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G-027 狩らせるのは難しい

 尾根から後ろを振り返ると、ガリウスが片手を振っている。

 どうやら、準備が出来たようだな。

 私も片手を振って、了解したことと行動を開始することを告げる。

 周囲に鋭く指差しした後で、再度私に腕を振る。

 もう一度ガリウスに腕を振って、斜面の下にいるグライザムを見詰めた。

 

 2頭のグライザムはまだ私に気が付いていないようだ。

 狙いは小さい方だがそれでも3m近くありそうだ。足場を確認してゆっくりと斜面を降り始める。

 

 あまり近付くのも良くない。私は2本足だけど、グライザムは4本足で移動できる。10秒足らずで私のところまで来るに違いない。

 M29のハンマーを左手の親指で上げる。ダブルアクションだが、こうする事でトリガーを軽く出来るから狙いが正確になるのだ。

 

 近くにあった石を拾うと右手でグライザムに向かって投げる。

 利き腕ではないから当てることなど出来ないが、彼等の近くにポトンと落ちた小石は、十分その役割を果たした。


 頭を左右に振って、辺りをうかがっている。

 更に、小石を今度は斜面に落として、枯枝をわざと踏んで音を立てる。

 

 2頭のグライザムがこちらを見上げた。

 ゆっくりと立上がった私を直に見つけて、小さい方が斜面を登ってきた。

 大きな方はどうやら小さい方の首尾を見守るつもりのようだ。私にとっては都合が良いな。


 ゆっくりと足場を固めて、M29をえ両手でしっかりと握る。

 グライザムとの距離が10mを切った時、照準を顔の真ん中に合わせてトリガーを引いた。


 ドオォン!


 轟音と共にグライザムが仰け反る。

 脳震盪を起こしてふらついている隙に、素早く駆け寄り奴の目に再度弾丸を叩き込んだ。

 ドサリ……と、グライザムが倒れる。

 それを見た大きなグライザムが勢いよく斜面を登ってくる。

 

 急いで尾根を越えると、斜面を滑り降りながら皆のところに向かった。


 「1頭は始末したわ。直に来るわよ!」

 

 私を見ていた全員が頷く。


 不問い革紐が幾つも輪になって地面に転がっている。輪に足を取れら無いように足元を確かめている時に、グライザムが尾根から私達を見下ろしながら大きく吼える。


 「大きい……」

 

 声の主はライナス君だろう。だが、今更止める訳にはいかない。

 

 「罠の準備!」

 

 声を出さずとも、立木をしならせている革紐の傍で4人が剣を握って待っている事だろう。

 私は再びM29を構えてグライザムが近付くのを待つ。


 私と同じように斜面を滑り降りて、私の10mほど手前で立ち上がり、大きく両手を広げて一声吼える。

 あの腕の一振りが人に当れば軽く胴体が千切れてしまう。

そのままゆっくりと歩いてくる。

 数mに近付いたところで奴の顔に向かってトリガーを引いた。


 ドオォン!


 パンチを食らったように奴の頭が後ろに仰け反る。

 ヨロヨロと前に出たところで一斉に罠の輪がグライザムを締め上げた。

 すかさず、ガリウスが1本目の槍を腹に向かって抉るように突き刺した。


 ガアウウゥゥゥ!!


 一声大きな唸り声を上げる。そして太い革紐を腕で引きちぎった。

 次の瞬間地面が弾けるようにしてグライザムの足元に火炎弾が2発続けざまに当った。

 

 ドオォン!

 2発目のマグナム弾がグライザムの頭部に命中し、顔が横を向く。

 グライザムが白目をなった一瞬の隙をついてアネットが体当たりするように槍を腹に突き通す。

 

 2つの槍の穂先は特別製だ。突き通すだけに特化してある。

 グライザムの毛皮は硬くて密生している。長剣で斬ることができないのだ。


 剣の腕には自信のあるガリウスでさえも、グライザムを相手にする時は長剣を突き通したことでも分る。


 「これだけでかいのは初めてだ。これはしばらく掛かるぞ」

 「それでも、槍を2本受けてるのよ。あれだけでもかなりの深手よ」

 「次ぎは、これだ。良いな?」


 ガリウスは私の槍を手にして私に確認してきた。

 その目はずっとグライザムを見ている。まだまだ手負いの獣って感じだからな。

 レイチェルが足と鼻面に火炎弾を放つ。

 効いてはいないようだが牽制には十分だ。


 ゆっくりと奴の前に出る。

 そして、三度めの弾丸を奴の鼻面に命中させた。

 仰け反るグライザムに向かって、私の槍を自分の体重を乗せて突き刺すと素早く奴から離れた。


 グライザムの顔面と頭は血だらけだ。そして腹は大きく裂けて臓物がはみ出している。

 それでも、動きは鈍くなっていない。

 残りの革紐を引きちぎろうと体を動かしている。

 その動きにあわせて腹から血が噴出しているところを見ると、太い血管を槍が傷付けたみたいだな。


 「しぶといぞ。今までの中で一番だ!」

 「そうでもないわ。だいぶ動きが緩慢になってるみたい」


 最初は腕の一振りで引きちぎった革紐を、今では引きちぎる事も出来ないようだ。もう少しか……。

 急いで、M29のシリンダーをスイングすると薬莢を捨てて弾丸を補給する。

 残弾が1発では、何かあったら対処できないからな。

 

 「そろそろね。だいぶ弱ってきたわ。今度奴が仰け反ったら、左胸にその槍を叩き込んで!」

 「分りました。やります!」


 ゆっくりとグライザムの前に移動すると、M29を再度奴の鼻先に狙いをつけた。

 

 ドオォン!

 「ィヤアァァァー!」

 

 ドン!っとグライザムにライナス君が体当たりするようにぶつかると、奴の体がゆっくりと後ろに倒れていく。


 軽い振動が地面を通して私達に伝わる。


 「やったぞ!」

 「まだ、近付いちゃダメよ。しばらく様子を見るわ」


 だが、奴の胸は全く動かない。

 どうやら、絶命したようだな。


 「ライナス君。目を長剣で突き通して!」

 

 私達が武器を構えて見守る中、ライナス君が長剣を右目にズブリと突き通した。剣を捻って引き抜いてるから脳は完全に破壊されただろう。

 そして、そんな止めの行為に対してもグライザムはピクリとも動かない。

 やはり、レイナス君の槍がグライザムの命の残り火を消し去ったようだ。


 「ガリウスさん、毛皮をお願い。アネットさん付いて来て!」

 「分ったにゃ!」


 M29があればグライザムはそれほど怖い相手ではない。

 アネットを連れて尾根を登って、最初にし止めたグライザムのところへ行った。


 「毛皮を剥いで」

 「簡単にゃ!」


 アネットが作業をしている間、周辺の監視は私の仕事だ。グライザムが2匹だけとは限らない。

 それでも、この季節を考えると他にはグライザムはいないだろうな。

 

 シガレイを咥えて周囲を見ていると、不意にアネットが立ち上がった。


 「終ったにゃ!」

 「それじゃ、早く戻りましょう」


 私達が尾根を降ると、大きな毛皮をガリウスが袋に仕舞いこもうとしている最中だった。

 

 「グライザム2匹は俺も初めてだ。あんたがいてくれて良かったよ」

 「これで、レイナス君も面目が立ったでしょ」

 「ありがとうございます。まさかこれ程の獣とは思いませんでした」


 まだ興奮が冷めていないようだな。

 だが、私達は急いでここを離れねばならない。

 グライザムは倒したが、この死肉を狙って他の獣がやってくるのは目に見えている。


 村に向かって尾根を上る。

 そしてもう1つ尾根を上って村の前に広がる森の外れで野宿することにした。

 グライザムを狩った場所からは20M(3km)以上離れているし途中に尾根が2つあるから、死肉を漁る獣が私達を襲う可能性は殆どない。


 少し大きめに焚火を作り、夕食を作りはじめた。

 お茶を飲むと、皆の顔に微笑みが浮かぶ。


 「グライザムを狩るのはできるが、狩らせるとなるとやはり俺には無理だな」

 「あれだけ槍を受けても倒れないなんて、今でも信じられないわ」


 「まぁ、何とかなりましたね。次ぎはこう上手く運ばないでしょう」

 「2度と狩るなんて考えないにゃ。そしてあの毛皮をリビングに飾ったら公爵様は吃驚するにゃ!」


 「僕も、2度とは御免です。そして、ガリウスさん。剣術の稽古をよろしくお願いします」

 「あぁ、もっと大きなグライザムを俺達だけで倒せるように鍛えてやるぞ。どうだ、最後の槍を突き刺した気分は?」


 「夢中でしたが、1つだけ覚えてます。あの突き刺した感触と、奴の鼓動です。槍の柄を通して伝わってきたんですが、それがピタリと止まったんです」


 という事は、やはり止めを刺したのはライナス君だったんだな。

 長剣は必要無かったようだ。

 

 夕食を食べながらも、そんな話が続いている。

 たぶん、この先この4人は一生今日の狩りを思い出として共有することになるんだろうな。それは4人の結び付きを強くする。そして何があっても、4人で対処することが出来るだろう。

               ・

               ・

               ・


 村に帰ってギルドにグライザム2頭を狩ったと報告すると、ちょっとした騒ぎになってしまった。

 ガリウス達が、ギルドのハンター達を引き連れて宿の酒場へと出掛けて行く。

 ちょっとした、サービスって所かな。

 ガリウスにしても面目が立ったから嬉しいんだろう。ライナス君は婚約が掛かっていたからな。喜んで小遣いを叩くだろうな。


 自分の槍を回収して、テーブルでお茶を飲みながら槍を分解する。

 そんな所にマリーが例のノートを持ってやってきた。顛末を聞きたいらしいな。


 「……。そんな狩りだったんですか。その話を聞く限りでは、ミチルさんは1人でグライザムを狩る事ができるという事ですね」

 「1人ならね。でも、最低でも相棒は欲しいわ。出来ればネコ族の人が良いわね。ネコ族の持つ勘の良さは私も驚くばかりだわ。犬族の人でも良いけど、出来ればネコ族の人が私には合ってるわ」


 「ミチルさんでも仲間がいた方が良いというのに、驚きました」

 「日帰りの狩りなら1人でも何とかなるけど、狩りはパーティが基本だわ。夜だって交替で眠れるでしょう。獲物だって皆で探す方が見つけ易いわ」

               ・

               ・

               ・

         

 次の日。

 何時ものようにギルドの暖炉の傍にあるベンチでお茶を飲んでいると、ガリウス達がやって来て反対側のベンチに腰を下ろした。


 「今回のことはありがたく思う。これは礼だ」


 そう言って小さなテーブルの上に金貨を5枚載せた。


 「あの大きさのグライザムなら2頭で金貨10枚は下るまい。そして、1匹はミチル殿が倒したものだ。受取って欲しい」

 「狩りはパーティで行なったもの。金貨10まいであれば、私の取分はこれで良いわ」


 そう言って、金貨2枚を手にするとポーチに仕舞いこむ。


 「それで良いのか? 俺達には別に公爵から褒美も出るのだ」

 「ご隠居との約束なの。もしも狩りに出るなら均等割りってね。誓約書もあるから無碍には出来ないわ」


 仕方無さそうに、ガリウスが金貨の残りをポケットに仕舞いこむ。

 ハンターだから、契約と報酬の均等割りは良く分かっているようだな。

 皆で立ち上がると、私に深く頭を下げてギルドを出て行った。

 王都ではさぞかし評判になるだろうな。そしてその真偽はライナス君のハンターレベルを調べれば直ぐに分る筈だ。

 なんと言っても、あの大きなグライザムに止めを差したのだ。星の数が数個一気に増えるんじゃないかな。


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