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G-033 子供達を見守って

 「ちびっ子達は頑張ってるな」

 

 ダノンが折畳みの椅子に腰を下ろして、畑で網を振り回している子供達を微笑みながら眺めている。

 子供達の元気な姿を見ると、何故か顔がほころんでしまう。

 焚火のポットからダノンのカップにお茶を継ぎ足してあげると、彼は軽く頭を下げた。


 「今のところ順調のようね。でも、昨日はクレイ達が数匹の野犬を倒してるわ。油断はできない……」

 「だからこそ、姫さんだって此処にいるんだろ。あまり心配はいらないと思うぞ」


 そんなことを言って私に笑いかける。

 気晴らしにシガレイに火を点けると、折畳み椅子から立ち上がって周囲を見渡した。


 子供達は広い畑に幾つかの集団を作って雪虫を追っているようだ。

 今のところ小川に近付くグループはいないからロディ達も安心だろう。

 此処からはクレイやマーシャ達の姿は見えないが、畑の南にある荒地で左右に展開しているはずだ。

 子供達も荒地の方には行かないから、野犬が荒地の奥にある森や林から現れても十分対処する時間はある。


 しかし、あれだけ雪の中を走り回って疲れないのだろうか?

 バイタルエネルギーが私達と違うのだろう。寒いということは感じないのかも知れないな。


 それでも昼を過ぎると、動きが少し緩慢になってきたな。

 小さな集団に分かれて、雪の上に座ってお菓子を食べる子供達も出始めた。

 小さな子供達の中には町の方に引き上げる者も出始めた。

 後、3時間ほどで本日の雪虫獲りは終了だな。


 ダノンが焚火に鍋を掛けてスープを作り始めた。

 見回りをしているロディ達も、もうすぐ帰ってくるのだろう。


 「今年は群れが濃そうね」

 「あぁ、町の連中も喜んでるだろう。最低でも、10日間で50Lは稼げると思うぞ」


 ダノンが言うのは一番小さい連中でも50Lと言うことだ。ネリーちゃん達なら100L近くなるんじゃないかな?


 そして、小川の岸辺をこちらに近付いてくるのはロディ達だな。

 頭に布を巻きつけてマントを羽織り身長程の杖を持つ姿は、此処から見る限りでは一人前のハンターに見えるぞ。


 椅子に座ると、もう1本シガレイに火を点けた。

 

 「ロディは何とか仕込めそう?」

 「近場の罠猟なら一人前だ。後は経験だな。後2年ほどしたら、他のパーティと一緒にガトル狩りをすれば度胸も付くだろう」


 「罠猟で暮す分にはそれでいいわ。この町で暮すハンターだから、高望みはしないでしょうし……」

 「そうは言っても、一度は町を飛び出すぞ。ムチャをしなければ良いんだがな」


 確かに、一度ぐらいは町を離れるだろうな。

 それは、他のハンターと交流を持つ良い機会だ。そして、場合によっては伴侶も得られる。

 だが、それは試練でもある筈。

 ちょっとしたムチャで、2度と故郷の土を踏めないハンターがいることも確かなのだから……。


 「特に問題はありません。子供達も小川からかなり離れた場所で採取してます」

 「ご苦労様。体を温めて頂戴」


 ロディ達は鍋のスープを木製の椀に入れて、黒パンサンドを焚火で炙り始めた。

 パンが焼ける前に温かなスープを飲むつもりのようだ。

 そんな彼等を見ながら、私達もパンを焚火で炙り始めた。


 「……そうか。ならば、その足跡に沿って罠を仕掛ければ明日は獲物にありつけるぞ」

 「そう思って、罠の位置を変えてきました。折角荒地近くまで行くんですからね。まだ獲物は6匹ですから」


 近場でそれだけ狩れるなら十分だと思う。

 ダノンの言い方だと、明日には1、2匹が追加されそうだ。

 

 食事が済んだところで、お茶を飲む。

 ゆっくりとロディ達は焚火で体を温めると、再び小川にそって子供達の監視に出掛けた。


 昼を過ぎると子供達の数もかなり減ってきている。

 此処からでも赤い霧のように見えるのが雪虫の群れだな。

 四方からその霧に向かって、子供達が網を振り回す姿は勇ましく見えるぞ。


 ダノンがそんな子供達を眺めながらパイプを楽しんでいる。

 クレイやマーシャ達はどうなってるかな。

 呼子の音が聞こえないから、心配はないと思うのだが……。

               ・

               ・

               ・


 雪虫を追い掛けていた子供達の最後のグループが畑から町に戻っていく。

 未だ夕暮れには程遠いが、今日の採取はこれで終わりのようだ。

 いくら元気でも、やはり疲れたんだろうな。あれだけ夢中になって網を振っていたんだから仕方が無いことだ。

 家に帰って暖炉の傍で本日の成果を、親達と確認するんだろう。

 暖かい夕食を取って直ぐに眠れば、明日には体力が回復する。大人では次の日は寝込んでしまうに違いない。

 

 「クレイ達を呼びましょう」

 「そうだな」


 ダノンが立ち上がって、呼子を3度吹き鳴らす。

 遠くに見えていたロディ達がこちらに手を振っているところを見ると、了解したようだ。そのまま南に向かっていくのは、クレイ達に終了の合図を送るためだろ。


 ダノンが籠から大型の水筒を取り出すとポットに水を注ぎ足す。私は焚火の火を強めた。

 

 「これで、半分が終ったな。今のところ間違いは起こってねぇ。残りもこのまま行ってほしいものだ」

 「全くね。でも、珍しく良い天気が続くわね」

 「雪虫が群れる間は雪が降らねぇ。それも不思議な話だよな」


 あの小さな体の中に、それを知る手立てがあるのだろう。

 雪が降らない10日程の間に、彼等は群れを成して交尾するのだから。

 そして、雪虫採取が終ると大雪になるというのはこの町の言い伝えだ。


 ロディ、クレイ、マーシャのパーティが戻って来たところで皆でお茶を飲む。

 夕食はギルドでマリー達がスープを作っている筈だから、此処では簡単な休憩を取れば良い。


 「今日は野犬を3匹し止めました。南の林に集まってますが、近寄ってきたのは5匹です」

 「私の方は、4匹でしたね。森に集まっています。明日は出て来るかもしれません」


 「そうなると問題よね。明日は私も南に行くわ。どんな形で子供達を守るか、ギルドで相談しましょう」


 やはり、出て来たようだ。

 昨年は出なかったが、今年はハンターが3チームもいるという事を聞いて、小さな子供達を参加させる親も多いらしい。

 私の我が儘が逆に働いてしまったようだが、今更参加を取りやめるように告げることも出来無いだろう。

 

 焚火の火の始末をすると、もう一度皆で畑を眺めると供達が誰もいないことを確かめた。

 

 「さて、帰ろうか!」


 ダノンの言葉に、私達は町へ向かって歩き出した。

               ・

               ・

               ・


 「すると、姫さんがクレイとマーシャの少し上で待機するってことか?」

 「そうするわ。呼子を鳴らすから、ロディは私と子供達の間に入って。ダノンは子供達の誘導をお願い」


 「予想される野犬の数は100匹ですか……。少し準備がいりますね」

 

 クレイは私の予想数に驚いたようだ。

 

 「マーシャはガトルを相手にしたことがあるけど、野犬だって冬は危険よ。こんな感じに自分の陣を確保しなさい」


 そう言って、マリーの持ってきた紙に簡単な陣の作り方を書いて説明する。

 先ずは、杭を10本以上確保する。

 5m以上の距離を離して杭を4角形に打ち、ロープ張る。その外側に2D(60cm)程離して同じような柵をロープで作る。


 「簡単だけど効果はあるわ。ロープは出来るだけ張りなさい。ちょっとした障害で敵が怯んだ隙に刈り取れば良いわ」

 「これは、ガトルの時と同じですね」


 マーシャの言葉に私は頷いた。

 

 「ガトルも野犬が大きくなったと思えば、同じような対策で問題ないわ。でも、ガドラーは違うからそこは勘違いしないで」

 「分ってます。少なくともガトルが20匹以上なら直ぐに逃げますわ」

 

 なら、問題ない。

 一度戦っているから、如何に強力な魔物かは知った筈だ。


 「私達をすり抜けていった野犬はミチルさん1人で対応できるのですか?」

 「ロディ達が後ろにいるわ。野犬が来ない内に、少し杖の使い方を教えてあげようと思ってるからだいじょうぶよ」


 私の言葉にロディ達が顔を見合わせている。

 

 「あのう……、杖よりは剣を教えてもらいたいんですが」

 「剣はクレイに教えてもらいなさい。小さい頃から剣を習っていた筈よ。……でもね、貴方達が相手にする野犬やガトルなら剣を使わずに杖の方が便利なのよ。今日使っていた杖で丁度良いわ」


 「確かに長剣で野犬を倒すのは面倒ですね。でも、杖は長剣より長くなりますよ」


 クレイには分っていたようだ。

 長剣は必ずしも狩りに利点があるとは言えない。それは人を相手にした時に利点が多いのだ。獣や、魔物相手では片手剣の方が遥かに便利だ。


 「そうだ。今日で期間が半分過ぎたわね。報酬の半額を支払うわ。貴方達も宿代がかさんでるでしょう」

 

 簡単な夕食が終って、お茶を飲んでいたマリーが慌ててカウンターに向かった。用意は出来てたみたいだな。


 マリーが1人ずつ、銀貨2枚と10L銅貨を5枚手渡している。

 それを受取ったマーシャ達は少しホッとしているようだ。そういえば懐がさびしいようなことを言っていたからな。


 「助かりました。後2晩程度の宿代が残ってるだけだったんです」

 「たぶん、明日はもう少しみいりがあると思うわ。自分達のパーティで倒した野犬の報酬はパーティで分配しなさい」

 

 「俺は何にもないのか?」

 「ちゃんと報酬を貰ってるでしょ。でも、子供達に怪我人が無ければ酒代は私が出してあげるわ」


 私の言葉に喜んでるのも問題だけどね。


 そんな役割分担を終えたところでお開きにする。

 明日はちょっと面倒だから早めに寝よう。


 帰った私にミエリーさんが蜂蜜酒で迎えてくれた。

 暖炉の傍に座ると暖炉脇に木箱が積まれている。


 「今年は例年に無く沢山獲れているらしいですよ」

 「皆、頑張ってますわ。後5日ですからね」


 「やはり、ハンターが多いと安心できるようです」

 「でも、明日は場合によっては、子供達を避難させます。荒地の向うにある森にだいぶ野犬が集まっています」


 「危険ではありませんか?」

 「明日は、私も参加します。私の前にいるハンター達に野犬が集まったところで子供達を避難させれば、門の中に避難させるには十分時間がありますわ」


 ミレリーさんに勧めれれて、風呂に入ってベッドに入る。

 明日はちょっと面倒だが、クレイとマーシャのパーティが上手くやってくれるだろう。私の所に獲物がやってくるか疑問だな。まして、ロディ達の所に1匹ぐらい回してやるのが難しそうだぞ。

 

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