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G-015 若いハンターの指導員

 季節は巡り夏に近付いてきた。

 革の上下は厚くてかなわない……。

 ということで、衣替えだ!


 綿の薄手の上下は紺色で、革のロングベストを体に巻着付けるように着込み、幅広のベルトを付けた。そして、小太刀をバッグの横に差し込めば準備は出来上がりだ。

 マグナムリボルバーのホルスターを隠スために、少し大きめのバッグに変える。

 もちろん、革のブーツも足首が隠れる程の短い奴に替えた。これはブーツの甲に小さい孔が沢山空いているから、蒸れることはない。


 朝食にトントンと階段を降りていくと、ネリーちゃんも似たような格好をしている。

 私の格好を見て、「おそろいだね!」って喜んでいたぞ。


 3人で簡単な朝食を取ると、ネリーちゃんは早速家を飛び出していった。

 私はミレリーさんとお茶を飲みながら、シガレイに火を点ける。


 「ホントに暑くなってきましたね。暑くなると、スピナーが出るんですよね」

 「ちょっと厄介ですけど、スピナーは引く手あまたですからね。ちびっ子達に捕まえ方を教えないといけませんわ」


 私の言葉にミネリーさんが笑顔を向ける。

 

 「スピナーならば、子供達には良い獲物ですわ。たぶん、ロディが年少組みの子供達に教えると思いますよ」

 

 スピナーというのは羽アリの一種だ。大きさは子供の親指程の大きさがある。

 クルクルと回るように飛ぶのが特徴で、お尻に蜂と同じような毒針を持っている。

 毒針はミツバチ位の大きさしかなく、その毒性も弱いもので刺されてもちょっと赤くなる程度だ。

 しかし、その毒を数種類の薬草と合わせることで、解熱剤を作る事ができる。

 冬に流行する流感の対処薬として薬材ギルドからの注文が大量に舞い込むのだ。


 「でも、不思議な昆虫ですよね。まさかあれで熱が下がるなんて、良くも調合師たちは気付いたものです」


 幾らなんでも、大人のハンターが受ける依頼ではない。必然的に子供達の狩りの対象となっているし、その報酬は1匹単位で引き取ってくれる。

 毒袋は調合師達が慎重にスピナーから取り出すので、本体をカウンターにもって行けば良い。


 そんな会話を楽しんで、私はギルドへと出掛けていく。

 ギルドに入ると早速掲示板を覗いてみた。


 あるある。赤のレベルの掲示板の一番下に、『スピナー引き取ります』と書き込んであった。

 下に表示してあるという事は、ちびっ子達が対象と言うことだ。

 これで、スピナー狩りを大人のハンターがやったとしたら確かに笑いものになるだろうな。


 その他には、野犬が町の近くに出没し始めたようだな。これは白で十分の筈だ。初めての肉食系の獣を狩るハンターにとって良い腕試しが出来るだろう。


 窓際のテーブルに着くとマリーがお茶を持ってきてくれた。

 

 「だいぶ涼しげな格好ですね」

 「暑いのは苦手なのよ。スピナーが出たんですって?」


 「畑にいるようです。10日も前から王都から注文が来てますけど、目撃されたのが昨日でしたので」

 「畑なのね。……そういえば、野犬の目撃箇所は?」

 

 「畑の先にある荒地です。距離が離れているからロディ達なら安全でしょう。集団で行動してますから、早々野犬が襲うとは思えません。それに白のハンターが2パーティ野犬狩りを今朝引き受けています」


 「ですから安心ですよ」と言って、マリーはカウンターに帰っていった。


 確かに野犬は、群れから離れた小型の草食獣を狙うことが多い。

 2パーティが野犬狩りに出ているのなら少しは安心出来るな。

 それに、畑には農家の連中も大勢出ている筈だ。


 そんな事を考えていると、ギルドの扉が開いて男が入って来た。私を見て片手を上げる。

 崖の下で緊急措置を施した重傷のハンターだったが、もう歩けるまでに回復している。

 片足は擬足だったが松葉杖を突きながら、私のところにやってきた。


 テーブル越しに座った男は、それ程卑屈になった様子もない。

 仲間とは上手くやっているようだ。


 「今日は、薬草採取に行かないの?」

 「そうだな。今日は南に行ってみようかと思ってるんだ。この足にもだいぶ慣れてきたしな」


 心配した感染症もなく、一月足らずで回復したとは見上げたものだ。

 それでも、右手の痺れは残っているようで、薬草採取は彼のリハビリと言って良いだろう。

 

 「しかし、この腕に足の骨が繋いであると聞いて吃驚したぜ。だが、今では何とか動かせる。足は擬足になっちまったが杖1本で歩けるんだ。ハンター廃業かと思ったが、近場なら何とか食っていけそうだ」

 

 そう言って立ち上がると、掲示板に向かって歩いて行った。適当な依頼書を物色してカウンターへと持って行く。


 事故を起こして深手を負うと、どうしても以前のパーティとは離れていく。

 卑屈になってハンターを廃業する者もいるのだが、彼の場合は前向きだな。

 

 今日の採取が無事に終わることを願いながら、シガレイに火を点けた。

 特に何事もなく1日が過ぎて行く。


 昼を過ぎた辺りで、ネリーちゃん達がロディのパーティと共に帰ってきた。

 どうやら獲物は大猟だったらしく、報酬を皆で分けている。

 ロディ達が捕まえてきたスピナーは、今夜の荷運びの連中の手で王都に運ばれるんだろう。

 

 「すみません。この町のハンターですよね。……ちょっと、教えて頂きたいのですが」

 「なんでしょう?」


 若い男女の2人組みだ。まだ10代かな。

 装備が真新しいから、まだハンターになったばかりのようだ。


 私は2人をテーブルに着かせると、どんな相談なのかを再度聞いてみた。


 「お恥ずかしい話ですが、ハンターになり立てです。5日前に王都から出てきました。親同士が私達の交際を認めてくれませんでしたので……」


 ほう、駆け落ちって訳だな。

 この世界の恋愛事情は複雑だから、それをとやかく言うつもりは無いが、彼等の決断なら応援してあげるのにやぶさかではない。


 「ハンターになったのは良いけれど、どうやって暮らしを立てて行けばいいのかが分らないって事?」


 私の言葉に2人が顔を見合わせて頷いている。

 

 「そうね……。ところで、軍資金はあるんでしょう?」

 「一応、10日は宿に泊まれます」


 緊急性は無いと見て良いようだ。

 もう一度、2人の装備を詳しく見てみる。

 男性は長剣を背負って腰にバッグを付けた、典型的なハンター姿だ。

 女性の方は、綿のロングなスカートを着けている。そして、上着は私と同じようないでたちだ。武器は小さな短剣を下げている。ひょっとして、魔道師なのかな?


 「赤の1つで良いのかしら?」

 「カウンターの女性にも、そう言われました。そして、貴方に相談するようにと……」


 「そうね……、赤1つであれば、赤3つまでの依頼を受けることが出来るわ。それと、貴方達、武器を使えるの?」

 「一応、長剣を使えます。ですが、狩りをした事はありません。メリエルは【メル】と【サフロ】を使えます。ですが、やはり狩りはした事がありません」


 なるほど、少し事情が分ってきたぞ。

 この2人、どうやら下級貴族の子女らしい。親としては少しでも豊かなところに嫁にやりたいし、嫁を貰いたいという事だろう。

 それが嫌で、幼馴染と飛び出してきたようだ。

 でも、剣を使えるというのは、メリットだな。魔法も組み合わせとしては上出来だ。


 「あそこの掲示板に紙が沢山貼ってあるでしょ。あれが依頼書よ。依頼書の上の方に受ける事ができるレベルが書いてあるわ。赤3つまでは受ける事ができるの。

 でも、最初は薬草にしておきなさい。2人で頑張れば1日で60Lは稼ぐ事ができるでしょう。町から少し離れた日当たりの良い場所なら沢山取れるわ」

 「しかし、私達はお恥ずかしい話ですが、薬草の見分けが出来ません!」


 「困ったわね。でも、採取用ナイフは持ってるのよね」

 

 2人の腰にはちゃんと真新しい採取用ナイフが取り付けられてある。

 これは、ネリーちゃん達に頼む外無さそうだぞ。

 ん!…………待てよ、丁度良い奴がいるじゃないか。


 「一応、長剣と魔法は使えるのよね?」

 

 私の念を押した問いに、2人が頷いた。


 「丁度良いガイドを紹介してあげる。ちょっと前に怪我をして今は薬草採取をしているのよ。今日も出掛けているから、明日の朝にまた私のところに来なさい。彼に話は付けておくから」

 「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 私に何度も頭を下げて、2人はギルドを出て行った。

 

 マリーが革で装調されたノートを持ってやってくる。

 私の前に座ると早速ノートを広げたので、簡単に話の顛末を聞かせてあげた。


 「へえ~、駆落ちですか?」

 「そんな感じね。あの2人は下級貴族って感じだったわ。ならば長剣の使い方位は習っていたかもね」


 「それで、あの重傷を負ったハンターに目を付けたって事ですか?」

 「彼も私に恩義を感じてるから、良い機会だと思うの。それに、丁度いいからちびっ子達の用心棒になってもらうわ」


 一応、周囲にハンターはいるのだが、ちびっ子達を見守ってくれている訳ではない。

 彼等なら薬草採取の合間に周囲の警戒をしてもらえるだろう。

 畑の野菜が育つ夏から秋には小型の獣達が畑を荒らしに来る。それを狙って野犬達も人里近くに接近してくるのだ。


 しばらくしたところで、セリーがお茶を運んでくれた。

 ということは、そろそろ薬草採取の連中が帰ってくる頃だ。


 シガレイを咥えながら待っていると、コツコツと特徴的な音を立てて、待ち人が現れた。

 今日の収穫をカウンターで金に換えると、私の所にやってきた。

 

 「俺に、用事があるって聞いたが?」

 「ちょっと、頼みたいのよ。先ずは座って頂戴。ところで、まだ聞いてなかったけど、貴方の名前は?」


 重傷者の名前はダノンと言う名前だった。

 ダノンに、薬草採取を若いハンターに教えてくれるように頼むと、2つ返事で引き受けてくれた。


 「アンタの頼みを断われる訳はねえよ。良いぜ。俺も1人より連れがいたほうが退屈しねえからな」

 「ついでで悪いんだけど、ちびっ子の様子も見てくれるとありがたいわ」


 「それは、今日もしていたさ。下の方にパーティが1ついたが、当てには出来ねえ。何かあれば大声で知れせられる場所で薬草を取っていたんだ」


 子供は宝か……。

 この世界にもそんな認識があったんだな。

 私はあらためてダノンに頭を下げた。

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