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G-054 緊急の知らせ


 ロディ達が作った即席の釣竿には、皮を剥かれたゲロッコが糸に結び付けられている。

 それを子供達に次々と渡して、釣り場を指示している姿を私達は眺めていた。


 「あれなら心配無さそうだな。だが、あの網はどうするつもりだ?」

 「もう少ししたら分るわよ。私なら網は要らないんだけど、ちびっ子達ではねぇ……」


 「でも、あれで掬い取るには、小さすぎますし、何より川底は見えませんでしたよ」

 

 そんな話を、焚火の傍に陣取って、お茶やパイプを楽しみながら見ている。

 それは私達3人だけでなく、この町にたまたまやってきたハンター達も同じ思いに違いない。

 『見学させてください』と断わって、私達の焚火の傍でジルギヌが獲れるのを待っている。

 

 そして、ロディの合図で一斉にゲロッコが小川に投げ込まれた。

 さて、今年はどうかな?


 そう思いながら、シガレイに火を点けて小川を眺めると、ロディ達男の子3人が忙しそうにタモ網を持って動き始めた。

 

 「どうやら、大漁になるわよ。ダノン、見てきたら?おもしろいものが見られるわ」

 「そうか?……どれ」


 ダノンが腰を上げて、小川に歩き始めると、レリエルもその後を付いていく。ハンター数人も慌てて後を追った。


 これで、あのハンター達が他の町や村にも獲り方を広めるだろうな。

 少しは、住民に恩恵が広がるだろう。

 獲れる数が少ないから庶民には高値の花なんだけど、乱獲さえしなければそれなり楽しめるし、良い収入源にもなるだろう。


 やがて、見学者が帰ってくる。

 

 「大漁なんてもんじゃねぇぞ!既に50は行っている。このまま昼近くまでやったら100は軽く越えちまう」

 「まるで、海で見た魚釣りのようですね。子供達も楽しんでいます」

 

 「あれは、俺達の村に広めても構わないよな。村の近くの川に同じようにジルギヌがいるんだ。依頼もあるんだが1日で10匹程度しか獲れなかったからな」

 「構わないわよ。でも、見たとおり子供の遊びのような獲り方でしょ。一人前のハンターがするものでは無いわ」


 焚火に集まって来たハンターに、やんわりと釘を差しておく。

 私の言葉にダノンも頷いてるな。


 「確かに、とんでもない捕らえ方だ。そして数が揃う。だが、ハンターとしては考えるものがあるな」

 「それは、理解できます。俺達も村の子供達に教えますよ。薬草採取の合間にやるのはおもしろそうですしね」


 そうダノンに応えてる。

 あいかわらず、小川の辺からは子供達の歓声が続いている。

 そんな中、ダノンの仲間の男の子が2人ほど南の門に荷車を曳いていった。


 「ありゃ、入れ物が足りなくなったみたいだな。どうやら、昼には150を越えるんじゃないか?」

 「マリーが前回食べ損ねたと嘆いていたわ。少し分けてあげたいんだけど」

 

 「ロディに頼めば姫さんの頼みだ。何とかしてくれるだろうよ」

 

 そう言って、私に笑いかけた。

 

 「それにしても、良く思いつきましたね」

 

 そう私に問いかけたレリエルに、ハンター達も頷いている。

 

 「あれは、私の国では子供の遊びなのよ。ジルギヌのように美味しいものでは無かったし、誰も食べる人はいなかったけど……。簡単に釣れるから子供ならば毎年何回か行なう恒例行事みたいなものね」

 「だが、パイドラやこの周辺では誰も思いつかなかったという事か」


 「仕掛けは簡単だし、タモ網も必要ないかもしれない。それでも大人が1日で獲る数よりも多くなるのは確かだな」

 

 そんな所に、ロディの仲間が桶に入ったジルギヌを持ってやってきた。

 

 「大漁です。これは食べてください」

 「良いの?できればマリーに2匹届けたいんだけど……」


 「大丈夫です。そろそろロディが分配金を考えていますから、残った分は参加者に分けると思います。その時に話しておきます」


 分配は公平に、でも少しは私情がはいっても良いだろう。

 それがギルドのカウンターのお姉さんなら普段世話になってるから彼らも納得してくれるんじゃないかな。


 そして、ダノンは桶の中のジルギヌを焚火の熾きの中に投げ込んでいる。

 早速焼いて食べる気だな。


 「まさか、こんな場所で頂けるとは……」


 それは、この場の全員の思いだろう。

 野趣溢れるってこんなことなんだろうな。甲羅が赤くなって良い具合に焼きあがってるぞ。

 

 何時の間にかダノンが酒のビンを取り出してハンター達にふるまっている。

 私とレリエルもお湯で薄めた蜂蜜酒を頂いた。

 焼きあがったジルギルを頬張りながら、飲むお酒も良い物だと思うな。


 「やはり、焼いたジルギヌは格別ですね。これで2回目です」

 「俺は初めてだ。こんな美味いものがあったんだな」


 希少価値が高いから、一般人が食べることは殆ど無い。

 簡単に獲れるのが分ったら今後はどうなるのかな?


 それを規制するのは意外と難かしいのかも知れない。

 年に何回かの解禁日を設けるなんてことを考えないと資源が枯渇するかも知れないな。

 これは、1つのギルドで考えるべきでは無いだろう。護民官を動かすか?


 やがて、小川の方が賑やかになってきた。

 どうやら、目的の数を達成したようだな。


 「もう、終わりなのか? まだ昼にもなってねぇぞ」

 「ちびっ子達が多かったし、結構釣れるのよ。報酬と獲物の分配を終えたみたいだから、余ったジルギヌは小川に戻してるでしょ。無駄な狩りはしない。ちゃんとロディは教えてるようね」


 私の言葉に全員が小川を見た。そこで桶から小川に放されるジルギヌを感心して見ていた。


 「持って帰れば美味しく頂ける。でも、必要以上は獲らない……。ハンターとして絶対に必要なことですね」

 「そうだ。俺達は狩りで生活してるが、必要以上に殺すことはしねぇ。ああやって、それを小さい頃から教えるのか……」


 ロディ達は良いハンターに育つだろう。

 良いハンターとは、決して高いレベルのハンターではない。

 住民を常に考えながら、自分のレベルにあった狩りをするハンターが良いハンターだと私は思ってる。そういう意味ではロディ達は模範的なハンターだな。押し掛け女房付だけどね。


 「さて、私達も帰りましょう。結局、誰も小川に落ちなかったわね」

 「無駄骨って訳じゃねぇ。何も無かったことはそれだけちびっ子どもの狩りが上手くいったって事だろうからな」


 ダノンの言葉に間違いないな。

 それでも、ちびっ子達は安心できた筈だ。ちびっ子達だけでは、小川に落ちたら助けるのが難しかったろう。


 ジルギヌ獲りの報酬は、参加者全員に20Lとジルギヌ2匹が渡されたようだ。

 マリー達にも『お世話になってます』と言いながら2匹ずつ渡していた。ダノンと私達は焚火の所で頂いたから、あらためて頂くことは出来なかったな。


 そんな光景を見ながら、テーブルで手紙を書いている。

 ジルギヌの資源枯渇を防止するために解禁日を作らせるものだ。

 今後、獲れる数が増えるであろう事、乱獲される恐れが高いことを書いておけば、貴族達がどう動くか楽しみだな。

 

 手紙を丸めて蝋で封印すると、カードを押し当てる。

 それをマリーに頼んで護民官に届けて貰うことにした。銀貨1枚は高い輸送料だが、郵便事業が無いから仕方が無い。


 その日の夜には、あの緑色のスープが夕食に出された。

 私がいなければ焼いたジルギヌが食べられたであろうに、ちょっとかわいそうな気がしてきたな。

 そして、今後のジルギヌ獲りについてミレリーさんに話をしてみた。


 「そうですか。でも、その方が良いと私も思いますわ。初夏の子供達の狩りとして定着すれば、皆が喜んで協力してくれるでしょう。それに、余り物を住民に安く売ることも考えてくださいな。子供達が参加しなければ食べられないのも問題ですから」


 確かにそうだな。資源保護を考えて残りは小川に返したけれど、小川全体では千匹以上いるに違いない。場所を変えて住民用の数もある程度獲っておくべきだろう。

 まぁ、これは来年の課題だ。ロディは卒業だろうから、ダノンにその辺は伝えておこう。

               ・

               ・

               ・


 夏になって、立て続けに2件ガトルの被害が発生した。

 噛まれはしたが、傷が骨に至っていないから、私の見守る中でレリエルが処置を行なってくれた。

 

 「傷口に血が滲まなくなったら、抜糸して【サフロ】を掛けます」

 「もう1人、怪我を治せる人物が増えたんだな。ありがたい」

 

 そう言って数枚の銀貨を差し出したハンターの手から1枚だけ手に取ったレリエルは、「貴方の名前で教会に寄付します」と言っていた。

 なるほど、そのようにして教会の資金を集めるつもりなのだろう。

 それが教会の運営を容易にするのであれば、レリエルのような人物を主要な町に置きたいものだ。

 

 「分ってきたようね。【サフロ】で直せないと思えば、直ぐに切開して傷口を洗うのよ。アルコールが無ければ強い蒸留酒で代用できるわ」

 「でも、それなら【クリーネ】でも良いような気がします。その差は何ですの?」


 ホッとした表情で、テーブルでお茶を飲んでいたレリエルが質問してきた。


 「前に片足を切断した男の子がいたでしょう。それと関連するんだけど……」


 この世界には、まだレンズが発明されていない。ガラスが製造されているから時間の問題ではあるのだが、おかげで微生物に関する知識は殆ど無いといって良い。

 そして、【クリーネ】は確かに良く出来た魔法なのだが、1つ問題がある。

 それは、術者の認識した汚れが落ちるという事だ。

 見た目の汚れは落ちるのだが、微生物である細菌等を除去することは不可能だ。だから傷口の消毒が必要になってくる。

 私の場合は務めて細菌を認識するように心掛けてはいるが、果たしてその結果はどうなのかと言われれば確認する手段が無いから余り使っていない事も確かなのだ。


 「細菌ですか……。目に見えない小さな生き物ですよね。確かに【クリーネ】の効果は術者の認識力に左右されます。私にはそれは無理ですね」

 「将来は分るようになるかも知れないわ。でも今は無理。でも、怪我人が汚れていたら迷わず使って欲しいわ」


 今年は、大怪我をした者がまだいない。

 それは良い事なんだろうが、レリエルの教育には適さないな。

 そんなことを考えながらシガレイに火を点けた時だ、ガラガラという馬車の音がギルドの前で止まるとギルドにガリウスさんが飛び込んできた。


 「大変な事態が起こった。直ぐに王都に来てくれ。王女が落馬して柵に突き刺さってしまった。直ぐに突き刺さった杭を切り取って運んだが、大神官も首を振っている。助けられるのはあんた1人だ!」

 「レリエル、行くわよ!」


 私とレリエルは急いで席を立った。

 

 「ダノン。後は頼んだわよ」

 「あぁ、あっちこっちに連絡は入れとくぞ」


 「急いでくれ、馬車を待たせてある」


 私達は直ぐに馬車に飛び乗ると、馬車の扉を閉じるよりも先に馬車が走り出した・

 柵の杭がどれ位の太さかは分らないが重傷には違いない。

 馬車は、王都へ繋がる街道を飛ぶように走り続けた。


 

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