G-025 王都からきた4人
入域禁止区域を外れた場所でもグライザムの目撃例が現れた。
新たに、隣の尾根も入域が禁止される。
狩場がそれだけ狭くなったという事になるから、ハンター達からはブーイングだが、命あってのことだからな。大人しく従ったほうが安全だな。
そんなある日、王都から男女4人のパーティがやってきた。
ギルドで到着の確認をすると、目聡く私を見つけて近付いてきた。
「やってきたぞ。明日は休養をとって明後日に出掛けたいと思っているのだが……」
「良いわよ。でも、その前に国王からの討伐依頼はちゃんともらってきたんでしょうね?」
「大丈夫だ。先程カウンターで手続きを済ませている。我等4人とその同行者はギルドが掲げた入域禁止措置を無視出来る。そして、グライザムの狩りも国王からレイベル公爵家に対する正式な依頼だ」
「なら、問題ないわ。……一応4日で良いと思うけど、食料は5日分を用意してね。私を含めてよ」
「それも、準備出来ている。そして、狩りの段取りだが……」
全員が椅子に座り、マリー準備した地図を眺める。
グライザムを見つけるのは苦労するのだが、今回は徘徊している範囲がある程度分っている。
上手く行けば最初の日に見付けることが出来るだろう。
「ガリウスさんは、何度か狩ったことがあるでしょう。やはり、その長剣で刺したの?」
「その通りだ。【アクセル】状態で魔道師が【メルダム】を奴にぶつけて、その爆煙に隠れて近付き、そして刺す。……これが俺の狩り方だった」
やはりって感じだな。爆煙を利用するか、ロープを利用するかの違いはあるが、奴を足止めさせるところは同じだ。
だが、私は槍を使う。
槍を突き刺し、素早く間合いを取ってマグナム弾でグライザムの頭部を撃つ。
頭蓋骨を打ち抜けばそれで終わりだが、撃つ抜けずとも脳震盪を起こす。そこを一突きするか、再度マグナム弾を撃てばよい。
「槍は使えるようになったにゃ。ちょっとバランスが悪いけど、何とかなるにゃ」
「私は【メルダム】が使えます。やはり、【メルダム】で翻弄しますか?」
「先ずは罠を使いましょう。上手くかってくれれば、それで終わらせることが出来るわ」
「罠だと?」
「折角の狩りだもの。それにライナス君の武勇伝ならば、綺麗な毛皮である方が良いでしょう?」
リビングの暖炉の前に広げるか、壁に飾るかは好きにすれば良い。
だが、領民を苦しめたこれを狩ったといえば、大概の人は感心してくれるだろう。
それは、リビングに通される客に対して次期公爵の勇気と腕を示すことになるだろう。
少し内情が分かるものは、その手柄を授けてくれるだけのハンターを集めることが出来るということを知って驚くにちがいない。それも、次期公爵の評価に繋がる。
だからこそ、レイベル公爵は国王を動かしたのだ。
それが、護民官からの依頼であるというのは、貴族の矜持を保つにも都合が良い。
そして、他の貴族は討伐を知らされても、優秀なハンターを直ぐには集めることが出来ない。
居並ぶ貴族の中で、悠々と「レイベル家がその任に当たりましょう」ぐらいは言ったのだろう。さぞかし愉快だったに違いない。
これで、護民官の後ろ盾としての存在感は確実なものになるだろうな。
そして、次の機会は是非に……と、他の貴族との繋がりも出来るだろう。
「……それは、そうだが。出来るのか?」
「それをこれから話すわ。先ずは餌が必要ね……」
グライザムは雑食だ。獣の肉も、果物も、何でも食べる。もちろん人間だって例外ではない。
だから餌で誘き出す事が出来る。大型のカモシカのような草食獣は、食肉用として需要が高いが、餌はこれを使う。
事前に、グライザムの方向を確認しておけば、パーティの誰かが囮となって誘導することができる。
そしてリスティンを通り過ぎれば、奴はリスティンに向かって食べ始める。
これが第1の罠を仕掛けるポイントだ。
単純に、革紐で作った輪を曲げた木に結びつける。グライザムが輪に入ったところで曲げた木を押さえているロープを切ると、グライザムの足を高く吊り上げる……。
「それで上手くいったのか?」
「ちゃんと倒したわよ。でも長剣を持って近付いた仲間は死んだわ。その時から、あの槍を使ってるの。でもね、分かったこともあるのよ」
グライザムを罠に掛けるのは意外と簡単だ。問題は、罠に掛かったグライザムをどうやって息の根を止めるかにある。
一度、頭にトラ族の男が岩をぶつけたことがある。
子供程の岩を頭にぶつけても息の根を止める事が出来なかったが、しばらくの間目を回したようだ。そこを投槍で突き刺した。
「……投槍を5本打ち込んでも死ななかった。それでも、動きが鈍ったところを長剣で心臓を突くことで倒したわ。このやり方を少し変えて、ライネス君にグライザムを倒して貰います」
「だが、グライザムに岩を投げるなど、俺達には不可能だ!」
「これを使います」
そう言って、腰のバッグの裏から44マグナムリボルバーを取り出してテーブルの上に載せた。
「魔道具に近い私の奥の手よ。大きな音がするけど、これを使えばグライザムに脳震盪を起こすことは可能だわ」
「こんなもので、出来るのか?」
「群れすら狩れるわ。最初の1撃で昏倒したところを目に打ち込めばそれで終わり。脳震盪を起こすほどの威力でも、殺すには脳を破壊する他は無かった」
「でも、それが本当ならグライザムの狩りは容易な筈よ」
「そうでも無いのよ。今回は私が狩るのではなく、ライナス君が止めを刺す必要があるわ。脳震盪を起こしている時間はそれ程長くは無いの。その間に槍を突き刺してグライザムを瀕死にまで持っていくことが必要なの」
「それで、槍が3本か……。お前さんのと合わせれば4本になるな。3本を突き刺して、最後に止めを刺すんだな?」
ガリウスの言葉に私は頷いた。
「ならば、俺達は腹を狙う。ライナス殿は左胸を狙うのだ!」
たぶん、それで息絶えるだろう。
「分りました。でも、そこまでしなければグライザムは倒せないんですか?」
「グライザムの別名はハンター殺し。黒の上位でさえ簡単に殺されるわ。もしも、山道でばったり鉢合わせしたら私だって彼の獲物になるわ」
「それ程ですか……。分りました。レイベル家の一員として恥ずかしくない働きをします」
名家には生まれたくないものだな。
結構、無理をしているようにも見える。だが、これ以後はハンターのまねごとはしないで済むだろう。
「では、そういう事で対処しよう。任せても良いな?」
「言い出したのが私ですからね。それなりのことはしたいと思います」
「分った。それ以外で必要な物はあるか?」
「丈夫な革紐が1M(150m)ぐらい欲しいわ」
「分った。用意しておく。それでは、明後日の早朝に此処で会おう」
そう言って、ガリウスが席を立つ。
「確か、ミチル殿もミレリーさんのところに下宿だったな。2人を頼む」
ライナス君を連れてガリウスがギルドを出て行った。
残ったのは、目をキラキラさせたネコ族の娘とエルフの女性だ。
「この槍をどう使うにゃ?」
「まぁ、貴方の考えてる通りよ。殴っても、斬っても、そして突いても良しってところね」
「多機能に使える途いう事ですか?」
「えぇ、それを狙ってそんな形にしたの。ハンターなんてやってると、全ての狩りに使える武器が無いことに、直ぐに気が付くわ。とはいえ、武器を沢山持つわけにはいかないでしょう。ある程度レベルが上がると、それなりの収入が得られるから、武器を特注して多機能に使えるものを作るハンターも多いのは確かよ」
長剣1つで銀は難しい。
私も、このリボルバーがあったからここまで来れたと思う。それでも、これが万能とは思えない。
だけど、気まぐれで作ったこの槍は結構使えたな。
棒術のように使う事も出来るし、短槍の穂先と違って丈夫で長いから、薙刀のようにも使える。応用範囲は結構広いのだ。
「私も、短剣では無く、槍を持つべきなのでしょうか?」
「必ずしもってところね。魔道師が直接戦うようではお終いよ。でも、敵の数が多ければ前衛を超えてくるものもいることは確かね。ならば、その杖を丈夫なものにするだけでも効果はあるわ」
「叩けってことですか?」
「そうよ。ガトルくらいまでは極めて有効だわ」
レイチェルがジッと自分の杖を見ている。
魔道師の杖には種類が多いけど、魔法の威力を上げるために自分の得意な魔法に係わる魔石をヘッドに付けている物が多い。
彼女の持っている杖は火の魔石だ。中級と言ったところだな。
ならば、意外と改造は簡単だ。
太くて長い杖に替えるだけで良い。太ければヘッドを鉄で巻いてその中に魔石を埋める事も出来るだろう。先のほうも同じように鉄で巻けば、立派なフレイルとして使う事が出来るだろう。
確か、わたしも、1本作ったことがあるな。
エルフには前衛は無理だと言われて、後衛をしていた頃だ。
バッグから、魔法の袋を取り出して中を漁ると、1本の杖を取り出した。
「昔、使ってたものよ。エルフに前衛は無理だと言われてね」
私の杖を見て、レイチェル達が目を見開いている。
「これが杖なんですか?」
私が杖を渡すと、ジッと手にとって杖を見ていた。
「魔石は埋め込んでるんですか。結構、重さがありますね」
「ガトルでも有効だったわよ。しっかり魔石を止めているからぶん殴ったぐらいでは外れないわ。それに、魔力切れの時には頼れる武器になったわ」
「これは、考える必要がありますね。王都に帰ったら他の魔道師と相談してみます」
「貴方は火の魔石よね。それもそうなの。今回貸してあげましょうか?」
レイチェルが嬉しそうに頷いた。
私の魔石は上級の物だ。更に魔法の効果が上がる。
グライザム相手に即死させないことが今回の目的だから、足止めに使わせてもらうつもりだ。それなら少しでも【メル】の効果を上げておくべきだろう。
昼過ぎに、ミレリーさんがネリーちゃんを連れて薬草採取から帰ってきた。
私に頭を下げて帰っていくのを見て、私も2人を連れて下宿に帰ることにした。