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G-022 準備

 初秋の風がギルドの窓から入ってくる。

 私の服装も革の上下に戻っているが、マントは腰のバッグの上にくるくると丸めて止めている。このままでも数日の狩なら直に出掛けられる装備ではいるのだが……。


 そして、私のテーブルにはグラムたち少年3人組みが神妙な顔つきで私を見ていた。彼等と私の席の間にはダノンがおもしろそうに少年達を眺めながらパイプを咥えていた。


 「貴方達の剣の腕はまだまだだけど……。一度、実戦を経験して貰います。狙いはこの依頼書よ!」


 そう言い放つと、テーブルの上にバン!っと1枚の依頼書を叩き付けた。

 全員が、その依頼書を身を乗り出して覗き込む。


 「野犬を6匹?……赤8つというところか」

 「貴方達のレベルは赤6つ。依頼を受けるには十分だわ」


 少年達はゴクリっと唾を飲み込んでいる。

 互いに顔を見合わせながら小さく頷いているところをみると、怖気づいてはいないようだな。


 「この依頼書を受けてみなさい。但し、条件があるわ。隣のダノンを連れて行くこと。そして、狩場は南の畑の下に広がる森を使うわ」

 「ダノンさんは、他のハンターと一緒じゃなかったんですか?」


 「あれは薬草の種類が分かるまでの案内役だ。俺より剣の腕は上だが、まだ赤の2つだからな。お前達のように野犬狩りは受けられない。と言っても、向こうから向かって来る時や、他のハンターが危険な時は別だ。彼等の出来る範囲で対処するだろうな」

 「狩場を南の森にしたのは、それもあるの。どうしようもない時は2人に協力を依頼しなさい。自分の手に余る時には逃げることも大事なの。蛮勇を誇るハンターは長生きしないわ」


 グラムがテーブルの上の依頼書を掴むと席を立つ。両脇の少年達もそれに従った。


 「行ってきます!」


 私に向かって力強く言葉を発した。

 

 「頑張りなさい。生き物を殺すということがどういう事かそれを体験してきなさい」

 

 私の言葉に3人が頷く。

 

 「どれ、様子を見てくるか。……こら! 俺も一緒なのを忘れてるぞ」


 短槍を手にしたダノンが席を立って、カウンターに向かった少年達に大声を上げる。

 ダノンは、杖代わりに短槍を使う事にしたようだ。

 普段は不自由ながらも義足を使って歩いているが、長距離はやはり杖が必要なんだろうな。

 クワの柄程の太さがある槍なんて私が使うぐらいかと思っていたが、確かに通常の槍の柄の太さでは杖として使うには心もとないのかも知れない。


 そういえば、後一月もすると、山麓の獣が冬眠前の食料を求めて山裾に下りて来る季節だ。

 グライザムの狩の準備を始めようかな……。


 席を立つとカウンターに向かい、マリーに武器屋へ出掛けてくることを告げる。


 「武器屋ですか?……数年前に代替わりしたんですよ。今は若いドワーフの夫婦が店を引きついでいます」

 「昔、この町で狩をしていた時には大分お世話になったんだけど……。替わったんだ」


 色々と狩の道具を作って貰った思い出を振り返りながら、通りを歩いて武器屋へと向かう。

 武器屋は町並みの北の外れだ。家2軒分を隔てているのは昔通りだな。


 「今日は!」と声を掛けながら扉を開くと、昔と同じように入口の左の棚には色々と武器や農具が置いてある。カウンターは右側だ。


 「今日は。初めてお目に掛かるハンターですね。どのような武器をお探しでしょうか?」

 「うん。実はここに来るのは初めてじゃないのよ。前のお爺さんには大分お世話になったわ。

今日来た訳は、ちょっと短剣を見せて貰いたいのと、出来ればその短剣を少し加工して欲しいんだけど……」


 たぶん、店の主人の妻なんだろうな。若いドワーフだ。

 私の顔を見て、商品棚ではなく奥のカーテンを開けてそこに並んだ数種類の短剣をカウンターに並べてくれた。


 「黒以上の御方であれば、この辺りをお勧めいたします」


 断って、1本ずつケースから出して調べる。

 確かに良い品だ。だけど、錬度が不足している。これではな……。


 「前にいたお爺さんは?」

 「里の帰りました。主人はお爺さんの末の孫なんですけど、この店を譲って貰ったんです」

 

 「この短剣なんだけど……、もうちょっと練成して欲しいの。何とかなる?」

 

 カウンター奥にある扉が開いて、ドワーフの若者が出てきた。この男が、あのお爺さんの孫になるのかな。


「練成だと!……これでも十分に練成はされている。それに、短剣で獣を斬ることはない筈だ。極端な話、先が鋭利なら十分に高レベルのハンターなら使いこなせるだろうが?」

 

 若者の言い分も、一理ある。確かに短刀は切るよりも突くことに特化した造りが多いことも確かだ。


 「以前、この店で手に入れた採取ナイフを少し変化させて作って貰おうとしたんだけど……。出来なければ良いわ。他を当たるから」

 「待て、今もそれを持ってるんなら見せてくれないか?」


 踵を返して店を出ようとした私を男が呼び止めた。

 バッグの袋から、採取ナイフを取出して、ケースごとカウンターに置く。

 男はケースから採取ナイフを取出すと、それをジッと眺めている。


 「前にお爺さんに無理を言って造って貰ったものよ」

 「これは、採取ナイフに似せているが、全く違う目的に作ってあるな。……これは槍の穂先だ。

 これで、何を狩ったんだ?こんな変わった穂先は見たことがないぞ」


 「色々と狩ったけど、一番の目的はグライザムよ。あの時も短剣では良いのが無かったんで、採取ナイフの横幅を落として貰って狩りを行ったわ。4本作って3本が折れた。その話をしたら、お爺さんがこのナイフを造ってくれたの。2本造って貰ったけど、折れた物は無かったわ。1本を人にあげて残りがその1本。この秋に再びグライザムを狩るから数本造って欲しかった」


 「肉厚で錬度は長剣以上か……。だが、お爺さんが造ったんだな。俺に出来るか……」

 「貴方……」


 「良いだろう。造ってやろう。果たして何処まで近づけるかは分からんがそこに並べた短剣よりは良いものになる筈だ。で、変えたいところはあるのか?」

 「少し長く、幅を少し減らして欲しいわ。重さは今のままで十分。最後の砥ぎは極細目でお願い。出来れば回転砥ぎはしないでちょうだい」


 「ちょっと待ってろ。寸法と重さを量る」

 

 紙を取出して、採取ナイフの寸法や重さを測りだした。

 

 「柄はどうするんだ?」

 「クワの柄を使って頂戴。断面は楕円で十分。長さは6Dで良いわ。1本余分にお願い。これを着けたいから」

 

 「だったら、これを預けてくれないか?……10日あれば何とかなると思う」

 「良いわよ。それで、御代は?」


 「果たして、あんたが満足するかどうかだが……3つで銀貨15枚でどうだ?」


 銀貨5枚あれば青レベルが満足する長剣も手に入る。だが、この男が言った値段はお爺さんが、私にかつて言った値段と同じだった。

 

 「交渉成立! 前金が良い?」

 「いや、後で良い。こっちから届けるが、ギルドで良いのか?」


 「ギルドのテーブルでのんびりしてるから、それで良いわ」


 若い夫婦に別れを告げて、ギルドに戻ってお茶を頼む。

 シガレイを咥えながら、グラム達の狩りが上手く運ぶ事を祈った。

                ・

                ・

                ・


 「あのう……。この町のハンターですよね。ちょっとお訊ねしたいんですが?」

 「あら、何かしら?」


 グラム達よりも少し年上の男女4人組みだ。私をジッと見ているエルフの娘や、ネコ族の少年もいる。このパーティなら結構高いレベルまで上がれるんじゃないかな。


 「実は、変わった獣や魔物を狩ろうと言うことで王国内を廻ってます。昨日、南の村から王都を通ってこの町に来たんですが、掲示板にダラシットの依頼がありました。話しには聞いた事のある魔物ですが、具体的な狩り方を教えて頂ければと……」

 

 ダラシットか。たぶんこのパーティなら問題ないだろう。

 一応、マリーを呼んで記録を取らせておく。


 「ダラシットの狩り自体はそれ程難しくは無いわ。でも、1つだけ条件があるの。【メルダム】が使える事。もし、使えないならこの狩りは諦めなさい」

 「私が使えます。一日に3回ですけど……」


 エルフの少女が小さな声で応えてくれた。

 3回という事は、青の下位ってことか? まあ、使うのは1回で良いんだけどね。


 「なら、貴方達で狩る事が出来るわ。

  ダラシットの狩り方は実に簡単。50D(15m)以上離れて、メルダムを使えばそれで終わり。

だけど、注意して欲しいのはダラシットの毒槍よ。知られている毒の中では1番だわ。受けたら最後、【デルトン】も毒消しも効かないぐらい即効であの世行きよ。

狩りをする前に毒消しを飲んでおきなさい。もしも、毒槍を受けたら急いで吸い出しなさい。上手くいけば助かるわ」


 「それ程、危険な魔物なんですか?」

 「危険のない獣や魔物はいないのよ。でも、確かにダラシットは危険な部類に入るわ。

 それじゃあ、狩りの説明をするわね。」


 ダラシットは巨大なカタツムリだ。そして自らの狩場を持っている。

 通常の狩場は半径2M(300m)ぐらいだ。その範囲に粘液の道を作る。

 通常のカタツムリと同じで普段は人間が歩くよりも遅い速度で狩場をうろついているが、粘液の道の上だけはガトルの疾走する速度よりも早く移動できるのだ。


 「……と言うような魔物だから、粘液の道には絶対に近づかないこと。少し離れたところから誘い……矢を射るとか、石を投げるとかすれば近付いてくるわ。

 近付いて来たところを【メルダム】で焼けば倒せるわ」


 「その条件に50D(15m)以上離れて、となるんですね」

 「その通り。そして、1日過ぎて動かないようなら、今度は【メル】を黒コゲの体に放ってみて。それで動かなければ、先ず死んだと思って構わないわ。

 魔石は殻の渦巻きの中心にあるから、殻を破壊して手に入れることになるわ。トンカチか斧を持っていくことね」


 「事前に毒消し、そしてダラシットの狩場に不用意に近寄らない。近づきいた時に【メルダム】、1日置いて【メル】を放って動かなければ魔石を採取……。という事で狩れると」

 「それで狩れるわ。そして、事前に毒消しはレイドル対策でもあるの。レイドルは小さな巻貝に見えるけど同じように毒槍を持ってるわ。レイドルがいれば6本足のウザーラを考えなければならないけど、ダラシットがいればウザーラは近付かないわ」


 「やってみます。毒消しは十分に持ってますし」


 そう言って、4人の男女が席を立つ。

 たぶん、問題なく狩れるだろう。人の話をキチンと聞く事ができるなら、ダラシットは簡単な獲物だ。

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