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G-018 マンドリルの採り方と交換条件

 テーブルに載っている私の愛剣は、この世界で作らせたものだ。

 本来の形にはならなかったが、それでも可能な限り似せてある。

 私の小太刀を王都の年老いたドワーフに見せて、このような造りで刀身を2D半(75cm)にしてくれるように頼んだのだが、半年後に手渡されたものがこれだった。

 目に涙を浮かべて渡してくれたんだが、やはり刀には程遠いものだ。

 彼も自らの技量を全て込めて、尚且つ同じ刀が作れなかったのが余程悔しかったのだろう。次ぎは必ずと言い残した後で、鬼のような形相で鎚を振るっていたと弟子の1人が伝えてくれた。

 だが、老ドワーフの望みはかなえられなかった。その年、王都に流行した病に倒れ世を去ったのだ。

 ある意味、この刀は彼の残した最後の作品になる。

 

 彼等の持つ長剣は、私に言わせれば直刀で両刃。対する私の刀は曲刀で片刃なのだ。それ程反りはないのだが、鞘を見れば曲った剣だという事がはっきり分かる。

 

 「あのう……、曲ってますよ。直さなくて良いんですか?」

 「意図的に少し曲ってるの。何時も腰に差してるこれも曲ってるように見えるでしょ」


 そう言って、腰から小太刀を鞘ごと抜き取って彼等に見せる。


 「曲った剣なんか使ってたら、他のハンターの笑いものですよ!」

 「笑わせておけば良いわ。理解できないならそれまでだしね。ところで、私に習う気はある?」


 3人は互いに顔を見合わせる。

 教えてもらいたいのは山々だが、曲った剣の使い方なんて、ホントに大丈夫かな?って感じだな。考えてることが顔で分るぞ。

 

 「お願いします。俺達はこの町で暮らしてきましたが、親はハンターでもありませんし、他にハンターの知り合いもおりません」

 「厳しくやるわよ。先ずは、裏庭に出なさい」


 席を立ちながらテーブルの刀を取ると、マリーの案内でカウンター脇の扉から裏庭に出る。ちょっとした練習が出来るように数本の杭が立っており、矢の的も壁際に下がっている。

 杭の1つに古い革鎧が付けられていた。

 昔の名残だろうな。ギルドは盗賊達の討伐依頼も受け付けていたのだ。今は稀にしかそんな依頼はないし、あっても黒上位の依頼だからハンターの多くがそんな依頼をこなすことはなくなってきた。

 だが、私がハンターを始めた頃にはそんな依頼が沢山あって、何組かのパーティが組みになって依頼を受けたものだ。

 その時に、パーティの技量を示すためにどのギルドにもこんな場所があったのだ。

 今でも、そんなことが起こればやはり技量を示す場として使われるに違いない。


 私の後からぞろぞろとやってきた少年達は、興味深そうな目でそれを見ている。

 ついでに外野もやってきた。

 まだ酒場で騒ぐには早いから、ちょっとした時間潰しなのだろう。


 「前に出なさい!」

 

 私の叱責で少年達が私の前に並ぶ。


 「最初に言っておきます。長剣を抜いたら、後はどちらかが倒れるまで戦闘は継続します。途中で逃げる事は許しません。絶対に相手を倒すか、それとも自分が倒れるか。長剣とはそういう武器であることを忘れないで!」


 少年達がこくこくと頷き、壁際に建ったハンター達が互いの肩を叩いてる。

 我が意を得たり、ってとこなんだろうな。


 「さて、先ずは貴方達の技量を確認します。あの革鎧を長剣で斬ってみて。どんな形でも良いわ」


 最初の少年が進み出て、背中の長剣を抜いた。

 そしていきなり走り出すと、ドンっと言う感じで斜めに長剣を叩き付けた。

 次の少年も同じような感じだ。

 最後の少年は肩口に振り下ろしたが鎧に食い込んで杭に足を掛けて引っこ抜いていた。


 外野席では、ガヤガヤと騒いでいる。

 スジが良いと言う者、もう少し踏み込むべきだと呟く者もいる。

 

 「貴方達の技量はだいたい分ったわ。実に教えがいがあります。教える前に、貴方達に教える長剣を一度だけ見せます。そしてこれは練習すれば必ず出来る事だから、毎日練習するのよ」


 そう言って腰に差した刀を抜く。

 その刀を見て、外野達が騒ぎ出した。

 足早に革鎧に近付きながら八双に刀を構える。


「ヤァ!」

 フュン……フュン……


 気合と共に刀を振り下ろして、直ぐに刀を返えす。

 そして、刀を鞘に戻しながらゆっくりと少年達の元に歩いていくと、ドサリっと後ろで音がする。


 「なんだ! 革鎧が真っ二つだぞ。しかも2つ転がってるってことは……」

 「振り下ろした後に、振り上げただろ。たぶんあれでもう1回斬ってるんだ。驚いたな。お前出来るか?」

 「とんでもねぇ。精々、肩口まで斬れる位だ」


 外野の大きな声は無視して、驚いてる少年達の前に立つ。


 「私が教えられるのは、今のような使い方なの。先ずは構え方から行くわ」


 そんな長剣の練習が始まった。彼等から離れた場所で何人かが長剣を同じように持って参加しているが、ある程度長剣を使ったものなら私の練習はおもしろくは無いだろう。

 やがて、日の暮れる頃には私と少年だけになった。


 「今日は此処までね。明日の狩りが終ってから、また教えてあげるわ」


 私の声にたっぷりと汗をかいた少年達が頷いた。

 さて、しばらくはひたすら素振りをさせよう。素振りとて馬鹿には出来ない。

 足と連動した素振りが自然に出来るようになるまで練習すれば、それだけ強力な一撃を相手に与える事ができる。


 少年達に明日の朝の約束を再度確認して分かれると、ギルドのテーブルに戻ってお茶を注文する。

 シガレイを楽しみながら、しばらく休んで下宿に戻ろう。


 「ちょっといいかな?」

 「あら、何かしら?」


 2人の男がテーブルの空いた席に座った。


 「さっき、アンタの剣技を見せてもらったんだが、どうにも信じられなくてな。一度その剣を見せてもらおうとやって来たんだが……」

 「見世物じゃないんだけど、やはり信じられないか……。はい、これよ」

 

 そう言って、まだ腰に差してあった刀をテーブルに置いた。

 

 「抜いても良いのか?」

 「カウンターに断わった方が良いわよ。ギルドでの抜刀はご法度でしょ」


 「抜刀の許可を!」

 「許可します!」


 男の大声に、カウンターのマリーが返事を返した。

 男がおもむろに刀を抜いた。

 そして、ジッと刀身を見ている。


 「昔、聞いた事がある。長剣を舞うように振りながらガトルの群れに突っ込んだ娘の話をな……。娘を飛び越えたガトルは地面に着いた途端に2つに分かれたそうだ。

 老いたハンターの戯言だと思っていたが、アンタだったらそんな事も出来るかも知れないな」

 

 そう言って刀を鞘に戻すと、私に頭を下げて中間達とギルドを後にした。

 そんな事をしたっけかな?

 だいぶ昔の話だからな。思い出せないぞ。

 とはいえ、たぶん昔の私の話だと思う。

 この国に、長剣で真っ二つに出来るような剣技は存在しない。

 相手の骨を折るとかはあるんだけどね。


 窓の外はすっかり暗くなっている。

 席を立つとバッグに刀を戻して、マリー達に片手を上げて帰ることを告げた。

 足早に、下宿に戻る。

 宿の前を通ると、中からハンター達の声が表まで聞こえてきた。

 どうやら、私の剣技の噂をしながら酒を飲んでいるらしい。

 2つに斬った鎧が3つになってるぞ。

 これだからな……。

 そんな溜息をつく自分がおかしくて思わず微笑が漏れた。

 そして雑貨屋の角を曲る。

               ・

               ・

               ・


 「そうですか。グラム達に指導をねぇ……」

 「マンドリルを採取する交換条件です。面倒ですからね。この町のハンター達も引き受けないと思います。でも王都では流行が気になるようです」

 

 「人が多いですから広がるのが早いでしょうね。来月辺りにはこの町でも流行するかも知れません」


 人の動きによってどんどん広がるのがこの病の特徴だ。

 かかると、3日程高熱が出て体に発疹が浮かぶ。そして次に更なる高熱が5日程続くのだが、発疹が浮かぶ数日は熱が下がるのだ。この時に薬草を服用すれば直ってしまうのだが、薬草を使わなければ次に訪れる高熱で亡くなる者も出てくるのだ。その確立は10人に1人と言われているけど、治ったとしても体に後遺症を残すものも多いらしい。


 「まぁ、何とかなると思います。彼等に無理なら私が採取しますわ。

 ところで、ネリーちゃん。また、蜜蜘蛛の依頼が出てたわよ。ロディに頼んでくれない?」

 「分った。たぶん、皆賛成するんじゃないかな。おもしろくて、もっとやろうとしたんだけど、依頼があれっきりだったから……」


 ミレリーさんが私達のカップにお茶を注ぎながら口を開く。

 

 「それも、流行に関係しているんだろうね……」

 「たぶん。解熱材としては有効ですからね」


 他の町や村にもそんな依頼が沢山舞い込んでいるのだろう。

 だが、マンドリルは山間の土地にのみ生育する。

 この国にはもう1つ山間に村があるが、あまり期待出来無いだろうな。

 この町で、マンドリルを採取してやったほうが良いだろう。

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               ・

               ・


 次ぎの日、朝食を早々に済ませてギルドへ向かう。

 下宿を出る時はネリーちゃんと一緒だったが、雑貨屋の角で手を振って私から分かれていった。ちびっ子達の集合場所に行くんだろうな。

 

 「お早う!」

 

 元気良く挨拶して、カウンターに手を振る。マリーがそれに答えて片手を上げると、奥のテーブルを指差してる。

 そこには、3人の少年が座っていた。

 結構早く来たみたいだな。ちょっと感心しながら彼等の前の何時もの椅子に腰を下ろした。


 「「おはようございます!」」

 「おはよう。だいぶ早く来たわね。では、早速狩りの話を始めるわよ」


 そう言って片手を上げると、マリーがお茶と革の装丁のあるノート持ってやってきた。

 途端に、少年達の顔が下を向く。

 それ程恐れられてるのか? 思わずマリーの横顔を見てしまった。


 「それじゃあ、マンドリルの狩りの説明をするわよ。

 基本的には、薬草採取と変りはないわ。マリー図鑑を持ってきて!」

 「持ってきてます。……いい?これがマンドリルよ!」


 トレイの下にパンフレットのような図鑑を持ってきていた。薬草だけの図鑑だから薄いんだな。


 「これって!……魔物じゃないんですか?」

 「一応、薬草に分類されてるの。死んでも魔石は残さないし、姿も無くならないから、魔物とは違うんでしょうけどね」


 私にだって自信はない。最初に採取した時はギルドに届けるまで魔物だと思ってたぐらいだ。


 「採取の仕方は、薬草と同じように周囲の3箇所に採取ナイフを突き刺すところまでは全く同じ。

 次に、この葉っぱを片手で掴んで引き抜くとスポって引き抜けるわ。

 結構暴れるし、小さい口を開けて泣き喚くけど気にしないでね。あまり顔を近付けると蹴飛ばされるわよ。

 そしたら、布にこんな感じで袋に入れてしまえばいいわ。直ぐに大人しくなるから、袋をこんな感じで布で包むの。……分ったかしら?」


 「最初は薬草と同じ。葉っぱを持って引き抜いたら直ぐに袋に入れる。大人しくなったところを布で包む……。で良いんですよね」


 物覚えは良いようだ。


 「それで良いわ。布は持ってきたわね。……マリー布袋を貸してあげて!」


 私の言葉に少年達とマリーが頷いた。


 「そして、マンドリルが採取できる場所は北のガレ場だけだわ。

 距離は遠くなるけど、絶対に昼を過ぎたら戻りなさい。ガレ場には獣は殆どいないけど、万が一って事もあるの」

 「返事は?」


 マリーの言葉に少年達が一斉に「ハイ!」って答えるけど、声が裏返ってるぞ。

 マリーに引き連れられてカウンターに向かうと布袋を沢山受取っている。そんなに採れるんだろうか?ってちょっと考えてしまう枚数だぞ。

 そして、少年達は元気にギルドを出て行った。

 後は帰りを待つだけだな。

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