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G-048 新たなアシスタント?


 足を耕してしまった農夫の妻が上等の蜂蜜酒を届けてくれた。

 治療のお礼だと言っていたらしい。


 「出来る事をしたまでですけど……」

 「それでも、ミチルさんが治療してくれたことが嬉しかったようです。ミチルさんの治療でダノンさんは若手ハンターの指導をしていますし、斧で腹を割った木こりはまた仲間と山に入っています。この先も重傷者はギルドに運ばれるでしょうね」


 夕食後に、届けられた蜂蜜酒を小さなカップで飲みながら、そんな話をミレリーさんとしていると、玄関の扉を叩く音がした。

 ミレリーさんが席を立って玄関に急ぐ。

 何やら丁寧な話し声が聞こえてきたかと思っていたら、神官服を纏った老人がリビングに案内されてきた。

 

 私が席を立って老人に頭を下げると、老人も頭を軽く下げた。

 暖炉側の席に老人が座ったところで、私は席に戻る。

 ミレリーさんは、カップを用意すると蜂蜜酒を注いで神官に勧める。

 

 「これは、ありがたい。……上物じゃの」

 「この間の農夫の妻が持参してくださいました」


 この世界の宗教は多神教だ。地、水、火、風の4つの神が王都の神殿に祭られている。

 町や村には小さな教会があり、そこには神殿から神官が派遣されている。

 この町にも、そんな教会があり住民の心の安らぎを与えているのだ。

 政治には全く介入することはないが、弱者救済には神殿全体が取り組んでいるのはたいしたものだと思っている。

 孤児や孤独な老人の世話まで行っているからな。そんな訳で、護民官に新たな財源の一部は教会に寄付しろと言った訳なんだが……。

 

 「そのことで、こちらのハンター殿にお願いがあってやってきたのじゃ。

 かなり高度な教育を受けたように見受けられる。正直な話、ダノンのような場合では片腕と片足は無くしておったろう。残った腕もたぶん力仕事は無理に思える。

 足に毒針を残したハンターは死んでおった筈じゃ。

 そして、木こりは長く苦しんで亡くなっただろうのう。

 今回の農夫についても一生片足を引き摺りながら畑を耕すことになったはず……。

 どこで、そんな教育を受けたかは判らぬが、神殿の者にその技を教えてやってくれぬか?

 ダノンの話が神殿で話題となっての、神官長が是非にとワシに話を振りおった」


 「でも、王都に行く気はさらさら無いですよ。しばらくはこの町に逗留するつもりです」

 「使いものになりそうな神官を派遣すると言っておる。そしてその報酬は【メルダム】じゃ。黒姫殿が持たない理由は判らぬ。じゃが、ダラシット狩りには必需品。決して不要とは言えぬじゃろう」


 要するに、アシスタントを貰えるってことかな。

 派遣される神官の質が問題ではあるが、使えない者を派遣するとも思えない。そして、将来的な医学を考えれば、見習いを終えた神官辺りになりそうだな。


 「良いでしょう。でも、報酬に【メル】、【サフロ】それに【デルトン】を3個ずつ加えてくれませんか?」

 「若いハンターに譲るおつもりか……。了解じゃ」


 私の言葉に顔をほころばせる。

 そしてミレリーさんは驚いた表情をしている。


 「さて、美味い酒をご馳走になった。それでは失礼する」


 老いた神官が席を立つと、ミレリーさんが見送りに出る。

 私は、シガレイに火を点けて残りの魔法を誰に贈るかを考え始めた。


 「これで、もう1年はこの町に住まなくてはなりませんね」

 「済みませんが、お願いします」

 

 戻ってきてテーブルに着いたミレリーさんにそう答えると笑って頷いてくれた。

 後、2ヶ月程で御隠居との契約が切れるけど、1月金貨1枚の報酬は半分以上残っている。

 それに、報酬が無くとも十分生活できるだけの蓄えもある。

 しばらくは、グラムやロディ、それにネリーちゃん達のハンターぶりを見守るのもおもしろそうだ。


 「これで、ネリーちゃんは3つの魔法が使えますよ。後は自分達でどんな魔法が必要か考えることが必要ですね」

 「あの注文はそんな意味だったんですか? でもそれは僭越過ぎます」

 

 「厄介になってるんですからそれ位は良いでしょう。お友達と一緒に今年中には魔道師デビューが出来ますわ」

                ・

                ・

                ・


 何時ものようにギルドに出掛けると、マリーがカウンターから私を手招きしている。

 何だろうと思いながらもマリーのところに向かうと、マリーがカウンター脇の壁を指差した。


 「今朝早く、マデットさんがやって来てこれを届けてくれたんです。変わった短剣も一緒です。全部で6本ありますけど、また何か狩りを行うんですか?」

 「あぁ。ようやく出来たんだ。私が使うわけじゃないわ。ロディ達のパーティ結成のお祝いってところね。まだ今日はやってこないの?」


 「大勢ですからね。皆が集まったところで来ると思います。それに、ようやく赤3つですから薬草採取の依頼を何時も受けていますよ」

 「ロディだからねぇ……。絶対無茶はしない筈よ」

 

 そう言って互いに微笑む。

 何時ものように掲示板の依頼書を眺めて、変わった依頼や期限が迫った依頼が無い事を確認すると、窓際のテーブルでシガレイに火を点けた。


 何組かのハンター達がやってきた後に、ロディ達がギルドに入ってくる。

 6人だから賑やかだ。直に掲示板から依頼書を2枚引き剥がすとカウンターに向かって行く。

 たぶん、薬草の依頼を2件受けたんだろう。

 

 そんなロディ達にマリーが色々と説教をしているんだが、出来ればグラム達だけにしといたほうが良くはないか?

 最後に、マリーがビシっと私を指差したので、6人全員が一斉に私を見詰める。

 そして、ゆっくりと私のところに歩いてきた。

 

 「俺達にお話があるそうで……」


 そう言ったロディの顔は少し緊張してるぞ。

 私はそんな6人に座るように言った。

 全員がテーブルの周りに座ったところで話を切り出す。


 「ロディには、薬草解禁の時に杖の使い方を簡単に教えたわよね」


 3人の女の子がロディ達を睨んでる。あれは、『私達に内緒で!』って意味だろうな。

 まぁ、私にも少しは責任があるのだけけれどね。


 「それで、どうせなら6人纏めて教えてあげるわ。それと、【メル】、【サフロ】それに【デルトン】の魔法を女の子達に贈るわ。でも魔法は1人に1つずつだから、誰がどの魔法を使うか3人で決めておきなさい。早ければ1週間程で王都から神官がやって来るわ。

 最後に、ロディ。カウンターから杖と短剣を貰ってきなさい。全員分あるはずよ」


 ロディともう1人の男の子がカウンターに急ぐ。

 女の子達は早速、相談を始めたようだ。

 不足分は何れ手に入れるだろうけど、最初から1つ持っているならセリーだって安心出来るはずだからな。


 「これですか?」


 ロディ達が荷物を抱えてやってきた。

 

 「それよ。杖は各自1本ずつ。それとこの短剣がオマケね。……マリー!抜刀の許可を」

 「許可します!」


 マリーの返事を待って、短剣をケースから抜く。

 中々鍛えてありそうだ。これなら多目的に使えるぞ。


 「ちょっと幅広で柄は革紐を巻いてあるだけど、この革紐を程いて杖に付いてる突起に柄の穴を入れて革紐で巻けば槍になるわ。普段は皮を剥ぐのにも使えるから良く砥いでおくのよ」

 「これ……貰えるんですか?」


 ロディが恐る恐る聞いてきた。


 「貴方達のパーティ結成の御祝いにあげるわ。リスティン狩り位までは使えるわよ」

 「「「ありごとうございます!」」」


 一斉に返事をしてきた。

 まぁ、私の気まぐれだから次はもう無いぞ。

 ニコニコしながら、各自がベルトに短剣のケースを取付ている。もらえるものだからうれしいんだろう。それにマデットという若いドワーフの腕も中々だ。

 バトンの方も楽しみだな。


 「それじゃあ、簡単な練習は薬草を採りながらロディに教えてもらいなさい。そして10日程したら、本格的に教えてあげるわ」

 

 今度は席を立って全員で頭を下げたぞ。

 そして、杖を持って皆で出掛けて行った。

 1.5mの杖は少し長いかもしれないけど、6尺棒は1.8mの筈だからそれよりは短かい。

 それでも両端の30cmは金属の管が棒の上に被っているから、重量はありそうだ。

 あれで打たれたらかなり酷いことになりそうだぞ。

 

 そんなところにマリーがやってきた。

 私の前にお茶のカップを置くと、テーブルに着く。


 「どうみても、銀貨数枚を越えています。よろしいんですか?」

 「だいじょうぶよ。あれで薬草採取が安心して出来るなら安い投資になるわ。それに、御隠居の報酬は破格なの。泊まっている下宿だって宿代が安いのよ。頂いた報酬の3割も使っていないわ。それに、私は一生分の蓄えは出来ているのよ」

 

 「なるべく町に還元するってことですか?」

 「そうしたいんだけどね。2、3は考えてるんだけどそれでも使い切れないと思うわ。その時は寄付ってことになるわね」


 どう考えても一月で銀貨30枚は越える事がない。

 このまま後1年ダノンを雇いたいところだがそうもいくまい。

 次はグラム達に何か上げたほうが良いのかも知れないな。

 他のハンター達も金貨1枚を余分に渡しているんだから割引してくれるんじゃないかな。

 ドワーフは義理がたい種族だからな。


 「そうだ。もう少し経ったら、私の隣に神官が1人座るかも知れないわ。何度かここで手術をしたでしょう。あれがちょっと話題になって、それを学びたいらしいの」

 「いるだけなら問題ないでしょうけど、やってきたら一応ギルドマスターに話をしてくださいね」


 そう言い残すとマリーはカウンターへ帰って行った。

 セリーと2、3話をしているようだったが、今度は血相を変えてセリーがやって来たぞ。


 「あの装備を弟達にあげたって、本当ですか?」

 「ええ、あげたわ。たぶん長剣や片手剣を持たずに青の中位まで行けるわよ。ひょっとしたら黒に達するかも」


 「でも、あの短剣の作りなら高価なものになります。弟達には過ぎた物ではありませんか?」

 「値段は教えてあげられないけど長く使える物よ。それに、前衛3人、場合によっては4人が剣を持たずにガトルの群れを狩れるなんて素敵じゃない」


 私の趣味も入っていることを知って少し表情を和らげたようだ。

 銀貨20枚の杖だからな。それだけで中堅のハンターが使う長剣が買える。

 だけど、長剣はハンターとしての武器にはそぐわない。彼等に私の考えを具現化してもらうつもりだ。

 

 「本当なら、魔法の袋とか、革の上下とかが良かったかも知れないけど、ロディ達には色々と頼んでるし、これからも頼むつもりだから、その見返りだと思って頂戴」

 「いえ、こちらこそ本当に有難うございます」


 私の趣味と、個人的な依頼の見返りで納得してくれたか。

 たぶん、セリーは杖には気が付かなかったんだろうな。短剣の倍はする代物だぞ。

 かなりな錬度を持っているようだ。長剣とやり合ったら、長剣を折れるんじゃないか?




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