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G-058 貧民街対策


 王都から帰った次の日は1日中部屋で寝てしまった。

 夕食時に起きて3人での食事時は王都の話題になる。ネリーちゃんが目を輝かせて聞いているのはやはり華やかな場所への憧れだろう。

 そんな娘を優しくミレリーさんが見詰めているけど、少し寂しげな表情だな。

 2人の子供が共にハンターになったら、家を出て行ってしまうからかもしれないと思っているのだろう。

 1人ぐらい、この村で暮らすハンターになってくれれば良いのだけれど、将来は不確定だからな。

 

 「……ということで、王都暮らしは私には向かないわ。華やかかも知れないけれど、自由があまり無いように思えるのよ」

 「そんな所でお姉ちゃんは頑張ってるんだ!」


 「でもね。ハンターとして上を目指すなら、なるべく辺境の町や村が良いのよ」


 絶対に行こうって、感じで聞いていたネリーちゃんに教えてあげる。

 たちまちネリーちゃんの顔に疑問が浮かんだぞ。

 

 「ハンターが大勢いるでしょ。ギルドの掲示板は争奪戦になるから、依頼の内容をじっくり確認するような人があまりいないのよ。自分に合った依頼や、挑戦したい依頼なんかを選べないの。でも、この町のギルドならそんな事はないでしょう」

 「初めての依頼や、皆でやるような依頼はマリーお姉さんや、ダノンおじさん、それにミチルお姉さんが教えてくれるものね」


 本来であれば、このようなシステムは王都で行うべきだろう。

 そう考えて、御隠居との会話を思い出す。

 ハンターの損耗を避けたいとの話は、意外とパイドラ王国全体を考えているのかも知れないな。

 だとすれば、この町はそのシステム作りの実験になる。

 ここで得たノウハウはある程度、マリーやダノンが心得ている筈だ。その2人が他の町や村で同じような活動を行えば……。うん、中々の策士だな。

 この王国の将来が楽しみになってきた。


 翌日のギルドではダノンとマリーに王都での顛末を話してあげる。

 あれだけ急いで出掛けたんだから、やはり気にはなっていたようだ。


 「しかし、金貨50枚を寄付するなんて、勿体無い事だぞ。娘なんだから、宝石とか衣服とかに使うべきじゃないのか?」

 「宝石なんて狩りの邪魔だし、服は夏冬のを持ってるし……。武器は、そうだ! 武器を貰ってきたのよ。グラム達はまだ来てないの?」


 「今日はまだ見てねぇから、そろそろ来るんじゃないか?」

 

 そう言って、ギルドの中を眺めてる。

 掲示板には10枚程の依頼書が張ってあるが、残っているのは薬草みたいだな。狩りの依頼は朝方売り切れたらしい。


 そんな中、罠猟から帰ってきたグラム達が獲物と数個の牙をカウンターに取出している。

 まぁまぁってことだろう。ダノンがそんな彼等を見て頷いている。

 こちらを見て軽く頭を下げたグラムにおいでおいでをすると、仲間共々テーブルにやってきた。


 「頑張ってるみたいね。獣は野犬かしら?」

 「はい。途中で出会ってしまい、そのまま刈りました。半数以上逃げられましたが、怪我人はありません」


 中々だな。出会い頭に戦闘を始められるようなら上出来だ。

 グラム達に近くに座るように言うと、私はバッグから袋を取出して細長い袋を取出した。


 「ちょっとした傷の手当をしたら、こんなのを貰ったのよ。私は自分のがあるから、これは貴方達で使うといいわ」

 

 長剣が3振り、そして短弓と矢筒のセットをテーブルの上に並べる。

 その長剣の1振りをダノンが手にとって革のケースから抜取った。


 「片刃なんだな。結構造りが良い品だ。黒でも十分使えるぞ」

 「頂いて良いんですか?」

 

 「ええ、使って頂戴」

 「この弓も貰えるのかにゃ?」


 私が頷くと、嬉しそうに猫耳をピクピクさせて胸に抱えている。

 もう1人は私の杖を上げたからそれで十分な筈だ。


 グラム達が帰ると、話が元に戻って怪我と治療の話になる。

 

 「そうなると、青かびを養殖しなくちゃなんねえな。とは言え、かびは嫌われ者だ。部屋に置くわけにもいくまい」

 「この部屋の隅にでも作ろうか? 意外と簡単なのよ」


 そう言って、簡単な増やし方を教える。

 皿にパンを乗せて、その上に青かびを振り掛ける。後は箱の中に棚を作って皿を並べておけばいい。

 

 「たまに交換すればいいわ。一回分だけでもあれば助かるわね。集めるとなると結構大変でしょう」

 「そうですね。少しは使い方が分かってきました。大きな外傷に限定すれば私にもできそうです」

 

 たぶんそれで良いだろう。やたらと使うのも問題になりそうだ。

 それに、血液やリンパ液にだって免疫機能があるんだから、やたらに使うのは止した方がいい。

 

 「実は、欲しい薬草もあるのよね。塗ると冷たく感じるような薬草を知らない?」

 「確か、海の近くで漁師の間でそんな薬草があると聞いた事があるぞ。後で調べてやろう。だが、何に使うんだ?」

 

 ある事はあるという事か。意外と、木こりや石切り場で働いている人も知ってるかも知れないな。


 「あの坊やの治療には、それが有効なの」

 「あの男の子ですか? 打撲か骨にヒビがはいったような感じでしたけど……」


 レリエルなりに状況を見ていたようだな。

 

 「どちらかを決めるにはどうしたら良いと思う?」

 「悪い方向に考えて治療するのが良いと思いますけど……」


 それも、ひとつの方法だ。

 物事を悪い方で見ていれば、最悪を未然に防止出来るだろう。だがその結果、足を切断するようなことになったら本末転倒だけどね。

 

 「あの場合の診断は意外と簡単なのよ。骨に沿って触って行くと痛い場所が明確なら、そこにヒビが入ってるわ。打撲だと、その痕跡があるし、痛い場所があまり特定出来ないの。飛び上がる程痛がるからヒビが特定できるわ」


 「でも、場所が分かっても、処置をどうするかですわ」

 「動かないようにすればいいのよ。木の棒を沿わせて包帯でぐるぐる巻きで良いわ。そして、その時に欲しいのが、消炎材としての薬草なの」

 

 「腫れた部分に塗るということですか?」

 「ええ。それで痛みを柔らげられるし、直りも早くなるわ」

 

 たぶん、消炎材よりも、痛みそのものを無くす薬草があるからだろうな。

 だが、あれは麻薬だぞ。出来れば使うのは制限したいものだ。


 「俺が探しといてやるよ。待ってな」


 たぶん薬草図鑑でも調べるのかな?

 あれば助かるんだけどね。

                ・

                ・

                ・


 山麓の町の秋の訪れは、朝晩の涼しい風でそれと分かる。

 そんな、季節の変わり目に王都からガリウスが1人でやってきた。


 何時ものテーブルで、レリエルの質問に答えていた私を見つけると直に私達のところにやってきた。

 マリーが運んできたお茶を美味しそうに飲むと、例の顛末を話してくれた。


 どうやら、貴族階級が落とされたらしい。

 それに伴なって、パイドラ王国の貴族社会に若干の移動があったようだ。


 「……まぁ、逆恨みの相手が拙かったな」


 そう言って、私達を見て微笑んだ。

 

 「貴族会議からの追放と公爵の称号が男爵に変わった。領地は三分の二に減って役職を2つ手放すことになった。王都の貴族街に住むことは、他の貴族の蔑みに絶えられないようで、西の領地へ引き込んだようだな」

 「実質的な貴族社会からの追放じゃないですか!」


 「バリアヌス家は裕福な地方地主として暮らせるのだから十分じゃないか? 国王の怒りは相当なものだったとレイベル公爵は言っていたな。同じ貴族として口添えはしてやったが、結果は王都からの追放に近いと言っていた」

 

 娘の命の恩人を日中に襲撃して、返り討ちに合ったんだからな……。

 弁明してもしきれまい。これで親バカが治れば良いのだが。


 「あの傷の見聞をケイナス師範が勤めたのだ。唸ってたぞ」

 「それって、やりすぎだという事ですか?」


 「いや、『ワシにもこうはできん』と俺に打ち明けてくれたよ。『余程怒っていたようだな』とも言っていたぞ」

 「それで、連中は?」


 「全て死んだ……。それを知って国王は言ったそうだ。『王女の傷から比べれば遥かに軽傷ではないか!』とな。神殿が治療を拒否し、薬剤ギルドが措置したそうだが、やはり無理だったようだ。最後はかなり酷かったらしいぞ」

 

 炎症を起こしたか。あの場所ではな。だが、もしも王都にレリエルがいれば半数以上は助かったろう。

 やはり、微生物による感染症についてはキチンとレリエルに教えておこう。


 「そして、元凶の次期当主だが、片足を失ったようだ」

 「それは、おかしいわ。10日すれば歩ける位になる筈よ」


 「空元気を出して、その場で歩いたらしい。直ぐに転倒したが、骨が出てしまった」


 全く、ちゃんと頼めば今頃は飛び回ってるだろうに。

 良い薬になったか、それとも卑屈になって引きこもるか。さて、どっちだろうな。


 「薬が効きすぎなければ良いのですが」

 「それは、あの子が今回の事件をどう捉えるかね。ダメな子はとことんダメなままよ」

 

 そう言って、温くなったお茶を飲んだ。

 やはり、王都は暮らし難いな。人情味が無いように思えるぞ。


 「そういえば、前に話した俺達の勤労奉仕が形になりそうだぞ」

 「私兵による狩りの報酬を寄付するって話?」


 ガリウスがパイプを取り出して火を点ける。

 私もシガレイを取り出した。


 「そうだ。中々に評判が良いようだ。『貴族の抱える私兵の技量を試すことにもなる』と公爵は言っていたぞ」

 「確かにそうね。狩りの獲物が少なければ、家名に傷が作ってことね」


 私兵を止めようとはしないんだな。それより、新たなハンターの就職窓口が出来そうだ。

 これを機会に、傭兵を半減して腕の良いハンターを抱えるものが出てきそうだな。

 

 「まぁ、この秋から始めるようだが、俺のところではこの間のパーティがそのまま望むことになる。精々ガトルだろうからライネス殿には活躍して貰わねばなるまい」

 「良いんじゃないの。グライザムを倒した英雄ですもの」


 それを聞いてガリウスの顔がほころんだ。

 結構評判になってるようだな。決して悪い噂では無さそうだ。

 

 「意外と人気が出てきたな。それだけの働きをせぬと、別の噂が広がりそうだ」

 

 そう言って、上手そうにパイプを咥える。

 ガリウスが狩りをしたいんじゃないか? 意外とケイナスさんも乗り気だったりして……。

 とは言え、悪い話ではない。これから寒くなるのだ。貧民街の住民に衣服や食料が配られるなら、ガリウス達の楽しみも許される範囲だと思う。


 『出来れば、将来有望なハンターを見つけておきたい』なんて言いながら、ガリウスはギルドを出て行った。


 この町で将来有望と言うのは、クレイ達だけどね。でも、駆け落ちパーティだから王都に帰るのはどうかな。

 だけど、有力貴族に組みするとなれば、彼らの親も許してくれるかも知れないぞ。

 これは、クレイ達にも知らせておかねばなるまい。


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