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G-031 政争に巻き込まれた者達

 今日は、山麓は吹雪だろう。

 窓の外に降る雪も一段と激しくなっている。

 こんな日のギルドは、明日の猟に備えて他のパーティと情報交換する者達が集まっている。

 暖炉の前も少し広くしてベンチを増設したようだ。

 そんなベンチの外れに腰を下ろして、お茶を飲みながら彼等の話に耳を傾けるのも良い暇潰しだ。


 そんな私の隣にダノンが腰を下ろす。

 

 「今日は流石に罠猟は中止だ。ロディ達は出掛けたいようだったが、この雪ではな」

 「ハンターは天候を注意しないとね。常に獣に襲われても対処できない状況では狩りを中止することを教えといてね」


 ダノンが立ち上がると暖炉でパイプに火を点けると、再び腰を下ろした。


 「大丈夫だ。結構その辺は心得ているんだが、他の連中をまだ抑える事ができないようだな。流されるところがあるぞ」

 「面倒見は良いんだけどね」


 ロディは、先天的なリーダーの素質を備えている。

 常に全体に注意して無理をしない。だが、パーティの統率と言う観点からは、他の意見に流されるところがあるようだ。

 人の意見を素直に聞くのは美点ではあるが、自分の考えを相手に伝える事は苦手なようだ。寡黙なリーダーってことになるんだろうか?

 パーティの1人が大怪我をして、自責の念にかられた所から脱出すれば、一皮向けるのだが、それも確かに極端な荒療治になるな。


 「こればっかりは、ロディの成長を待つ外はないわね。素質はあるんだから、将来に期待しましょう。……それより、義足が出来上がったの?」


 ダノンが近寄った時、暖炉に行って帰ったとき、あの特徴的なコツコツという音がまったくしなかった。


 「あぁ、見てくれ。全く分らんだろ。もっと早く気が付くべきだったよ」


 左足の裾を上げると、ブーツから義足が出ているが、その義足の太さは普通の足の太さになるように皮で覆っているようだ。


 「このブーツの中に金属の関節が入ってるんだ。ある程度足首の動きが出来る。ロディ達と野犬を狩るには何ら不自由はしねえ」

 「けっこう、精巧に出来てるのね。でも、貴方は確か短槍を使うのよね。足捌きまでは出来ないから、無理はしないでね」


 「心配かけるな。だが、この義足のおかげで座るのに苦労しねぇ。近くで罠猟や野草を取るには十分だ。来春には赤の連中に混じって薬草を摘めるよ。……どれ、明日に備えて罠を作っておくか」


 そう言って、私に片手を上げるとダノンは去っていった。

 確かに良く出来た義足だな。普通に歩いているぞ。

                ・

                ・

                ・


 「この村の筆頭と聞いたが?」


 30台の男が私の前に立つと、いきなり質問を浴びせる。

 その後ろに数人の男がいるようだ。さらに離れて2人の女性も仲間だな。


 「確かに、私が筆頭と思いますが、なに用ですか?」

 「私はオットーと言う。……狩りに徴用する、付いて来い」


 これはまた、いきなりだな。

 だいたいこんな大雪で何を狩るんだ?


 「一応、私にも同行を拒否する権利はあると思いますが?」

 「銀に逆らう黒はいないと思うが? 私は銀2つだ。十分だと思うが」


 なら、十分に拒否出来るな。


 「お断りします。それに現在依頼を受けています。他の依頼を受けるのはギルドとハンターの関係で問題になりますよ」

 「銀の依頼を断わる方が問題となろうが!」


 結構怒ってきたぞ。それでも、長剣に手を掛けないだけ偉いと思うな。

 私は、少し離れたベンチを指差した。

 ここは、交渉の余地があると思ったのだろう。オットーと名乗った男は仲間と共にそのベンチに座ると、成り行きを見ていた女性も隣のベンチに腰を下ろした。


 「私の受けた依頼は、少し変わった依頼です。他のパーティの受けた依頼の助言。これは説得を含みます。そして、その依頼に対して私が同行することを拒みませんが、その判断は私がしても良いことになっています。

 ですから、あなた方がどんな狩りをするか分からない以上、私は断ることになるんです」


 「私のパーティは此処にいる6人だ。リーダーは隣のリカオン・カエセル様が務める。王都の有力貴族に連なる者だ」


 繋がるという事は中級貴族なんだろうな。

 オットーの話は長そうだ。シガレイに火を点けて、ゆっくり聞き始める。


 「カエセル家でダイムラーを狩ることを決意した。当主の命がリカオン殿に下り、我等はそれを補佐する。お前がたとえギルドの依頼を継続中であっても、それを覆すことは出来ると思うが?」

 「ご隠居の依頼でもですか? それをカエセル家が覆すとなれば、当主は難しい立場になると思いますが?


 そう言って、バッグから少し黄ばみ出した書類を取り出した。

 女性の1人が立ち上がると、拝見しますと言って私から書類を受取ってオットーに渡す。

 それを隣のリカオンも覗き込んでいるぞ。


 「正しく、ご隠居の署名だ。となると、先程の我等が依頼を優先して欲しいとの言葉は忘れて欲しい。……そして、この条文で我等の手助けをしてもらいたいのだが」

 「注意書きを読みましたか? 無謀と判断した場合は助力の対象外。……この場合は無謀と判断します」


 「我等のハンターレベルは私が銀2つで、銀1つが1人、黒8つが3人に青1つが1人だぞ。ダイムラーの討伐レベルは銀。十分に狩れる筈だ。若のレベルが低いのでそれをお前に補って貰えば我等で倒せると思うのだが?」

 

 私の言葉にオットーが席を立つと書類を丸めて私につき付けた。

 私は少し腰を浮かせて前に出るとその書類を受取って、片手でマリーに合図する。

 説得から始めるか……。


 ベンチの前にテーブルを持ってくるとマリーがノートを開く。

 そんなマリーを不審な顔で見ているが、これはギルド側のことだから私にかかわるものではない。


 「オットーさんはダイムラーを見たことがあるんですか?」

 「無い。それで、ギルドの図鑑と王宮の資料庫で調査した。

 大きさはグライザムの約2倍。姿はガトルに類似しているが頭は2つで足が8本とあった。厳冬期に山麓でたまに姿を見せると記録されていた」


 「補足しましょう。ダイムラーは魔物ですが、その体を覆う毛皮は本体が姿を消しても残ります。細く長く、白銀の毛皮は雪レイムの柔らかさを凌ぐ物です。そのため、過去には大規模に狩られたとということです。

 そして、狩る為に必要な魔法は【ブースト】、この魔法を使える魔道師は現在では私1人でしょう。何故か廃れてしまったようです。

 深い雪の上を平地のように動く相手をどうやってし止めるのですか?

 私には、無謀としか思えませんが?」


 セリーが運んで来たお茶を一口飲んで、オットーが口を開いた。


 「だが、20年ほど前に1匹が狩られたのだ。その毛皮は国王の玉座を覆っている。あれを手に入れるのが我等の目的となる。

 そして、過去に狩ったハンター達は前衛、中衛、後衛共に2人ずつのパーティであったらしい。

 我等も、同じように揃えているが、中衛の若を補佐する者が欲しかったのだ。お前はエルフ、そして筆頭ハンターであれば黒の高位の魔道師であろう。中衛として使うのであれば十分であると私は思っているのだ」


 前回って私達のパーティだよな。あれは狩る事は出来たのだが1人を亡くして、1人は重傷だった。故郷に帰ったのだが程なくして亡くなったと聞いたぞ。

 まだ、私が銀3つの頃だった。そして、今回は銀2つが筆頭という事は、全滅することになるのだろうか?


 「先ず、誤解を解いておきます。私はこの容姿ですが、前衛です。

 そして、その狩りの結果を聞いていないのですか? 獲物を狩れたことは確かですが6人中2人が亡くなっています。そしてそのパーティの筆頭ハンターレベルは銀3つでした。もし、貴方達で出掛けるなら全滅しますよ。私はそんな無謀な狩りには同行できません。同行しても狩りは成功しませんし、此処に戻ってくる者は私1人になります」

 

「それ程、臆病なのか? 狩りに参加せず隠れるという事か?」


 オットーの私を怪しむ声に思わず笑い出した。

 その笑いに全員の顔が険しくなる。


 「ははは……失礼。余りにもおかしかったんで、つい笑ってしまいました。

 かつて、2人を失いながらダイムラーを倒した私を、臆病者呼ばわりするのであればどうぞ狩りに行ってくださいな。

 リカオンさんは長男の筈、兄弟も多いでしょう。カエセル家は安泰です」


 「待て!……すると、お前はかつてダイムラーを倒したことになる。だが、あれは20年も前の話、そうであった、エルフなのだな。

 だとすれば、余計に助力をお願いしたい。我等は何としてもダイムラーを狩らねばならん」


 「その理由は聞かないでおきましょう。ですが、かなりの軍資金を渡されたのではないですか?」

 「確かに、奥方より金貨以外に装身具を頂いた。リカオンをよろしくとの言葉とともにな」


 やはり、そんな裏があったという事だな。

 早い話が、長男を亡き者にしようと誰かが策を取ったという事だ。

 あえて、長男を合法的に殺すのであれば無理な討伐を命じれば良い。

 確かに過去に狩られた魔物なのだ。

 それが銀レベルであるという事であれば、銀を持つハンターを2人加えれば、世間的には十分だろう。

 そして、当主としても長男にハクを付けたいのは山々だ。 

 いったい誰がそんな話を当主に持ちかけたのかは問題だが、一度命じたものを撤回するのは当主としても問題だし、既に王都を出発しているこの連中にも問題となる。


 「どうやら、陰謀に上手く載せられたみたいですね。カエセル家は他の貴族の工作に載ってしまったようです。たぶん弟の誰かに何処からか輿入れするか、次々と弟達を同じように始末して妹に婿として入ってくるか……」

 「それ程暗愚な当主ではありませんぞ!」


 「でも、現に貴方達は此処にいます。私が参加しても助かるのは私と運が良ければオットーさんぐらいなものですよ。毛皮を持って王都に帰っても誰が喜ぶのですか?」

 「では、どうしろと……」


 私は周囲をあらためて眺めた。

 ギルドには誰もいないな。ベンチを寄せるように言うと、3つのベンチが暖炉の傍に寄る。


 「他国に逃げなさい。2度とパイドラ王国には戻れないわよ。

 町で食料を大量に買い込んで山に行くと見せかけて出掛ければ誰も怪しまないわ。このギルドで貴方達の消息は途絶えるの。ギルドの公式記録ではオットーさんの徴募にだれも応じなかったと書かれることになる。

 これで、少なくともカエセル家は面目を保てるわ。

 パイドラ王国から間に1つ王国を挟んでおけば誰も貴方達の事は知らない筈だから、1から出直して暮らしなさい。

 それ位の貯えは持ってるでしょう。暮らしが立つようになったら偽名で母親に連絡すれば良いわ。装身具の1つを入れておけば安心する筈だわ。

 お母さんは少し分っていたようね。でないと装身具までは渡さなかったでしょうね」


 オットー達は私に頭を下げてギルドを出て行った。

 宿に帰って相談をするんだろう。

 貴族は色々と面倒だな。

 政争に子供を巻き込まなくても良さそうなものだが、そうでもしないと勝てないんだろう。だが、それを他者が仕掛けないとも限らないのだ。

 出る杭は打たれる。って格言もある位だからな。

 


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