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G-039 追跡者


 夕食を食べる頃には、すっかりと日が暮れて林の中は真っ暗になってしまった。

 それでも、目の前の焚火は赤々と燃えて私達の顔を照らし出している。

 

 「今夜は特に注意してね。ガトルはさすがにここまでは来ないと思うけど、今度は野犬がやってくるはずよ。

 野犬の対処は殴ることが一番。無闇に長剣を振り回さないこと。もっとも、相手の群れが小さければ、貴方達の技量を存分に試しなさい」


 「10匹程度なら大丈夫だと思うんですが、それより多ければ槍で殴ります」


 私の言葉にグラムが応える。

 それで良い。その上子のパーティには弓と【メル】を使える者がいるからな。

 そろそろ、早朝に掛けてあげた【アクセル】の効果が消える頃だが、何時襲ってくるか分らない野犬に備えて食事が終ったら再度掛けておこう。


 「それにしても、リスティンはかなり危険な獣ですね。長剣と同じ位の角を振り回すんですから」

 「それが分れば、今回の狩りはグラム達にも収穫があったでしょう。意外と長剣を使う狩は少ないの」


 「ところで、ミチルさんの魔道具は凄い威力ですね。音も凄かったです。あれは驚きました」

 「お前なんか口を開けてポカンって感じだったからな」


 ははは……っとグラム達は、その時の光景を思い浮かべて笑い出す。

 狩りの成功で、少し機嫌が良いようだ。


 「魔道具って訳じゃないんだけど、そう思ってくれれば良いわ。結構な威力よ。グライザムだって狩れるからね。でも、反動が物凄いの。グラムが使ったら2度と剣は握れなくなるかもね」

 

 しっかり、釘を差しておく。

 将来的には、この世界でも銃が作られるのだろうが、それははるか後の時代になるだろう。

 私がこの世を去る時に、私と一緒に土に還れば問題ない筈だ。


 食事が終って、お茶を飲んでいる時に、再度全員に【アクセル】を掛けておく。

 世間話をして体を温めたグラム達が天幕に入って行った。

 これから、数時間は私達3人が焚火の番をする。


 シガレイに焚火で火を点けた私に、ケイミーが話し掛けてきた。


 「ミチルさんはエルフですよね。魔道師にはならなかったんですか?」

 「良く聞かれるのよね。確かに私はエルフで前衛を受け持つ事が多かったけど、魔法が使えないわけじゃないわ。【メル】、【シュトロー】、【サフロ】、【デルトン】、【メルト】、それに【アクセル】と【ブースト】は使えるわよ。【シャイン】と【クリーネ】もあったわね。……魔力もあるから、グラム達が黒レベルなら後衛に納まってるわ」


 「凄いにゃ。魔道師にゃ」

 「それでも、前衛なんですね」


 「片手剣が前衛並みに使えたって事から、前衛が亡くなった時からそうなったのよ。それに、前衛と後衛って肉食獣に対処する時の考え方なのよ。狩りは全員で考えるものだわ」


 ガトルの群れに襲われた時や野犬に襲われた時は、あらかじめ決めた陣形に素早く移行して対処することになる。これが前衛と後衛の考え方だ。

 前衛が壁を作り後衛を守る。後衛は遠距離攻撃を多用して前衛を襲う獣に出来る限りダメージを与える。

 基本なんだけど、これが上手く行なえるパーティは少ないんだよな。

 

 「野犬なら貴方達のパーティで十分なんだけど、ガトルクラスになると、中衛が欲しいわね。前衛を迂回して後衛を襲おうとするから」

 「更に上に行こうとするなら、後2人程仲間を増やした方が良いということですか?」

 

 「無理に増やさなくても、他のパーティを臨時に仲間にすればいいわ」

 

 パーティの適正な人員は何人か? 意外と難しい問題ではある。

 4から6人辺りじゃないかと思うのだが、それ以下のパーティだっているし、10人パーティってのも見た事があるぞ。

 ある意味、報酬の分け前にも影響がある。

 狩りの報酬が1人50Lを越えられるようにするのが一番だ。それ位でないと、ハンターとして暮らしが立たないからな。

 そんなことからパーティで請け負う依頼の数は2件まで許されている。

 薬草採取も2件請け負えばそれなりの収入が得られるはずだ。


 「グラム達に言ったことなんだけど、万能の武器ってないのよ。狩りの獲物に合わせて武器を替えることが大切ね。という事で、ケイミーも魔道師としての魔法も大切だけど、魔力が無くなった時のことを考えて他の武器を使えるようにしておくと良いわ。

 簡単なのは今の杖ではなくてもっと頑丈な杖に替えるだけでもいいわ。今の杖では野犬を叩けば折れてしまうけど、太くて頑丈に作っておけば殴っても折れないし、普段の杖にも使えるわよ」


 そう言って、バッグから袋を取り出して私の杖を見せてあげた。

 ケイミーはそれを受取ってジッと見ている。


 「重いですね。先端の魔石は金属の中に埋め込んでるんですね。これで殴れば、確かに威力はありますね」

 「結構使えたわ。それで味をしめて作ったのがこれになるの」


 次に取り出したのは、腰に差した銀のパイプだ。

 

 「銀のパイプに見えるから誰も注意しないけど、結構作るのに骨が折れたと細工師が言っていたわ。これに使っている魔石は最上のものよ。そして武器としても使えるわ。その杖はしばらく使っていないし、これからも使わないわ。ケイミーにあげるからそれを使って杖の練習をすれば良いわ」

 「頂けるんですか!」


 吃驚してケイミーはその場に立ち上がった。

 

 「ええ。使わないなら、使える人にあげるわ。使用している魔石は中級だから、少しは魔法の威力が上がる筈よ」


 杖代わりにはなるだろうと捨てなかったものだ。ケイミーなら十分に使いこなせるだろう。

 もっとも、杖として使うには練習がいるが、殴る位なら直ぐにも出来る筈だ。

 

 「ちょっと貸して。簡単な型を教えてあげるわ」


 そう言って、ケイミーから杖を受取ると、私は焚火の傍に立って簡単な型を見せてあげる。

 基本的な構えと攻撃、そして相手の攻撃の受け流し方……。

 ロディ達に教えたものよりは簡単だ。杖が1.2m程だから振り回すのも簡単に出来る。


 「こんな感じに使うの。後は練習次第よ」

 「やってみます」


 今度はケイミーが私の型を真似し始めた。

 大きくズレているところは、個々に指摘してあげる。体と杖の一体感が全然無いけど、これは練習次第で良くなる筈だ。


 「凄いにゃ。槍みたいに使えるにゃ」

 「短い槍と棍棒ってところね。パメラの感想は間違ってないわ」


 「槍だと、どうなるのかにゃ?」

 「かなり我流だけど、やってみようか?」


 パメラが頷くのを見て、私の槍を持って焚火の傍に立った。

 杖と同じように一通りの型を披露する。


 そして、槍を傍らに置くと、ケイミーが私のカップにお茶を注いでくれた。


 「杖の使い方と似てるんですね」

 「基本は同じよ。槍で突くのは獲物に止めを刺す時って感じでやってきたわ。槍を使う人には他の考え方もあるんでしょうけどね」


 「そうでもないにゃ。ミチルさんの槍の使い方は良く理解できたにゃ」


 私の型はパメラの槍の使い方と共通した部分があるらしい。

 基本は杖と同じなんだけどね。

 短槍の使い方は似てるのかな?


 そんな事をしていれば自然に時間は過ぎていく。

 そろそろ、5時間ほどが経過しているからグラム達を起こそうか?なんてシガレイを咥えながら考えていると、パラムが仕切りに両耳をぴこぴこと忙しそうに動かしている。

 やってきたのか?

 

 「ケイミー、静かにグラム達を起こして頂戴。どうやら、お客さんが来たらしいわ」


 私の言葉に頷くと天幕に歩いて行く。

 

 「どう?……何匹ぐらいやってきたの」

 「10匹以上にゃ。あっちから来るにゃ」


 私には未だ見えないが、気配は感じられる。パメラには相手が見えてるんだろうし、足音も聞こえているに違いない。


 姿勢を低くしてグラム達が起きだしてきた。

 ケイミーが熱いお茶を彼等のカップに注いでいる。そして私達にも注ぎ足してくれた。


 「野犬ですか?」

 「その公算が高いわ。焚火を少しずつつぎ足して頂戴。【シャイン】で照明球を2個上げるから少しは周囲が見えるでしょう。私が焚火の左。後ろはパメラに任せるわ。右はグラム達3人でやるのよ。上手く連携すれば槍でも対処出来るわ。ケイミーはグラム達の援護をお願い。……照明球が上がってから行動開始!」


 150D(45m)程離れたところでこちらを覗っているようだ。

 全員が装備を手元に置いたのを見て、【シャイン】を2回唱える。


 頭上数mに照明球がふわふわと浮かんで辺りを照らし出す。

 西に野犬が集まってるのが見えるぞ。

 どうやら、リスティンの地の匂いを辿ってきたらしい。

 数はどう見ても30はいるようだ。これから増えるかも知れないが、野犬が多ければガトルが来ない。


 「配置について!」

 

 私の言葉に、焚火の右手と後方に素早くグラム達が移動した。

 西に向かって【メル】を放って誘いを掛ける。


 野犬の群れの中でドン!っと小さく火の粉が散る。同時に野犬が私達に向かって襲い掛かってきた。

 数歩前に進むと、槍の真中を肩幅で持って構える。

 穂先を取って置くんだった。

 野犬相手なら殴るだけで済むからな。


 最初の野犬の頭に思い切り槍を振り下ろして、次の野犬は顎を下から振り上げた柄の先で殴りつける。

 更に数歩前に出ると、槍を回して野犬を牽制する。

 後ろに回りこもうとした野犬の肩に矢が突き刺さった。

 矢を使ってるという事は、ケイミーと一緒に連携しているようだ。

 

 次々と野犬を倒しながらグラム達の様子を見てみると、彼等もひたすら野犬を殴っているようだ。

 両手をちゃんと使っているようだから、噛まれて負傷した者はいないように見える。

 10匹以上倒したところで、私達に向かってくる野犬はいなくなった。


 焚火に全員を集めて、負傷の有無を確認する。

 どうやら、無事のようだ。


 「直ぐに野犬の牙を取りなさい。その後は少し離れた場所で皮を剥ぐといいわ。ケイミー達は少し横になって。明日は早くに出発するわ」

 

 焚火の傍に座ってシガレイを吸う。あまり長くここにいるのは考えものだな。

 野犬の死骸に他の獣が集まってくる筈だ。

 埋めることなどせずに放置しておくのは問題なのだが、この状態では仕方が無い。

 東が白んできたら出発しないといけないだろうな。

 明日には村に着けるかと思っていたが、予想以上に長く掛かりそうだぞ。


 

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