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G-004 レイドルの狩りかた

 「あのう……」

 俺に声を掛けてきたのは、まだ少年になったばかりの14、5歳の男の子だった。

 微笑んで男の顔を見ると、パッと顔が赤くなる。ちょっとからかいたくなるな。

 でも、隣の女の子に脛を蹴られてるぞ。ここは嫉妬心を起こさないように気をつけねばなるまい。

 

 「なにかなぁ?」

 「実は、狩りの依頼を受けたんです。でも、初めての狩りなら貴方に相談すれば狩りの仕方を教えて貰えるかもしれないと……」


 相談の一種と見るべきなんだろうな。

 それともムチャな狩りだから、俺に同行するように暗に告げているのだろうか?


 「カウンターのお姉さんから聞いたのね。で、何を狩るの?」

 「レイドルを3匹!」


 ふむ、俺に振ってきた理由はそれか。確かに赤の高レベルなら狩れない事もない。


 「面白い狩りを選んだわね。あそこのテーブルに移動しましょう。私が教えられることは少ないけど、参考にはなるでしょう。パーティの人もいらっしゃい」


 私は窓際のテーブルの奥に座った。

 少年達は男女の5人組みらしい。テーブルに着くと私の顔をジッと見る。

 

 「貴方達のレベルは幾つなの?」

 「ハンターになってから今年で2年目になります。全員が赤の9つです」


 なるほど、可能ではある。ギルドも許可を出すだろうな。

 

 「ところで、貴方達はレイドルを見たことがあるの?」

 「いえ、どのようなものかは図鑑で見ましたが、本物はありません」


 まぁ、当然の答えだ。レイドルは、陸生巻貝の一種で獣ではなく魔物に分類される。同じ陸生巻貝の大型のダラシッドは危険な奴だが、黒でなくとも狩ることが可能だ。まして、子犬程の大きさのレイドルならば、赤9つならば狩る事は容易と言わざる得ない。

 だが、しかし……、って奴がこの場合には当てはまる。

 レイドルを好物とする獣がいるのだ。ウザーラと呼ばれる6本足の狼だ。見掛けはガドラーと呼ばれる熊みたいな狼に良く似ている。

 たぶん元は同じなんだろうが、レイドルを長年食べ続けることによって、魔物に変りつつあるんじゃないかと思っている。ウザーラがいた場合は最低でも黒5つ以上が2人は欲しい。

 私はカウンターの娘さんを見て片手を上げると、パチンっと指を鳴らした。

 なんだろうって、慌てて娘さんがやってくる。


 「お呼びでしょうか?」

 「この子達と私にお茶を……。それと、ウザーラの依頼件数と狩りをした場所を教えて頂戴」


 私の言葉に、急いで娘さんがカウンターへと戻っていった。

 それを呆然と少年達が見ている。


 「あのう……、俺達はウザーラではなく、レイドルを狩るんですけど?」

 「今日は遅いから、出発は明日でしょう。狩りの注意点を教えるには、さっきの質問が大事なの。貴方達は、そんな質問はしなかったんじゃない?」


 私の質問に少年達が頷いた。レイドルの習性から話すことになりそうだな。

 そこに、お茶が運ばれてきた。娘さんが少年達にお茶を配ると、10L銅貨をトレイに乗せる。

 私のお茶代は、まとめて支払ってるけど、少年達の分を彼等に出させる訳にもいくまい。


 「これが、今年になって狩られたウザーラの地図です」

 「ありがとう。ちょっと借りるわね」


 町を中心といて周囲300M(45km)の地図だ。所々に×と日付、3文字の略号で狩られた獣が記載されている。ハンターに狩場を聞いて記載した物だから正確さは期待できないが、カウンターでハンターに簡単な状況を説明するには十分だ。

 獣の種類によって3種類ほど作られているし、薬草専門の地図もあった筈だ。

 その地図には狩られたウザーラが×で、ウザーラの目撃例が〇で示されていた。

 

 「貴方達に私を紹介した理由が、ウザーラという獣の存在なの。ウザーラはレイドルを好んで食べるのよ。ウザーラは黒の連中が狩る獲物なの。ガトルは見たことぐらいあるでしょう? あのガトルを一回り大きくして足を6本にした姿がウザーラなの」

 「ということは、レイドルを狩る場合は、ウザーラも合わせて狩ることになると!」

 少年の1人が驚いて叫んだ。その少年に微笑を返して、言葉を続ける。

 「必ずしも、そうではないわ。ウザーラの存在自体が少ないし、毛皮を狙って黒の連中が動く場合が多いから……。今年になって、狩られたウザーラと目撃例を合わせた地図で見ると、目撃例があると、直ぐに狩られてるでしょう。

 よく見ると、この場所では狩られた後に目撃例があるわね。黒の連中でも狩り残しが出るのよ。それで、貴方達の狩りの獲物はこの辺りに生息しているわ。私も若い時に散々狩った獲物だから覚えてるわ。

 でも、この辺りにはウザーラの目撃例も何もないでしょう。ここで狩りなさい。ここなら安全に狩れるわ。貴方達がレベルを上げてウザーラを狩るようになった時は、逆に考えればいいわ。レイドルがいないならウザーラはいないとね」

 「分りました。感謝します!」

 少年達が椅子から立ち上がろうとした時、私は手で彼等を制した。

 「まちなさい。そんなに急がなくてもレイドルは逃げないわ。それにレイドルの狩り方は未だ教えていないでしょう」

 

 まぁ、急ぎたい気持ちは分るが、ちゃんと教えておかないとな。

 少年達の腰が椅子に落ち着いたところで話を始める。


 「狩る前に気を付ける事は、先程のウザーラとの関係よ。これはしっかり頭に刻んでおくこと。外にも似たような関係がある獣がいるから、ハンター達の会話は良く聞いておくことをお薦めするわ。それで、レイドルの狩りだけど……。貴方達、どうやって狩るつもりだったの?」


 少年達は互いに目を合わせる。女の子はそんな2人の少年を胡散臭そうに見ているな。やっぱり、って感じだ。


 「遠くから火炎弾と矢で攻撃、怯んだ隙に俺達が切りかかろうと思っていたんですが……」

 「野犬相手の攻撃ね。ガトルまではそのやり方が有効だわ。でもね。レイドル相手だと、切り込んだ2人は命を落とすことになるわ」


 私の言葉に少年達の表情が驚きに変わる。皆が私の顔をジッと見詰める。聞き逃すまいとする真剣さが伝わってくるぞ。


 「レイドルは陸生の巻貝なんだけど、毒槍を装備してるの。にゅうっと延びた2つの目は周囲を全て見る事ができるわ。後ろからそうっと近付くのは無意味なの。レイドルの毒槍の長さは10D(3m)と覚えておきなさい。これが、レイドル狩りの基本になるわ」

 「ということは、離れて攻撃する他に手はないと?」

 「そうなるわね。火炎弾は有効だけど、矢は殻が丈夫だから跳ね返る。私のパーティではこれ位の石を投げた時もあったけど、ある程度の衝撃があれば殻は壊れるみたい」


 「だとしたら、俺達のパーティでレイドルに有効なのは1人になってしまいます」

 「だから、工夫するのよ。若いんだから少しは頭を使いなさいな。私達が挑んだ時は槍を使ったわ。もっともお金が無くて槍を買えなかったから、皆の持っていた採取用のナイフを6D(1.8m)程の棒の先に取り付けたの。投槍にしてレイドルの殻を破ったのよ。槍の後ろには紐を着けておいたから、何度でも攻撃が出来たわ。動かなくなったところで一箇所にまとめて火炎弾で再度焼いたのよ。意外としぶとい魔物だからね。魔石は殻の渦巻きの中心にあるわ。丈夫だから、壊れたり傷着いたりしないわ。思いっきり攻撃しても大丈夫よ」

 「10D離れて攻撃を守れば良いという事ですね。何とかやってみます。それ以外に注意することはありますか?」


 ほう、真剣になってきたな。まだ、注意することがあるんじゃないかと、疑問を持つことは良いことだ。


 「2つあるわ。1つ目は、攻撃する前に全員で毒消し飲んでおきなさい。と言っても、それだけで50Lになってしまうから、最初の休憩を取るときにデルトン草の球根をスライスして煮汁を皆で飲んでおきなさい。5人で2個で十分でしょう。ウェってなるぐらい不味いけど、毒消しはそれを飲み易く加工したものだから効果は十分。ちゃんと飲むのよ。2つ目は、魔石を回収したら素早くその場を離れること。レイドルとウザーラの関係はさっき説明したから分ると思うけど、あえて危険な場所に何時までもいる事は感心しないわ」

 「分りました。どうもありがとうございます。それと、お茶をご馳走様でした」


 少年達は立ち上がると、俺に頭を下げてギルドを出て行った。たぶんキチンと依頼をこなして来るだろう。それに、聞く耳を持っている。将来が楽しみなパーティだな。

 地図を丸めて席を立つとカウンターに向かった。先程の娘さんに地図を返す。


 「ありがとう。テーブルを片付けてくれない?」

 「分りました。自己紹介が遅れましたが、私がマリエルでもう1人がセリーヌと言います。マリーとセリーで良いですよ」

 「じゃぁ、私はミチルで良いわ。長い付き合いになりそうだから、こちらこそよろしくね」


 「ところで、私がこの仕事を受けるきっかけになった老人を覚えてる?

 ギルドの関係者じゃないかと思うんだけど……。何者なの?」

 「えぇー! 知らなかったんですか。てっきり知っているものと……。ご隠居様ですよ」


 今度は私が驚いた!

 ポカンと口を開けながら、頭に浮かんだのは……やられた!って思いだった。

 マリーがご隠居様と言うのは、町の引退した老人を差す言葉ではない。パイドラ王国の王位を退位した前国王様なのだ。自分の治世の至らなかったところをそのまま息子に引継ぐのは気の毒だと言って、パイドラ王国を巡回していると私も聞いた事がある。

 なるほどギルドマスターが飛んで来るはずだ。となると、私の仕事はある意味国家事業となるんだろうな。1年で金貨12枚は安いんじゃないか? とはいえ、飽きたとは言えなくなったぞ。

 ブツブツ言いながらカウンターにもたれていた私に、マリーが革で装調された薄い本とペンを取り出した。


 「これに相談記録を書くようにと……」

 仕事の記録は残しておけって事だろうな。だけど私は書くのは好きじゃないぞ。

 「大丈夫です。相談内容を私に話していただければ私が筆記しますわ」


 たぶんその仕事を、あのご隠居様から請け負ったんだろうな。

 私は先程の少年との顛末をマリーに話してあげた。

 

 「今度は、相談の時に呼ぶわ。マリーが忙しくなければね」

 「大丈夫です。セリーもいますからね」


 1年も続ければ一冊の本になるんじゃないか?意外とそれがご隠居の狙いだったりしてな。

 だけど、それを読むハンターがいれば少しは、命を落とす者が少なくなる事もたしかだろう。その時は、著作権を要求してみようかな。


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