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G-053 美味しい依頼


 片足を切断した男の子は、どうにか命を取り留めたみたいだ。

 両親揃って私の所にお礼を言いに来たが、良かったねとは言えなかった。

 遊び盛りの男の子が片足を失ったのだ。もう2度と走れない……。


 「片足でも、義足があれば町の中は動けるでしょう。小さな雑貨屋をやっていますから、店を継ぐことで生活は出来る筈です」

 「微妙な年頃だから、その辺が心配なんだけどね。友達とはなるべく遊ばせてね」


 私の言葉に頭を下げて2人はギルドを出て行った。


 「どういう意味だ?」


 そんな2人を私の隣で見送っていたダノンが聞いてきた。


 「ミチル様が先程の両親に言われた事は、『傷は直せても心の傷を直すのは両親ですよ。』と言っていたのです」

 「あれでか?」


 呆れたような顔でレリエルを見詰める。

 確かにその通りだが、はっきり言った方が良かったかな?


 「今まで通りには遊ばせん。それで、家に閉じこもったり、卑屈になったりしないかが心配なんです。

 ダノンさんも足を失って昔のハンター仲間とは一緒に狩りをすることが出来ませんでしたよね。それでもダノンさんの性格が前向きだからでしょう。その境遇を受け容れて、それなりに暮らしを立てています。

 それはダノンさんだからできたのだと思いますよ。絶望したり、卑屈になって周囲を恨みながら残りの人生を送る者が多いんです」


 レリエルもそんなダノンの性格に気が付いたみたいだな。

 楽天的なんだろうが、子供達の指導には結構気を使うことが出来る。

 なかなか貴重な人材だよな。


 「だが、あれが治ったのは……やはり青かびが効いたのかい。酒場であの病状の話をしたら、王都から来たハンターが『それは、助からない!』と断言してたぞ」

 「使い方は乱暴だったけど、青かびの効果はあったようね。昔の事は断片で思い出せるんだけど、私の国の薬剤ギルドは青かびそのものを使うことは無いわ。その有効な成分を合成してるのよ。意外と多用されてるから別の危惧があるんだけどね」


 「あれ程の効果を持つならば、薬剤ギルドは噂が届けばやってくると思います。参考までに、別の危惧というものを教えてくださいな?」

 「ハチに刺されると死んでしまうの。これは多量にその薬効成分を使った場合なんだけどね。あれぐらいなら全く心配はないから大丈夫よ」


 そんな話をパイプにタバコを詰めていたダノンが聞いている。

 良い話には必ず裏がある。なんて思ってるんだろうな。


 「最初に言いましたね。青カビの出す毒は人間よりもあの病状を引起す微生物を殺すことに効果があると……。ハチの一刺しで死んでしまうとは、その毒に服用した者が犯されてしまったことで起るものなのですか?」

 「似たようなものだけど、ちょっと違うかな。これは耐性という私達の体の働きから起きるものなの。

 耐性の一番簡単な例は、灼疹だと思うわ。一度罹れば、2度目は軽く済むでしょう。あれは私達の体がその病気に耐する抵抗力が付くことで起きることなの。

 青かびの毒性も同じように耐性が出来るのよ。その耐性が出来てしまうと、ちょっとした他の毒素が体の神経系統を麻痺させてしまうの。その結果、心臓の鼓動が止まってしまうのよ」


 【デルトン】のように万能の毒耐性ではないのだ。

 持続的な【デルトン】効果が得られるのなら、青かびのようなものはいらないんだけどね。

               ・

               ・

               ・


 そんなある日、掲示板にちびっ子達が集まってワイワイ騒いでいる。

 窓辺でシガレイを楽しみながら、そんな光景を微笑みながらレリエルと眺めていると、ロディ達が私の所にやってきた。


 「ジルギヌの依頼が張り出されたんだ。100匹で銀貨5枚。それ以上手に入れた場合は1匹4Lで買取るって話なんだけど……」

 「その依頼書を直ぐに持ってきて!」


 ロディが掲示板に行って、依頼書を引き剥がして私の所にやってくる。ちびっ子達のリーダー各がロディの後ろで成り行きを見守っているぞ。

 

 依頼書には確かに、ジルギヌ100匹で銀貨5枚とある。通常の2倍の価格だな。

 だが、100匹は多くないか?それに期間は明後日までの短期間だ。

 とは言え、ちびっ子達には美味しい話に違いない。

 

 「至急、ちびっ子達を集めなさい。そしてゲロッコを人数分捕まえるのよ。ロディ達は道具の準備。直ぐに始めなさい!」

 

 ロディ達は直ぐにホールの隅にちびっ子達を集めて人数を確認している。まだこの知らせを聞いていないちびっ子達の人数も、ちゃんと確認しているようだな。


 そんなロディ達を眺めながらダノンがパイプを咥えてやってきた。


 「ちびっ子達はやる気満々だな。だが、出来るのか? 今朝方は赤や白の連中がこの依頼書を見て溜息を付いてたぞ」

 「意外と簡単なの。でも、この獲り方は子供達の遊びの一種なのよ。大人がやるものではないわ」

 

 「ロディ達は知ってるのか?」

 「去年教えてあげたわ。ちょっと道具がいるんだけど、それ程難しくはないわ。ダノンも報酬を諦めて見るだけなら行っても良いわよ。小川だから大人が一緒だと安心できるわ」


 「なら行ってみるぞ。1日でジルギヌ100匹は信じられねえ。だが、子供の遊びなら大人が介入する話じゃないな。そしてちびっ子ばかりじゃ心配なのも分る。これも、ギルドの仕事だろう」


 そう言って、うんうんと自分だけで納得しながら、カウンターにダノンは戻って行ったが、レリエルは私を微笑みながら見ている。

 レリエルを連れて明日は私も様子を見に行ってみるか。


 日暮前に、ロディが準備を終えたことを私に告げた。

 網が足りないのを心配していたが、これは今夜ミレリーさんに頼んでみよう。

 そして、集合時間は明日の朝に南の門広場らしい。大きな樽を2つに桶を3つ用意すると言っていた。

 私は、樽を運搬する荷車を借りてくるようにロディに告げる。

 さて、明日はちびっ子達のお祭りだな。


 その夜の下宿の夕食では、ネリーちゃんが明日の狩りの話をミレリーさんに話していた。

 食事が終ると、私の求めに快く応じてくれて網を編んでくれている。


 「それにしてもジルギヌ100匹を請け負うのが子供達とは驚く限りです。秘密の獲り方があるようですけど、ネリーは教えてくれませんのよ」


 そう言って私に微笑む。


 「何時も薬草採取では飽きてしまいますわ。たまには狩りに似た依頼も子供達には必要です。それにダノンとロディ達が協力してくれますから」

 「ロディ達はともかく、ダノンさんはこの町には貴重な人材ですね。あの事故で卑屈にもならずに、町の住人とも上手くやってますし、子供達も懐いてるようですよ」


 ある意味、人徳って奴なんだろうな。

 事故に遭わずに済んだなら、誰もダノンと言う人物をここまで知ることは無かったろう。他所から来たハンターの1人として応対するんじゃないのかな。

 だが、今では町中に名を知られている。

 今では、ギルドの職員でハンターだからな。


 「はい。出来ました。でも、こんなのでジルギヌが採れるって、私は全く信じられませんね」

 「ありがとうございます。それはこの網だけでは無理なんです。ジルギヌの習性が分ればなるほどと納得できますよ」


 そう言って互いに微笑むと、シガレイに火を点ける。

 大人には大人の狩りがあるように、子供達にはそれに見合った狩りがある。そう思って納得してるのだろう。

 大人であれば、そんな狩りをする事も無い。でも手伝いぐらいはしてあげようって事だろうな。

 

 次の日の朝早く、朝食を終えたネリーちゃんは麦藁帽子を被って出掛けて行った。

 さすがに近場だから、バトンは持って行かないようだが、ベルトには採取用ナイフがしっかりと取り付けられている。


 「さて、私も出掛けてみます。今夜も上手く行けば、あの美味しいスープが頂けるかも知れませんね」

 「どうでしょう? でも、無理はしないでくださいね」


 そんな会話で互いを見ながら微笑んでしまう。

 あれは美味しかった。何とかお土産も確保したいものだと思う。


 下宿を出ると、一旦ギルドに向かう。

 一応、マリー達は知っているだろうけど、話をしておくべきだろう。それに、緊急の依頼が無いとも限らない。


 ギルドの扉を開けると、ダノンとレリエルがテーブルでお茶を飲んでいた。

 マリーにカウンター越しに話をしてみると、特に怪しい依頼は無いみたいだ。


 「何かあればお知らせします。場所は南門を出た広場に沿った小川ですよね」

 「そうして頂戴。確か前回マリーは食べ損なったのよね」


 「そうなんです。私も小さい頃近所の婚礼の時に頂いただけなんですよ」


 それはかわいそうな話だ。今回は何とかして届けてあげよう。

 そんな私にダノンが片手を上げる。

 何時もの席に座ろうとした私を、ダノンが片手を出してそれを止めた。


 「ちびっ子どもが集まってる筈だ。早く行ってやらねばなるまい」

 「そうだったわね。お茶は向うで頂きましょう。準備は出来てるの?」


 私の問いにダノンは立ち上がりながら傍の籠を指差した。

 

 「お茶と折畳みの椅子にロープが2本だ。それに少し長めの杖が2本ある。小川に落ちることはあるまいが用心に越したことはねぇ」

 

 ダノンが籠を担いで杖を持つと、レリエルがもう1本の杖を握った。

 マリーに片手を上げると、私達3人はギルドを出て南の門に向かう。


 近付くにつれワイワイと騒がしい子供達のおしゃべりが聞こえてくる。

 朝早くから子供達が集まってるのを見て大人達が不思議な面持ちで見ているようだが、子供達の考えは大人には到底理解できないものがあるからな。しばらく見てても首を振って立ち去るものが殆どだ。


 そんな中からロディ達が私の所にやってきた。


 「おはようございます。集まったのは俺達を含めて22人。一番小さい子供は今年10歳です」

 「それじゃぁ、隊長さんはそろそろ出発を命じて頂戴。目的地はこの前の所で良いでしょう。そして最初にやる事は……」


 ビシ!っとロディが私の前で姿勢を正した。 

 

 「竿と糸の用意。それにゲロッコの皮剥きですね。早速出発します!」

 

 私が呆気に取られていると、そう言ってちびっ子達を率いて門を出て行った。

 

 そんな私の後ろで笑い声が聞こえる。

 振り返ると、2人が笑って私を見ていた。


 「わはは、1本取られたな。それだけ成長したってことだろうな」

 

 ダノンがそう言って私の肩を叩いて門に向かう。

 その後ろをレリアルが付いていくと、この広場には私1人だ。

 慌てて私もその後を追い掛けた。


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