 「出来るでしょうか?」

 「私が始めてウザーラを狩ったのは青2つの時だったわ。そして、得物はこの小太刀よ」

 

 「長剣の僕なら可能という事ですか……。やってみましょう。でも、ガトルと同じように対峙しても良いのでしょうか?」

 「たぶん、相当に弱ってると思うけど、大きなガトルと思って戦いなさい。前足で貴方を攻撃すると思うけど、攻撃する時は頭は動かないわ」


 『頑張るのよ』そう言って、クレイの肩を叩く。

 そんな私にクレイは小さく頷いた。

 

 赤でウザーラを倒せば、クレイも自信が付くだろう。

 将来的にこの町で筆頭ハンターになるも良し、王都に戻って有力な貴族の私兵となっても良い。

 どちらにしても、両親を喜ばすことが出来ると思う。

 

 クレイがギルドを去る姿を見送りながらシガレイを吸っていると、ダノンがカウンターから歩いてきた。


 「クレイに任せるのか?」

 「やらせたいわ。ダメなら私が片付ける」


 「で、俺が準備するものは?」

 「丈夫なロープ。たくさん欲しいわ。それにシーツ位の丈夫な布が3枚と鎌が2つ」


 「分った、明日の朝には用意しておく」


 そう言って、ダノンも暖炉でパイプに火を点ける。

 ベンチに座って、にこにこ顔で私を見てるぞ。


 「それにしても、2年で白中位になれるとなれば将来有望だな。育てたのが俺達だと思うと自慢したくなるぞ」

 「自慢しても良いわよ。実際、レイク達に薬草採取から教えたのはダノンでしょう。でも、ダノンが自慢しなくても噂は広がるわ。ちゃんと良いハンターを育てて頂戴ね」


 そんな私の言葉を笑いながらダノンが聞いている。

 今夜は美味い酒が飲めるだろうな。

 

 ダノンに別れを告げると、マリー達に手を振って私は下宿へと帰る。

 春もそうだが、秋も酒場は賑やかだ。

 私も早く戻って蜂蜜酒をご馳走になろう。

               ・

               ・

               ・


 そして、次の日の早朝。

 ギルドには3つのパーティが勢揃いしていた。

 ダノンの前の2の背負い籠には、ロープと天幕用の布、それに鎌が2つ入っている。

 

 「さて、出掛けましょう。目標はウザーラ1頭とレイドル30匹よ!」

 

 私の言葉に全員が大きく頷いた。

 その後ろで、ダノンが『無理をするな』と小さく私に頷いてる。

 背負い籠はレイク達が背負ったが、たぶん途中で交替しながら運ぶのだろう。


 私に続いて、次々とギルドを出て北の門を目指す。

 門番のおじいさんに挨拶をして、広場を通り過ぎるとネリーちゃん達が私達に手を振ってくれた。そんな光景に微笑みながら私達も手を振ってあげる。

 小さな町だからこんなハンター同士のふれあいがあるんだろうな。王都では絶対にこんなことは起らないだろう。


 広場を過ぎたところにある木橋を渡って、荒地へと足を運ぶ。

 ここからは湖に向かってなだらかな下り坂だ。

 2時間程歩いたところで最初の休憩を取った。


 「昼には目的地に着くわ。先ずしなければならないことは、野宿する場所の確保よ。周囲にはレイドルがいるから、レイドルを取り除かないといけないかもしれない。それは、グラム達にお願いして、マーシャ達はレイドルを一箇所に集めておいて。杭を丸く打ってその杭に沿って蔦を絡めればレイドルは逃げられないわ。クレイ達には罠を作って貰うからね」


 簡単に目的地での役割を伝えておく。

 そして、お茶を飲み終えると再び目的地に向かって歩き出した。


 目的地手前で焚火を作ると、鍋でお湯を沸かしてデルトン草をスライスして投入する。

 それとは別に、ポットでお茶を作っておく。

 

 「あれですね……」

 

 マーシャ達が思い出したように鍋を見て呟いた。

 一応念のためだ。レイドルは毒を持ってるからな。

 デルトン草の球根を十分に煮たところで、全員のカップにその汁を注ぐ。


 「不味いけど、ちゃんと飲むのよ。そしたら、このお茶を直ぐに飲んでね」

 

 木製の椀にお茶をなみなみと注いである。

 少し温めだから一気に飲めるな。


 そして、全員で一気にデルトン草を煎じた汁を飲み込んだ。

 直ぐに、皆が顔をしかめてお茶をゴクゴクと飲み始める。


 「うふぇ……、これはとんでもないですね」

 「でも、効き目は確実なのよ。これであすの朝までは毒に耐性が付くわ」


 私も、苦笑いを浮かべながら皆に呟く。

 あらためてお茶を飲みながら、シガレイを楽しむ。


 「もう過ぐ付くわ。グラム達は、15D(4.5m)位の棒を10本位準備して。マーシャは腕の太さ位の杭をやはり10本は欲しいわね。長さは4D(1.2m)位で良いわ。クレイ達は蔦を集めて頂戴。レイドルの正則範囲だから、くれぐれも足元には注意すること。良いわね」


 最初に告げた役割を行なう為に必要な物を告げる。

 何としても、今日中には準備を整えて置かねばなるまい。


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