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G-034 本日は早仕舞い

 グライザムを狩った時に山から取ってきた杖は、暖炉際に長らく置いておいたから丁度良い具合に乾燥してる。

 杖の先には鉄の輪を填め込み、先端にクサビを打ち込んである。

 結構打ち込む力が強いのだが、この措置をしておけば鉄の輪が外れる事はない。


 朝食を終えたところで、その杖を掴むのを見ていたミレリーさんが、心配そうな顔をして私を見た。


 「やはり、野犬が出て来たんですか?」

 「だいぶ下の森に溜まってるようです。3段に備えてますから、出て来たところでクレイ達が呼子を吹き、ダノンが子供達を門に誘導する手筈ですから心配はいりません。それでも、万が一がありますからね」


 私の言葉に、ミレリーさんの表情が柔らかくなる。

 普段何も持たずに出掛けるから心配していたようだ。

 

 2階から降りてきたネリーちゃんは革の上下の上に大きなマントを羽織っている。毛糸の手袋をした手には虫網を持って、肩から紐で吊った木箱を提げていた。

 私も、マントを着て革手袋をしている。

 ネリーちゃん達は雪虫が相手だから毛糸の手袋で十分だが、私はそうもいかない。毛糸の手袋の方が暖かいんだけどね。

 

 2人でミレリーさんの見送りに「行ってきます!」と応えて通りへと歩いて行く。

 そして、通りまで来ると左右に分かれて互いに手を振った。

 ネリーちゃんはギルドに集合だし、私は南の門で待っている仲間の元に急ぐ。

               ・

               ・

               ・


 「お待たせ!」


 元気に門で待つダノン達に私は挨拶した。

 ロディ達はちゃんと自分の背丈位の杖を持っている。

 クレイやマーシャ達は未だ来てないようだな。


 「姫さんの杖は見た事がねぇな。一度見せて貰いたいもんだ」


 ダノンが焚火に近寄ってきた私に呟く。

 まぁ、時間もあることだしロディ達の訓練もある。一度型を見せておくか……。


 「まぁ、ダノンのためと言うよりも、ロディ達に見せておくわ。位置に着いたら少しずつ教えるからね。一応完成形ということで……」


 10歩ほど門の内側の広場に歩くと杖を構える。

 足は肩幅で前後に開き、杖の真中を両肩の長さで両手に持つと斜めに構える。


 「これが基本形よ。ここからなら、どんな攻撃にも対処できるわ」


 杖を振り下ろしながら後足に重心を移して素早く回転しながら下から振り抜く。

 そのまま体を回転させて、振りぬいた杖で相手を突く。更に半回転して反対側で相手を横薙ぎにする……。


 数分間の演舞を終えて焚火に戻ると、ロディ達がポカンと口を開けたままでいた。


 「姫さん、ロディ達にさっきの動きを覚えさせるのか?」

 「簡単でしょ。あれが入門編ってところね。あれから少し高度になると手を移動することで杖をより長くして相手を叩くことができるんだけど、ガトルや野犬相手ならあれで十分だわ」


 「姫さんがあまり剣を使わねぇって話は本当だったんだな」

 

 そう言いながら、ダノンが焚火でパイプに火を点けた。

 ロディ達はどうやら再起動したみたいだ。私達から離れて杖の基本の型を始めたぞ。

 杖の動きと足がバラバラだが、杖の真中を両手で持つ事は何とかなってるな。

 

 私も焚火でパイプに火を点けたところで、広場にクレイ達がマーシャのパーティと一緒にやってきた。


 「お待たせしました。雑貨屋でロープを買い込んで来たんです」

 「倉庫まで取りに行ったみたいで時間が掛かったの。申し訳ありません」


 「それ程、待たなかったわよ。では行きましょうか」


 早速、私達は門を出て南へと歩いて行く。

 先ずはダノンが右に折れて小川の岸辺に焚火を作る。畑にはそれ程離れていないから、呼子が鳴った時には素早く子供達を誘導することが出来るだろう。

 畑が尽きたところで、ロディ達が私達から離れていく。昨日仕掛けた罠の確認をするためだ。

 そして荒地の真中で私は立止まった。


 「それじゃあ、下を頼むわよ。数が多そうだから、杭とロープを上手く使ってね」

 「分ってます。弓と魔道師がいますから、ミチルさんのところに辿り付く野犬がいないかも知れませんよ」


 そう言ってクレイはニコリと私に微笑んだ。

 そういう仕草は、駆け落ちした相手にするもんだぞ。

 マーシャ達も私に手を振ると荒地を下りていく。


 ロディ達が来るまでにはしばらく掛かるだろう。

 パイプを取り出してタバコを詰めると、指先に小さな火炎弾を作って火を点ける。

 杖を雪原にグサリと差し込んで、足元を確認する。

 20cm位ブーツが潜る。一応、ブーツの上に麦藁で作った雪靴を履いているのだが、雪はそれほど締まっていないようだ。

 あらためて、雪靴を革紐で縛っておく。途中で脱げたりしたら大変だからな。


 「済みません。遅くなりました!」


 私の後ろからロディ達が声を掛けてきた。


 「だいじょうぶ。まだ子供達は来ていないわ。……それで、どうだったの?」

 「3匹掛かってました」


 ゆっくりとロディ達に振り返って聞いてみたら、嬉しそうな声で答えてくれた。

 なるほど、ダノンが言うように立派な罠猟師になれるに違いない。


 「それじゃあ、始めようか。先ずは足運びを教えるわ。常に肩幅で足を開きなさい。前後に足を置くのよ……」


 先ずは足捌きだ。杖を効果的に扱うにはどうしても足捌きが大事になる。

 前後の移動、左右に半回転、そして回転。この3つが基本になる。

 

 雪原だから動き難そうだけど、此処でちゃんと出来るならどんなところでも動けるだろう。

 そんな動きを教えていると、畑の方で子供達の声がする。

 今日の猟が始まったようだな。


 1時間程経過したところで休憩を取る。

 バッグの魔法の袋から薪を取り出してポットを載せる。

 この袋は特注だから他のハンターの持つ魔法の袋の2倍の収納能力を持つ。

 大きな革袋に入れた薪は3回位のお茶を楽しむには十分だ。


 私達がお茶を飲んでいる下の方では、クレイ達が杭にロープを張り終えて、焚火を囲んでいた。

 たぶんお茶でも飲んでいるのだろう。しかし、全員が森を見ている。あれなら不意を突かれる事は無いだろうな。


 「どう?……分った」

 「何とかですね。でも、中々体が言う事を聞いてくれません」


 「常に練習すれば良いのよ。最初からキチンと出来る人なんていないんだから。次ぎは杖の使い方を教えるわ。基本は、体の動きを利用して相手に打ち付けるの。上から叩くのと下から払い上げるのを覚えればそれなりに使えるわ。突くのは、応用という事で自分達で工夫しなさい」


 先ずは手本だ。

 回転を利用して振り下ろす、そして払い上げるこの動作を教える。

 相手が少ないなら、杖を長く持って強力な一撃を浴びせられるのだが、そこまで教えると覚えきれ無いだろう。

 先ずは基本動作だな。これだけでも、体の回転と捻りをうまく使えば野犬ぐらいなら十分通用する。


 彼等の動きを見ながら、個人別に動作を確認していく。

 最初が大事だからな。変な癖が付いたら後で矯正するのが大変だ。


 15分位の短い間隔で休憩を取る。あまり汗をかくと凍傷の危険性もあるから雪原での練習は注意が必要だ。

 そんな練習を2時間程繰り返したところで昼食だ。

 

 相変わらず子供達の声は畑の方から聞こえてくる。そんな中に赤い霧のように見えるのが雪虫だな。曇ってはいるがだいぶ気温が上がってきたのかも知れない。


 黒パンサンドとお茶と言う簡単な昼食だが、体を動かしているからお腹も空くみたいだ。ロディ達はもしゃもしゃと食べてるぞ。


 そして、午後の訓練を始めて数回休憩を取った時だ。

 ピィー!っという呼子の音が木霊した。

 クレイ達の方を見ると、森から沢山の野犬が飛び出してきたのが見て取れた。


 「ロディ、急いで呼子を吹いてダノンに知らせなさい。そして畑の端まで行って、子供達の避難を促がして!」

 

 ロディ達は急いで呼子を取り出して、それを吹きながら畑の方に移動していく。

 これで、子供達は一先ず安心だ。

 私の所に来るまでには、1分近く余裕がある。


 畑の方からも呼子が聞こえてきた。

 どんな感じにロディ達が布陣したか、此処からでは見えないけど2人一組ってとこじゃないかな。

 そして、10匹程の群れがクレイ達に見向きもせずに私に迫ってきた。


 団子状態だな。雪煙を上げながらやってくるぞ。


 「【アクセル】……。【ブースト】」


 呟くように小さく魔法を使う。

 そして、数歩後ろに下がった。

 野犬は逃げるものを追う性質がある。逃げる者、即ち弱者という事なのだろう。

 私に狙いを定めた野犬が、私に飛び掛る寸前に体を捻って回避しながら奴の鼻先に杖を叩き込む。

 その場で半回転しながら続く野犬を打ち据えた。

 

 更にやってくる野犬を前に私は舞うようぬ体を動かして杖を振るった。

 そして、1分にも満たない時間でやってきた野犬を倒す。


 少し離れた場所を数匹の野犬が通り過ぎるのを見て、杖を投げて1匹の腹を貫いた。急いで、荒地を上る野犬に火炎弾を浴びせる。

 2匹が畑の方に駆け上がったが、ロディ達は大丈夫だろうか?


 杖を回収して下を見ると、更に20匹程の群れがやってきた。

 群れの移動する正面になるように雪原を移動して【メルト】を放つ。

 爆煙の中から飛び出してきた野犬に走りより、杖で一撃する。

 1匹が更に荒地を駆け上がっていくのが見える。

 

 手傷を負った野犬に止めを差したところで下を見ると、どうやら、襲撃は終ったようだ。

 シガレイに火を点けてしばらく様子を見る。

 

 「大丈夫でしたか!」


 そんな声に振り返るとロディ達が畑の方から下りて来た。


 「私は問題ないけど……、ロディ達は?」

 「ちゃんと打ち倒しましたよ」


 そう言って、私に野犬の牙を見せてくれた。

 

 「その辺に転がってる野犬も貴方達にあげるわ。でも、野犬の報酬の中から50Lをダノンに渡して。彼も頑張って子供達を誘導してくれた筈だから」

 「そんなにして貰って良いんですか? ダノンさんは俺達の仲間ですから均等割りで支払いますよ」


 嬉しそうにそう言うと、野犬の牙と皮を回収し始めた。

 私は、ダノンの様子を見に、畑に移動する。


 畑には子供達は誰もいない。

 ダノンが私を見つけて歩いてきた。


 「いやぁ、一時はどうなるかと思ったぜ。だが、あいつ等は良くやった。子供達に危険を知らせた後は2箇所で仁王立ちだ。数匹が来たんだが、杖で打ち据えたぞ。俺のところまで来る野犬は1匹もない」

 「良かったわ。数匹取り逃がしたんで心配してたのよ。……子供達は引き上げたの?」


 「あぁ、引き上げた。今日は結構取れたみたいだから、あらためて獲らなくとも良いんだろうな。それに、そろそろ日が傾く時間だ。少し早いが俺達も終了だな」


 ダノンの言葉に頷くと、私は荒地へと足を運ぶ。

 ロディ達が一箇所に集まってるところを見ると、作業は終わったみたいだな。

 クレイやマーシャ達は未だ仕事の最中みたいだ。


 「ロディ。クレイとマーシャに今日は終了だって伝えてくれない?」

 

 私の言葉に2人が荒地を下っていく。

 今日の報酬は彼等だけで銀貨3枚近くになっているだろう。心も体も軽くなってるに違いないな。


 

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