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G-047 武器を作る


 「ロディお兄ちゃん達は、お姉ちゃん達とパーティを組むんだ」

 「そうよ。来年にはネリーちゃん達もパーティを組むかも知れないわね」


 ミレリーさんは、私とネリーちゃんの会話を聞いて微笑んでいる。

 ある意味周囲の思惑通りに事が運んだと思っているのだろう。

 確かに、小さい頃から気心が知れた仲間だから、仲間意識は高いに違いない。ロディの沈着さはリーダーとして十分に通用するからな。


 「でも、ちゃんと役割分担が出来るでしょうか? ライズ達はお転婆ですよ」

 「そこは、ロディに期待しましょう。お転婆ぐらいが丁度いいと思いますよ。」


 私の言葉に、互いが微笑む。

 リーダーも大切なんだけど、それを後ろから支えてくれる仲間も大切な存在だ。

 冷静なリーダーには、煽るぐらいの人材が欲しい。


 「先ずは全員に杖を教えようと思います。基本技を覚えれば他の武器に変えても応用できますし、魔道師でも身を守ることはできるでしょう」

 「ネリーにも教えて欲しいな!」


 「そうね……。もし、最初から魔道師になるんだったら、取っておきのを教えてあげるわ。たしか、もう1人いるんでしょ。一緒に教えてあげるから少し待っててね」

 「宜しいんですか? ミチルさんに教えを受けるなら金貨を積むとまでハンター達は言っておりますよ」


 「私の気まぐれということにしてください。それに、現役を教えるのは難しいんです。まだ武器を持たない子供達なら十分私の教えを理解してくれますわ」


 吃驚して私を見ていたミレリーさんにそう言って安心させる。

 自分の型ができているハンターに教えることは無意味だ。

 私の教えに戸惑いが出ないとも限らない。それが練習であれば問題は無いが、狩りの最中なら命を落としかねない。

 その点、武器を始めて持ってどう使うか悩んでいるような、グラム達は教え甲斐がある。私の教えに納得して練習に励んでくれるからな。たとえ、その使い方が他の者には奇異に映ってもだ。


 「ミチルさんの取っておきとは、どんな武器ですか? 長剣はグラム達、杖はロディ達……、ひょっとして片手剣という事でしょうか?」

 「片手剣に似てますけど、ちょっと違います。パイドラ王国で使っている人は見掛けませんでした。杖より更に短いバトンという武器です。フレイルと杖の中間って感じですね」

               ・

               ・

               ・


 そんな会話をした次の日。武器屋を訪ねる。

 扉を開けると、若い奥さんがお店の掃除をしていた。

 あまり賑わうお店じゃないからな。何時も綺麗にしていれば入ったお客も嬉しいものだ。


 「今日は。ご主人に頼みたいものがあるんですけど」

 「ちょっと、待ってください。直ぐに呼んで来ます」


 奥で鎚を打つ音がする。働き者だな。将来が楽しみだ。

 やがて、炉の熱で日焼けしたドワーフの若者が私の前に現れた。


 「前には良い仕事をさせてもらった。今度も穂先を作るのか?前よりは腕を上げたぞ!」

 「ちょっと別な武器を頼みたいの。でも、作った事は無いだろうから、説明したいんだけど」


 「そこにテーブルがある。待っててくれ」


 店の奥に何時の間にかテーブルと椅子が置かれていた。

 特注の武器はカウンターで話しが終るとは限らないからな。じっくり話を聞くためだろう。


 椅子に座って、灰皿があるのを確認するとシガレイに火を点けて待つことにした。

 しばらくすると、お茶のセットを持った夫婦が私の前に座る。


 「待たせたな。で、どんな剣を作るんだ?」

 「2種類あるんだけど剣ではないわ」


 そう言って、バッグから簡単な絵を書いた紙をテーブルに広げる。

 テーブルの端に、奥さんが『どうぞ!』と言ってお茶を出してくれる。


 「これは、杖か? こっちはフレイルに似ているが、少し違うな。魔石を埋め込むという事は魔道師の杖になるのか?」

 「どう……、作れる?」


 武器屋の主はジッと絵を見続けていた。

 

 「作る事は簡単だが、これでは野犬が良いところだぞ」

 「これは、前のお爺さんが作ったものよ。ガトルさえ倒せたわ」


 そう言って、銀のパイプをベルトから抜いてテーブルに置いた。

 武器屋の主はそれを手にとって、重さと作りを調べている。


 「これでか……。祖父さんの得意技だったな。異種金属の接合が上手くできている。そして、これは魔道師の杖としても使えるんだな」

 

 パイプをテーブルに戻すと、あらためて絵を眺める。

 

 「打撃力は、このパイプの2倍を越えるぞ。おもしろそうな依頼だが、残念ながらこれは受けられない」

 「これでも?」


 そう言うとバッグの袋の中から2個の魔石を取り出す。

 

 「赤の中位じゃないか!殆ど上位と言っても通じるぞ。これを組み込むのか? なら、何も問題が無い。先程断わったのは魔石が無かったからだ」

 「こっちの杖は大丈夫よね」


 「杖の両端1D(30cm)に鉄の管を被せるだけだ。こっちはそれ程問題は無いが、この突起が解せないな」

 

 私はもう1枚バッグから絵を取り出した。


 「この突起を利用してこの穂先を付けられるようにしたいの。この突起2個に挟んで、革紐で固定すれば槍になるわ」

 「グライザムを狩る訳ではないんだな。穂先が半D(15cm)で幅が指3本か……。狙いはリスティンだな」

 

 武器屋の主人が上目使いに私に告げる。

 それに微笑むことで答えを返した。


 「この穂先は皮剥ぎ用の短剣にもなりそうだな。こっちの魔道師の杖モドキは欲しがる奴はいまいが、この杖は役に立ちそうだ。俺の店で商っても構わないか?」

 「ええ、良いわよ。……それで、値段なんだけど」


 「こっちの槍モドキの杖は銀貨10枚でどうだ。魔道師の杖モドキのほうは銀貨20枚は下らんぞ」

 「長い方の杖を6本。短い方を2本でお願い」


 そう言って金貨を2枚取り出すとテーブルの上に置く。

 グライザムの報酬だから、町に還元するのに何ら問題はない。


 「これは、貰いすぎだ」

 「前の穂先は役に立ったわ。その報酬だから貴方にも少しは還元しても良い筈よ」


 「グライザムを狩れたんだな」

 「ええ、1本も折れる事は無かったわ」


 武器屋の主人は、感慨深げにその金貨を受取って奥さんの手に渡した。

 奥さんはその金貨に目を丸くしている。

 精々が銀貨での支払いだ。ハンターが武器を特注しても銀貨50枚になることは殆ど無いだろう。

 少し、数が多いとは言え金貨2枚は異質な取引には違いない。


 「俺の技を叩き込んで作り上げる。そうだな……、長い方は半月。短い方は2月待っていてくれ。前と同じように出来上がったらギルドに届けるぞ」

 「それでいいわ。よろしくお願いします」


 そう言って席を立つ。

 そして、足早にギルドに向かった。


 ギルドに入ると、カウンターのマリー達に片手を上げて挨拶を交わし、掲示板へと歩いて行く。

 黒の依頼はリスティンだな。もう群れは去ったから群れから離れた若い個体が狩りの対象になる。それでも今年の秋にはそんな個体が群れを作り始めるのだ。

 肉食獣はガトルに野犬……、これは何時も通りの依頼だ。

 変わった依頼は特に無いな。赤と白の掲示板には沢山の薬草採取依頼が貼り付けられている。

 ネリーちゃん達も頑張ってるに違いない。


 何時もの窓際のテーブルに着くと、マリーがお茶を運んで来る。


 「今朝早く、クレイ達とグラム達でガトル狩りに行ったんですよ。ダノンさんが一緒ですけどちょっと心配です」

 「クレイ達が一緒ならあまり心配は無いわ。それで群れの数は?」

 

 「依頼書では15匹とありました」

 「ダノンが一緒なのは彼等のレベルではその依頼が取れないからだと思うわ。でも、彼等の実力は白の上位を越えているわ。例え20匹の群れでも対応できるでしょうね。30匹ならば、ダノンが攻撃を許可しないわ。安心して待ってられるわよ」


 過保護だからな。グラムのお母さんの言葉があるからだろうけどね。

 ちょっと顔色がよくなったマリーを見ながらシガレイに火を点ける。


 「今日は来られるのが遅かったんですね」

 「ちょっと、ロディ達とネリーちゃん達の武器を頼んできたの。出来上がったらギルドに運ぶと言っていたから私がいなければ受取ってくれない?」


 「それは構いませんが、ロディに未だ剣は無理ですよ」

 「杖を頼んだから大丈夫よ。杖で薬草解禁の時に野犬をやっつけていたでしょ。意外と簡単に使えるのよ。刃物は危ないからね。ネリーちゃん達も同じで短い杖よ」


 「杖ですか。なら良いんですが」


 見たら驚くけど、一応杖だよな。

 実際、グラム達よりガトル狩りが上手くなる可能性が高いぞ。何ていっても6人パーティだからね。


 「それで、押しかけ女房パーティは?」

 「南の林の近くで薬草採取の筈です。人数が多いですから昼過ぎには1度上がって来ると思います」

 

 そう言って小さく笑い声を上げる。

 「確かに押しかけ女房よね」って小さく呟いてるぞ。


 バタン!っと乱暴に扉が開くと、ロディがギルドの中をきょろきょろ見回して私を見つけた。

 バタバタと足音を立ててやって来る。


 「大変だ。畑で耕していたお百姓さんが鍬で自分の足を……」

 「マリー、木箱を用意して。ロディ、誰が運んでくるの?」

 

 「仲間で運んで来てる。途中で会った農家の人に応援を頼んだから荷車二乗せてくる筈だ」

 

 私は立ち上がると、テーブルを2個合わせて、椅子を片付けるようにロディに指示する。直ぐに簡単な手術台が出来上がった。

 

 「マリー、パラニアムはまだあるんでしょう? 蜂蜜酒にスプーン1杯入れて準備しておいて!」

 「作ってあります。後は到着を待つだけです!」


 マリーもだいぶ慣れてきたみたいだな。

 セリ-がカウンターから心配そうな顔をしてこっちを見ている。


 そして、ガラガラという荷車の音が外から聞こえてきたかと思ったら、ギルドの前でその音が止まる。

 ギルドの扉が乱暴に開かれると、真っ赤に染まったブーツから血を滴らせた男が2人の男に担がれて入って来た。


 「ここに載せて!……そして、後ろから羽交い絞めにしなさい」

 

 テーブルに載せられた男に、マリーが蜂蜜酒を飲ませる。

 効いて来るまで少し時間があるから、簡単に様子を見ることにした。

 

 3本爪の鍬の真中がブーツを貫通したようだ。ブーツの左右にも鍬の爪跡があるな。運がいいのか、悪いのか……。

 ブーツを脱がすことになるが、それは薬が聞いてからでいいだろう。

 何処まで深く爪で抉ったかだな。ブーツの底を見ると血が滲んでいる。貫通してるってことか……。

 問題は足の骨を粉砕しているかどうかだな。切開して確認する外、手が無さそうだぞ。


 「呼吸が楽になったぞ。コイツ寝ちまいやがった!」

 「そのままでいて頂戴。それと、足を押さえる人が欲しいわ。1人は膝に載って頂戴。もう1人はしっかりと手で足を押さえて欲しいわ。そこのアンタとアンタ!やって頂戴」


 人だかりが出来始めたから、力のありそうな者を選んで役割を与える。

 俺がか? そんな顔をしていたが、ちゃんと前に出てきて言われたとおりに足を固定する。


 木箱を開いて道具を金属製の皿に乗せたマリーが私の隣にやってきた。

 さて、初めるか……。


 慎重にブーツを脱がせる。

 ボトリと血を吸って重くなったブーツが下に落ちた。

 アルコールで傷を洗って状況を確認する。


 足の甲にポッカリと穴が開いて血が滲んでいる。足の裏にも穴が空いてるな。

 自分に【クリーネ】を掛けると、慎重に足の骨を確認していく。

 かなりの痛みなんだろう、足がビクリと動く。


 「ちゃんと押さえてるのよ。パラニアムで痛みが鈍感になってるけど、相当な痛みだからね」

 

 足を押さえていた男が私に頷いた。


 段々と傷口近くの骨を調べる。

 やはり、1本が折れてるな。粉砕か単純化が次の課題だ。


 マリーにナイフを要求して傷口に沿って大きく切り開く。

 傷を洗いながら骨を確認すると、完全に切断されていた。

 断面を確認すると、粉砕までは至っていない。ぽっきりと折られたような感じだな。

 これなら、くっ付くぞ。

 傷の中砕けた骨が少し散らばっている。それを丁寧にピンセットで取り除くと、骨を合わせておく。固定すればくっ付くだろう。

 足の裏の穴は直ぐに閉じるだろうが甲の方は問題だな。

 足の裏の傷は縫い合わせておく。

 甲の方は内部の出血が納まるまでは閉じることが出来ない。布を載せて包帯で固定した。

 膝近くで止血用に巻いた布を切り取って、出血の状況を見る。

 それ程、血が滲まないな。

 圧迫してある布で出血が抑えられているようだ。

 

 「こんな形の板を大至急持って来て!」

 

 L字型の板が直ぐに用意された。

 その板に足を乗せると包帯をぐるぐる巻きつけて硬く固定する。

 

 「はい、術式終了です! 皆さんご苦労様。これで一杯やって頂戴」

 

 そう言って、怪我人を固定してくれた男に銀貨を数枚与える。

 

 「でも、その前にこの人を家まで運んであげて。出血が続くようならギルドに連絡してくれれば良いわ。くれぐれも板を外さないように言って上げてね。一月は板が必要だから」


 私の言葉に頷いて男達は怪我人を担いで行った。

 手に着いた地の汚れを【クリーネ】で落とすと、暖炉の傍に行ってシガレイに火を点ける。

 上手く骨が繋がると良いのだけれど……。

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