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GⅡー75 罠を利用する狩りもある


 雪の中の野営は、風を防ぐ手立てと焚き火があればそれなりに寒さを防ぐことができる。当然薄着では問題外、革の上下の下に綿の上下を着て、薄手のセーターぐらいは欲しいとことだ。焚き火を前にしてガトルの毛皮のマントに身を包めば、それなりに温かく感じられる。

 さっきまで起きていたキティが、天幕の中で眠るリトネの隣に潜り込むと、パメラが起きてきた。

 ネコ族とエルフ族の耳があれば、静かな森の中のかすかな音さえ聞き分けられるだろう。


「このまま待つんですか?」

「そうよ。黒鳥が罠に掛かれば鈴の音がするはず。それをジッと待ってるの」


 濃いお茶を飲みながら、シガレイの紫煙をふうっと噴き出した。白い息と一緒になって空に消えていく。

 グラムが固くなった体をコキコキと音を立てるような仕草で解している。いつでも長剣を引き抜けるようにとのことなんだろう。

 中々仕草がどうに行ってきた感じがする。さぞかしパメラ達が頼もしく思っているに違いない。

 耳をあちこちに向けながら、パメラが私達にお茶を注いでくれた。

 自分だけ飲んでは申し訳ないとの気持ちだろうけど、だいぶ飲んでいるようにも思える。少しはセーブしておこう。


 突然、パメラの耳がピクリと動いた。その報告に顔を向けて耳を澄ます……。

 掛ったか!


「急いで全員起こして頂戴! 掛ったようね」

「かなり鈴が鳴ってるにゃ! 今度はあっちからも聞こえてきたにゃ」

 黒鳥の群れが動いているんだろうか?


「【シャイン】! 続けて【シャイン】!」

 頭上に光球が2個出現して私の周囲を明るく照らす。


「グラム、焚き火を大きくして頂戴。帰ってきたら消えていた、なんてことになったら大変よ!」


 私の言葉に、少し太い焚き木をドンドン焚き火に投げ込んでいる。

 たっぷりと投げ込んだから、2時間程度は持つだろう。


 キティが眠そうな目をゴシゴシと擦ってるけど、置いていくわけにはいかないからね。全員が揃っていることを再度確認して役割を告げる。


「グラムたちのすぐ後ろにパメラが着いて。パメラは、キティと一緒に周囲を警戒。いつガトルが飛び出しても不思議じゃないから。リトネ達はパメラが矢を放ったらすぐに【メル】をその方向に放つのよ!」


 最後尾は私でいいだろう。さて、罠を一巡りしてみよう。新たに別の方向からも鈴が聞こえてきたから、3羽は確定じゃないかな。


 グラム達が雪の上に残った足跡を頼りに、罠を巡り始めた。

 キティ達が耳を忙しく動かしているのは鈴以外の音を聞き分けようとしているのだろう。

 罠に掛かった獲物はガトルにとっても美味しい獲物だ。鈴までなっているんだからガトル達もこちらに向かっていると考えて間違いはないだろう。


「今度は掛かってるぞ!」

 3人が足を速めて罠に向かって行く。まったく周囲には無頓着だ。いくらパメラがいるとしても、少しは危機感を持ってほしい。


 罠から黒鳥を外して、担いでいた背負いカゴに放り込む。それが終われば罠を解体して紐と鈴を回収する。

 罠を放置しておけば、ラビーだって掛かってしまいそうだ。私達の狩りはこれで終わりだから、罠の解体は必ずしなければならないことの1つでもある。

 私が何も言わなくとも、きちんと罠を処理しているのはダノンの教えに違いない。ちゃんと実践するハンターになったんだ。ハンターは基本に忠実に! それが一番大事なことじゃないかな。


 2時間ほどかけて森を巡り、野営をしていた焚き火に戻って来た。消えかかった焚き火に焚き木を放り込んで勢いを増し、冷えた体を温める。


 とりあえず、ガトルの襲撃は無かったが油断はできない。明るくなったら早々にここを立ち去る必要がありそうだ。


「全部で6羽です。これで依頼は完遂ですね」

「依頼の数は2羽だから、残りの2羽を標準価格で売って、2羽をみんなで頂きましょう。私も食べたことが無い鳥なのよね」


 色々と狩りをしてきたけど、この鳥は初めてだ。まだまだ私の知らない食材があるのだろう。それを狩るのも楽しいかもしれないな。

 

「交代で休んで頂戴。明日は黒鳥を捌いて出発するわ」

「そうですね。今度はミチルさんが先に休んでください。俺達が番をしてますよ」


 グラム達も立派になったと感心してしまう。ありがたく、テントの中で横になると隣にキティが潜り込んできた。


 翌日は、吹雪になっている。このまま町には帰れないだろうから、黒鳥を少し離れた場所で頭と内臓だけを取り除いておく。冷凍庫みたいな状態だから肉の保存は問題ない。

 パメラ達が近くの雑木を切り倒して焚き木を作る。私達の周囲を固めた雪で囲めば、冷たい風も防げるから凍えることもない。


「冬の狩りは過酷にゃ!」

「でも、準備だけしっかりしておけば、いろんな狩ができるでしょう?」

「大きな獲物も多いにゃ。でも寒さは苦手にゃ」


 ネコ族だからねぇ。隣にいるキティも同じなんだろうな。一緒に毛布で包まってるから姉妹に見えてしまう。


「終わりました。これでガトルがいつ来るか分からなくなりますね」

「ダノンの話にはガドラーは無かったから、来るとしても数は少ないでしょうね。こっちに来なければ問題はないわ」


 100m以上離れた場所に内臓を捨てたなら、それを咥えて立ち去ってくれるだろう。向かってこなければ攻撃しない。それがガトル相手の鉄則だ。


「朝食ができましたよ~!」

 鍋のスープを掻き混ぜていたのは、リトネにケイミーの魔導士コンビだ。カップ1杯の暖かなスープは体の芯まで温めてくれる。

 ゆっくりとスープを飲みながら、固いビスケットのようなパンを頂く。

 

 食事が終わると、お茶のポットが回される。まとめて【クリーネ】を掛けたから、カップにスープが残っていることはない。本当に便利な魔法だと思う。

 シガレイに焚き木で火を点けると、グラム達もパイプを取り出した。いつの間にか始めていたようだ。ダノンの影響だろうか? 咥えた感じがダノンとそっくりだ。

 いつの間にか大人の仲間入りをしてしまったけど、そろそろ母親達が嫁を貰えと、プレッシャーをかけ始めるんだろうか?


「これだけ吹雪くと今日は足止めですね。できれば、ミチルさんの黒レベルの頃の狩りの話を聞かせて貰えませんか?」

「そうねぇ。確かに暇か。……いいわよ。あれは、ここよりもう少し山麓に入った時の事だったわ」


 銀の時代よりも、黒の時代の方が無茶な狩をしてたような気がするな。そんな中でおもしろそうな狩りと言えば、ガルフ狩りになるんだろうか……。


 ガルフはガトルに名前が似てるけど、どちらかと言えば狐に近いように思える。とにかく罠を見破るのが上手いのだ。

 ダノンは狩ったことがあるのだろうか? 猟師と狐の騙し合いの昔話をリアルで行いそうに思えてきた。

 1人で笑い声を上げたから、皆が不思議そうな表情で私を見ている。


「ごめんごめん。ガルフという賢い獣がいるのよ。その獣相手に罠を仕掛けるダノンを想像したら、おかしくておかしくて……ハハハハ」

「そんなに面白い相手なんですか?」


 真面目そうな表情でグラムが問いかけてきた。とりあえず、笑いすぎて流した涙を拭いたところで首を振る。

 

「そうじゃないの。とにかく賢いとしか言いようのない獣なの。たぶんダノンが色々と苦労した罠を仕掛けても全て見破るでしょうね。そんな獣をかなり昔に狩ったことがあるのよ……」


 見た目は真っ白な狐だ。雪の中では、パメラでさえ発見することは困難だろう。ということで、必然的に罠で狩ることになる。

 ガドラーも賢いとは思うけど、罠を仕掛けることは可能だ。でもその後に止めを刺すのは少し難しいかもしれない。

 ガルフはそうはいかない。括り罠、落とし穴、網、仕掛け弓さえ見破られたからね。

 

「ダノンさんなら悔しがって、他の罠を試すでしょうね?」

 グラム達もその時のダノンを想像したのか笑みが漏れる。だけど私はその横で呆然とした表情で、破られた罠を見ているグラム達も想像してるんだけどなぁ。


「そうしたら、ミチルさんはどうやって狩ったにゃ?」

「それはね……」


 ここから先は、三国志の世界だ。敵の裏をかく。これではダメなんだから、さらに裏をかいた罠を仕掛けた。

 大きな網を張って、その上に小さな罠を仕掛けて餌を置く。


「2重の罠ですか! それなら何とかなるんじゃありませんか?」

「結果は、ダメだったの。それすら見破られたのよ」


 あの時は、仲間全員が頭に血が上ってた感じに思える。

「俺達より、あいつの方が頭がいいってことか!」何て言ってたぐらいだから。


 次に考えたのは、裏の裏の裏だ。

 前の仕掛けを作ったうえで、周囲にダミーの罠をいくつも仕掛けたんだが、それでも罠を壊されて餌だけ取られてしまった。


「何とも凄い獣ですね。そうなると罠では狩れないということになりますよ」

「でも、見付けることはかなり難しい。黒鳥とおんなじね。そこで私達が獲った最後の策は……、グラム、何だと思う?」


 しばらく悩んでいたけど、最後には首を横に振った。

 

「分かりません。でも罠を使ったということなんでしょう?」

「罠を使ったことは確かよ。でもね、罠でガルフを誘き寄せたの。雪原でガルフを見付けることはまず無理だけど、向こうから罠に近づいてくるから、その時を狙って矢でし止めたのよ」

「それって罠猟とは言わないんじゃないですか?」


 憮然とした表情でグラムが呟いているけど、私は立派な罠猟だと思う。必ずしも罠で獣を捕らえる必要はない。罠を使って誘き寄せることだって罠猟に範疇だと私は思うんだけどなぁ。


「でもガルフの依頼はギルドで見たことはありませんよ。やはり、珍しい獣なんでしょうか?」

「今でもいるんじゃないかしら。でも雪原で目撃することはほとんどないから、依頼が無いんじゃないかと思うわ。あの時の依頼も、王都のギルドで受けたぐらいだから」


 ガルフの帽子を外交的な返礼にしたいということだった。報酬はたんまり頂いたから私達の装備が一気に新しくなったんだよね。


 昼食後には、雪女の怪談をしてあげた。

 キティやリトネが震えていたけど、パメラも涙目で聞いていた。ちゃんと1人でトイレに行けるかな?


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