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G-049 神官と巫女がやってきた


 ぽかぽかと暖かな日差しの中で、ネリーちゃん達が薬草採取に忙しそうだ。

 春になって町にやってきた新米のハンター達も、少し離れた場所で採取しているようだな。

 そんな連中からかなり森に近い場所でロディ達が同じように薬草を採取しているが2人が杖の練習をしながら周囲を監視しているようだ。

 あの位置なら、何かあれば他のハンター達が駆けつけてくれるだろう。

 そんな光景を見て安心しながら町に戻る。

 

 門番のお爺さんに片手を上げると、笑みを浮かべて答えてくれる。

 ちょっとしたことだけど、案外気持ちが良いものだ。

 

 ギルドの扉を開けると、ちょっとした違和感を覚える。何時ものテーブルに神官と巫女が座っているのだ。

 カウンターに寄ると、マリーに聞いてみる。


 「王都から先程来られたようです。ミチルさんを待ってますよ」

 「分かったわ。となると、あの話ね」


 2人の待つテーブルに向かって歩いて行く。

 手術の仕方を習いたい神官なのだろうが、巫女を連れてくるとはね。


 「私を待っておいでとか?」

 

 そう言って、何時もの席に私は腰を下ろした。

 両者ともエルフのようだ。

 淡い青みを帯びた銀髪を腰近くまで伸ばし、アーモンド形の顔には緑の瞳。体形は結ったりとした長衣に隠されているけど、贅肉なんか無さそうだぞ。


 「貴方が、ミチル様ですね。お噂は聞いております。我等が神殿の依頼を引き受けてくれるそうで、早速やってまいりました。……それでは、手を出してください」


 私が出した左手に新刊は右手を乗せた。その瞬間、電撃にも似た衝撃が私を襲う。

 久しぶりに体験する魔法の譲渡だ。やはり最上位だけあって、かなり強いぞ。


 「確かに『メルダム』をお譲りしました。私はこれで失礼しますが、下位魔法の譲渡は隣のレイリルが行うことになっています。それでは、レイリルの指導を宜しくお願い致します」


 若い神官だったから、てっきり彼が手術を学ぶものと思っていた。

 私と隣の巫女に頭を下げて席を立ってギルドを出て行ったぞ。

 

 「では、貴方が手術を習うことになるの?」

 「はい。4つの神殿の神官長が集って私に決めました。まだ配属される神殿は決まっておりませんが4つの神殿の教義を受けております」


 見習が終ったという事だな。下位であっても魔法を譲渡できるなら、今年見習い期間を終えた者の中では優秀な部類に入る。そして配属される神殿が決まっていないということは通常では考えられないことだ。

 ひょっとすると、4つの神殿を束ねる大神官付として将来を期待されている人材なのかもしれないな。

 手術のやり方を覚えて、他の神殿に広めるならばそうならざる得ないのだろう。

 となれば、かなり真剣に神殿は手術の必要性を考えていることになるな。

 

 「レイリルさんは、王都を出るのは初めてですか?」

 「5年程、辺境を回ってきました。ハンター資格を持っていますわ。白の5つになります。ミチルさんに少し近いかも知れません。ハーフエルフですから」


 実年齢は見た目より高いってことだな。先程の神官はエルフだったが、神官職について他者に最上級魔法を渡せるなら実年齢は100歳を超えているはずだ。

 となると、目の前の巫女もかなりの修行を積んでいることになる。私と同年齢なのかも知れないな。


 「ところで、ここでの暮らしは宿になるのでしょうか?」

 「一応、教会が部屋を提供してくれます。食事もそちらでしますからご心配には及びませんわ。大神官殿に言いつけられたのは、貴方と可能な限り一緒にいるようにとのことでした」


 「私は、小さな家を宿にしてるの。朝から夕方まではこのテーブルか暖炉の傍にいるわ。初心者ハンターの相談に乗ってるんだけど、結構退屈よ」

 「時間があれば、私に手術の注意点を教えて頂けるとありがたいのですが……」


 確かに何も分からずに手術なんかされたら、たまったもんじゃない。

 

 「良いわよ。今から始める?」

 「お願いします!」


 レイリルはそう言って私に頭を下げた。


 「さて、でも何から話そうかしら?」

 「出来れば、過去の事例からお願いします」


 まあ、取っ掛かりとしてはいいのかも知れない。

 そんな訳で、レイドルの針を足に残して運ばれてきたハンター、崖から落ちたダノン、木こり達の話をする。


 私の話を、ノートに取りながらしばらく考えこんでいる。

 そんな私達にマリーがお茶を用意してくれた。

 お茶を飲みながらレイリルを見ていると、別の紙を用意して何やら書き込んでるな。

 

 シガレイを取り出して火を点ける。

 ひょっとして質問を纏めてるのか? 何か、凄い量に思えるな。


 ちょうどシガレイを吸い終えて、灰皿で火を消した時に、レイリルは書いていた紙から目を離して私を見つめた。


 「先程のお話で、疑問に思った点を書いてみました。質問をお許しくださいますか?」

 「ええ、良いわよ。たぶん重要な事だと思うわ」


 「それでは、最初の質問ですが……」


 最初の質問は、体をナイフで切ると血を流さないか? と言うものだった。

 それは止血をしておけば良いのだが、止血場所を教える前に血液の循環を教えねばなるまい。

 でないと、この位置ならこの場所と言う具合に単純になってしまう。だが、レイリルの知りたい事はそうではあるまい。何故、その場所で血を止めることが出来るかと言う事まで知りたい筈だ。


 「たぶん、それだけでも長く教える必要があるんだけど、私だって詳しくは知らないわ。だから私が知っていることだけを教えるけど、それで良いかしら?」

 「十分です」


 彼女から紙を貰って、それに簡単な血液の循環システムを描いた。もちろんネックになるのは心臓と肺になる。


 「これが動物の体に流れる血液に循環を簡単に描いたものよ。血液は心臓によって送り出され、体の隅々を回って戻ってくる。そして、その中でも2つの重要な器官があるわ。それは、この肺と消化器官ね。

 呼吸をすることにより新鮮な空気が肺に入る。肺に張り巡らされた血管を通して空気中のある物質が血液に溶け込むの。その物質は心臓によって全身に行き渡るのよ……」


 血液循環の話があって、その主要な血管が何処を通っているかを教える。

 動脈と静脈の区別もだ。

 そして、止血という行為によって一時的にその循環を止める。長くは出来ない。精々2時間程度に抑えるべきだろう。でないと、酸素の供給を立たれた部分の細胞が壊死ししてしまう。

 そして、止血する場所は動脈それを簡単に見つける方法は脈を確認できる場所だ。それは、この位置と体の絵を描いて場所を示す。

 

 「でも、絶対に止めてはいけない動脈があるのよ。それは首の両側にある動脈。これを止めると死んでしまうわ」

 「すると、足を切開したときはこの位置で止血したという事ですか?」


 その問いに私は頷く。そしてそのやり方を説明した。

 革紐で強く縛る。意外と単純なんだよな。


 そんな感じでレイリルへの授業が続く。

 周囲が騒がしくなったのに気が付いた時にはすっかり外が夕焼けで染まっていた。

 日帰りのハンターが帰ってきたんだな。

 

 グラムやロディ達もそんな中に紛れていた。ロディを手招きすると、3人の女の子の魔法は決まったのか聞いてみた。


 「一応決まりました。いつかは他の魔法も覚えたいと言っていましたから、1つを頂けるだけでもありがたいです」

 「では、3人を連れてきなさい。巫女様が授けてくれるわ」


 直ぐにロディが仲間の所に飛んで行く。

 そして3人の女の子を連れてきた。


 「レリエルさん。お願いします。【メル】は誰なの?」

 

 私の声に1人の女の子が前に出る。レリエルが片手を出すように言いつけると、おずおずと右手を差し出した。

 その手をレリエルが握ると女の子が吃驚した表情になる。


 「次ぎは【サフロ】よ。だれ?」


 そんな感じで、女の子に1つずつ魔法が渡された。

 初級魔法は1つが銀貨3枚程度だから容易に手にはいるが、一通り持つとなると結構な額になる。1個でも彼女達には嬉しいに違いない。


 「それで、杖の練習は上手くいってるの?」

 「基本はどうにか形になったような気がします」


 「なら、明日は少し早く帰ってきなさい。1人ずつ見てあげるわ」

  

 私の言葉に、『お願いします』と言い残して、仲間とともにギルドを出て行った。


 「剣ではなくて杖ですか? 私も見せていただけるでしょうか」

 「ええ、構わないけど。レリエルさんも杖が使えるの?」

 

 私の言葉にレリエルが頷いた。

 そういえば、5年程ハンターをしていたと言っていたな。

 私の教えている杖術はこの世界では特異なものだ。この世界で杖を主体に狩りをしているのは私ぐらいだと思っていたが、世間は意外と狭いようだな。


 そして、夕暮れが終ったところで、私達はギルドを去ることにした。


 「やはり、ミチル様に教えてもらうと色々と疑問が解決できます。今夜そんな疑問を纏めてみます。そして、私の事はレリエルで結構です。今年30歳。たぶんミチル様より年下です」


 嬉しそうにレリエルが私に告げて席を立った。

 やはり年下だったか。でも、エルフの容姿は反則だよな。全く歳が分らないんだから。

               ・

               ・

               ・


 何時ものようにミレリーさんの作る美味しい夕食を食べた後で、ネリーちゃんに明日、お友達を連れて私の所に来るように頼んだ。


 「魔道師になるんでしょ。明日私の所に来れば魔道師になれるわよ」

 「それでは、あの話は本当だったのですか!」


 吃驚して、カップを落としそうになったミレリーさんが私に言った。


 「ええ、神殿は約束を守ったわ。私も約束を守ろうとしてるから、それで問題はないはずです」

 「それでも、魔法3つなら銀貨9枚ですよ。幾らなんでも……」

 

 「私が知ってることを教えるだけだし、ギルドでの退屈凌ぎにもなるわ。向うだって、タダで教えてもらうのは気が引けるでしょう。それに、誰の懐も痛むことは無い筈よ」

 「それはそうでしょうが……」


 「それに、後1年は厄介になるんですからそれ位はさせてください。もう一つの方も詮索しないでくださいね」


 誰の懐も確かに痛んでいない。

 それは納得できても、ちょっと違うのでは?って感じで私を見ている。

 そこに私の好意が入っていても良いんじゃないのかな。ここで宿より安く厄介になっている事は確かだし、居心地だって最高だしな。それに値段が付けられないことと一緒だと思うんだが……。

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[気になる点] そんな感じでレイリルへの授業が続く。  周囲が騒がしくなったのに気が付いた時にはすっかり外が夕焼けで染まっていた。  日帰りのハンターが帰ってきたんだな。  グラムやロディ達もそんな…
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