表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/140

G-037 リスティンを狩るために


 朝食を終えてギルドに向かうと、ギルドにはグラム達5人が既に揃っていた。

 マリーに片手を上げて挨拶すると、早速彼等のいる暖炉傍のベンチへと歩く。


 「お早う。早いわね。……グラム、悪いけど、宿に行ってお弁当を買ってきてくれない?」

 

 グラム達の挨拶を聞きながら銀貨を1枚彼の手に渡す。

 

 「昨日頂いたお金がまだ残ってます。」

 「なら、2食分購入すれば良いわ。品物は全て揃えたわね?」

 「リスト通りに揃えました。カンジキとは別にスノーシューも籠に入ってます」


 グラムの言葉に頷いてベンチに腰を下ろす。2人程、ギルドを出て行ったから後1時間を待たずに出発になるな。

 シガレイを取出すと暖炉で火を点ける。


 「パメラの短槍は投槍よね?」

 「そうにゃ。村を出る時から使ってるにゃ」

 

 そう言って嬉しそうに短槍を私に見せてくれた。

 たぶん親から譲られたんだろう。年季の入った良い品に見える。


 「前衛の3人は長剣だから、期待してるわ」

 「長剣では、ダメだということですか?」


 グラムの仲間の1人が私に抗議してきた。話の流れで、自分達が頼りにならないと言われたように感じたのか……。


 「狩りをすれば分かるわ。始める前に詳しく教えてあげる。でも1つ教えてあげると、狩りは長剣よりも短槍が色々と有利なのよ」

 「でも、野犬程度は倒すことが出来るようになりましたよ」


 「なら、次ぎはガトルになるわね。でも、今回の狩りの獲物に対して長剣で挑むのは、私でもやらないわよ」

 「では、同じように槍を使うと……」


 私は、ゆっくりとシガレイを煙らせる。

 曖昧にしておけば、色々と考える筈だ。長剣は人間相手には役に立つんだけど、狩りの道具としてはちょっと問題があるからな。


 そんなところにグラム達が帰ってくる。

 私の所にやってきてお釣を返してくれた。銀貨1枚が丸々残ってるぞ。


 「さて、出掛けましょう。今夜は森の中で野宿だから、早めに出掛けないとね」


 私の声に全員が席を立つ。グラムたち3人が2つの籠を交替で担ぐようだ。

 ギルドを出て、通りを北の門に向かって歩く。


 「また罠猟か?雪レイムの群れを下の森で見掛けたらしいぞ」

 「ありがとう。でも、今度は少し上を狙おうとしてるんだ」


 グラムが門番にそう応えながら通り過ぎる。

 ちょっとした挨拶は、こんな情報をもたらしてくれる。ハンターは人間関係が重要だという事だな。


 門の外に広がる広場は20cm程の雪に覆われている。

 まだまだ薬草採取には程遠いな。


 「このまま、北に向かいますか?」

 「そうね。昼頃までは真直ぐ北で良いわ。その後は東に向かえば良いでしょう」


 30分程歩いたところで最初の休憩を取る。

 ちょっと、休んだところで足にスノーシューを履いた。

 この先はどんどん雪が深くなる。装備は早目にしておいた方が良い。


 前方をグラムが歩いた跡を辿るように、私達は緩やかな斜面を登り始めた。

 そして、30分間隔で軽い休息をとる。その都度グラム達は先頭を入れ替えている。

 

 昼を過ぎた辺りで小さな焚火を作ってお茶を飲む。お弁当は黒パンにチーズを挟んだものだった。数本の薪を袋から取り出して火を点けると、グラム達が集めた枯れ枝をそれに加えていく。雪で湿った薪はこうでもしないと上手く火が点かないからな。


 「なるほど、乾いた薪を用意しておけば良いんですね」

 「これ以外にも方法はあるんだけど、覚えておけば役に立つわ」


 ちょっとしたことだが、生死を分ける事だってあるのだ。覚えられるものは全て覚えるぐらいの意気込みがほしいところだな。


 午後は東に向かって歩きながら獣の足跡を探す。

 獣が沢山通った足跡を探せと言ったけど、ピンと来ないようだな。


 草食獣は群れをなして一定の範囲を移動している。その移動する道を見つけるのが今日の目的だ。

 

 2時間程過ぎた時。


 「ミチルさんが言うのはあれじゃないですか!」


 先頭を歩いていたグラムの友人が指差した。

 そこには汚れた足跡が尾根の上から下に向かって続いていた。

 かなり大きな群れだぞ。そしてこの足跡はリスティンに間違いない。

 膨らんできた木々の新芽を食べるためにかなり山裾に移動しているようだ。


 だとすれば、此処で待伏せれば目の前を群れが通るという事になる。

 早速足跡を辿って隘路を探す。


 「ここで良いわ。簡単な罠を作るから手伝って。ケイミー達は薪を集めて頂戴」


 直ぐにケイミーとパメラは近くの立木から枝を落とし始めた。

 私達は隘路の左右にロープを埋める。太い革紐だから千切れる事は無い。

 そして、10cm程の立木をしならせて革紐で固定する。そのしならせた立木の先に隘路に埋めたロープを結び付けた。

 

 「この状態で、この紐を切れば隘路に埋めたロープがピンと張るわ。それで走ってきたリスティンを転倒させるの。後は槍で止めを差せば良いわ」

 「それで、槍なんですか。でも、長剣でも出来そうな気がしますけど……」


 私はにこりと笑うことでそれに応える。


 「リスティンを見ればそんな気が失せるわよ。出来ないことは無いけどね」


 仕掛けが出来たところで、パメラ達が待つ、隘路を作っている尾根に登った。

 今度は野営地を作らねばならない。

 雪が深ければ雪洞を作れるのだが、この季節では雪はそれ程深くない。用意した厚手の布を使って天幕を張ると、その上に針葉樹を枝ごと折り取って重ねていく更に雪を被せれば中で数人は寝る事が出来る。


 日暮前に天幕の前に焚火を作り、革紐を使って天幕の周囲に柵を作る。

 グラム達が用意した鍋を焚火に掛けると、水筒の水を入れて携帯食料の乾燥野菜と干し肉を使ってスープを作る。

 焚火の横にポットを置いてあるからもうしばらくすればお茶を飲むことが出来るだろう。


 そして、全員の杖に採取ナイフを革紐で結び付ける。

 本格的な槍では無いが、暴れるリスティンに止めを差すには手頃な得物だ。


 「こんな槍で役に立つんですか?」

 「十分に使えるわよ。……先ずは、食事にしましょう。明日の狩りの手順はお茶を飲みながら話してあげるわ」


 塩気のあるスープは疲れた体に染み渡るな。

 炙った黒パンに甘味が感じられる。


 簡単な食事を終えると、お茶のポットが回される。スープのカップを雪で洗って、お茶を注ぐ。

 それに私がバッグから出した蜂蜜酒を少し注ぐ。

 寒い場所で飲むのはこれが一番美味しい。


 「さて、明日の狩りを説明するわよ。

 目標とするリスティンは3頭で良いわ。群れの一番最後のリスティンを狩ることにします。

 リスティンの群れが目の前を通っても気にしないで見てるのよ。

 下手に攻撃してリスティンを転倒させても後の群れが踏み潰してしまうから、獲物の価値が無くなるわ。

 私が群れの最後の数匹を狙って革紐を切れば、ロープに足を取られて転倒するわ。転倒したリスティンを群れは気にしないから、その場に残ったリスティンに槍を投げて倒すの。

 人間より大きいから外すことはないと思う。

 でも、投げる時にリスティンから10D(3m)は離れるのよ。リスティンには2本の立派な角があるわ。それを振り回すから長剣では怪我をするのが落ちよ。

 角を振り回さなくなったら、首に長剣を突き刺して止めを差すこと。

 ただし、最後の力を振り絞って角を突き出すことがあるから、素早く近付いて一撃を浴びせれば良いわ。

 もし、それが出来ないなら私の槍を貸してあげるから、これで突き刺しなさい。

 狩りが済んだら、臓物と首を落として軽くして運ぶわ。

 簡単なソリの作り方はその時に教えます。 

 以上だけど、質問は?」


 シガレイを取り出して焚火で火を点けて質問を待つ。

 グラム達は互いに顔を見合わせてひそひそと話し合ってるな。

 

 「かなり危険な獣に思いますが、俺達の狩るのはリスティンなんですよね」

 「間違いなくリスティンよ。死んだリスティンは見た事があるでしょうけど、明日は生きてる野性のリスティンを見ることが出来るわ。リスティン狩りが青の上位であることが分る筈よ」


 「何処を狙って槍を投げるにゃ!」

 「腹で良いわ。本当は頭が良いんだけど、難しいわよ。パメラは弓が使えるから頭を狙ってみると良いわ。ここを狙うの」


 そう言って、頭と首の付根を指差す。


 「槍は全部で5本あります。ミチルさんの槍は予備と考えれば良いですよね。そして矢が使えるとなると、沢山獲れそうな気がするんですが……」

 「殺すだけなら簡単なんだけど、運ぶのが大変なの。5人で3頭が限度だと思うわ」

 

 無駄な殺生はしない方が良い。

 あまり狩り過ぎると生態系を乱すことになる。

 未だ、畜産業の文化を持たない世界だから、生態系を破るような狩りをした場合にどんな影響が出るか計り知れないからな。


 「後の質問は無しね。明日は頑張りましょう。先にグラム達が寝なさい。夜更けに起こすから後をお願いね」


 グラム達が焚火を離れると天幕の中に入っていく。カンテラをつけて寝ると結構暖かく寝られる筈だ。

 マントに包まって、グラム達は身を寄せて寝たようだな。


 私達3人は薪を追加してマントに深く身を包む。

 

 「あのう……。明日は私の役目が無いように思うのですが?」

 「そんなことは無いわよ。転倒したリスティンの頭に【メル】をぶつけなさい。それだけグラム達が止めを差すのが楽になるわ」


 私の言葉に表情が和らぐ。


 「そして、パメラ。明日は最初の槍を打ち込んだら、矢を余り放たずに周囲を監視して頂戴。ネコ族の勘の良さは定評があるわ。リスティンの狙うのは私達だけじゃないの。ガトルの群れもリスティンを狩るのよ」

 「分ったにゃ。適当に攻撃して後は周囲を警戒するにゃ。150D(45m)範囲なら気配が読めるにゃ」


 結構範囲が広いな。私なら200D(60m)以上気配を読めるが、それにかなり近い。レベルが上がればそれだけ範囲が広くなるから、パーティに1人はネコ族が欲しいものだ。

 

 お茶を飲みながら2人の話を聞いてみると、南の海の近くで育ったらしい小さい頃から一緒だったようだ。

 種族が変わると年頃になると離れていくものだが、この2人はそうではなかったらしい。

 兄弟が多いからと2人でハンターになって、赤の5つまでは生まれた村で過ごし、この秋に旅に出たらしい。

 

 「雪はあまり降らないから、雪国に憧れてたにゃ。でも、こんなに厳しい暮らしだとは思わなかったにゃ」

 

 どんな村や町でも辺境の暮らしは厳しいものがある。

 それでも、一応目的は達成したことになるのかな?

 私としてはグラム達とここで何時までもパーティを組んでもらいたいと思ってるんだけどね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ