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G-016 初めての野犬狩り

 ダノンに若い2人のハンターの指導を頼んだ次の日。

 朝早くギルドに出掛けて、両者がギルドにやってくるのを待った。


 最初に現れたのは、若い2人組みだ。

 カウンターのマリーに呼び止められて、何かを告げられると急いで私の所にやってきた。


 「お早うございます。貴方のところに行くように告げられましたが……」

 「お早う! 貴方達の指導をしてくれる人物を見つけたわ。彼に指導して貰って、薬草採取を先ずは覚えなさい。ハンターならば皆一度はやってるから何処にいても薬草を手に入れる事ができるの。ハンターとしての最低の技能だからちゃんと覚えないとダメよ」


 「はい。ハンターになると決めた以上、必要なことは全て覚えるつもりです」

 

 中々殊勝な考えだけど、大変だぞ。労多くして報酬は僅かだ。

 果たしてそれを1年程続けるだけの気力があるか……。


 シガレイに火を点けて世間話をしていると、この2人がクレイにメリエルと言う名前であることが分った。

 やはり、パイドラ王国の下級貴族の子女であるらしい。


 「何れは家を出なければなりません。次男ですからね。メリエルも弟がいますから、私達がいなくなっても家はだいじょうぶです」

 「一人前になったら、一度は帰るべきよ。でも、何年掛かるかしら」


 ハンターと言うのは、ある程度適正があるのだ。

 いわゆる、ドジな奴は先ず無理だし、お高いのも嫌われる。何よりも程ほどの実力と仲間を思う気持ちが欲しい。

 

 コツコツっと音を立てて、ダノンがやってきた。

 テーブルに着くと、2人の顔を眺める。


 「この2人なのか?」

 「ええ、そうよ。クレイにメリエル、そしてこちらが貴方達を指導してくれるダノンよ」


 「ダノンだ。よろしくな」

 「こちらこそ。……その足は?」


 「気になるか? 少し前に崖から落ちてな。そこをガトルに襲われてこの始末さ。もう直ぐこの杖も必要なくなるだろう。全く、後で聞いたら驚くような事をこちらにしてもらったんだ」

 

 あの体でここまで元気になれば自慢もしたくなるだろうな。

 それにしても、回復力が凄いな。野生の獣並みだぞ。


 「さて、そろそろ出掛けるか。先ずは依頼を確認してだな……」


 ダノンが歩きながら色々と説明を始めた。

 ホントに初心者相手のガイドみたいだな。意外と彼にはガイドの適正があるんじゃないのだろうか?

 ちょっとした才能を発見して微笑んでいる私に、彼等は手を振るとギルドを出て行った。

 先ずは、宿代以上を稼ぐことから始めないとな。

 そんな宿代にも事欠く時代を思い出す……。そんな私をパーティに入れてくれた連中はとっくに土に還っている。

 良い連中だったな。あの頃は毎日が楽しかった気がするぞ。


 「失礼する。……もしやと思ってな。貴方を黒姫とみたのだが?」

 「その2つ名はあまり好きになれません」


 私の言葉に男がテーブルに着いた。

 壮年だ。その全身からオーラのように放たれるものは……。

 自分の武技に対する絶対の自信だな。

 

 「やはり、そうであったか。ならば、1つお願いしたい。一度手合わせを……」

 「お断りします! 私はハンターであって、武人ではありませんわ」

 

 「思ったとおりの返事をする。流石と言うべきだな。そして、まだ俺の実力では足りぬと見た。真に頂点に立つだけはある」

 

 殺気には強力な殺気を送ってやったのを彼なりに理解したという事だろうな。正直な話、この男の実力は私を超えている。だが、絶対に負けないだけの物が私にはあるのだ。44マグナム弾をこの男が防ぐのはありえない。

 その自信が私にはある。それを敏感に察知したのだろう。


 「どうだ? 王都の近衛は男だけでは勤まらん。城勤めをする気があれば俺が推挙するが……」

 「生憎と、どこぞのご隠居の仕事を請けてしまったわ。しばらくはこの町が私の職場になるわ」


 先を越されたか……、流石は先王なんて小さな声で呟いている。


 「それより、レイベル公爵を知ってる?」

 「王都で5本の指に入る貴族だが……」


 「今年、その息子がこの町で狩りをするのよ。確かライネスとか言ってたわね。引退、間近の男達が一緒だったわ」

 「ケイネル師範だ。俺の剣の師でもある」

 

 「どう? 暇なら一緒に参加しない?」

 「黒姫が参加する狩り? いったい何を狩るのだ?」


 シガレイに火を点けると、彼の方に顔を近づけて小さく呟いた。


 「グライザム……」

 

 途端に男の目が見開く。


 「おもしろい。流石は黒姫の狩りだけの事はある。それならば黒姫殿の武技を見る事も可能だろう。レイベル公爵とは顔見知りだ。早速帰って頼み込むぞ」

 「ついでにライネスの手槍を見てやって欲しいわ。振り回す必要は無し、ただひたすら突く事のみ!」


 「それも、おもしろい教えだな。手槍は振り回して使うもの、突きは止めを刺すために最後の一突き……! そういうことか」


 「そういうこと!」

 

 男が立ち上がると、私に軽く頭を下げる。

 そして、足早にギルドを出て行った。

 まあ、6人いれば何とかなるだろう。止めをライネスに譲るのが難しいんだよな。

 

 そんな事をお茶を飲みながら考える。

 昔の狩りを思い出しながら、人員配置を考えてみるのだが、上手い方法が思いつかないな。

 まだ3ヶ月も先の話だから、少しずつ考えてみよう。

 誰も相談に来ないと結構暇だからな。

               ・

               ・

               ・


 午後のお茶を飲んでいると、ハンター達が続々と帰ってくる。

 ネリーちゃん達は今日は薬草採取だったようだ。

 ダノン達も引き上げてきた。3人とも微笑んでいるところをみると、沢山採れたみたいだな。

 3人で報酬を分け合って私に手をふってギルドを出て行った。


 「あのう……」

 「あら、なあに?」


 3人の少年達が私の前に立っていた。

 両端の少年が真中の男の子を突っついて急かしている。

 その仕草が、ちょっとおもしろいな。

 

 「実は俺達、これを受けたいんですが、初めてなら貴方に相談しなさいと、マリーお姉ちゃんが……」


 ははぁ、マリーの弟か、それとも近所の子供達だな。

 ロディ達よりも少し年上のようだ。という事はレベル的に赤の5つ前後って所かな。


 テーブルに広げられた依頼書には……ほう、野犬じゃないか!

 男の子達をテーブルに着けると、片手を上げてパチンっと指を鳴らす。


 マリーがお茶と例のノートを持ってやってきた。

 少年達と私にお茶を配ると、私の横に座りトレイに乗った最後のカップを自分の前に置いた。


 「お姉ちゃん、何でいるの?」

 「貴方達がどうやって狩りをするのか、ちゃんと聞いておくの。出ないと怪我をしたりしたら貴方達のお母さんに説明しなきゃならないでしょ」


 意外と過保護みたいだな。

 まぁ、母親はいくつになっても息子がかわいいて聞いた事がある。

 

 「これが、初めての獣狩りよね」


 私の言葉に少年達が頷く。


 「先ずは、相手が生きているって事が今までと大きく違うの。薬草だって生きてるけど、獣の場合は動くし、吼えるし、そして噛付くわ」


 そこまで言うと、お茶を飲みながら少年達の顔を見る。

 ジッと私を見ているな。


 「獣の習性でおもしろいのは、一番弱いものから倒すのよ。そしてその判断は常に正しいわ。だからハンターは強くなるの。でもね、誰もが強い訳ではないわ。例えば、長剣を持つ者と魔道師ではどうしても魔道師を獣は攻撃することになるの。レベルが同じでもね」


 少年達は互いに顔を見合わせてる。

 少年なりに自分達の力量が五十歩百歩だという事は理解しているようだな。


 「でも、貴方達は全員長剣よね。力の差はそれ程ないと思うから、一度に襲われると思うわ。そして、その時の対処が問題になるの。

 長剣は背負ったままで使うのは止めなさい。野犬に当てるよりも仲間を斬ってしまうことになるわ。

 当然最初なんだから、小さな群れ……そうね、10匹以下の群れを相手にしなさい。

 そして、棒で殴ること。野犬には極めて有効だわ。私はガトルも棒を使う位だからね。

 今でもこれを使う位だから」


 そう言って、腰のベルトに挟んだパイプを取り出した。


 「そんな短いパイプでガトルが倒せるんですか?」

 

 そう言った少年にパイプを渡す。

 恐る恐る握ったパイプの軽さに彼は気が付いたようだ。


 「それは鉄のパイプなの表面は銀で覆ってるけどね。先端の模様みたいになってるのは全て殴った傷よ。元は顔が映るほど綺麗だったんだけどね」


 恭しく両手に持って返してくれた。


 「でも、私が何故殴るんだか分る?」

 「高価な剣を傷付けたくないとか……」


 思わず、笑ってしまった。確かに少年達の長剣は長年薬草を採って稼いだお金を使って手に入れたものだろう。今の段階では宝物に違いない。


 「ちょっと違うわ。獣の肉は剣で切ると、剣を包み込むように締まるのよ。剣を引き抜くのに力がいるの。突いても同じことになるわ。

 だけど、棒で叩けば肉を切る事もない。直ぐに次の獲物に立ち向かえるわ。それに、同じ長さなら剣より軽いでしょ。藪から切取れば簡単に手に入るしね」


 とは言うものの、先ずは一度殴って感触を確かめるまでは、どうしても力一杯殴れ無いだろうな。

 こればっかりは経験だからな。


 「確か、南の畑の下に野犬が出るのよね。なら、最初の狩りはそこでやってみることを勧めるわ。周りに他のパーティもいることだし、イザとなれば助けを求める事もできるわ」

 「分りました。南の畑の下で10匹位の群れ、そして剣ではなく棒を使う……。ですね」

 

 「それに、危ないと思ったら助けを求めること。ハンターは仲間なんだから、助けを求められれば可能な限り応じてくれるわ。

 そして、貴方達が更にレベルを上げたら、助けを求めるハンターの声には可能な限り応援してあげるのよ」


 少年は私に向かって一斉に大きく頷いた。

 ハンターに長幼の差はない。レベルの差があるだけなのだ。皆ハンターは仲間と思わなくちゃな。たまには変なのがいるけど、あれは例外だ。


 「ちゃんという事を聞くのよ。明日帰ってきたら、お姉ちゃんに一部始終教えなさい。良いわね!」


 マリーの言葉に脅えながら頷いてるぞ。

 なんとなく、マリーと少年達の力関係を理解してしまった。


 ダノンとクレイに明日はよろしく頼んでおこう。何と言っても始めての本格的な狩りだ。成功させてやりたいと思う。


 「さあ、いらっしゃい。依頼書に依頼の承認印を押してあげるわ」


 そんな言葉に、少年達はマリーに連れられてカウンターへと歩いて行った。

 だが、それを見てたらちょっと可笑しくなってしまった。

 少年達にとっては、野犬よりも恐ろしいのはマリーってことになるんだよな。

 それを考えると、明日の狩りはそれほど心配しないで良いのかも知れない。

 

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