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G-057 帰ろう。でもその前に!


 お土産は貰ったし、後はのんびり町に帰ればいい。

 馬車では数時間も掛からないが、歩けば2日は掛かりそうだ。

 女官達に見送られて大きな玄関の扉を抜け、広い階段を下りると王宮前の広場を抜けて大通りに歩き出す。

 近衛兵に軽く頭を下げて、ふと王宮を振り返ると、テラスからお妃様に支えられた王女様が私達に手を振っていた。

 レリエルと顔を見合わせて私達も手を振ると、再び大通りに向かって歩き出す。


 「私は準備が出来ていますが、ミチル様はそれで良いのですか?」

 

 レリエルの長衣の背中にはバトンが差してある。

 私は、黒く染めた革の上下にベルトを結び、腰にバッグをぶら下げたままだ。

 それでも、バッグの下には大型リボルバーが隠れているし、腰から左右に飛び出すように小太刀が取り付けられている。

 

 「だいじょうぶよ。相手がガリクスでも倒せるわ」

 

 そう言って、心配そうな顔で私を見ていたレリエルを勇気付ける。

 問題は何時襲ってくるかだな。

 朝も遅い時間だから通りに人が出ているし、武器を持っている者も多いことは確かだ。

 殺気の有る無しで判断する外に手が無いな。


 「レリエル、私の前に出ないでね。右斜め後ろがありがたいわ」


 大通りを進んで北門に続く通りに曲ると、遠くに門の手前の広場が見える。

 その広場に10人程の兵士に見える連中がこちらを睨んでいた。

 

 「10人とは数が少ないですね」

 「たぶん、周りにもいるわよ。レベルは青の高位って所ね。レリエルにはちょっと荷が重いかもしれないわ」


 「壁際で援護します。それに、彼等の目的は私ではなくミチル様ですよ」


 まぁ、確かにそうなんだけどね。

 私に、青を向けるなんて何を考えてるのだろうか?


 門に近付くにつれ、少しずつ私とレリエルの距離が開く。

 諍いが始まると同時に、野次馬にうまく隠れることが出来るだろう。


 そして、ついに彼等の前に私は足を止めた。


 「手前が、バリアヌス家に泥を塗った奴だな。知らせはこっちに届いてる。おとなしく公爵家に来て貰おうか?」

 「このまま何もしないなら、バリアヌス家はとりあえずは安泰でしょうけど、私とやるならちょっと難かしい立場になるわよ?」


 「逆らうのか? 手足が無くとも構わん。胴体に頭だけは付けとけよ!」


 全員が私を取り囲む隙に、【アクセル】と【ブースト】を立て続けに使って身体機能を上昇させる。

 

 自然体に構えて周囲を見ていると、いきなり後ろから斬りつけてきた。

 斜め上段からなら、軸足を変えるようにして小さく回れば回避できる。そして、体のすぐ脇を長剣が通り過ぎるのを待って、小太刀で相手の腹を薙いだ。


 「うおぉぉ……」

 その場に転倒した男が呻き声を上げる。

 ゆっくり死の恐怖を味わうが良い。革鎧ごと脇腹を斬ったから、傷は内臓にまで達している。動けば内臓が飛出るぞ。


 後は、連携すらなく私に切りかかってくる連中を同じように始末する。

 傷口は【サフロ】で治せても、内臓の損傷まで対応できる者はこの王都には私以外誰もいない。

 どうせ、碌なことはしていないのだろう。

 広場に血を流して悶えている者達を尻目に門を目指して歩き始める。


 「待て!……次は俺達だ。先程のようにはいかぬぞ」


 人垣の中から3人が現れた。

 長剣を抜いてゆっくりと近付いてくる以上、先手を取っても問題は無さそうだな。

 小太刀は鞘に戻してある。別に、剣で相手にする義理はないから、マグナムリボルバーを引抜いて足を狙ってトリガーを引いた。


 ドオォン!という大音響が響いて、男が1人転倒する。

 更に2回トリガーを引いて、ホルスターに戻す。


 「もう、いないの!」


 大声を上げて誘っても誰も出てこない。

 スタスタと門に向かって歩き始めたところで、呻き声をあげる男たちの中から私を呼び止める者がいた。


 「待て! このような卑怯な振る舞い。絶対に公爵殿がお許しにならないぞ」

 「私1人に多人数をけしかける方が卑怯じゃなくて! お互い様よ。それに、貴方達の振る舞いの方が治安上問題だわ」


 知らせを受けた王都の警備兵の一団が駆けつけてきた。

 彼等に後を任せると、レリエルが人混みを掻き分けて私のところにやって来る。


 「鮮やかですね」

 「後の3人が厄介だったけどね。私に剣で挑もうということが間違ってるわ」


 今度こそ、私達を止める者はいない。

 呆気にとられて、まだ広場を見ている門番に別れを告げると、さっさと王都を後にした。


 まだ、王都が見える場所で東へと足を向ける。

 このまま町に帰れば、町に迷惑が掛かるとも限らない。

 北に行くと見せかけて東に行ったと思わせれば後が楽だからな。


 昼を過ぎた辺りで、雑木の陰で休息を取った。

 小さな焚火を作って2人分のお茶を沸かしながらシガレイを楽しむ。


 さぞかし、王都は大騒ぎをしているだろう。

 公爵家の私兵は20人程と言っていたから、追跡してくる者はいない筈だ。

 それに、こちらから挑んだのではなく相手からだから真実裁判に耐えられぬだろう。

 普通なら、憤慨しても対処する手だてが無い事に唖然として、保身に動く筈だけど……。

 親ばかな公爵のようだからな。

 

 休息を終えると更に東へと歩き出す。

 そして、小さな流れに辿り着いたところで、上流に向かって川原を歩いた。

 瀬に出たところで、対岸に渡り、川原にレリエルを残して私だけで荒地に踏み入れる。少し進むと草原が広がっていた。

 草原まで歩いたところで、今度は後ろ向きで川原へ戻って来た。


 「これで、証拠を残してあげたわ。追跡者がいても、私達を草原の彼方に見失ったということになるでしょうね」

 「これから、私達はどうするんですか?」


 「この瀬を上流に歩きます。行けるところまで行きましょう。夏だから水が気持ち良いわよ」


 瀬はずっと続いている。

 1km程上ったところで急に両側に岩が現れた。

 そんな岩を伝って、今度は西に歩いて行く。


 岩場が小石交じりの荒地になってくると、西に歩いても王都は見えなくなっていた。

 街道の石畳を今度は町に向かって歩く。

 だんだんと日が暮れ始めたときに、前方に焚火の明かりが見える。


 「よう!だいぶ遠回りをしてきたな」

 「ひょっとして、町まで乗せてくれるの?」


 街道の途中にある休憩所に馬車を止めて、スープの鍋を掻き混ぜていたのは、ガリウスにミゼルだった。


 「私は東に向かったと聞きましたので、こんな場所で待っても会えないだろうと思っていました。ですが、ガリウス殿がここに来ると言い張って……」

 「2人程、ミチル殿の後を追っている。明日には見失ったと報告するだろうな」


 そう言って、笑い始めた。

 

 「ちょっと、大回りに移動したから、そうなると思うわ。意外とシツコイわね」

 

 「一応、貴族の家名が掛かっています。あれだけの騒ぎですから貴族会議は必定でしょう」

 「バリアヌス公爵としても引っ込みがつかなくなっているな。私兵を13人倒されて、全て使い物にならなくなったらしい。たぶん数日を待たずに亡くなるだろうが、運よく助かった者がいれば終生その暮らしを保証せねばなるまい。そして、傭兵達を新たに雇うには、今までよりも相場が高くなる。

 まぁ、それは後の話だ。家の公爵は明日を楽しみにしてるぞ。どんな言い訳をするのだろうとな。やるのなら、王都を出てからにすれば良いものを、みすみす大衆の目に晒してしまった。しかも相手に非が無いのでは問題だな。しかも、襲う相手が王女の命の恩人となると、最悪ノケースもありうる話だ。周囲の貴族が嘆願しても降格は必至だろうな」


 礼儀作法を知らずに上位貴族に納まるほうが問題だろうな。この国の将来を考えればあのような小僧は必要なかろう。


 ミゼルお手製のスープと柔らかな白パンのハムサンドを頂いて、のんびりとお茶を飲む。

 シガレイを吸っていると、ガリウスが私をジッと見ているのに気がついた。


 「どうかした?」

 「いや、ミチル殿に勝てない原因がようやく分かったと思ったのだ。剣には剣で戦うというのは俺の思い過ごしかもしれぬ。要は勝つ事だ。師の教えを理解できたぞ」

 

 そういえば、ケイネルさんが言ってたな。『勝負に卑怯という言葉は無い』って……。

 1対多数なら、私としてはどんな手を使っても許されると思ってるし、勝てない相手に勝ための手段があれば、迷うことなくそれを選択する。


 食後の休憩を終えると、今度は馬車だから楽チンだな。

 王都に向かう時のような速度を出さずにのんびりと馬車は進んでいる。明日の明け方には待ちに到着するだろう。


 「それにしても驚きましたわ。明け方早くに王宮から使者がやって来て金貨を届けてくれました。有難く役立てたいと想います」

 「褒美を全部寄付するなんて、勿体無い事をするものだ。だが、そのお蔭で、裏通りの子供達に服や食事を与えることが出来るとミゼルが喜んでいたぞ。確かに俺も一緒に回っていたんだが酷いものだった」

 

 「残りは神殿だから孤児の方も少しは待遇が改善されるでしょう。でも、一時凌ぎではあるのよね」

 「たまに狩りをして、仕送りしましょうか?」


 それも、おもしろい考えだな。

 だが、ハンターにそれをさせるのは酷な話だ。出来れば……、貴族の抱える私兵に頼むのはどうだろう。

 訓練にもなるだろうし、別に雇い主から給与を貰っている筈だから、半額ぐらいは寄付できるんじゃないかな?


 「ミゼル、ここだけの話よ。戻ったら、護民官に……」

 

 先程の考えをミゼルに聞かせる。

 この提案は護民官から出すのは問題だと思う。王都の貧民街の様子と、その対策として公爵に告げるべきだろう。確認はガリウスで行なえるし、それが国王の施政改革の評価に繋がるとなれば、ますますレイベル公爵の発言力が明日ことになるだろうが、その結果がちゃんと下層の住民に繁栄されるなら、許される範囲だろう。


 「それは、おもしろそうだな。有力貴族であれば20人以上の私兵を持つ。半数はハンター資格を持っているはずだ。王都のギルドで期限切れ真近の依頼書で狩りをするなら、本職の連中も文句は言わんだろう」

 「帰ったら、弟に話してみます」


 上手く行けば良いけどね。

 そういえば……。

 

 「ねぇねぇ、ところでどうなの。王都では評判よ?」


 私の言葉に、向かいの座席に座ったガリウスとミゼルが顔を見合わせる。

 なるほど、こんな風景を色んな人に見られてるんだな。

 あの、ケイネルさんが知ってるぐらいだからな。

 

 「結構、有名な話になってるみたいよ。王都の裏通りを2人が腕を組んで歩いてるって!」

 「そんな事はありません。手を繋いでるだけ……です……。」


 おうおう、顔を真っ赤にして……、なるほどね。

 

 「そんなに噂になってるのか?」

 「ケイネルさんが楽しみにしてるわ。私も悪い話じゃないと思うんだけど」


 ガリウスはジッと腕を組んで考えているようだ。

 ミゼルはあれから下を向いてるぞ。


 「少なくとも、俺の気持ちは変わらんと思う。ミゼルさえ良ければ……」


 その言葉を聞いた途端にミゼルがガリウスに抱きついた。

 これはちょっとレリエルの教育上不味いかもしれないな。

 そんなレリエルは両手で顔を覆ってるけど、お約束通りに指の間から2人をじっと見ていた。

 レリエルが巫女だという事に少し、疑問を持ってきたぞ。


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