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G-005 遊びのような狩り

 さて、今日はどんな相談があるのかな?

 この仕事も、面白いと思うようになってきた。

 

 ギルドの扉を開けて、マリーに片手を上げてご挨拶。そして掲示板に歩いて行くと、張ってある依頼書を眺める。

 まぁ、何時も通りって感じだな。

 

 窓際のテーブルに座ると、セリーがお茶を持ってきてくれた。


 「ありがとう。朝方は問題なかったの?」

 「そうですね。背伸びをした依頼書を持ってきたパーティはいませんでした」


 カップの横に灰皿を置いて、セリーがカウンターに戻っていく。

 早速、シガレイに火を点けると、お茶を飲みながら掲示板にいるハンターを眺めながら時を過ごすこ都にした。


 時間は未だ朝早い時間帯だから、野宿しながら獲物を狩るハンター達がぽつりぽつりとギルドにやってくる。

 ハンターが狩るのは何も害獣ばかりではない。

 食肉用の獣を狩ることが圧倒的に多いのだ。そんな獣の狩りを覚えた連中が食肉用の獣を狩る肉食獣を狩るようになる。

 朝方と違って、ラフに革の上下を着こなしたハンターはそんな連中だ。


 そんな中、ちびっ子4人組みがギルドに入って来た。

 確か、採取する薬草を選んであげた子供達だが、1人増えたようだ。

 赤の掲示板をジッと眺めていたけど、どうやら今日の依頼を決めたようだぞ。依頼書を持ってカウンターに行った。

 

 だが、カウンターで何かマリーと話し込んでいる。

 掲示板に張り出された依頼書には、赤で問題となるような依頼書はなかったはずなんだが……。


 やがて、革で装調されたノートとペンを持ったマリーが、子供達と私のところにやって来た。


 「今度は、これを狩るって言うの。確かに赤2つの依頼なんだけど……」

 

 そう言って俺の隣の席に着いたぞ。ノートを開いてペンを持っている。万年筆って訳じゃないけど、軸の中に仕込んだフエルトで結構長く文字が書ける優れものだ。


 私の前に広げられた依頼書には、蜜蜘蛛20匹の文字と報酬が100Lと書かれている。初めての狩りだな。思わず子供達を見て微笑んでしまった。


 「これは、初めての狩りでしょう?」

 

 私の質問に、うんうんと頷いているぞ。ちょっと微笑ましい姿だな。


 「この狩りには、ちょっとした道具がいるの。それはガラスのビンなんだけど、貴方達持ってるの?」

 ふるふると子供達が首を振る。


 「この位の大きさで、口の大きさがこれ位のビンがあれば良いんだけど……」

 「買って来ます。道具はそれだけで良いんですか?」


 「ええ、それでいいわ。直接使うんじゃなくて、獲物を入れるのに使うだけだから、似たような依頼にはまた使えるわよ。そして買う時には網で包んで貰いなさい。そうすればちょっとぶつけた位では壊れないわ」

 

 「それで、どうやって狩るんでしょうか?」

 「ちょっと教えずらいから、実演してあげるわ。だけど、注意して欲しいのは蜜蜘蛛は毒を持ってるの。死ぬことはないけど、かなり痛いからね。絶対に手で掴んじゃダメよ」


 「ミリー。ビンを買ってきて。網で包んでもらうんだぞ!」

 

 男の子の指示で女の子が席を立つとギルドから出て行った。

 ビンの値段は30L位だろう。初期投資がいるけど、次の依頼の時には必要なくなるからな。

 だけど、30Lも持ってたんだ。ちょっと感心してしまう。


 シガレイを1本吸う間に2人が帰ってきた。俺が言ったビンよりも少し大きいけど、大きい分には困る事はない。

 

 「さて、町の門の外にある広場に行ってくるわ。北門なら結構いると思うの。昼過ぎには戻るからね」


 マリーにそう告げると、子供達を連れてギルドを出ていく。

 この町を南北に大通りが貫いている。町の両側には門があり、門を挟んで100m程の広場がある。私達が目指すのは北門の先にある広場だ。


 門番さんに軽くお辞儀をすると、どこに行くのかを聞かれたので、子供達に蜜蜘蛛の捕まえ方を教えると応えると、笑っていた。昔は、子供なら誰でも一度はやる遊びだったらしい。

 けれども、蜜蜘蛛の毒は強烈な痛みを与えるので何時の間にか廃れてしまったんだよな。門番さんは老人だから、蜜蜘蛛獲りをした経験があるんだろう。


 「気をつけろよ。あいつは痛いからな」

 「えぇ、それで安全な捕まえ方を教えてあげるんです」


 頑張れよ! って声援を送られて、外側の広場の南側に向かう。

 ツンと延びている雑草の茎を引き抜くと、子供達を集めた。


 「この茎を使うの。長さはこれ位かな」

 

 そう言って、60cm位に茎をナイフで切取る。子供達は採取用のナイフがあるからこれ位は出来るだろう。


 「そして、茎の太い方の先を潰すの。こんな感じね」

 ナイフの背を茎に押し付けてグイって力を入れて潰す。


 「後は蜜蜘蛛がいる穴に、この潰した方を入れるんだけど……。あった! これが蜜蜘蛛がいる巣穴よ」


 するするっと茎を穴に差し込む。ちょうど20cm位地面から茎が出た。

 次に、もう1本、茎を抜き取って同じような棒を作る。今度は半分から折って、ピンセットのような形にしておく。


 「あのう……。茎が動いてますけど」

 「これを、待つの! 茎が動くのは蜜蜘蛛が顎で咥えて邪魔者を外に出そうとしてるのよ。だから……さっき買ったビンを用意して。そして口を開けて!」

 女の子が肩から下げたバッグからビンを取り出して蓋を開いた。

 

 これで準備はOKだな。

 ゆっくりと穴に差し込んだ茎を引き上げると、先端に親指位の大きな腹をした蜘蛛が着いている。ビンの口に差し込むとピンセットで茎を挟んで茎を上に引くと茎の下に噛み付いていた蜜蜘蛛がポタンっとビンに落ちた。


 「これが、蜜蜘蛛の正しい捕まえ方よ。絶対に触らないこと。もし、逃げられたら足で直ぐに踏み潰しなさい。穴に入ったらまた捕まえられるから、その時は茎を入れればいいわ。では早速、この辺の穴に茎を差し込みなさい!」

 

 子供達が一斉に周囲に散っていった。さて、どれ位獲れるかな?

 しばらくは誰もやっていなかったみたいだから、大猟だとは思うんだけどね。

 シガレイを咥えながら子供達を見てると、ちょっとひきながらも確実にビンに蜜蜘蛛を貯めこんでる。粗雑ではあるが、ガラス製のビンだから外に出る心配はない。

 30前後の数を捉えたところで子供達の狩りは終了した。


 「ちゃんと蓋はしておくのよ。それではギルドに帰りましょう」

 あまりやると飽きるのがこの遊びの特徴だ。

 仕事とはいえ、獲り過ぎるのも問題だからな。この辺で引き上げるのが一番良いだろう。


 「どうだ。取れたか?」

 「えぇ、大猟でしたよ」

 「昔は、皆がそれで遊んだもんだがなぁ……」

 「今では、ギルドに依頼する時代になってます。変わりましたよねぇ」


 門番のおじいさんは、全くだ! なんて言いながら俺達を見送ってくれた。

 ギルドに着くと早速依頼品をマリーに渡す。奥からガラスのビンと器を持ってきて、その器にビンの中身を開けると用意したビンに数えながらピンセットで入れている。


 「はい、ビンは返却です。蜜蜘蛛の数は32匹。20匹で100Lで残りの12匹は1匹3Lで買取ります。全部で136Lです」

 ビン代はどうにか回収できたようだ。子供達は私に頭を下げて礼を言うと元気にギルドを出て行った。


 「どうやったら、蜜蜘蛛をこんなに沢山、短時間で獲れるんですか?」

 「蜜蜘蛛は穴に住んでるでしょう。その穴に茎を差し込むと咥えて外に出そうとするのよ。そこを引き上げて、ビンにポトリ。手で触る事がないし安全に獲れる

わ」


 感心して俺を見てるってことは、マリーもこの遊びはした事がないようだ。少し冷えた体を温めようと暖炉際のベンチに腰を降ろすと、マリーがお茶を運んでくれた。

               ・

               ・

               ・


 今日は、これ位かな? そろそろ宿に戻ろうと腰を上げようとした時だった。

 バタン!っと乱暴に扉が開かれ、数人の男女がバタバタと走りこんできた。


 「1人やられた。毒消しを飲ませて、【デルトン】を繰り返してるんだが、効果がねぇ、何とかならないか!」

 それ程変わった依頼は無かった筈だ。それに、効果が持続するのもおかしな話だ。

 

 ホールの床に寝かされた男の片足が土色に変わっているぞ。

 あまり長い間、放っておくと死亡する危険性もある。此処は切断することも視野の内かもしれないな。

 囲んでいるハンター達を押しのけて、寝ている男を見る。顔色が青いからかなり毒は回っているようだ。

 

 「相手は何だったの?」

 「レイドルだ。どうやら蹴飛ばしたらしい」


 レイドルの毒は確かに致命傷だ。だが毒消しを使えば簡単に解毒出来るし、【デルトン】の魔法が利かないなんて聞いた事も無い。

 

 「マリー! 抜刀の許可を」

 「抜刀を許可します!」


 ちょっと面倒だけど、ちゃんと許可を受ければ受理されることが殆どだ。

 腰の片手剣を抜くと、周囲の男達に床の男を押さえて貰って剣で革のパンツを切り裂いた。

 傷口を見てみると、小さな穴がポッカリと開いていた。


 「机を並べてその上にこの男を載せて! マリー、刺抜きに針と糸を用意して頂戴!」


 男達が苦悶の表情を浮かべる男をテーブルの上に載せると、トレイに糸を通した針を持ってマリーがやって来た。

 トレイに剣のケースに挟んである両刃のナイフを載せると、トレイに両手をかざして【クリーネ】と呟いた。


 「やった事があるのか?」

 「えぇ、嫌ってほどにね。暴れるから押さえて頂戴。口には布を挟んでおいて。お腹の上に1人乗って。足は片方ずつ乗って大丈夫。こっちの足は足首も押さえるのよ!」


 男達がテーブルの男をガッチリと押さえ込んだ。

 私を見て頷いている。


 「始めるわ。かなり、ヤバイ場所だからどんなに暴れてもおさえるのよ!」

 「分ってる。やってくれ!」


 私は、は近くでうろついていた男を呼び止めて、革紐で男の足の付根を硬く縛らせた。さて、どちらの方向から刺されたんだろう?

 ナイフの先で方向性を見定めると、傷口から10cm程先から傷口に向かって、深さ3cm程の深さで抉るように傷口を開く。

 途端に男の体がビクっと動いたが、力自慢のハンターに押さえられているから大丈夫のようだ。

 足の付根を縛ってあるからそれ程血は出ない。だけど、滲んだ血でレイドルの槍先が良く分からないな。


 「酒を持ってる人はいる? 出来れば強い酒が良いわ!」

 私の鼻先に酒のビンがグイっと突き出された。

 「飲ませて!」


 蓋を取ったビンが再び伸ばされてたので、私はそのビンを咥えると一口含むと傷口に吹きかける。

 血がアルコールで洗われて、小さな白い槍先が見えた。

 槍先に残った毒が何時までも体に染み出してたんだな。結構丈夫な槍だから体に残るなんてあまりないんだよな。見たのはこれで2例目だ。

 慎重に、棘抜きで槍先を取り除くと、先程の酒を傷口に掛けさせた。相当しみるようで、またしてもビクっと男の体が動く。

 

 「今度はちょっと乱暴になるわ。ちゃんと押さえててね」

 傷口を木綿針で縫うと、その都度体が動く。 

 もう一度酒で傷口を洗って、素早く布を巻付けた。

 最後に足の付根を縛った革紐を解いて、巻きつけた布を注意して見る。どうやら血は滲んでこないようだ。

 ホッと溜息をつく。


 「はい、終了! 皆さんありがとう。これで一杯飲んで頂戴!」

 バッグの小袋から銀貨を3枚取り出すと、押さえていた男に渡す。

 「悪いな。……おい、早速出掛けるぞ!」

 男達がドヤドヤとギルドを出て行った。

 

 「申し訳ありません。後で先程の銀貨と合わせてお礼を致します」

 テーブルの上で規則正しく息をし始めた男を見ながら、パーティのリーダーらしい男が言った。


 「お礼は良いわ。次に誰かが同じような目にあった時に助けてあげてね」

 そう言って、男の前を離れて、マリーに道具を返した。

 こんな時に使えるように、ハサミと小さなナイフを揃えるように伝えておく。

 

 「私がカウンターに座ってから初めてですよ!」

 「結構続くのよ。それと、お酒もいるわね。さっきのは飲めたもんじゃなかったわ」


 備えあれば憂いなし。どんな時にもこの言葉は有効だよね。


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