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G-028 もうすぐ雪が降る

 秋が終わると、町に住処を持たないハンターが南に向かって帰っていく。

 それでも何人かのハンターは宿に泊まらずに民泊しているようだ。例え、宿泊費が宿代の半額以下でも、レベルの低いハンターにとっては辛い季節になる。

 

 ギルドの依頼書の数もかなり減って、4つの掲示板に貼ってある依頼書の数は10枚にも未たない。僅かな報酬を得る為に、ハンターが無理をする季節でもある。

 

 「ミチルさん、ちょっとよろしいですか?」

 

 男女4人連れの駆け落ちパーティだな。リーダーはクレイが勤めている。

 レベルが低いから、南の村に出掛けることを勧めたのだが、ある程度の貯えが出来たみたいで、この冬はこの町で暮らすことにしたようだ。

 

 「良いわよ。座って」


 4人が暖炉の前のベンチに腰を下ろしたところで要件を聞いてみた。


 「この依頼なんですが、茸って冬に採取出来るんですか?」

 

 確かに、素朴な疑問だよな。私だって最初は驚いたものだ。

 だが、どういう分けかこの茸は冬にだけ採れるのだ。匂い、そして歯応えが良いから結構な需要があるんだが、ある意味高級品でもある。目の前の4人は下級貴族だから先ずは食べる機会は無かったろうな。


 「不思議な事に採れるのよ。報酬も中々でしょう。1個20Lだから、王都に行けば2倍以上になるはずよ」

 「高級品という分けですか?」


 「受けるんだったら、採れる場所を教えるわよ」

 「僕達のレベルで採れるんでしょうか?


 「他のハンターなら、止めるんだけど……。クレイ君達は剣術の訓練を受けてるでしょ。ど素人じゃ無いし、ガトルや野犬も倒してるから私は受けても大丈夫だと思うわ」

 「何か、かなり危険な感じがしますが、ミチルさんが教えてくれるならやってみましょう」


 片腕を上げて、パチンと指を弾くと、待ち構えていたようにマリーがやってきた。

 私の隣に座ると早速、ノートを広げる。


 「先ず、採取依頼にしては赤の7つというレベルに気を付けなさい。ただの茸採取ならば精々赤2つがいいところよ。そして、報酬が高いことから、赤5つぐらいのハンターがこの依頼を受けてしまうんだけど。ある意味、自殺行為に人しいところがあるわ」


 「毒を持っているんですか?」

 「そんなことは無いわ。ただの茸よ。黄色の親指みたいな茸よ。……その危険性は、この茸が採れるところにあるの」


 シガレイに火を付けながら、マリーがノートに挟んできた地図を広げる。

 

 「この尾根を1つ越えた辺りには大木がゴロゴロしてるでしょ。その大木の洞の中に問題の茸、『リンゲル』が生えてるのよ。

 そして、今は冬。この辺りで天気が急変したら移動も困難になるの。

 まだ、雪は降っていないけど、何時振り出してもおかしくはないわ」


 「雪が降れば、このように山裾に抜けて荒地を帰ることにします」

 「それなら、帰ってこれるでしょう。そして、最後の問題。……大木の洞は獣の住み家でもあるの。

 大木の洞にリンゲルが生えている確率よりも獣が住んでる確率の方が高いわ。獣の住処でリンゲルを探すと考えた方がいいかもしれない」


 「そして、洞が大きければ大きいほどリンゲルの生えている確率は高まるわ。それと共に中に住む獣も大型になる……」

 「なるほど、ちょっと興味をそそられますね。……で、最大ではどれぐらいの獣を想定すれば良いでしょうか?」


 クレイは、長剣の腕だけなら優に白レベルは持っている。もう一組は槍と弓だが、槍の腕はそれなりのようだ。

 

 グライザムの小型版で『グレイル』というのがいるかも知れない。グライザムとの違いは剣も槍も弓も有効に使えるわ。それに冬眠中だから動きは鈍い。貴方達なら比較的楽勝だと思う。それ以外だと、ガトルや野犬は覚悟しておくことね。蛇もいるけど、冬眠中だから簡単に倒せるわよ」


 「厄介なのはグレイルですね。洞にいるということを前提に対処すれば、不意を突かれることもありません。他に注意すべきことはありますか?」

 「雪よ。……食料は最低でも3日分は余計に持ちなさい。そして、ブーツの下に、こんな感じで、蔦を丸めて革紐で縛る。そうすれば、雪に足が潜る深さが浅くなるわ。杖は絶対必要よ。ロープも持っていくこと。そして、急斜面の移動は絶対にしないこと」


 北の山脈に続くこの町の山々は、一旦雪が振り出すとしばらく続く。そして、50cm程積もってしまうのだ。山の尾根は危険だから麓に向かって遠回りをしなければならない。

 

 「この尾根であれば、採取を含めて3日ですね。予備を含めて食料は十分に用意します」

 「ガトルの牙はギルドで報酬が別に出るし、毛皮は雑貨屋で買取ってくれるでしょう。あまり無理をせずに行くのよ」


 そう言ってクレイ達が立ち上がる。

 私に頭を下げると、テーブルの依頼書を持ってカウンターに向かった。


 そんな4人を見ていたマリーが話し掛けてきた。


 「そんなに危険な採取だったんですか?」

 「結構、人によるところが多いの。レベルも赤の5つでしょう。慣れると結構容易い採取ではあるわ」


 依頼書にはそんなものも結構ある。

 私が前衛と後衛にこだわるのは、それを考えてのことだ。

 この依頼を、前衛である長剣を持つハンター4人が請けるとなれば、結構難しい採取になる。

 洞の中は結構暗い。光球が使えなければ松明を使うことになるだろう。そして松明を洞に入れた瞬間にガブリとやられるのだ。

 魔道師だけというのも問題がある。火炎弾を洞に放り込んで獣を追い出すことは出来るだろうが、出て来た獣に対処するのは困難だ。

 両者が揃っているなら、意外と楽な採取だと思う。


 ギルドを出て行く4人に、私達は軽く手を振って健闘を祈る。

 そんな所にコツコツと義足を響かせてダノンがやって来た。


 「あいつ等なら問題は無いだろうな。義足でなければ俺も付いて行ってやりたいところだ」

 「あら?別に問題はないと思うけど?」


 「この足じゃなぁ、足場に滑ろうものなら、かえって迷惑だろう。まして、雪なら論外だ」

 「そこが、理解できないところなのよ。義足にブーツを付ければ良いでしょ。それで行動範囲は広がると思う。流石に走るのは問題だけど、そこそこ動けるんじゃないかな?」


 わたしの言葉に、ダノンが突然立ち上がる。

 

 「確かに、そうだ! 何で気付かなかったんだ」

 

 出掛けてくる!っと言いながらギルドを出て行った。結構な速度だ。十分ガトルでも狩れるんじゃないか?

               ・

               ・

               ・


 昼過ぎのギルドは閑散としているな。

 秋は流石に人がいたけど、春夏は今と同じような感じだ。

 のんびりとお茶を飲みながらシガレイを吸って時を過ごす。


 「お姉ちゃん!……ちょっと良いかな?」


 ちょっと居眠りをしていたようだ。目を開けると向かい側のベンチに4人の子供達が座ってる。


 「な~にかな?」


 微笑んで応えた私に、この子達のリーダーであるロディが話を始めた。


 どうやら、罠猟をしようと言うことらしい。

 雪がもう少しで降り始めると、罠猟の季節だ。町に残ったハンターの多くがこの猟を行なう。

 今年はロディ達も始めようという事になったらしい。

 結構稼いでいたからな。罠を買うこともできるということだろう。


 「それで、何を狩るの?」

 「雪レイムが狙い目かと思うんだ。それで、罠の掛け方を教えて貰おうと思って」


 雪レイムなら手頃だな。問題は罠に掛かった雪レイムを狙う獣がいるということだ。

 近場なら、ガトルは来ないだろう。森の奥ならそれなりの猟が出来るからガトルを狩れるハンターでなければ罠猟は無理だ。

 だが、雪レイムの行動範囲は広く、町の直ぐ近くにまでやってくる。

 それ程の猟は期待できないが、冬場の楽しみにやるなら丁度良い。そして、そのやり方は森での狩りにも応用が利くのだ。


 「良いわよ。雪レイムの罠はこれを使うの」


 そう言って、バッグから取り出したのは細い革紐だ。


 「こんな風に結んで輪を作って、この根元に輪を立てるようにして置くの。紐はしっかりと杭を打って縛っておくのよ。

 夜、この輪を潜ろうとして雪レイムが輪に首を突っ込むでしょう。すると、このように輪が締まってしまうから雪レイムを捉えることができるわ。

 雪が降ると、足跡が残るからその通り道が狙い目なんだけどね」


 「鉄の罠は使わないの?」

 「あれはもっと大型の獣を狙うのよ。後2年もしたらそんな狩りも出来るわ。雪レイムならそれで十分。それに沢山罠を仕掛けられるでしょう」


 20個も仕掛ければ1匹ぐらいは狩れるだろう。

 問題は、狩れた場合だよな……。かなりの確立で野犬が来るだろう。

 罠に掛かった雪レイムを奪うぐらいなら良いのだが、ロディ達に襲い掛かる可能性も高い。そしてロディ達の武器は採取ナイフだからな。

 ここは、ダノンに頼むのが良いだろう。私の仕事の手伝いで雇っているのだから問題はない。


 「良い師匠を付けてあげるわ。準備が出来たら明日の朝、此処に来なさい」

 

 私の言葉に元気よく頷くと少年達はギルドを出て行った。

 つかつかとマリーがやってくる。


 「良いんですか。罠猟は危険だと聞いた事がありますよ」

 「危険がない狩りは無いの。どんな狩りにもそれなりの危険はある。だから、小さい頃からその危険を防ぐ術を見につけておくことが大事だと思うわ。丁度、良いのがいるでしょう?」


 「ダノンさん?」

 「そう。彼は青レベルよ。ガトルすら群れでなければ狩ることができるわ。町の周辺の広場が猟場だから、やってきたとしても野犬ぐらいでしょう。なら彼がいれば大怪我をしないで済むわ」


 「小さな怪我は仕方がないと……」

 「ハンターですから、それ位は諦めて貰うわ」


 意外と過保護にも思えるが、昔散々世話を焼いた影響でもあるのだろう。

 そして、にこにこ顔で返ってきたダノンは2つ返事で了承してくれた。


 「罠猟か。小僧ども、おもしろいことを思いついたな。良いぜ、しっかり仕込んでやる。姫さんが心配してるのは野犬だろうが、太い杖を持ってるだけで自信が付くもんだ。心配ねえよ」


 まぁ、これで安心できる。少し話を聞くと、私の罠猟と少し違いがあるのかもしれないが、金物は使わないみたいだ。


 ダノンがパイプを取り出して、暖炉で火を点けた。


 「細工屋が同じような物を作った事があるそうだ。そいつは膝上からだったが、俺には膝がある。少しなら走れると言ってくれたぞ」

 「そう、良かったわね」


 「ついでに少し細工もして貰うことにした。まぁ、普通の連中には思いもよらねえに違いねえ」


 たぶん碌でもないギミックなんだろうな。

 そんなことをおもしろそうに話してくれるダノンは、悪人にはなれないだろうな。



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