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G-045 早春の終わり


 結局、ケイネルさんに居合いを見せることになってしまったが、その技を食い入るように見ていたな。

 そして、私の小太刀を見たいという要望に応えたのだが、しばらく眺めてから溜息をつきながら返してくれた。

 私の小太刀並みに長剣を鍛えることは出来ないらしい。

 私の持つ長剣が良いところだと言っていた。それすら、一流のドワーフでなければ無理だと断言していたな。

 ケイネルさんの長剣は私の長剣とほぼ同じくらいの錬度だが、砥ぎのやり方が違うようだ。

 私は水で砥ぐが、この世界の人達は砥石で直接砥いでるからな。何も言わずに武器屋に砥ぎを頼むと、回転砥石で火花を散らしながら砥いでくれる。あれでは、刃先が鈍ってしまう。


 「刃先に熱を帯びないように砥ぎを行うのか……。変わった風習だが、帰ったらやらせてみよう。

……ところで、最後に1つ聞きたい。冬にカエセル家の者達が訊ねてこなかったか?」

 「ダイムラー狩りの貴族ですね。やってきましたよ。ギルドで徴募を行なおうとしたので、止めさせました。

 過去の狩りを例に断念させようとしたのですが、出掛けたようですね。たぶん2度と帰らないでしょう。私が銀3つで狩った時は6人中2人を失いました」


 「さもあろう……。あのパーティではな。ワシも止めたのだが……」


 残念そうに言葉を繋いだが、その目は私をジッと見詰め続けている。

 そしてふうっと息をついた。


 「本当に出掛けたという事か?」

 「ダイムラーについて教えました。そしてどうするかも教えたつもりです」


 「リカオンの母親はワシの妹じゃ。やはり止められなかったか……」

 「綺麗な耳飾を取出して報酬にと言われたのですが……」

 「あれは、ワシが婚礼の時に妹に贈ったもの……」


 力なく、俯いたケイネルさんが呟いた。


 「私はどうしたらよいかを話しましたよ」

 「だが、それで……っ! まさか?」


 「私は、どうしたらよいかを話しただけです」

 

 そう言って、私を驚愕の目で見ているケイネルさんに微笑んだ。

 だんだんとケイネルさんの顔に安堵の色が浮かぶ。


 「どうしたらよいかを話したのじゃな。それで、装身具のいわれをワシに聞いたんじゃな。ワシにはどうすることも出来なかった。

 だが、ミチル殿がリカオンにダイムラーについて話をし、無謀であると告げたことは間違いあるまい。そして山に向かったとの話も門番より得ている。

 確認の手段としては十分じゃな。……カエセル家としても面目が立つ。礼を言うぞ」

 「でも2度と会えなくなりましたね」


 私の言葉にケイネルさんが微笑む。私もつられて笑みを浮かべた。

 そして、席を立って私に頭を下げるとギルドを後にした。

 

 あの貴族の顛末を確認しに来たのが本筋だったのか。

 あれで理解したということだな。

 それでも、厳冬期に山を廻って隣国に向かったのだから、遭難する事だってある筈だ。

 それは、彼等の運不運次第なんだろうが、無事に生きていて欲しいものだな。


 そんなことがあってから10日も過ぎると、荒地で薬草を採取する人々の姿が減ってきたのが分かる。

 門の広場に店構えをしていた薬剤ギルドの馬車も1台ずつに減っている。後10日もすれば、その馬車も王都に帰って行くに違いない。

 再び、いつもの日常が帰ってくるのだ。


 南北の荒地の様子を眺めて何時ものように暖炉傍のベンチに腰を下ろす。

 シガレイに火を付けて休んでいると、私のところに青年達が歩いてくる。


 「いつぞやは、狩りの同行に便宜を図って頂きありがとうございました」

 「ああ、ガドラー狩りの同行者ね。揃っている所を見ると、狩りは成功だったようね」


 青年達は私の前のベンチに腰を下ろして、狩りの一部始終を話してくれた。


 「やはり、単独パーティでは全滅だったと思います。ガドラーには直接向かうことがありませんでしたが、率いていたガトルをだいぶ倒すことが出来ました。あれ程の数を率いるとは予想外です。

そして、ガドラーの素早さと腕力にも驚かされました。黒9つと言えども無傷とはいきませんでしたが、魔道師の対応で切り抜けています。

 良い経験になりました。そして黒1つになれました。これで、私達はこの町を去ります。まだまだ目指す銀には道が遠いです」


 「修行の旅はおもしろいでしょう。でも初めての土地や獣の時は、中堅ハンターに相談するか、カウンターで聞いてみることを薦めるわ。聞くことは恥ではないのよ」

 

 そんな私の話を真摯に聞いているのもうれしい限りだ。クレイのように無理をせずに狩りを続けて行けるだろう。

 席を立ってギルドを出て行く。

 私は片手を振って、この町を去って次の町に向かう彼等の無事を祈った。


 マリーが私にお茶を運んで来てくれた。

 私の前にお茶を置くと、マリーも向かい側のベンチに腰を下ろす。

 私をダシにしてサボるつもりのようだ。


 「だんだんとハンターが引き上げて行きますね」

 「黒や青の上位の依頼が殆んど無くなったからでしょうね。後、10日もすれば赤5つの入域制限も無くなるわ。いよいよ本格的な狩りの季節になるわよ」


 「でも、この町で暮らすハンターに黒のパーティは1つだけです。大型肉食獣が出て来ると厄介ですよ」

 「まぁ何とか成るでしょ。リスティンの群れも殆んど山奥に戻った筈だから、小型の食用の獣を狩ることになるわね。グラム達の成長が楽しみだわ。ロディ達はダノンに任せれば問題無さそうだしね」

 

 「あの子の母親に頼まれてるんです。『カードと同じレベルだけ許可してください』って」


 私は思わず笑い出した。

 暖炉でシガレイに火を点けるとマリーを見る。私が急に笑い出したので驚いてるみたいだな。


 「過保護だね。でも、母親ならそうなるのかしら?」

 「どうしましょう?」


 「そんな依頼を持ってきたら私の所に来させれば良いわ。無理が無いと判断すればやらせても良いと思うけど……。私が責任を取る形になるのかな」

 「済みません、そんなことまでお願いして」


 そう言って、私に頭を下げてカウンターにもどって行く。

 ある意味、彼等のお姉さんだからな。マリーも過保護だと思うぞ。

 そんな他人にまで世話を焼くのはこの町の良い所なのだろう。王都では我関せずだからな。薄情極まる光景を何度も見てきた。


 となると、グラム達の長剣とロディ達の杖の練習も頑張る必要があるな。

 交互に1時間程で良いだろう。継続する事が大事だし、私も少しは鍛錬しないとイザという時に体を動かせないからな。

               ・

               ・

               ・


 「そうですか。グラムには長剣、ロディには杖を教えるんですね」

 「本当は、グラム達も杖の方が良いんでしょうけど、折角購入してますし、クレイという長剣の使い手もいますからね。ロディ達はまだ自分の武器を購入していませんから、杖を教えるのに都合が良いんです」


 食事をしながらそんな話をミレリーさんとしていると、ネリーちゃんが興味深そうに聞いているぞ。


 「男の子は長剣に憧れますからねぇ」

 「万能の武器等無いんですけど、一番融通が利かない武器は長剣だと思いますわ」


 「でも、それを理解出来るハンターがどれだけいるか……、心許ない数でしょうね」

 「旦那様は長剣だったんでしょう?」


 悪戯っぽく私が問い掛けてみる。


 「ですから、私が片手剣だったのです。飛び込まれたら対応が難かしいですからね」

 「そういう意味で片手剣は優れてるんですが、壁には向いていません。打撃力がちょっと足りませんからね。自ずと素早く動いて斬ることに徹することになるんです」


 正にその通り。スプーンをスープ皿に戻して私に力強く頷いた。

 

 「そこで杖が出てくるんです。長剣と片手剣それに槍の要素を持っています。片方を持てば長剣、真中を持てば片手剣、そして突けば槍としても使えます。ハンターが山歩きに杖を持つのは普通ですし、鞘に収める必要もありません。常に戦いに備えて置けるんです」

 「その上値段は格安……。なるほど、理解出来ました。でも、大型獣には不足ですね」


 「それは、次の課題ですね。私は採取ナイフを槍として使えるようにしました。それでも十分ですし、そこからなら両用の剣を使う事も出来るでしょう。基礎は出来ている筈ですから」


 「そうですね。杖のままでも良し、それを元に他の武器を持っても応用が出来るという事になりますね」


 ミレリーさんが食事を終えた私にお茶を入れてくれた。

 ネリーちゃんもマイカップを用意してお母さんがお茶を注いでくれるのを待っている。


 「私は魔道師になるんだけど、魔道師の杖って短いんだよね」

 「あれは長くても良いし、重くても良いのよ。宮廷魔道師がキザったらしく、細身で短い杖を使ってから皆が真似ているのよ。お姉さんの使ってた杖はケイミーに上げちゃったけど殴る事も出来る杖よ」


 私の言葉に驚いたのはミレリーさんだった。


 「魔道師の杖は魔法の威力を上げる効果があるものです。それを上げてしまったら、ミチルさんの魔法の威力が小さくなりませんか?」

 「ちゃんと別のを持ってます」


 そう言ってベルトからパイプを引き抜いた。

 クルクルと回してミレリーさんの目の前に置く。

 恐る恐るそのパイプを眺めていたが、手に持って更に驚いている。


 「これは……」

 「パイプに似せた打撃武器。そして魔道師の杖ですよ」


 手に持って感触を試しているようだ。

 席を立って数回振って納得したらしく再びテーブルに着くと私にパイプを返してくれた。


 「昨年、パイプで打ち据えられた暴漢の話を聞きましたが、ミチルさんだったのですね」

 「そんなこともありましたっけ? でも、剣を抜かずに相手が出来ますから便利ですよ」


 「昔、ハンター仲間で旅をしていた時に、これと良く似た武器を見たことがあります。確かフレイルとか言ってましたね。細身の棍棒のような形をしていました」

 「あれは各国が戦争していた時代の武器だと思います。金属鎧を着ていてもフレイルなら効果があったそうですよ。

 これでなら、ガトルまでは対応できます。私の魔道師の杖としては十分ですわ」


 そんな私達の会話を、ネリーちゃんはジッと耳を傾けていた。

 魔道師になりたいと言ってはいるが、まだ将来を決めるのは早いと思うな。

 じっくりと考えて答えを出せば良い。

 お母さんも、お姉さんもハンターなんだからね。


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