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G-023 狩りの季節

 その日の夕刻、グラム達は意気揚々とダノンと共に帰ってきた。

 あの日、野犬を数匹狩ってから、彼等の心情に小さな変化があったのを家族も知っているのだろうか?

 ハンターの通過儀礼でもある、他の生き物を殺すという行為を行なったのだ。

 ある意味、弱肉強食の扉を開いたという事になる。

 これからは、狩ることと同時に狩られる事もあり得るのだということを自覚出来ただろうか?

 

 「まぁ、最初から比べれば良くなってきたな」

 

 ダノンが私の前に腰を下ろしてパイプを取り出した。

 私もシガレイを取ると、ダノンのパイプと私のシガレイに火を点ける。


 「やはり、周囲を見れないってことね」

 「それをやつらに期待するのは、早いんじゃないか? 白の連中だって中々出来ないぞ。青の上位辺りでようやく周りが見えてくる。俺だって怪しいもんだ」


 「まぁ、そこが貴方を必要とする理由でもあるんだけどね。彼等がそれに気が付けば貴方は必要で無くなるわ」

 「まぁ、確かにそうだな。だが、狩り全体を冷静に見れるものは少ないぞ。本来は、それがリーダーの役割なんだが、リーダーも狩りの一員だ。精々数人のパーティではな……」


 カウンターからグラム達が私の方にやってくる。

 それを見た私は、シガレイを灰皿でもみ消すと席を立った。


 「鍛錬か?」

 「今ならまだ仕込めるしね。獣を何度も狩った後だと、そうも行かないのよ」


 一度癖が付くとそれを直すのは難しい。

 その癖が、生死を分けた狩りで付いたものなら、私の意見など本能が拒否してしまう。

 それに比べればこの3人は全くの無垢だ。

 私の教えを忠実に守ってくれる。

 剣の構え、打ち込み、足捌き、そして次の動作への体の移動……。

 たまに、青や黒のハンターが覗いていくが、彼等の目にはその動きが奇異に映ったに違いない。

 全て初撃で倒せという私の教えは納得はできるが実現性に乏しいものであることが経験で分かっているからだろう。

 私だってそれは知っている。だからこそそれをあえて教えるのだ。

 そして、初撃で倒れない場合の対応をつい最近教え始めたのだ。


 「やり方は2つあるわ。1つは、その場で2撃目を与えること。もう1つは、一旦離れて2撃目を初撃と同じように剣を振るうこと。

 3つ目に、逃げるという選択肢もあるんだけど……、やってはダメよ。万が一にもそれを選ぶ時があれば、ハンターを止めなさい。仲間を危険に晒すわ」


 私の言葉を真剣な表情で聞いている3人に、長剣を振り下ろした後の返し方を教える。

 薙いで後ろに下がる方法、その場から2撃目を与える方法、そして意外と応用が広いが、動作の後に大きな隙が残る突きのやり方……。


 一通り形をやってみて、彼等の動きを見守る。


 「あまり、変った剣の使い方を教えないほうが良いんじゃないか?」

 「精練された……と言って欲しいわ。自己流ではなく、昔の剣の達人が編み出した剣の使い方なのよ」


 扉の前のステップにダノンと一緒に腰を降ろして、今度はパイプを咥える。


 「だが、長剣だけではハンターとしては上位に行けんぞ」

 「それは分ってるわ。でもね、1つは得意な武器があっても良いでしょう。できれば短槍を使えるようになると応用が広がるんだけどね。黒への挑戦はそれが出来るようになればの話。私が教える長剣の使い方では精々ガトルが良いところよ」

 

 彼等の顔に汗が滲んできたところで、本日の鍛錬の終了を告げる。


 「さて、俺も引き上げるか。そういえばダラシットを狩ったハンターがいたそうだな。

 姿を見かけんがどんな奴だ?」

 「流れの若いハンターだったわ。国中を廻ってるみたいね。ダラシットを狩って、今度は東に向かったと聞いてるわ」


 武者修行はおもしろいからな。青クラスならばそれも良いだろうし、黒なら一度はやるべきだ。

 獣や魔物の攻撃はそれこそ千差万別、どんな獣がどんな攻撃をするか一度対峙すれば分るだろうし、倒せば自信にも繋がる。

 私達のパーティは銀になってもやっていたからな。

 国を出て他国で珍しい獣を探した想い出がある。

               ・

               ・

               ・


 3人で頂く夕食は、ネリーちゃんの話を聞きながら食べるのが日課になっている。

 今夜も、ネリーちゃんの大冒険の話で、私とミレリーさんが微笑みながら食事を取っていた。


 「……ということで、しばらくは南の畑が狩場になるの」

 

 どうやら、ネリーちゃん達は畑のバッタを狩っているらしい。

 取り入れの済んだ麦畑には、何故かしらバッタが大量に現れる。そのバッタの後足を焼くと酒の肴に丁度良いと聞いた事がある。

 私は、食べたくも無いが意外と美味しいと聞いた事がある。

 

 バッタ自体は20cmにも満たない位だが、それでもネリーちゃんには大きいと思うぞ。噛むから気を付けないとな。

 そして、その獲り方は、箒で叩いて取り押さえるという何とも疲れそうな狩りの方法だ。

 1日頑張れば、ネリーちゃんのパーティでも30匹以上獲れるらしい。1匹1Lで雑貨屋が買取ってくれるというから、中々の収入になるな。

 まぁ、大人たちがやったら笑いものだが、子供達なら応援してやりたくなるだろう。

 これも季節の風物詩に違いない。


 「近くにクレイ達がいるんでしょう?」

 「うん。お兄ちゃんたちがいるから、グラム兄ちゃんも一緒になって箒を振るってる」


 ある意味、子供達の守り神だな。

 来春まではこのままの状態を維持して行きたいと思う。あの2人に合いそうなフリーのハンターがいれば良いのだが、中々見つからないものだな。


 食事が終ると、私とミネリーさんは暖炉脇に移動して、蜂蜜酒を飲みながらシガレイを楽しむ。

 だいぶ涼しくなってきたからな。暖炉の暖かさがだんだんと恋しくなってきた。

 

 「グラム達の剣の練習は捗っていますの?」

 「まぁ、それなりって感じですね。野犬は10匹程度なら相手に出来るでしょうが、それ以上はまだ無理です。3人とも長剣と言うところが何ともってところですね」


 私の言葉にミレリーさんが頷いてる。

 同じ武器を3人が持つというのは一見良さそうにも思えるのだが、ハンターとしては問題が多い。何と言っても全員が前衛なのだ。彼等を援護するものがいない。そして常に1対1の関係を保ちながら狩りをしなければならない。ハンターは多数の獣を相手にする場合が多いから、これは大きな問題である。


 「魔道師が必要ということですね」

 「今のままでは青になれないでしょうね。魔道師が1人で青、2人で黒にはいけると思います」


 「そろそろ、南の方からハンター達がやってきます。フリーの魔道師がいれば良いんですけどね」

 

 秋も深くなれば大型の食肉用の獣であるリスティンが群れでやってくる。それをねらって腕自慢のハンターもやってくるのだ。

 更に、そのリスティンを狙う大型肉食獣すら現れる。

 秋はハンターにとって待ちに待った季節でもあるのだ。

               ・

               ・

               ・

 

 翌日、ギルドに出掛けた私は、早速掲示板を念入りに眺めてみた。

 4枚のコルクボードには所狭しと依頼書が張り出されている。確かに改めて見てみると依頼書が増えているぞ。

 そして、増えた依頼書は、赤と青に集中しているようにも思える。


 普段あまり見掛けない農家の小父さんや小母さん達の姿も見える。

 昔から、春と秋は薬草採取の依頼が一気に膨れ上がるのだ。町の住人にとっては良い稼ぎになるようだな。


 そんなことだから、この季節はロディ達のパーティは一時解散して、家族と共に薬草を採取することになる。

 ちょっと採取には難のある薬草は赤5つ位のパーティが引き受けているようだ。

 グラム達はこのところそんな依頼になるデルトン草を採取している。これは湖近くの森にまで足を伸ばさねばならず、少なからず野犬に出会う危険性も高い。ダノンがクレイ達2人に話を付けたみたいで6人で今は行動しているようだ。

 そんなことから、荒地にまで足を伸ばしてサフロン草を採取する住人は多いようだな。

 これから約4ヶ月間は、全く薬草を取ることが出来なくなる。

 王都の薬剤ギルドが全て買取っていくようだ。


 しばらくは私に相談をしてくる者もいない。

 毎年、同じ物を採取したり狩ったりするのであれば、基本的に問題はないからな。

 のんびりと、朝夕のギルドのホールの喧騒をテーブルで眺めている日々が続いていた。


 そして、私の所に4本の槍が届けられた。

 若いドワーフの鍛えた穂先は、お爺さんの造った採取ナイフよりは見劣りがするけど、しっかりとしたものだ。

 後、数十年後の彼が楽しみになってきたな。


 「ありがとう。これで十分だわ」

 「まだまだお爺さんを越えられねぇ。次ぎはもっと良い物が出来る筈だ」


 ある意味、造れば造る程良い物が出来る筈だ。まだまだ経験が足りないのかも知れない。

 彼に、銀貨を16枚支払うと、1枚多いと言ってきた。

 「これに柄を付けてくれたお礼よ。自分でも出来るけど本職が付けてくれたから緩む事もないし安心して使えるわ」


 若いドワーフは私に頭を下げるとギルドを出て行った。

 さて、この槍をどうするかだけど、使うのは先になるからマリーに預かってもらうことにした。

 

 「こんな太い柄の槍なんて見たこと無いですよ。穂先も変ってますね」

 「グライザム用よ。ガドラーにも使えるわ」


 カウンターに持って言ってマリーとそんな話をしている時、それを目聡く見つけた者がいた。


 「凄い槍にゃ! いったい何をかるのかにゃ」

 

 私達が声の主に振り返ると、2人の娘さんが私の槍を見詰めていた。


 「貴方は?」

 「南の村から来たにゃ。ケイミーにパメラにゃ」


 マリーが分厚い帳簿を引き出して、早速ギルドの受付を始めた。

 私はテーブルに戻ると、グライザムをどうやってあの若者に狩らせるかを考え始める。

 自分1人なら簡単なんだけどね。

 

 シガレイを咥えながら考えていると、いきなり声を掛けられた。


 「カウンターのお姉さんに相談しなさいと言われたにゃ」

 「あら、何かしら……。とりあえず座りなさい」


 服装は典型的なハンターの格好だ。ネコ族の娘は片手剣を腰に差して弓を持っている。隣の娘は短剣を差して短い魔道師の杖を持っているところを見ると、典型的な後衛だな。


 「前衛を紹介して欲しいにゃ」

 「構わないけど、貴方達のレベルは、赤8つ位かしら?」

 

 「そうにゃ。出来れば長剣と槍が良いにゃ」


 確かにそうだろうけど、良いのがいないぞ。

 でも、この2人もそれ程レベルが高いとは言えない。

 精々、あの3人組みと良い勝負だな……っ! あの3人と組ませるか。


 「未だ、腕は物足りないんだけど、長剣を使う3人組みがいるわ。レベルは赤6つだけどね」

 「野犬ぐらいは何とか出来るのかにゃ?」

 

 「えぇ、それは何とかなるわよ。でも、ガトルはもう少し先って所ね」

 「お願いするにゃ!」


 さて、あの3人組みと上手くパーティが組めるのかな?


 

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