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G-029 雪の怖さ

 クレイ達が冬に生え茸、リンゲルを採りに出掛けて2日目に、今年最初の雪が降った。

 高い山々の頂はとっくに真っ白だったが、急に20cm近くの雪に町は覆われている。

 これで、ハンター達の罠猟が本格化する感じだな。

 厚手の服装をしたハンターが朝方は結構集まってたからな。


 ハンター達は分散して町に宿泊しているから、ギルドで集合してから出掛けて行くパーティが多い。

 私と一緒に暖炉でパイプを吸っていたダノンもロディ達の仲間が揃ったところで席を立った。


 「行って来るぞ。今日は罠の掛け替えもしなければならん。結構、物覚えがいい奴ばかりだから、来年は奴らだけで罠猟が出来るぞ」

 「滑るから気を付けるのよ」


 私の言葉に片手を振って応えると、ロディ達と共にギルドを出て行った。

 

 昨日仕掛けたばかりだから、最初の獲物を果たして獲れるかどうかが楽しみだな。

 1匹でも掛かっていたら、俄然頑張るだろうけどね。


 「よろしいですか?」

 「ええ、良いわよ」


 テーブル越しにベンチに腰を下ろしたのはマーシャ達5人組だ。女の子2人は私の座るベンチに腰を下ろした。


 「今日は、初めての雪なので狩りを止めにしました。依頼書を見ると、ガトルや野犬の依頼がありますから、明日はそっちを狩ろうと思います。

 そこで、雪の中の狩りについて注意することがあれば教えてくださいませんか?」


 白になり立てでガドラーを狩ったのが、自分達の自信を深めたに違いない。

 あれから、ガトルを専門に狩っていたから今では白の3つにまでレベルを上げている。来春までには白の4つになることは間違い無いところだな。

 そして、彼等は驕ることがない。何時も謙虚だから、他のパーティと共同で狩りをすることも度々だ。

 知らない事は素直に人に尋ねるから、他の連中が教えてるところを目にすることもある。

 

 「そうね。……今まで、雪の中で野犬を相手にした事はなかったの?」

 「ずっと、南だったので。」


 「なら、一度町を出て南の門から北の門まで歩いてきなさい。そして、もう一度ここに来てから話してあげるわ」

 

 雪がどんなものかは実際に体験しないとわからない。

 一番いいのは少し歩いて見ることだ。


 私の言葉に頷くと、5人はギルドを出て行った。

 そんなマーシャ達を不審な目で見ていたマリーがとことこと私のところにやって来る。


 「何時もの狩りだと思ったんですが、依頼書を持って来ませんでした」

 「マーシャ達は南から来たでしょ。雪の中の狩りを知らないのよ。注意する点を教えて欲しいと言うから、町の外を一回り歩いてきなさいって言ったの」


 「そんなの、厚着をして出掛ければ良いと思いますけど……」

 「色々あるのよ。でも、先ずは彼女達が自分でどれだけ理解出来るかが問題ね。帰ってくれば分るわ」


 マリーは首を捻ってる。

 まぁ、ハンターじゃないからな。雪はハンターの行動をかなり制限する。その制限が相手にも当てはまるなら問題はないのだが、えてして相手にはそれ程制限が掛からないのだ。

 

 「町の外を一回りだからそれ程時間は掛からない筈よ。帰って来たら、マリーも同席したら? 雪を知らないハンターにアドバイスができるわよ」

 「そうですね。それじゃ、ポットにお湯を沸かしておかなくちゃ」

 

 暖炉脇のポットを手にして、マリーがカウンターへと戻っていく。

 そんなマリーを微笑んでみていたけど、ふと自分の笑みが消えた。

 あの4人組みはどうなったのだろうか?

 往復3日で予備食料を3日分。果たしてそれで足りるだろうか?

 出来れば猟を断念して早く戻ってきてほしいものだが……。

             ・

             ・

             ・


 2時間程過ぎた頃、マーシャ達が帰ってきた。

 ブルブルと震えながら暖炉の傍のベンチに腰を下ろすと、早速マリーがノートを持ってやってきた。


 そんなマーシャ達にマリーがお茶を配ってる。

 冷えた体には何よりの御馳走だろう。


 「普段とだいぶ違うのが分ったでしょ?」

 「そうですね。何と言っても寒さが違います風が出てくると凍えるような寒さです」


 「もう1つ、大事なことがあるわよ。普段と違って歩きづらかった筈。深みに入らなかった?」

 「数回ほど、ブーツが潜ってしまいました。ブーツから雪を出すのが大変でした」


 「その2つが雪原での猟を考える上で重要なの。1つずつ説明するわ……」


 私は、順序立てて説明を始めた。

 最初に一番重要なことは寒さ対策だ。

 革の上下の下に少なくとも綿のインナーを2枚着ることが必要だ。少し丈の長いセーターも必需品になる。

 頭も、毛糸の帽子が必要だ。その上に革製の頭巾を被れば良いだろう。

 靴下は出来れば薄い靴下をもう1枚履けば万全だろう。

 そして、ブーツに雪が入らないように布でレッグウォーマーのようにパンツとブーツを包んでおく。さらに、手袋も必要だ。


 「大事なことは、着こんもちゃんと体を動かせることと、長時間歩いても汗をかかないことよ。動きが鈍くなったら、狩る立場が逆転するわ。そして、雪原で汗をかいたら凍死するかもしれない……」


 次に歩くための道具だ。

 これは道具屋でスノーシューを買うしかあるまい。安くても良いから丈夫なのが欲しい。

 最後に、杖とロープ、それに小さなスコップだ。


 「今はまだそれ程積もっていないけど、森や山では1mぐらいに積もるわよ。猟をするならさっき言った道具が必要ね。それと、万が一に備えて火を起すために少しで良いから薪を持っていきなさい。雑貨屋には小さなコンロを売っているけど、そこまで必要はないわ」


 そして、万が一のために雪洞の作り方を教えておく。

 枝で屋根を作り、それに雪を被せて、その中で小さな焚火を作れば凍死することはない。


 「雪の中では絶対に無理をしないこと。雑貨屋に行けば使えそうな物は色々売っているから、覗いて見るのも良いと思うわ。

 そして、狩りのしかただけど……。

 前衛は出来るだけ動かずにその場で戦いなさい。後衛が冬場は主力よ。前衛は後衛を守ることに専念して、可能な限り魔法と矢で倒しなさい。

 スノーシューを履けば直ぐに分るわ。前後左右に機敏に動くなんて絶対無理よ」


 「攻める狩りではなくて、待つ狩りに徹すれば良いということですね」

 「基本はそうなるわ。冬に肉食獣を狩るハンターが少ないのは、それが理由なのよ」


 マーシャが私にそう言ったところをみると、少しは理解出来たのかな?

 まぁ、装備を整えたところで、もう一度待ちの外を回ってみれば分ることだ。


 5人が私達の前から去ると、パタンっとノートを閉じた、マリーが私の前のベンチに移動する。


 「ダノンさんを頼むのも良いのではないですか?」

 「ダノンは罠猟の手ほどきをしてるでしょう。それに、ダノンも私と同じで基本的なことを教えられるだけだと思うわ。本当は一緒に狩りをしながらその時々に応じた教え方をするのが良いとは思うんだけどね……」


 「一言では言えないってことですか?」

 「ある意味、生き残る手立ての模索ってことになるのかしら? 

 どんな時でもそれは必要なんだけど、この町のような北の山に近い冬場では特に必要だわ。そして、一番の解決策もあるのよ」


 「それって?」

 「この町から、南へ旅立つこと! 沢山のハンターがこの町を離れたでしょう。確かに冬場に自分達の技量に合った獲物が少ない事もあるんだけど、もう1つの理由は雪の中で猟をするのが大変なことだと仲間から知らされているってことだと思うわ」


 ハンターは経験談を共有する。酒場や、ギルドで聞かれればそれなりに応えてくれるものは多いはずだ。

 ハンターはハンターが育てる。という言葉があるぐらいだからな。

 その話を単なる酒の上のほら話と聞くか。それとも、それは問題だと自分達のパーティで対策を考えるか。この両者の違いがその後の運命を左右することだってままあるのだ。

 あまり突飛な話は、他のハンターにも聞いてそれを総合的に判断することになるのだが、まだマーシャ達にはそんなことまで考えることはないだろうな。


 「忠告に対して、どのように応用するかを考えさせるということですか?」

 「それが出来れば、立派なハンターよ。黒には到達出来るでしょうね。だから、色んなパーティと一緒に狩りをするの。それは狩の技術だけに必要なだけではないわ。ハンターは臆病なぐらいが良いと思う。でも好奇心は欲しいわね」


 勇気は蛮勇に繋がる場合が多い。とはいえ、仲間を守るぐらいは欲しいけどね。パーティが臆病なら、狩りの準備は念入りに行なう。

 獣を狩るということは、自分も狩られる立場にあるということを理解できているハンターがどれだけいるのだろうか?

 常に状況は流動的だ。狩れるか狩られるかは、ホンの些細な準備の違いによって変わる場合だってあるのだ。


 「臆病なハンターですか……」

 「まぁ、極端な例よ。世間にそう言われるぐらいのハンターなら大成すると思うわよ」


 ちょっと首を傾げながら、マリーがカウンターに戻っていく。

 さて、どんな装備をマーシャ達は揃えるのだろうか?

 昔の自分の失敗を思い出しながら、シガレイに火を点けた。

             ・

             ・

             ・


 昼過ぎに、バタバタと元気よくギルドに入って来たのはロディ達だ。最後にダノンが入って来て、私の方に歩いてくると暖炉の前に座り込んだ。

 早速パイプを取り出して暖炉で火を点けている。


 「どう?」

 「2匹も獲れたぞ。意外と町の周辺は盲点だな。雪レイムの足跡が沢山あった。明日は5匹は堅い」


 自分の事のように喜んでる。ロディ達もこんなダノンなら素直に言うことを聞いていたに違いない。

 それにしても、2匹か……。ロディは意外と勘が良いのかも知れないな。

 勘が良くて、リーダー気質を備えてるなら、将来がますます楽しみだぞ。


 「これで、体を温めて。後数日はお願いするわ。一度吹雪きの中の対処を教えて欲しいんだけど」

 「すまねえ。そうだな、確かに教えとく必要があるだろう。町の近くとは言え、吹雪がいかに危険かは体で感じるほかねえからな」

 

 私の手から1枚の銀貨を受け取って、ダノンはギルドを出て行った。

 酒場で飲む1杯の酒の方が、暖炉よりも体の中から温めてくれるに違いない。


 ロディ達を見ると、マリーから説教を受けてるみたいだ。

 獲物があったことから、少し町から離れて狩りをしたと思ってるのかな。

 ロディの言い分を全く聞かずに一方的に説教するのはどうかと思うけど、それだけロディ達を気遣っているんだと思いたいな。



 

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