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G-041 薬草採取の鑑札


 昼過ぎのギルドにはカウンターのマリー達と暖炉傍のベンチに私が座っているだけなのだが、今日は私の前に妙齢の女性が座ってマリーが運んできたお茶を優雅な手付きで飲んでいた。

 

 私達の薬草採取に係る鑑札の事で急遽この町にやってきたミゼルさんだ。一応肩書きは護民官補佐ということらしい。


 「……ということは、王都でもこの鑑札については話題になったということですか?」

 「そうです。御前会議で了承が成されています。やはりどのギルドでも問題にしていたようですわ。弟もこの話を聞いて直にレイベル公爵を訪ねています」


 灼疹とグライザムの一件が上手く機能し始めたようだな。

 少なくとも数十年は機能するだろう。次の代にも上手く関係を引き継ぎたいものだ。


 「その結果がこの御触れになるんですね」

 

 鑑札は来年度からは国が作るらしい。今年度は間に合わないという事だな。各ギルドが暫定的に発行しても良いとある。

 問題は鑑札の値段だ。季節限定が10L。そして年間が30Lになる。

 私達が考えていた額よりもかなり高いぞ。


 「その値段については最後まで読まれてから感想をお聞かせください」

 

 私の表情が曇ったのを知って、ミゼルさんが念を押す。

 ……なるほど、要するに最終的な値段という事だな。

 ハンターギルドと薬剤ギルドが4割ずつ負担する事になるのか。そして、その負担金は半分がギルドの置かれた町に還元され、もう半分は護民官の民生予算になるようだ。さらに、民生予算に付加された額と同額が国王より贈られるらしい。

 

 「要するに、ハンターや町の人の負担金は2Lもしくは6Lになるのね」

 「そうです。そして、その額さえ当該ギルドの町長の判断でさらに軽減できます」


 町に入る4割をそれに当てればタダになるということか。その措置を行っても町には2割が入る事になる訳だ。

 現場の裁量にかなり裕度のある文面だから、文句を言う町村はないだろうな。

 あるとすれば、ハンターギルドと薬剤ギルドだが事前ネゴでは合意したということらしい。

 

 その措置で薬草採取に新たな注文を付ける可能性もあるが、無理な注文なら途端に薬草が集まらなくなるから薬剤ギルドも諦めるほか無さそうだ。薬の値段は統制されているから値上がりもないだろう。

 だとしたら、この措置で2つのギルドはどこから予算を捻出するのだろうか?

 

 「良い話に聞こえるけど、ギルドの財政の方も心配だわ」

 「財務官の話では2つのギルドとも黒字経営です。その程度の支出でギルド経営には全く問題はないだろうと言っていました」


 ある意味、ギルドからの新たな徴税と見るべきだな。

 かなり蓄財をしていたんだろう。富の集中は不満が出るからな。貴族達は喜んで賛同したに違いない。


 「特に私から申し上げる事はありませんね。後はこの町のギルドマスターと町長の判断ということですね」

 「弟が是非とも、ミチル様に最終確認をお願いしてくれと言うものですから」


 「それなら、一つだけ」

 「何でしょう?」


 「配布された予算の半分は教会に寄付しなさい。パイドラ王国のハンターの総数は2千人を超えるわ。それによって貴方達は少なくとも金貨数枚が新たな財源になるはず。それを一番底辺にいる民の救済に当てなさい。

 教会はその救済をしているわ。ある意味、貴方達の代行をしてくれている訳だから、それに報いるためにもね。そうすれば孤児達の食事も幾らか改善できるし、ボロを纏わなくても済むでしょう」

 「それ程なんですか?」


 「視察を事前通告するようでは真の姿が見えないわ。表を歩かず裏を歩きなさい。でも、必ず護衛は付けるのよ。レイベル公爵家のガリウスさんを頼りなさい。力になってくれるはずよ」

 「ガリウス様ですね。必ず訪ねます。それと先程の件はレイベル公爵のお耳に入れたほうがよろしいでしょうか?」

 

 「そうね……。ガリウスさんの協力を頼むとなれば、一応レイベル公爵の許可がいるでしょう。そのついでに話せば良いと思うわ」

 「残りの半分は、その視察で使い形を考えますわ」


 少しは、護民官としての役割が見えて来たかな?

 実際には弟がその立場にいるのだが、姉貴として出来る限り力になって上げるのは良いことだと思う。

 ミゼルさんは席を立つと、私に深々と頭を下げてギルドを出て行った。

 それをカウンターで見ていたダノンとマリーが急いで私のところにやって来る。

 

 「で、どうなったんだ?」

 「これが全てよ。後はギルドマスターと町長の話で決まるわ」


 2人にテーブルの通達を見せると、私は暖炉でシガレイに火を点けた。

 ごそごそと2人で話合いながら読んでるけど、内容をちゃんと理解してるんだろうか?


 「こんなに高い鑑札になるのか!」

 「良く最後まで読みなさい」


 ダノンにそう言って先を読ませる。

 途中から食い入るように見ているぞ。


 「……ということは、場合によってはタダ、ということもありえるんだな」

 「そうだけど、まさかタダにはならないと思うわ。ダノン達の考えで良いみたいね。もっとも、ギルドマスターと町長の話合い次第でしょうけど」


 「それに折角作った鑑札も無駄にならねぇってことだ。国王陛下の御達しでは、これに従う外なさそうだ。だいぶ都合が良いな」

 

 町に入る金額としては銀貨10枚前後になりそうだ。

 それだけでもちょっとした公共物の整備が出来そうだな。そして今後ともその財源が得られる事になるのだから、額は少なくとも町にとっては喜ばしいことに違いない。


 その夜、夕食が終った後で今年の薬草採取の話をしてみた。


 「そうですか。今年から薬草採取に鑑札が必要になるということですね」

 「額面の値段が驚く数字ですが、まぁ、町長とギルドマスターで何とか出来る金額に収まるでしょう。季節事が2L以内。年間が6L以内になることは確実ですわ」


 「それでも、おもしろい取り決めですね。少しはこの町の教会にも恩恵があって、薬草数個の値段であれば問題にはならないでしょうね」

 「元はといえば、私が危険な場所を周知する為に考えた事です。こんな事態になって申し訳なく思っています」


 そんな私の反省の言葉を、笑って済ませている。

 確かに、ネリーちゃんでさえ薬草採取を1日行えば20~30Lにはなるだろうから、最初にちょっと差し引かれると考えれば問題はないだろうけどね。

                ・

                ・

                ・


 そして半月も過ぎると、所々に土が顔を出す。

 いよいよ薬草採取の時期がやってきたのだ。

 ダノンの話では、町に住む者については鑑札の値段が半額になったらしい。これだと他所から来たハンターは対象外になるのだが、冬越ししたハンターはこの恩恵に与れるということだ。


 暖炉脇のベンチに座ってカウンターを眺めていると、大勢の町人が南からやってきたハンターに混じって鑑札を求めている。

 ダノンも手伝ってるぐらいだから今日は1日こんな感じなのかな?


 それでも。昼を過ぎればだいぶすいてきたな。ネリーちゃんやグラム達も仲間といっしょにやって来て鑑札を購入している。

 2つ手にしているところを見るとミレリーさんの分かな?

 予想していたような、混乱や乱闘騒ぎはなかったようだ。


 カウンターが一段落したみたいで、ダノンがパイプを楽しむ為に暖炉脇のベンチへとやってきた。

 早速、暖炉でパイプに火を点けている。


 「なんとか、なったぞ。初日で鑑札の発行が500を超えている。明日は薬草採取の解禁だから、今度は門が込み合うだろうな」

 「薬剤ギルドの臨時買取所は出来てるの?」

 

 「あいつ等なら抜かりはねぇ。大型馬車を改造したものが北と南に3台ずつ並んでるよ。薬草を運ぶ馬車すら町に来ている」

 「例の表示はちゃんとしてるんでしょうね?」

 

 「掲示板の脇に貼ってあるし、カウンターでも説明してある。北と南のところにも看板を出してるから、知らねぇとは言わせないぜ」


 危険な場所は教えてあるし、区域を示す杭も打った。

 これで、大賑わいの1月程を過ごせれば良いんだけどね。


 「それで、その後のガトル達の目撃例は?」

 「一応、危険区域で指定した範囲だ。もっとも、野犬どもはあちこちで目撃されている。クレイとマーシャ達に此処とこの辺りで採取してくれと伝えてある」


 森の近くの荒地か……。場所的には問題なさそうだな。

 だが、北の方は少し範囲が広そうだ。


 「ダノン。グラム達を連れてこの辺りで採取してくれない?」

 「確かに、少し心配だな。……ところで、グラム達は使えるのか?」

 

 「まぁまぁってとこかな? 野犬なら十分だわ。ダノンがいるし」

 

 そう言って、私もシガレイに火を点けた。

 ダノンは笑ってるけど、ひょっとして酒代を稼ぐつもりなのか?

 まぁ、じっくりとグラム達を鍛えて貰おう。


 下宿に帰ると、ネリーちゃんが準備の真っ最中のようだ。

 採取用の底の深い取っ手の付いたカゴを入念に確認している。底に穴でも空いていたら大変だからかな。

 でも、その上に荒い目の網を被せているから、ちょっとした穴なら零れ落ちる事はないと思うぞ。

 準備が出来たところで鑑札を紐でカゴに括っている。そして、もう1つ小さなカゴを取出して同じように鑑札を結んでいる。

 お母さんの分と自分の分のようだ。

 今頃は、どこの家でもこんな具合に準備してるんだろうな。

 

 私がテーブル席に座ってそんな光景を眺めていると、ミレリーさんが私の帰宅に気付いてお茶を用意してくれた。


 「今夜はシチューなのでもう少し待ってくださいな」

 「楽しみにしてますわ。……ところで、明日から薬草採取ですよね。ミレリーさんは採取ナイフをお持ちなんですか?」


 「私は、古い短剣を使ってます。ハンターに成り立ての頃買い求めた数打ちですけど、捨てられなくてね。殆ど刃は潰れてしまいましたが、薬草採取なら支障はありません」


 確かにハンターの中には短剣を使う人がいる。余程の事でなければ折れないからな。

 一時的に使用するなら十分だろう。


 そして、夕食時の話題は明日からの薬草採取だ。

 どうやら、南の畑近くを目指すらしい。


 「雪解けは、やはり畑が最初になります。畑の農道付近には結構沢山あるんですよ」

 「そちらは、荒地の下でマーシャ達が採取している筈です。野犬だけは何時どこに現れるか分かりません」


 「事前に気遣って頂けるだけでもありがたいですわ。昨年は数名の怪我人が出ましたから」

 

 やはり、群れが現れたんだな。

 私も少し監視に加わるべきなのだろうか?


 久しぶりにお風呂に入り、その夜はゆっくりと休む。

 明日は、ちょっとしたお祭りだ。私の仕事がないとも限らない。


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