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G-036 新鮮な肉が欲しい


 ギルドから下宿に帰ってくると、暖炉の傍でネリ-ちゃんが一生懸命に採取用ナイフを砥いでいた。


 「お帰りなさい。お姉ちゃん。ちょっと待ってね直に退くから」

 「良いのよ。……もう直、雪が融け始めるのね」


 私に気がついたのか、振り返って挨拶してくれた。床に広げたボロ布を纏めて移動しようとしていたので、気にしていないことを告げる。

 それでも、作業を中断して私にお茶を入れてくれると、自分のカップを持ち出して残りを注いでいる。

 どうやら一休みするみたいだな。

 「ありがとう」と礼を言ってカップを受取り、暖炉でシガレイに火を点ける。

 

 季節は早春になっているのだろうけど、まだまだ雪は融けそうにない。そして冷え込む通りを歩いてきたから、暖炉の傍で亜戦いお茶を飲むのは幸せな気分に浸れる。


 「やはり、グリルから狙うの?」

 「うん。雪解けと同時だから競争になるんだけど、私達が採る場所はもう決まってるの」


 グリルはフキノトウに似た薬草だ。花が咲いてしまうと、全く薬効がないのだが、ツボミの状態で採取すると他の薬草の効能を高める効果がある。即効性の解毒剤も、グリルとノイバルという薬草を毒消しの効果を持ったデルトン草と混合して作るのだ。その混合比率は薬剤ギルドの秘密ということになっている。

 グリルは春でノイバルは秋だから、即効性の解毒剤を作るのは面倒だと思う。

 私は利用さえできれば問題ないから気にしないけどね。


 そして、ネリーちゃん達の場所は誰もが知っている場所だ。

 北の広場の周辺部がそれに当たる。

 子供達の狩場という事で昔から認知されてるので、余程事情を知らないハンターぐらいがそこで採取するのだが、他のハンターの冷ややかな目に気が付くと直の場所を移動するのがおもしろい。


 「グリルが終るとレブルでしょう。そしてサフロナが採れはじめるの」

 「大変ね。でも、そうなると、今年は赤3つになれそうね」


 私の言葉を聞いて、嬉しそうに微笑んだ。

 毎年、1つずつレベルを上げているようだ。まぁ、近場の薬草採取ならそんな所だろう。とは言え、継続は力なりって言葉もあるぐらいだ。ちゃんと経験値は溜まってるようだな。

 経験値がどの様な判断基準なのかは分からないけど、ギルドの水晶球を使う事で、レベルは分かるし、次のレベルへの到達が後どれぐらいなのかはおおよそ分かるようだ。


 バタンっと扉を開く音がして、ミレリーさんが帰ってきた。

 私が暖炉際の席を離れるとテーブルに移動するのを見て、済まなそうに頭を下げる。


 「申し訳ありません」

 「いいえ、私は十分温まりましたから。もう直、春というのに寒さが続きますわ」

 

 ミレリーさんは、私が掛けていた椅子に座ると、手袋を脱ぎながら手を暖炉で温め始めた。

 テーブルの上に乗った小さな籠はたぶん食材なんだろうけど、布が被せてあるから何なのか分からないな。

 季節的に保存の効く物なんだろうけど、そろそろ保存食も尽き始めるんじゃないかな。

 

 「今日は、リスティン猟を終えたハンター達が帰ってきたようです。久しぶりの生肉ですよ」

 「楽しみですわ」


 そう言ってミレリーさんに微笑む。

 2人で暮らしていたのでは、たぶん購入する事も無かったろう。

 私の僅かな下宿代で、色々と美味しい物を食べさせてくれるんだからありがたいものだな。

 

 そして、その夜の食事にはスープとパンの他に、もう一皿の焼肉が付いていた。

 手の平の半分程のリスティンの焼肉はこの家では年に何度も食べられるものではないだろう。

 ネリーちゃんが目を輝やかせていたことでも分かる。

 一度、たっぷり食べさせてやりたいものだ。

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                ・


 何時ものように朝早くギルドに出掛けて、マリー達に挨拶すると掲示板を眺めて見る。

 確かに、青の高位の狩りとしてリスティンがあるな。

 依頼書の枚数も増えてきたようだ。食肉用の獣が多いことは、保存肉に飽きてきたんだろう。

 それを狩る依頼が多くなれば必然的に狩りの邪魔になるガトルや野犬を狩る依頼も増える。

 それに引き換え、赤の掲示板に貼られた依頼書は3枚程。全て野犬狩りだ。群れが小さければ赤でも狩れるからな。


 しばらく眺めて、暖炉脇のベンチに座るとシガレイを取出した。


 「姫さん、どうしたんだ? シガレイを咥えたままで火も点けずに……」

 

 思わず顔を上げると、ダノンが美味そうにパイプを吸っていた。

 ずっとシガレイを咥えていたのか……。指先で火を点けると一息吸い込む。

 

 「ちょっとね。久しぶりに狩りをしようと思ってたんだけど、1年の長期契約事項にはそれが触れてないのよ。どうしようかと思ってたわけ」

 「簡単じゃねえか。他のハンターに依頼を受けさせて姫さんが狩れば良い。何を狩るか知らねえが、クレイにマーシャ、ロディもいるぞ」


 行くとなればもう1つのパーティにしたいな。

 あそこも、罠猟で宿代を稼ぐのは大変なはずだ。


 「クレイとマーシャの方は10日間で1人銀貨6枚は稼いでいるわ。春までは十分安心出来るわ。ちょっと気になるのがグラム達よね。何か聞いてない?」

 「あいつ等は森の近くで罠猟をしているようだ。たまに野犬を倒してるようだが、確かに懐は寂しい筈だ。一緒の娘達も奴らの家に間借りしているらしい。町の宿では支払いは無理だろうからな」

 

 「ギルドには毎日来るのかしら?」

 「2、3日おきらしい。マリーに伝えておくぞ。姫が狩りに連れてってやるってな」


 そう言って、ベンチから腰を上げるとカウンターへ去って行った。

 すっかり、ギルドに馴染んできたな。

 マリーの話では、ギルドマスターもダノンの有効性に気付いたようだ。ある程度、この周辺の狩場を熟知して、獲物の生態を知っているということは、ハンターの良きアドバイザーとして使う事ができる。

 それに、腕が未熟だと思えば近場なら狩りに同行できるのも強みだ。

 片足は義足だが、杖なしでこの頃は動いているしな。

 問題は報酬だが、一月、銀貨10枚程度は期待出来るんじゃないかな。

 ギルドにいれば昔の仲間に会うこともあるだろう。一緒に飲む機会もあるに違いない。卑屈にならずに前向きな性格のダノンならば皆から慕われるだろう。

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                ・


 昼過ぎに私の前に、グラム達が現れた。

 罠猟から帰ったところで、マリーに告げられたみたいだ。


 「俺達に用があると聞きましたが……」

 「ちょっと、私のわがままを聞いてくれると助かるんだけどなぁ」


 そう言って、悪戯っぽく笑みを浮かべる。

 3人とも顔を赤くしてるぞ。これだから少年達をからかうのはおもしろいんだよな。


 「罠猟で大変にゃ。少しは宿代を稼がなきゃならないにゃ」

 「あまり、レイベルさんの家に厄介になっているのも気が引けます」

 

 やはり、罠猟は芳しくないようだな。ならば、丁度良い。


 「ちょっと、お肉が食べたくなったの。手伝ってくれるとうれしいんだけどな」

 「ラビーは近頃獲れなくなってしまいました。罠を回りながら野犬を2、3匹が続いています」

 

 「私が食べたいのはリスティンよ。……どう?やってみない」

 

 5人が顔を見合わせている。

 その顔は、出来るのか?って顔だな。自分達の技量を確認しながら、頭の中でシュミレーションをしているに違いない。


 「でも、リスティンは青レベルの狩りですよ。俺達はまだ白にもなっていません」

 「それは、私が教えるからだいじょうぶ。貴方達が山奥に罠猟に行くという事で私が同行する形を取るけどね」


 またしても、5人で相談を始める。

 上手く1頭でも狩ることができれば確実にレベルが1つは上がるだろう。

 それも、魅力的には違いない。

 そして、成功報酬とリスティンの売値でかなり懐が潤うのは間違いない筈だ。


 「分かりました。俺達も行くことにします。それで、何を準備すれば良いですか?」

 

 腕を上げると指を鳴らしてマリーを呼ぶ。

 マリーがお茶と革装丁のノートを持ってやってきた。

 皆にお茶が渡されて、一息ついたところでマリーがノートを開いてペンを持つ。


 「先ずは今回の狩りは、グラム達の罠猟になるわ。場所は、尾根を2つ越えたところでのラビー狩りね。

 当然、雪山での野宿になるから厳重な装備が必要になるわ。

 雪靴とカンジキは持ってるわね。杖も必要よ。

 食料は3日の予定だけど5日分購入しなさい。

 それと、カンテラが必要ね。蝋燭は5個いるわ。

 マントは持っているわね。下着の替えを1式用意しなさい。

 後は、綿の丈夫な布がいるわ。横幅10D(3m)長さは20D(6m)でいいわ。

 そして、斧は……私が持っているからだいじょうぶね。

 最後に、小指程の革紐が半M(75m)を3本。

 そうそう、グラム達には籠を担いで貰うわ。……これで、揃えなさい」


 バッグから革袋を取り出すと、銀貨を3枚テーブルに載せた。

 私の羅列した品物のリストをメモにしてマリーがテーブルに載せる。


 「こんなに用意するものがあるんですか?」

 「近場の罠猟なら必要ないでしょうけど、冬山に止まるとなればそれなりに道具はいるのよ。返す必要は無いから、そのまま貴方達が使いなさい」


 「それで、出発は?」

 「そうね。明日の朝にここで待ち合わせってことにするわ」


 グラム達は私に頷くと、テーブルの上の軍資金とリストを手に取った。

 早速、雑貨屋に向かうつもりだな。

 

 「それで、何を狙うんですか?……グラム達なら近場で罠猟が丁度良いと思うんですけど」

 

 ギルドを出て行く5人を見ながらマリーが私に聞いてきた。


 「リスティンよ。ガトルが出るかもしれないけど、それは付録ね」

 「まだ赤ですよ。だいじょうぶなんですか?」

 「だから私が同行するの。だいじょうぶよ」


 グラム達のお姉さん気取りだからマリーは心配のようだな。

 まぁ、これがマーシャやクレイ達なら少しは気が楽なんだけどね。

 

 夕方、下宿に戻る前に雑貨屋に寄って薪を1束、それに小さな酒瓶を買い込んだ。

 雪山では必需品だと思うけど、彼等に用意させるのは気が引ける。

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 夕食が終ったところでミレリーさんに、山麓で罠猟をすることを告げる。

 食後に3人でお茶を飲んでいるときに話を切り出したから、ネリーちゃんが興味深そうに私を見ている。


 「そうですか。すると3日ぐらいの帰らないということになりますね」

 「はい。少しは若い連中に冬山の狩りを教えないといけません。今回はグラム達を連れて行きます。罠猟の腕をだいぶ上げたみたいですし……」


 「まだ、森の周辺が良い所だと思いますけど、ミチルさんが同行するなら心配はいりませんね」

 「まだ、少しガトルの群れもいるようですし、近場の獲物があまりないみたいですから」


 ミレリーさんがおもしろそうに私を見ている。

 罠猟以外の獲物を狩ろうとしていることが分かるんだろうか?

 

 

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