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G-017 少年達

 「他のハンターの相談に乗るというのは、話を聞く限りでは面白そうですね」

 「やはり、最初の狩りはどんなハンターでも不安になりますわ」


 夕食後にお茶を飲みながら、ミレリーさんと会話をするのも楽しいものがある。

 話を聞く内に、結構色々と狩りをしてきたのが分る。

 その話と私の経験が必ずしも一致しないところがあるのが新鮮だな。

 獲物に対して、どのように狩りの作戦を立てるかはそれこそ千差万別だ。

 その一端が、ここでも分る時がある。

 

 野犬に向かって棒で叩けを教えたと言ったら、片手剣で狩るとミレリーさんは言っていた。

 それによって、【アクセル】の重要性が認識出来るという事には、頷けるものがある。

 棒で叩くのを覚えると便利だからそれが長く続く。

 結果、剣を使えない中途半端なハンターが出来かねないのも確かなんだよな。


 「やはり、長剣の使い方を教える必要がありますね……」

 「貴方に教えてもらえたって事が、彼等の誇りになりますよ」


 「でも、教えないでくださいね。ギルドに何時も座ってるお姉さんのスタンスは崩したくありませんから」

 「そんなこと教えたら、国中のハンターが押し寄せますよ。あの子達が青になった時に教えてあげます」


 だいぶ先になるからそれで良い。

 問題は、私の長剣の使い方がこの世界ではかなり異質であることだ。

 まあ、ハンターならば何時も長剣を振るう訳ではないから、問題はないと思うのだが……。

 そんな事を考えながら、お風呂に入って寝床に入った。

               ・

               ・

               ・

 

 次の朝、ギルドのテーブルで何時ものように過ごしていると、ダノンがやってきた。早速、手招きして子供達の事をお願いする。


 「ひよっ子達の初めての狩りか。それは見なけりゃなるまい。おもしろいのも確かだが、危なくなったらクレイに頼もう。あいつは一端の剣士だぞ。なるべく早くレベルを上げてやらねばかわいそうだ」

 「他にもハンターはいるでしょうけどね。でもお願い。それに更にちびっ子達がいるでしょ」


 「あいつ等なら安心だ。あのリーダーは青レベルのリーダーに匹敵するぞ。決して危ない真似は子供達にさせないし、周囲を何時も観察してる。将来が楽しみな奴だ」


 ロディは面倒見が良いからな。彼に預けていれば子供達の親も安心出来るだろう。

 

 「おっ!クレイ達だ。今日は少し下に行って見るつもりだ。少しでも稼がしてやらんとな」


 そう言って、彼等に片手を上げて、掲示板へと向かって歩いて行く。クレイ達も私に気が付いて軽く頭を下げて掲示板へと急いだ。

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               ・


 セリーがお茶を運んでくる頃には、ギルドに静けさが訪れる。

 狩りに出かけるハンター達が壁の依頼書を選んでそれぞれに出掛けるのが一段落するためだ。

 再び賑やかになるのは、丁度次のお茶が運ばれてくる3時過ぎになる。

 

 その間を利用して、マリー達は次ぎの依頼書を張り出したり、ハンターの獲物を入れる袋や籠等を準備しているようだ。


 「何か、おもしろい依頼はあるの?」

 「そうですね……。何故か蜜蜘蛛の注文が沢山来てますよ。以前子供達が採取したのが良かったみたいですね。王都に生きたまま届けましたから」


 「今夜、ネリーちゃんに教えてあげるわ」

 「お願いします。それと、これも薬草なんですけど……」


 そう言って、テーブルに1枚の依頼書を広げた。

 私は、興味半分でその依頼書を読んでみる。


 「……これは、確かに薬草だけど」

 「レベル判定に迷うところです。ギルド図鑑では赤5つなんですけど……」


 「う~ん、確かに1個なら赤5つでも何とかなるのよね」

 「ですが……」


 テーブルに広げられた依頼書に書かれた薬草の名前は『マンドリル』最初は、猿の一種だと思ってたけど、パーティで採取したのは薬草だった。そして、驚いたのがこの薬草は動くのだ。

 全体の姿は、先が2つに分かれたニンジンそっくりで、それを足のように使って葉っぱを持って取り上げた私の顔を蹴ろうとしてたっけ。

 よく見ると小さな目が2つあるし、その下には唇のない口がパクパクと開いてキーキー鳴き声を上げていたのを覚えている。そして、その口には小さな棘のような牙が沢山あった。


 「これが必要ってことは?」

 「王都で流行してるそうです」


 ならば、何とかしなければなるまい。

 なぜなら、このマンドリルって薬草は、風疹に似た病気の特効薬なのだ。


 「量は問わない。と言うのも問題よね。これって早く確保して王都に送れ!って事でしょ」

 「そうなんです。でも1個15Lですから、上位のハンターはたぶん受けてはくれないでしょうね。野犬を追う方が見入りも良いですし……」


 「あの3人を使いましょう。確か赤4つだったわね。2つ上までだから丁度良いわ」

 「でも、今日は野犬狩りをしてますよ。上手く狩りが出来たら引き受けてくれないじゃないかと思います」


 「そこは、交換条件を出すわ。……私が彼等に長剣を教えてあげるって事で交渉してくれない? もちろん、マンドリルの採り方は教えてあげる」


 「よろしくおねがいします」って言いながら、マリーは掲示板に依頼書を貼り付けに行った。

 意外と、ギルドも大変みたいだな。

 慣れれば、普通の依頼書に適正なハンターレベルを書くには簡単みたいだが、たまに変った依頼があると判断に迷うようだ。

 それでも、ギルド図鑑である程度は調べられるんだが、何冊もあるし分類が適当だから困るんだろうな。


 さて、少年達の初めての狩りの顛末はどうなんだろうな。

 そんな事を考えながら、咥えたシガレイに火を点けた。

               ・

               ・

               ・


 お茶を飲みながら続々と帰ってくるハンター達を眺める。


 嬉々とした表情でギルドの扉を開けるのは、狩りが上手く行ったハンターであることが直ぐに分る。報酬を受取ると元気にギルドを出て行くが、これから宿で酒盛りってとこだろうな。


 その反対に、ガックリと肩を落として入ってくるハンターも少なからずいる。

 それでも、カウンターに何かを出すんだから、丸っきりのカラ振りではないようだ。

 

 無理にレベルの高い狩りをしたのだろうか?

 怪我がないなら数度は試してみるのも良いかも知れない。

 負けてこそ強くなれる。


 ちびっ子達がバタバタと走りこんできた。

 賑やかだが無事でよかったな。取り出してるのは薬草だな。そういえば今日は薬草採取って聞いてたな。

 ネリーちゃんが私に手を振って出て行った。思わず私も手を振ってるし……。


 ダノン達も帰ってくる。

 顔がほころんでるから、薬草は大猟だったのだろう。

 カウンターの様子を見ていると、ダノンがマリーに何か告げているぞ。そして、マリーは水晶球を取り出した。

 まだ、2回目の薬草採取で水晶球を持ち出すのは穏やかではないな。

 そんな疑念を晴らすべく、コツコツと音を立ててダノンが私の所にやってきた。


 「ちょっと理解に苦しむわ?」

 「確かにな。だが、アンタの忠告通りの事が起こったんだ。少年が野犬を狩るのを見ていたんだが、一度倒した後に次の群れが来た。20はいたぞ。子供達が対処出来ないでいたところをクレイ達が倒してくれた」


 「10匹以下の群れを狙えって、言っといたんだけど……」

 「最初は8匹だから、ちゃんと連中は約束を守ってたよ。その後は、まあ想定外ってことだな。これで、消沈しなけりゃ良いんだが」


 そう言ってダノンはカウンターに歩いて行った。

 クレイ達の肩をポンポンっと叩いているところを見ると、レベルが上がったようだな。

 

 そして、問題の連中がギルドに入って来た。

 確かに下を向いてるな。

 でも、見た感じでは怪我はしていないようだ。そして、最初の野犬はちゃんと倒しているんだから狩りは成功と考えて胸を張るべきだと思うぞ。


 カウンターのマリーの所に行って袋を逆さにしているから、野犬の牙を渡しているんだろうけど、その後でマリーの説教が始まったようだ。

 ますます少年達の姿が小さくなったように見えるぞ。

 そして、最後に、ビシって私を指差して何か少年達に告げている。

 

 少年達は項垂れた姿で、足を引き摺るような感じで私の前にやってきた。まるでゾンビのようだぞ。


 とりあえず、にこやかな顔で彼等を迎えて、席に着くように椅子を指で示した。

 席に着いても相変わらず、下を向いて私の顔を見ようとしない。

 相当、悔やんでるのかな? 完全に消沈しているな。


 「とりあえず、最初の狩りは成功ね! おめでとう」

 

 私の言葉に、そうっと3人が私の顔を覗き見る。

 そんな彼等に、にこやかな顔で応対してあげた。


 「でも、最後は近くのハンターに助けて貰いました。俺達は脅えてそのハンターの後ろで震えながら夢中で棒を振っていたんです」

 「それを恥じてるの? あまり引きづる事はないと思うわよ。先ず、最初に私が言った事は守ったのよね?」


 「はい。ちゃんと南の荒地で野犬の群れ10匹以下を相手に棒で殴りました」

 「なら、狩りは大成功じゃない! その後の野犬の群れは貴方達の技量では、対処しようなんておこがましいレベルよ。近くのハンターに応援を求めることが最善の手になるんでしょうけど、最初は竦んでしまってそれが出来ない場合が多いわ。だから、知り合いに頼んで貴方達の様子を見守って貰ってたんだけどね」


 「あの2人がそうだったんですか? さぞかし高いレベルなんでしょうね。長剣の一閃ごとに野犬が倒れていくのを覚えてます」

 「レベルは赤1つよ。この間から南の荒地で薬草を採取してるの。でもね、彼は長剣の心得があるのよ。王都で習っていたらしいわ」


 私の言葉に3人あ吃驚して私の顔を見た。

 これで、つかみは出来たな。


 「今日、ちょっと変った依頼が張り出されたわ。たぶん誰もその依頼を受けないと思うの。もし、貴方達がその依頼を受けてくれるんだったら、私が長剣の使い方を教えてあげようと思うんだけど……」


 ガタンっと3人が席を立った。

 

 「依頼の件名を教えてください!」

 「マンドリルよ。赤5つの薬草採取で掲示されてるわ」


 私の言葉を最後まで聞かずに少年達は掲示板に走っていく。

 どうやら、普段に戻ったみたいだな。

 彼等の消沈した原因は、クレイの剣技を見たことで生じたようだ。確かに王都の貴族であれば精練された動きになるだろう。そして年少から繰り返し鍛錬したものだから、実際に長剣を振るう場面になっても問題なく使えたという事だ。

 これが、盗賊相手だと必ずしもそうなるとは限らない。人を斬るという事は少なからず良心の呵責が生じる。それが迷いとなって動きが鈍るのだ。

 クレイにとっても今回初めて長剣で生物を相手にしたんだからな。獣で良かったと思うぞ。


 少年達は、どうやら目的の依頼書を見つけたようだ。直ぐにカウンターのマリーのところに持って行き依頼書に確認印を押して貰って私のところにやってきた。

 後から、革装調のノートを持ってマリーもやってくる。


 そして、少年達は再び私の前の席に座った。

 マリーも私の隣に座ってノートを開く。


 「さて、マンドリルの採取なんだけど、採取に必要なものは薬草採取と同じよ。ただし、もう1つ。布がいるの。大きさはこのテーブル位で良いわ。2枚用意しなさい。

 具体的な採取の仕方は明日出掛ける前に説明するから、朝早くいらっしゃい。

 そして、私が貴方達に教える長剣の使い方は、王都の剣士達の使い方とは少し違ってるの。でも、役立たない訳ではないからしっかり覚えてね。

 という事で、早速始めるわよ。マリー裏庭は使えるんでしょ」


 バッグから袋を取り出して、愛用の長剣を取り出す。

 テーブルの上にゴトリっと音を立てて変った形の長剣が置かれた。

 

 「誰も使っていません。……ところで、それって長剣なんですか?」

 「もちろん。……変ってるでしょ。でもね。私の長剣の使い方を形にするとこうなるのよ」


 少年達は、呆気に取られてテーブルの上に置かれた長剣を見てる。

 彼等にとっても初めて目にするものだろう。

 マリーだって見た事はない筈だ。

 これを最後に使ったのは20年以上前になるからな。

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