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G-051 クレイ達の新たな仲間

 山々が新緑に覆われると、私と御隠居様の交わした契約期間が終了する。

 とはいっても、このままこの町で後1年は暮らすつもりだ。

 知り合いも多くなったし、グラムやロディ達の面倒をみてあげるのもおもしろそうだ。


 「……という分けで、今月がダノンを雇える最後の月になるわ。色々手伝って貰ってありがとう。それで、来月からはちゃんと働けるの?」

 「それは、前々からギルドマスターと話し合ってる。問題ねえよ。姫さんがこの町にいる間は手伝ってやれと言われてる。午前中は近くで罠猟をやるつもりだ。午後はギルドにいるってことになるな。収入は半分になるが、この町でずっと働ける。元ハンターの家に下宿させて貰ってるから、それでも蓄えは増える筈だ」

 

 ダノンであれば数人で森の奥で猟もできるだろう。ギルドとの詳細な取り決めは分からないが、初心者ハンターとの同行は入っている筈だ。


 「これまで通りとはいかないと思うけど、グラムやロディ達の面倒は見てあげてね」

 「ああ、立派なハンターにしてやるさ」


 パイプに火を点けながら、ニヤリと笑う。

 それなりに仕込んでやろうと考えているみたいで安心した。でも、ダノンの言う立派なハンターの基準が私と一緒かどうかは微妙ではあるな。


 「ところで、ちびっ子2人が棍棒を振り回してたが、あれは姫さんが渡した奴だよな?」

 「ええ、魔道師になるって言うから、世話になってる記念にあげたけど?」


 「魔道師なら杖なんじゃないか? 魔道師なら細くて短かい杖で頭に魔石があるのが普通じゃないのかい」

 「魔道師の持ってる杖なんてどうでも良いのよ。グラムのところの魔道師にあげた杖は私が使ってたものだけど、野犬をぶん殴れるわよ。そして、私が今使ってる杖はこれだしね」


 そう言って、ベルトからパイプを引抜いてダノンに見せる。

 

 「銀無垢のパイプだと思ってたが、だいぶ軽いな。それに、これをあまり使った形跡がなええぞ」

 「ええ、それは護身用のパイプであって私の魔法の杖なのよ。魔石は上位の赤が埋め込まれてるし、そのパイプは鋼の管に銀を巻いたものよ。ガトル位ならこれで狩れるわ」

 

 見た目は少し長めのパイプだが攻撃力は半端じゃないぞ。

 

 「フレイルのような武器ですか……。ちょっと持たせてくれませんか?」

 

 私が頷くと、レリエルが右手でパイプを掴んだ。席を立ってホールの中程に進むとパイプを振りつつ構えをとる。

 フレイルを使ったことがあるのだろうか。両手を八の字にやや開いて構えるのはフレイルの構えそのものだ。

 やがて納得したのか、私達のテーブルに戻ってくると、席に着いてテーブルにパイプを戻した。


 「フレイルと同じように使えますね。確かにこれならガトルを倒せます」

 「おいおい、あんたは巫女さんじゃねえのか?」


 呆れたような口調でダノンが質問する。


 「巫女ですわ。でもその前にハンターでもあります」


 ニコリとダノンに笑い掛けながらレリエルが告げた。

 

 「でも、そうなるとあの少女達が持っているのはフレイルということになりますね。形はだいぶ違いますが基本的な使い方は同じになるはずです。私にも作って頂けるでしょうか?」

 「う~ん……、どうかな。あのバトンは銀貨40枚よ。しかも魔石抜きでなの。火の魔石は中位が残ってるだけだけど……」


 「値段は心配ありません。ハンター時代の蓄えがあります。それに、今ではあまり必要なくなりましたから。魔石は中位なら私が持っています。武器屋でよろしいんですよね」

 

 そう言ってギルドを出て行った。

 あのバトンに興味が湧いたのかもしれない。同じ品を持つのなら、ネリーちゃん達を教えてもらおうかな?

 

 「行っちまったな。あんな細身の巫女さんがパイプを振り回すとは思わなかったぞ」

 「ハーフエルフだからね。見た目はあんなだけど、私だって前衛よ」

 

 「それはそうなんだが……。だけど、世間はそうは見ないぞ」

 

 それが、問題なんだよな。私を見て直に後衛の魔道師をやらせようって奴があまりにも多い。

 最初に、魔道師と確認する奴は殆どいないと言っても過言ではないのだ。

 ましてや、レリエルは丈の長いゆったりしたワンピースのような白衣を着てるから、顔の華奢さで絶対にハンターとは思われないだろうな。


 「だが、姫さんは契約を終えても問題ないのかい?」

 「貰った額の半分以上が残ってるわ。下宿が安いし、ダノンみたいにお酒を飲む訳でもないし……」


 「確かに、服装は何時ものまんまだからな。それで後1年ってことか」


 実際には100年でも暮らせるんだが、さすがにそれでは飽きてしまうだろう。契約が切れるという事は、何時でも町を出て行けるということに他ならない。

 その内、やってくるだろう御隠居様の一行に加わるのも悪くは無いかもしれないな。

 だが、その前にグラム達とロディ達は一人前にさせてやりたいぞ。

 

 ダノンが片手を振ってカウンターに戻っていく。

 定位置は一番右端だ。何やら分厚い本を開き始めた。

 図鑑の整理ならありがたいな。とにかく分類がいいかげんだからな。

               ・

               ・

               ・


 「あのう……、カウンターで貴方に相談したらと言われたんですが」

 

 私の前にやってきたのは、16、7の男女の2人連れだ。

 

 「あら、何かしら? とりあえず座って頂戴」


 ちょっと筋肉質の少年に小柄な娘さんだな。

 話を聞いてみると、どうやら隣の国からやってきたみたいだ。

 何でも、親の縁談を嫌がる娘さんを連れてパイドラ王国まで逃れてきたらしい。

 ちょっと、誰かに似てるような気がするぞ。

 ハンターレベルは2人とも白の1つ。得物は弓という事だ。

 

 「元は木こりですから、片手斧は得意です。ミレルはネコ族ですが。簡単な魔法を使う事ができます。お願いというのは、俺達を受け容れてくれるパーティを紹介して欲しいのです」


 そう言って、2人はお願いしますと私に言葉を繋げた。

 適当なパーティというと、真っ先に浮かんだのが駆け落ちパーティだ。あそこは現在4人だけど、次の狩りを考えると後2人は欲しいところだな。

 6人いればガトルの群れさえ狩れるだろう。

 何時までも、野犬狩りではかわいそうだ。

 前衛と後衛になってるから弓を使う中衛は都合がいい。接近すれば斧も使えるんだからな。


 「どんな斧を使うのか見せてくれない?」


 私の要望に、少年が背中から引き抜いたのは、薄手の小さな頭が付いている斧だった。

 まるでトマホークじゃないか!

 これはレイク達に丁度いい感じだな。


 「一応あてはあるんだけど、向うの確認も必要だわ。私が確認するから返事は明日で良いかしら?」

 「それで結構です。よろしくお願いします」


 そう言って、私から離れると掲示板を見に出かけた。近場で薬草を採るのかな?

 となると、クレイのところは全員が駆け落ちってことになるな。

 ちょっとおもしろい取り合わせだ。

 

 シガレイに火を点けて、1人で笑っているところにレリエルが帰ってくる。

 私を見て、不思議そうに頭を傾けてるぞ。

 ちょっとおかしくなったのかと思ってるようだ。


 「どうしました?」

 「ちょっと、おもしろい取り合わせのパーティが出来そうなのよ。なんと、全員が駆け落ちなの!」

 

 私の言葉にレリエルが目を丸くする。


 「そんなことがあるんですか?」

 「あるのよ。2度ある事は3度あるとは聞いたけどね。そうなっちゃうのかな」


 確かにレリエルが驚くのも無理は無い。私だって50年以上続けたハンター生活でそんなパーティに出会ったことは無かったからな。


 「それでどうだったの?」

 「ちゃんと作ってくれるそうです。遠くで見ただけですがあの形は気に入りました。神殿で持っていても誰も魔道師の杖とは思わないでしょうね」


 確かに持つ人はいないだろうな。神殿の神官や巫女が持っているのは細くて先端に魔石が輝いている魔道師の杖だ。

 

 「ところで、道すがらちょっと気が付いたんですが……。ミチル様はこの間の石工の骨折の時にナイフで切り開いた場所を糸で縫いましたよね。何故、【サフロ】を使って傷を塞がなかったんですか?」

 「あれね。良いところに気が付いたわね。

 彼の左足が腫れてたでしょう。あれは血管が切れて出血してたのよ。その出血が納まる前に傷を塞いだりしたら、血液が筋肉の組織で固まってしまうわ。別の病気になるかも知れない。それで血が足の中から外に出る場所を作ってあげたの。

 傷口に血が滲まない状態になったら、糸を抜いて【サフロ】を掛けたから直ぐに傷が塞がったわ」


 「血管が破れた状態で傷を塞がない方が良いという事ですね」

 「それと、注意して欲しいのは傷口が開いている場合と何かが突き刺さった場合。この時には傷の内側を良く洗って、絶対に閉じちゃダメよ。ばい菌が入ったりしたらとんでもないことになるわ」


 私の言葉をノートに書き写している。

 腐敗の原因はこの世界では解明されていない。腐るのを遅くする方法は試行錯誤によってそれなりにあるんだけどね。


 アオカビによる治療が必要なケースには未だ出会ってないけど、将来的にはその話もしておくべきだろうか。

 医学を教えるのは単純では無さそうだ。

 

 そんな時に、クレイのパーティがギルドに入って来た。

 カウンターで、袋から何やら取り出しているようだ。たぶん野犬の牙だろう。春先から野犬が増えている。近くの町か村で大規模に野犬狩りでもしたのだろうか?


 クレイがチラリと私を見たので片手を上げてクレイを呼び寄せる。

 直ぐに他の3人と共に私の所に歩いてきた。


 「何でしょう?」

 「まぁ、座って頂戴。他の人も聞いて欲しいんだけど……」


 4人が首を傾げながらも私の言葉に従って椅子に掛ける。

 

 「実は、クレイの所に2人ほど仲間にしてあげたい人がいるのよ。1人はネコ族の娘さんだからクレイ達が上の狩りをするには都合が良いわ」

 「でも、俺達は特殊な事情がありますよ」


 「だいじょうぶ。その2人も駆け落ちだから。そして得物は弓なのよ。少年の方はちょっと変わった武器も使えるわ」

 「それって、中衛ってことですよね。前に中衛を揃えた方が良いと忠告を受けました。同じ身の上なら気も合うでしょう。一度会わせてくれませんか?」


 という事で、明日の朝にここで会うことになった。

 私としては良い物件だと思うんだけどね。でも、こればっかりは相性だから、確かに会ってみなければ分らないだろうな。

 

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