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G-030 ロディ達の将来像

 リンゲル採取を請負ったクレイ達が帰ってきたのは5日目のことだった。

 昼過ぎにギルドの扉が開いて中に入って来た4人はまるで雪だるまだ。

 セリーが彼等に停止を命じて、箒で体の雪を払っている。

その雪をモップでかき出しているのはマリーだな。中々の連携作業だぞ。


 そして、マントのフードの下から現れたのはクレイ達のパーティだった。

 私の座る暖炉傍のベンチに3人が急いで駆け寄って暖をとる中、クレイはカウンターで獲物を手渡している。

 狩りそのものは成功だったようだな。

 たぶん私に報告してくれるだろう。私は片腕を上げると指を鳴らして、彼等を指差しお茶を注文した。


 クレイがゆっくりと私の前に足を運んでベンチに座る。

 その後ろから、お茶のトレイを持ってセリーがやってきた。

 私達の前に並んだお茶を、私に軽く頭を下げてクレイ達が飲み始める。


 「狩りは成功でした。大木の洞を見つけると、先ず【メル】を放って様子を伺い、何も無い事を確認したところで【シャイン】を使ってリンゲルを探すという方法は上手くいきました。

 何度か、獣が飛び出しましたが雑食性の獣のようです。毛皮を剥いで持参しましたが、それだけで120Lになりましたよ」

 「そのやり方なら問題ないわ。でも、たまに大型が出るから油断はしないでね」


 ちゃんと教えた通りに行動したわけだ。

 獣が何回か飛び出しているから、不足の事態に対する対策も彼等なりに考えているだろう。幾ら冬眠中とはいえ、大型獣を彼等のレベルで狩るのは大変だからな。

 簡単な対策もあるのだが、あまり教えたくはない。


 「狩りそのものは大変上手く運んだと思っています。問題はその後にやってきました」

 「山が雪に覆われたってことね」


 私の言葉にクレイが頷く。

 雪山の経験がなく、装備もいい加減ならパーティが全滅する事態もあるのだ。一応、冬山装備の話をしておいたのだが……。


 「最初は、たかをくっていました。山々が白く彩られていくのを皆で眺めていたんです。

 ですが、段々降りが強くなって周囲が見えなくなってきました。急いで野宿の準備を始めて雪山の始めての野宿をしたんです」


 そこまでは問題ない。できれば雪を見ていないでさっさと尾根を越えるべきだとは思うけどね。


 「雪がはげしい時は動くなと言われましたから、小さな焚火を作ってマントを繋いで風を避け4人で身を寄せていたんです。

 そして、次の日。周囲は一変していました。

 僕たちが下りてきた尾根は膝よりも深い雪に覆われていました。

 尾根越えを断念して、ミチルさんに教えていただいたように、南に谷を降りて湖の岸辺を目指しました。

 最初に余分に3日の食料を持てと言われた意味はその日の内に理解しました。普段の半分も進めなかったんです。

 1日半掛けて湖に出て、2日半掛けて町にようやく辿り着きました」


 そう言って、ゆっくりとお茶を飲みだした。

 まぁ、無事に帰ってきたことを褒めるべきだろうな。

 これに懲りてということは今までの話には無かったようだ。ハンターになった以上、厳冬期でも狩りをする機会はある。

 それができないハンターならば雪が殆ど降らない南方の村や町に行くべきだろう。


 「採取を成功させ、まだ始まりだとはいえ雪山から無事生還できたんだから大したものよ。雪山の怖さが少しは理解できたでしょ。そして、どんな装備が必要なのかも理解したと思うわ。

次は、狩りをやってみたら? 先ずは、野犬。それがちゃんと出来たなら、ガトルを刈りなさい。雪山はある意味、中級ハンターの良い狩場なの。大型の食肉用の獣が山奥から降りてくるわ。問題はその獣達を追って肉食獣も降りてくるんだけど、その代表的なものがガトルなのよ」


 シガレイを暖炉で火を点けながら、クレイに話をする。

 左右のメンバーに小さな声で話をしてるのが、おもしろいな。

 

 「僕たちを指導していただけるのはありがたいと思っています。

 ですが、深い雪の中では思うように剣を振れなくなります。雪山でガトルを刈るのは無謀ではないでしょか?」


 十分に、雪の怖さが分かっているようだ。

 リンゲル採りは無駄ではなかったな。


 「そんな事は無いわ。現に、幾つかのパーティが雪山で獲物を狩ってるわよ。彼等は貴方達よりもレベルは高いけど、ガトルの群れぐらいでは容易に撃退するわよ」

 「僕達よりも剣の腕が上ならばそうでしょうね」


 クレイの応えに、思わず笑い出してしまった。

 4人が顔を上げて私を見て驚いている。

 

 「ははは……御免ね。クレイの呟きがおかしくて」

 「変な事を言いましたか?」


 「さっき、自分よりも剣の腕が上だと言ったでしょ。全く違うわ。剣の腕なら貴方達の方が遥かに上よ。

 でもね、彼等は雪の中でガトルを狩れるわ。何故だか分かる?」


 今度は首を捻り出したぞ。

 ひょっとして、剣を習う時に教えて貰わなかったのかな?


 「クレイは剣を持つ相手と戦う事になった時、貴方は相手の隙を見て剣を打ち込みなさいと習ったのかしら?」

 「その通りです。その為には周囲の全てを利用しろとも言われました。相手の周囲を移動しながらなるべく風上から襲えと……」


 「先手必勝って訳ね。中々の人物だわ。でもね、雪山ではそれが出来ない。足場が不安定なのが問題になるの。

 それだから、雪の中の戦いは後の先をとる形になるわ。

 敵に攻撃させて、その攻撃を受ける前に反撃すると言うことなんだけど、理解出来るかな?」

 「こちらから攻撃するのではなく、相手に襲わせる。そこを攻撃するということですか?」


 「その通り。そして、獣は武器を持っていないわ。牙、腕、角……、それらが相手の武器ではあるのだけど、クレイが持っている長剣よりは劣った武器でしょ。敵の牙が届く前にガトルを切りつけることが出来る筈よ」


 クレイともう1人の男が目を瞑って頭の中でシュミレーションをしているようだ。

 しばらく閉じていた目を空けると私の顔を見る。先程と違って自信に溢れているな。


 「可能です。なるほど、それでハンター達は自己流でもそれなりの狩りが出来るんですね」

 「とは言え、足場が不安定な事は事実だから、前衛は壁、後衛が主役と考えれば問題ないと思う。厳冬期にガトルを倒せれば一人前よ。優に青レベルはある事になる。貴方達は実力はあるけど経験がないだけだから、驕ることなく狩りを続けなさい」


 クレイ達は私にお茶のお礼を言うとギルドを去って行った。

 風呂にでも入ってゆっくり眠れば疲れも取れるだろう。風呂が無ければ蜂蜜酒になるかな。

 この冬頑張れば、白はもう直だ。

 根がイイ奴だから、将来はこの町の筆頭ハンターになれるだろうな。

                ・

                ・

                ・


 ガヤガヤと賑やかなハンター達が帰ってきた。大きな袋を取出したところをみると罠猟のハンターだろう。どうやら大猟らしいな。

 そんなハンター達が私を見て頷き合っている。これはひょっとするのかな?


 「姉さん、どうだい。俺達と酒を飲まねえかい?」

 

 1人のハンターがやって来て私を誘う。


 「ごめんなさいね。もう直、相棒が狩りから帰ってくるのよ」

 「やはり、そうだったのか。 いや、あんたみたいな別嬪が1人でいる訳がねぇな。悪かった」


 そう言って、帰っていく。

 数人のハンターがその顛末を聞いて男の肩を叩いてる。

 まぁ、罪のない連中だ。

 私を誘ったのは善意だったんだろうな。

 

 そんな、ところにダノンに連れられたロディ達が帰ってきた。

 ロディがカウンターで袋を取出したところを見ると、獲物にありつけたようだな。おもわず顔が綻んでくる。


 コツコツと義足の音をたてて私のところにやってきたダノンが暖炉でパイプの火を点けてベンチに座り込んだ。


 「6匹だ。やはり、雪が降ると獲物が多くなるな」

 「レイムだけじゃなさそうね」


 「見てたのか? あぁ野犬が4匹だ。俺も手伝ったが奴等が狩ったのは間違いねぇ。立派な罠漁師だよ。後、3年もすれば山で罠を仕掛けられるぞ」

 「あまり、無茶はしないでね。まだまだ子供なんだから」


 「大丈夫だ。それは考えてる。精々畑までにしろと言ってある。それに、野犬の群れはまだ無理だ」

 「あそこに群れてるハンターがいるでしょ。さっき、酒場に誘われたんだけど、ダノンが奢ってあげて」


 そう言って銀貨を3枚手渡す。


 「相手を考えて誘うもんだ。まぁ、悪気はないと思うぞ。罠猟が上手くいって喜んでるんだろう。俺が相手をしてやるよ」


 私に片目を瞑ると席を立って、ハンター達の中に入っていく。

 気のいい連中で狩りの成功を祝うといいだろう。


 さて、と考えてみる。

 この先、問題となるのはロディ達だな。

 男女4人のメンバーでパーティを組んでいるのだが、冬場の野犬狩りが出来るようなら、来春はいよいよ本格的に狩りをし始めるだろう。

 やはり、長剣を使うのだろうか? 女の子たちは弓を使うのか、それとも教会で魔法を買うのだろうか?

 【メル】ならば200Lだから、頑張れば買えないこともないだろうな。

 

 そんな事を考えていたら、何時の間にか外が暗くなっていたので、マリー達に別れを告げて下宿に帰って行った。

               ・

               ・

               ・


 「そうですか。ロディも一人前にもう直なるんですね」

 「今度は私達が一番上になるの。来春には小さい子達が集まるんだって!」


 そんなネリーちゃんの言葉に、私とミレリーさんが思わず顔を見合わせて微笑んだ。

 

 「この冬、ダノンが仕込めば十分ハンターとして通用するでしょう。赤6つぐらいにはなるかもしれません。そうなった後がちょっと心配ですね」

 「過信ですか……」


 ミレリーさんに頷いた。

 自分の技量をどれだけ正しく評価できるか。

 簡単なようで意外と難かしい。

 下にみれば何時までたっても採取が主流になる。狩りは採取を邪魔する獣に限定されるだろう。

 そんなハンターが多いことも確かだが、それでは何時までたっても黒にはなれないだろう。

 とはいえ、安全な狩りではある。所帯を持ち、子供がいるハンターはたいがいが、罠猟を行うようだ。

 そして、過信した場合は自分の命や仲間の命を危険に晒す。

 これは私のパーティでもあったことだ。常に戒めるのは過信に外ならない。


 「【サフロ】でやっと…ぐらいの怪我をすれば数年はそんなことは起こらないんですけどね」

 「それも、極端ですわ。でも、過信を戒める事例は多いのですが、それを他者と見てしまえばそれまでです。忠告しても聞く耳がなければ意味がありません。確かに難かしいですね」


 まだ時間はある。ロディ達の動きを見ながら考えていこう。

 とりあえず、ロディ達の今後のフォーメーションと役割にあった武器だな。



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