表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/140

G-021 助手?

 王都を覆っていた灼疹は、軍隊の採取してきた薬草でどうやら下火になったようだ。

 グラムやロディ達も頑張ってくれたから、私としても嬉しくなる。

 心配したマンドリルの群落も乱獲は免れたようで、次の流行にも対処できるだろう。


 夏も終わりに近付いて、朝晩はだいぶ涼しくなってきた。

 それでも日中は暑くなるから、まだまだ服装はこのままだな。

 山で野宿をするハンターは既に革の上下に変えている。

 まぁ、暑くなれば上着は脱ぐんだろうけどね。


 ハンターが出掛けた後のギルドは静寂が訪れる。

 マリー達が書類を整理して、ホールの掃除をする音がするだけだ。

 私は、静かにシガレイを楽しむ。

 ある意味至福の時間というところだろうか……。


 そんな時間にも、たまには仕事がある。まぁギルドやハンターとは直接係わらないのだが、怪我人が出れば教会の神官に措置出来ない時に限って私が見てあげるとこもあるのだ。

 山に近い町だから、樵や農家が多いのもあるだろう。彼等の怪我の多くがかなりの重傷を伴っていた。

 神官の措置は【サフロ】と傷薬に包帯だけだからな。簡単な手術ぐらいは覚えておいて欲しいと思うぞ。


 通りが騒がしいと思ったら扉が乱暴に開いて数人の男が男を梯子に乗せて入って来た。

 梯子に載せられた男の顔は真っ青だ。

 

 「急いでテーブルの上に載せて。梯子はそのままで良いわ」

 「跳ね返った斧が腹に当ったんだ。何時もは革の服を羽織ってるんだが、今日は暑くてな……」


 着ていてくれれば、此処まで深く斧で抉らなかっただろうに……。

 皆の持っていた手拭いを腹の傷に押し付けて革紐で縛っているが、手拭いは血に濡れて絞れそうだぞ。


 私の隣には手術用具を入れた木箱を持ったマリーが控えていた。

 

 木箱を開かせて、私とマリーの両手を【クリーネ】で消毒する。

 さて、動かれると不味いから、この間のパラニアムを使うか……。

 

 「蜂蜜酒にこれを混ぜて無理やり飲ませて。1回なら習慣性は持たないわ」

 

 小さなカップに入れた蜂蜜酒にスプーン1杯のパラニアムの薬液を混ぜたものを仲間が重傷の男に飲ませている。

 

 「飲んだぞ。少し息が楽になったようだ」

 「少し待ってから始めるわ。マリー、ハサミとヘラを用意して!」


 ゆっくり呼吸を整え、これから始まる術式を頭で想定していく。

 そして、マリーからハサミを受け取ると、手拭いを押さえている革紐を切取った。


 ボタリっと手拭いが床に落ちて血が周囲に飛び散る。

 出血は続いているがそれ程でもない。太い動脈や静脈は無事なようだ。

 ハサミをトレイにおいてヘラを受け取る。

 ヘラで傷口を押し上げると……、肝臓が見えてるぞ。そして亀裂まで入っている。

 肝臓には血管が多いから腹の内部に血が広がってる。

 

 「ガーゼを取って頂戴」


 受取ったガーゼに【クリーネ】を掛けると、ガーゼをピンセットで摘んで肝臓周囲に溜まった血を吸い込ませてトレイに投げ捨てる。

 肝臓の傷を両手でくっ付けて【サフロ】を掛ける。これで出血は止まる筈だ。

 そしてもう一度腹の中の血を取去る。

 ガーゼにたっぷりとアルコールを含ませると傷口を洗って糸で粗く縫いつけた。

 肝臓だけだとは思うが、傷口からの出血状態で様子が分かるだろう。

 傷口を清潔な布で覆うと包帯でしっかりと縛り付ける。


 ほっと息を吐きながら、両手と体に付いた血を【クリーネ】で消し去った。


 「これで、様子を見ましょう。5日程経って、傷口が綺麗なら糸を抜いて【サフロ】を掛けるわ」

 「すまねえ。あんたがいてくれて助かったよ」


 厳つい山男達が私に頭を下げる。


 「気にしないで良いわ。後はお願いね」


 私に何度も何度も頭を下げながら、梯子に載った怪我人を男達が担いでいった。


 マリーとセリーが手分けしてテーブルや床の掃除をしている。

 そして、一段落したところで私にお茶を運んで来た。


 「ありがとうございます。さっきの怪我人は私の近所の小父さんです」


 そう言ってセリーが私に頭を下げる。


 「さっきも言ったけど、気にしないで。たまたまギルドにいるんだし、私がいなければ神官が措置してくれるわ」

 「してはくれますが……、【サフロ】の後に祈るだけです。それで治れば良いんですけど」


 医療の発展はまだまだだな。意外と【サフロ】の魔法が発展を阻害しているようにも思える。

 無ければ懸命に模索するだろうからな。


 お茶を飲みながら一服していると、ちょっと太目のおばさんがギルドにやってきた。セリーに何か訪ねていたが、私を見て真直ぐにやってきた。


 「本当にありがとうございました。夫の仕事仲間から話を聞いて吃驚しましたが、手際よく措置してくれたそうで、今は顔色も良く寝ております。これは、少ないですがお礼です」


 そう言って小さな革袋をテーブルの上に取り出すと私の方にスイっと押し出した。


 「たまたまいただけですから、お礼は必要ありません。しばらく仕事も休まなければなりませんし、何より栄養のあるものを食べさせてください」


 そう言って私は袋を押し返した。

 私の手術なんて見よう見まねだ。出来るものもあるし無理なものだってある。今回は上手く行きそうだが、それで金を取る気はもうとう無い。


 おばさんは私に頭を下げて袋を仕舞うと、セリーのところに出掛けて何事か話している。

 そして、私に再度頭を下げるとギルドを出て行った。


 ハンターならば、簡単に対処できるのだが、町民の人はどうも義理堅いな。

 農家の人が鎌で足を斬った時なんかは、後で野菜をたっぷり届けてくれたけど、あれだって私にとっては余分な心使いだ。

 ミレリーさんは、ありがたく受取るべきだと言っていたけど、精々そんな心遣いが私の限度だな。お金は貰うべきじゃない。

               ・

               ・

               ・


 グラム達がウサギに似たラッピナを狩ってきたようだ。まだまだ駆け出しだから、罠猟なのだが、罠を仕掛けて見回るついでに薬草を採取して来たらしい。

 罠では中々思ったように数が取れないんだよな。せめて弓を使えばもう少し獲物が増えると思うのだが。


 報酬を貰うと私の所にやってきた。これから私の特訓が始まるのだ。

 彼等と一緒に裏庭に出ると、早速素振りから始める。

 振り下ろすと同時に体の方向に剣を引くことが、どうにか出来るようになってきた。

 次ぎは足と剣の動きをあわせることに重点を置く。1歩片足を前に出す事で、2m先の獲物を斬ることが出来る。

 それに、狩りは動き回って相手に斬りつけることになるから、足の動きと剣の動きは合わせなければならない。

 

 「今日は足捌きよ。一歩踏み出しながら剣を振り下ろすの」


 私が手本を示し、彼等がそれを何度も繰り返す。

 数日でマスター出来る訳が無い。手本を示し、反復練習することで自分のものになっていくのだ。


 彼等の額に汗が滲んだところで、今日の練習は終了となる。

 そろそろ、一度使わせてみるか?

 野犬辺りなら、精々噛まれるぐらいですむだろう。


 ギルドにハンターがいなくなったところで、私はマリー達に片手を上げてギルドから下宿へと帰ることにした。


 下宿では、夕食の支度をしてミネリーさん親子が私を待っていてくれた。

 早速、夕食が始まる。食事をしながらネリーちゃんが薬草採取の話をしてくれた。

 結構頑張ってるみたいだな。

 得意げに話してくれるから、ミネリーさんと私の顔がついついほころんでしまう。


 「そういえば、夕方にワインを1瓶もってご婦人が訪ねて来ましたよ。何でもご主人を助けて貰ったとか……」

 「跳ね返った斧で腹を切ったようです。樵仲間がギルドに運び込んできました。内蔵を傷つけてましたから、ここ数日が山でしょう。助かると良いのですが」


 「顔色も良く、此処に来る前に気が付いて話が出来たと喜んでいました。ミチルさんがこの町にいてくれて良かった。と言ってました。私もその通りだと思います」

 「たまたまですよ。私にでもどうしようもない事があります」


 「それでも、何もしないよりは遥かにマシです。宿のおかみが言ってました。足の骨で腕の骨を繋いだというハンターが自慢していたと」

 

 確かにあれは上手く出来た。だが、片足は擬足なのだ。昔の様には戻れないし、仲間と一緒に狩りをする事も出来なくなった。

 今では、今までの経験を生かした若いハンターの育成に努めてくれてるんだが、意外と貴重な存在になりつつあるな。

 私の助手として雇うのも良いかもしれない。

 私が一月金貨1枚だから、銀貨20枚は出しても良いだろう。ガイドの仕事は獲物の報酬の均等割りの半分ってところが適切だろうな。

 赤のハンターも、片足だが青レベルのハンターがいれば心強いに違いない。


 「どうしました?」

 「いえ、ちょっと、ダノンを私の助手として使えないかと考えてたんです」

 

 「あれだけ、重傷を負っておも、卑屈にならずにハンターを続けていると評判ですよ。今は若い男女と一緒に薬草採取を行なっていると聞きましたが」

 「あの2人に紹介したのは私なんです。腕はあるのですが駆け出しで薬草の種別さえ出来なかったんです。それでも、ダノン達がネリーちゃん達の近くで薬草を採取していますから、私としては安心です。野犬程度なら十分対処できますからね」


 「それは、ネリーに一度聞きました。確かに安心ですね」

               ・

               ・

               ・


 次の日、ギルドに行くとダノンが来るのを待つ。

 朝早くやってきたダノンを早速テーブルに呼んで、交渉に入った。


 「俺を雇うだと?」

 「そう。意外と若いハンターが沢山いるのよ。狩りの仕方は教えられても実践では必ずしもそうは行かないわ。貴方なら青の中位でしょ。少なくとも白の下位の連中ぐらいまでなら同行してくれると心強いわ。

 給料は月に銀貨20枚。……どうかしら?」


 「足を失うより前の収入よりも多いぞ。それでアンタは問題ないのか?」

 「十分過ぎるぐらいの手当てをご隠居から貰ってるわ。期間は来年の初夏までになるけどね」


 「なら、問題ねぇ。交渉成立だ」

 「それで、あの2人はどんな具合?」


 「来春までは、今のままでいいだろう。薬草の種別も覚えたようだ。ちびっ子達の近くで採取してくれるならロディも安心出来るな」

 

 確かにそれなら安心だ。

 となれば、グラム達に剣を振るう時に立会いをダノンに頼もうかな。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ