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G-035 レベル限定の入域制限

 雪虫採取の10日間が終わり、町は静けさを取り戻している。

 これから10日間程雪虫を乾燥させて、ギルドに納めて報酬を得る事になるのだが、私達の苦労は一段落したと考えてよいだろう。


 暖炉の傍で、のんびりとダノン相手にお茶を飲みながら世間話をするのも楽しいものだ。


 「後、一月もすれば雪も融け始める。そしたら薬草採取の連中が沢山押し寄せて来るぞ」

 「となると、ガトルと野犬が心配ね。そっちはどうなの?」


 ダノンが片手を上げてマリーを呼ぶ。「地図を持って来い!」と大声で要求してるところをみると、カウンターの手伝いをしながら気になるところがあるようだ。


 暖炉の前にある小さなテーブルからお茶のカップを片付けてマリーが地図を広げる。そして、私の隣に腰を下ろした。


 地図を眺めてみると、確かに幾つか気になる点がある。

 ガトルや野犬の群れはまぁ、問題はないだろう。

 だが、ガドラーの目撃例が2箇所にある。この群れが山に帰れば良いのだが……。


 「それだけじゃねえ。……ここにグラムンがいる。そして、この辺りのダラシットやスラバ達も動き出すぞ」

 「グラムンなら黒レベルで狩れるわ。ダラシット達は沼地付近だから雪解けは遅くなるでしょう。それに早春の動きは鈍いから逃げるのは容易な筈よ」

 

 そうは言ったが、どの世界にもドジな奴はいるんだよな。それに運が悪いのもいる筈だ。毒消し薬は多めに確保しておく必要があるだろう。


 「ハンターは自己責任か……」

 「ギルドの基本はそうなるわ。足枷をなるべく付けないほうが良い仕事ができるわ


 「だが、それで多くのハンターが廃業する事も確かなんだよな。俺だって、あの時の怪我の程度を知ったときには驚いたもんだ。この町に姫さんがいてくれて良かったと思ってるよ」


 懲りた。ということなんだろうな。考え方が慎重になっている。

 お蔭で、ロディ達を託せたわけなんだが。

 

 とは言え、ダノンの危惧も分からないではない。

 王都から赤の成り立てが大勢押し寄せるのも確かなのだ。

 彼等に獣の危険性を幾ら話しても、今までそんな危険にあったことがない連中が殆どだから、馬耳東風に聞き流してしまうのがオチだ。


 「入域禁止措置ってことになるのかな?」

 「レベル限定なら苦情はねぇだろう。少なくとも赤でガトルやスラバなんかにに合わずに済めば問題ねえと思うぞ」


 だが、入域禁止措置は各町村のギルドマスターに与えられた大きな権限なのだ。それを破って入域するには、グライザムを狩った時の様に国王の認可がいる。

 このため、余程の事がない限り入域禁止措置をギルドマスターが設定する事はない。

 そして、レベル限定の入域禁止措置等聞いた事もない。

 それをギルドマスターが設定できるかと言うところに問題があるのだ。


 「勧告だと弱いわね……」

 「出掛けるバカが出てくるぞ」


 これは、ちょっと面倒だな。

 ギルドマスターをマリーに読んで貰うことにした。


 シガレイを吸いながら少し待つと、杖を付いてギルドマスターがやってきた。ダノンの隣に座ると、パイプを取り出して指先で火を点ける。

 【メル】で作り出す火炎弾をそれだけ制御出来るという事は、かなり高レベルの魔道師だったということだ。


 「おおよその話はマリーから聞いたぞ。確かに前例は無い。だが、入域禁止措置は我等ギルドマスターが任意に定めることが出来る。

 それは、我等の過去の経験をそれだけ国王が尊重してくれるからに他ならない。その根本にはハンターの保護がある。

 確かに春先に訪れる経験の浅いハンターは問題だ。

 それらのハンター全てがミチル殿に相談するとは思えない。……ワシも、レベルを限定した入域禁止措置には賛成だ。

 範囲とレベルはミチル殿に任せる。その決定を紙に書けば、ワシが署名するぞ」


 ホントに丸無げだ。だが、責任は取ると言ってるんだよな。

 ギルドマスターの顔を見てニコリと笑うと、ギルドマスターの顔に笑みが浮かぶ。

 なるほど、なら私の好きにやらせて貰おう。

 これも、見方によっては私の受けた依頼の範囲になるような気もしないではない。


 「分りました。私の一存で範囲とレベルを決めさせてもらいます」

 「それで、十分。よろしく頼むぞ」


 私にそれだけ伝えると、カウンターの奥へと消えて行った。

 私達はジッとその姿を眺めていたが、やがて一様にテーブルの上にある地図に視線を移す。


 「問題は、レベルをどこに設定するかにあるわ。クレイ達のように赤でも十分に狩りが出来るパーティもいるし、ロディ達のようにかなり怪しいパーティもいるのよ」

 「だが、赤の上位であれば簡単な狩りを行なう事も確かだ。ガトルやスラバは無理でもな。野犬辺りは白を目指す連中だと積極的に狩りをするぞ」


 「となると、赤の5つ辺りを目安にすることになるのかしら?」

 「薬草採取は赤6つ位でも積極的にこなすパーティもいますよ」


 「だが、そいつ等は一応の危険を知っている筈だ。経験ではなく、他のハンターの話を聞くことでな。最低でも、ハンター暦は2年はあるだろう」


 「なら、レベルは赤の5つ以下という事で良いわね。次にその区域だけど……」


 沼と湖に流れ込む支流の一部と言うことになるな。

 ダラシットやスラバはテリトリーを持つから意外と簡単だ。


 「問題は、ガトル達ね」

 「あぁ、山麓を移動している。とはいえ、この尾根の手前では見たという報告が無いぞ。そして、この尾根まで行くのは日帰りでは無理だ」


 なる程、薬草採取は日帰りが原則だな。

 赤の低レベルで山に泊まろうという物好きはいないだろう。


 「なら、この尾根を延長して湖に達する線から先を入域禁止にすれば良いわ」

 「う~む。去年はどれ位集まったんだ?」


 「赤5つ以下が、50人程です。パーティ数では15と言ったところでしょうか」

 「町の人達もいるのよね」

 「あぁ、子供達や奥さん連中が出てくるな。100人ってところだろう」

 

 約200人近くが薬草採取をするのか。さぞかし壮観だろうな。

 たしか、昔も春の薬草採取はハンターギルドを通さずに門の広場に薬剤ギルドの人達が店を開くのだ。

 1個でも買取ってくれるし、全てその場で現金渡しだから町の人達には人気があるんだよな。

 

 「後は、ギルドを通さずに採取を行う人達にどうやって知らせるかよね」

 「でも、薬剤ギルドに薬草を渡すにはハンター以外の人なら鑑札が要ります。それはギルドで発行しますから、その時教えてあげれば良いでしょう。そして、ハンターなら、町に着いたところで必ずギルドに来たことを報告しなければなりません」


 鑑札の発行の時に住人に知らせ、ハンターには着たことを報告する際に教えれば良いと言う訳だな。

 それでも、漏れる人間はいるだろうが、それは自己責任と言うことにすれば良いだろう。

 

 さっきの地図に鑑札を持つ者も含めれば、何とか制限を加える事が出来るぞ。

 この地図を張り出しておけば良いだろう。


 「マリー。3枚作って、掲示板の脇と北と南の門の傍に張り出して」

 「分りました」


 マリーがほっとした表情でカウンターに戻っていく。


 「後は、ダノンの仕事になるわ。この区域を示す杭を打ってちょうだい。杭の頭に赤い布を巻いておけば気が付くでしょう」

 「確かにな。何も無ければそのまま入ってしまうだろう。適当な間隔で良いだろうが、時間が掛かるぞ」


 「場所が町からかなり離れるから、グラム達を連れて行きなさい。1人1日50Lで交渉してくれないかな?」

 「俺には無いんだよな……。まぁ、良い。話を付けてやる」


 「終ったら酒代を出すわ」

 

 私の言葉に、にやりと表情を崩す。

             ・

             ・

             ・


 「だいぶ獲れたみたいですね?」

 「去年の3倍は獲れたとネリーが言ってたわ。あまり遠くに行くのは子供達も不安だったみたいですが、今年はミチルさん達が見張ってくれましたからね」


 ギルドマスターは不満タラタラだったけど、町の住人達には好評だったようだ。たぶん来年も同じような形で行なわれるだろう。

 市長がギルドに出掛けてわざわざ礼を言っていたとマリーが教えてくれた。


 「今度は雪解けの採取ですわ。私が昔いたときも凄い人出でしたから」

 「変わりませんよ。もっとも、ネリー達は近場を探すと思いますけどね」


 寝る前の一時、ミレリーさんと一緒に暖炉の傍で蜂蜜酒を傾けるのはちょっとした楽しみだ。


 「今年は、少し範囲を限定することにしました」

 「狭めるのですか?」


 「薬草採取は昔から春の行事です。多くのハンターと町の住人が参加します。少しでも安全に採取して貰う為に、低地の沼の周辺と歩いて半日程の山の尾根から先を赤5つ以下と鑑札で薬草を採取する者達を対象に入域禁止とする手筈です」

 「そんな場所に行く低レベルのハンターなら大成しませんわ」

 「そうでしょうけど……、この町で大怪我を負わせるのもちょっとね」


 私の言葉がおもしろかったのか、ミナリーが笑い出す。

 確かに過保護に見えなくもない。

 蜂蜜酒の残りを飲み干して、暖炉でシガレイに火を点けた。


 「確かに、若者はムチャをするかも知れませんね。ハンターの保護するというミチルさんの役割は分っているつもりです。でも、あまりに介入しすぎると、若い時には怪我で済むハンターが死亡しないとも限りませんよ」


 それは、常々気になっていたことだ。

 若い芽が詰まれないように気をつけたつもりが、強風で簡単に折れる木になっても困る。

 介入の程度は難しいな。

 とはいえ、春先の薬草採取は多くの町の住民も参加しているのだ。

 お節介かも知れないが、これは必要な措置だと自分に言い聞かせる。


 「入るなと言うと入る者もいることは確かです。ですが、それは自己責任という事で……。大勢に同じように危険性を説くことは出来ません。それでも、一応は危険性を認識してくれるでしょう」

 「そうですね。ネリーも剣を欲しがり始めました。危険性は今より格段に上がるのですが……」

 「それはハンターなら通るべき道だと思っています。何時までも薬草採取では収入も伸びません。でも、薬草採取で生計を立てるハンターもいる事は確かですね」


 上を向いたらきりが無い。そして下にしてもそうだ。

 大型獣をし止めるのがハンターではない。

 町の生活を維持して行くための依頼をこなしていくのがハンターだと思う。

 それでも、大型獣をし止めることに憧れを抱くハンターもまた多い事は確かなんだよな。

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