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GⅡー73 偶然という狩もある


 リスティン狩りから数日が過ぎると、皆で行った狩りが楽しい思い出に変わる。

 焚き火を囲みながら参加した連中はその思いでを楽しく話しているに違いない。最後に来年は……、と自分達の新たな目標を見いだせるだろうか?

 そんな抱負や、そのT機の自分達の動きを反省できるならもっと上位のハンターを目指せるに違いない。

 たとえ見出すことができなくとも、次の狩りには見えてくるかもしれない。狩りはその場限りの行為に他ならないが、準備とその後の狩りの反省を仲間達と行うことは重要だと今でも思っている。


「それで、姫さんは次に何を狩るんだい?」

「そろそろ目撃例が出てくるんでしょうけど、それを待ってるの」

「ほう、俺にも教えてほしいな」

「黒鳥よ。目撃例が出たら、テレサさんがギルドに依頼を出すと言ってたわ」


 私の話を聞いて、目を丸くしているのはいつもの事だが、ダノンは黒鳥を見たことがあるようだ。

 そんな私達を首を傾げて見ているのはグラム達のパーティだ。依頼を終えて先ほど帰ってきたのだが、私達がいるのを見て、一緒に暖炉を囲んでいる。


「話には聞いたことがあるんですが、黒鳥って狩れるんですか?」

「けっこう難しいわよ。もし依頼書が出たら、一緒に行ってみる?」


 直ぐにグラム達が頷いている。

 他の町や村に行っても、黒鳥狩りの依頼は無いだろうな。山裾にあるこの町ならではの依頼になりそうだ。それに黒鳥自体の生息数はそれほど多くは無い。

 滅多に狩れない幻の鳥ということになるんだろう。


 確かに、ラッピナを狩るような罠には掛からないし、動き回るのが夜だから弓で狙うのも難しい。

 かつて食べたことがあると言っていたテレサさんはどうやって手に入れたんだろうか? それもちょっと気になる話だ。


 ギルドの扉が開くと、入ってきたのはテレサさんだった。

 金棒を杖代わりに使ってるんだけど、あの金棒をいつも隣に置いているから、見知らぬハンター達が怯えているとマリーが教えてくれた。


「丁度良かった。ミチルさんを探してたんだよ」

「あら、何でしょうか?」


 隣にどっこいしょと言いながら腰を下ろすと、私に顔を向けてきた。真剣な表情は私でもちょっと怖くなる。


「出たんだよ。これから依頼をするからね、約束だよ」

「あぁ、出たんですか!」


 どうやら食堂を利用したハンターが目撃したらしい。

 どうやって狩ろうかと数人で相談していたらしいが、……まぁ、無理だと思う。

 場所は北東の森の上ということだ。グライザムはいないんだろうか? 以前狩った場所からは離れているけど、油断が出来ない相手だからね。


「今、その話をしてたんです。グラム達を連れて行きます」

「それじゃあ、来年はグラム達にも頼めそうだねぇ」

 嬉しそうにテレサさんが微笑んでいる。


「一つ、教えてください。テレサさんはどうやって黒鳥を手に入れたんですか?」

「偶然さね。焚き火の傍の藪ががさがさと音を立てたんで、焚き木を放り投げたのさ。それが当たったんだよ」


 そんなことがあるのも、狩りのおもしろさということだろうな。

 冗談とも取れるような逸話の数々は焚き火を囲む夜話には最高だから、私もいろいろ聞かされた。


「俺達も焚き木を投げて黒鳥を狩るんですか?」

「まさかよ。偶然は狩りとは言わないわ。そうね……、明日にでも出発しましょう。私が教えるのは、罠猟よ」


 驚いて私を見ている連中に、軽く手を振って家に帰ることにした。

 罠猟と聞いてあれほど驚くとは思わなかったけど、もっと変わった狩りをすると思っていたのだろうか?


「そうですか。黒鳥の名は聞いたことがあります。でも、罠猟で捕まえられるんですか?」

 ハチミツ酒をミラリーさんと飲みながら明日の狩りの話をする。

 キティ達は、罠猟と聞いて少しがっかりしてたみたいだけど、罠猟は奥が深いんだよね。ダノンだって、昔は仲間達と罠猟で暮らしを建てていたぐらいだ。

 今では罠猟の入門編を子供達に教えているけど、中級編や上級編だってあるのだ。

 白の中位になってくると、罠猟から離れるハンター達が多いのも嘆かわしくはある。


「少し変わってますけど、罠猟の範疇ですよ。餌で罠におびき寄せますけどね」

「グラム達が覚えるのであれば、直ぐにロディ達に伝わるでしょうね。新たな狩りの方法と獲物が増えることは良いことだと思いますよ」


「でも、罠猟をハンター初心者と考える者が多いんですよね。グラム達は罠猟と聞いてポカンとしてましたよ」

「ダノンさんはそうではないと思いますよ。罠猟だけで十分にハンターとして暮らせますからね」

「武器を振り回すのがハンターだと思っている者も多いことは確かです。武器を使わずに……、と考えてくれるんなら良いんですけど。ハンターの持つ武器は護身用ぐらいに考えて貰えたらと思っているんですが」


 私の言葉にミレリーさんは笑みを浮かべると、カップにハチミツ酒を注いでくれた。

 それが出来ればどんなに良いだろうと思ってはくれた様だ。

 現実にはそうもいかない。武器を使ってどうにか倒せる獲物が多いのだ。


 翌日、私達は家を出ると雑貨屋に向かう。丈夫な紐とドアに取りつける小さなベル、それに豆の小さな袋を1個買う。


「私はギルドに向かうけど、キティ達はお弁当を買ってきてくれない? 1人2食で8人分よ」

 私の買い込んだ物を不思議そうに見ていた2人は、直ぐに雑貨屋を出て行った。

 銀貨1枚をリトネに渡しておいたから十分だろう。グラム達が先に買い込んでいれば、夜食に使っても良い。


 ゆっくりとギルドに歩いていく。

 町の通りは雪が払われているけど、滑りやすいのが難点だ。

 ギルドの扉を開いてホールを見渡すと……、いたいた。


「おはよう。待ったかしら?」

「今着いたところです。一応、狩りの準備をしてきましたが、今回は罠と言う事でしたよね」


「罠猟よ。でも、ダノンは私のようなやり方は教えてないと思うの。覚えたら、他のハンターにも教えてあげてね」

「ちょっと待った!」


 暖炉傍のベンチに腰を下ろしてシガレイを咥えていると、カウンターの奥からダノンが大きな声を出した。

 カウンターの端にある小さな扉を開いてこっちにやって来ると、グラム達がダノンに席を譲る。


「姫さん、俺にもおしえてくれねぇか? 俺も黒鳥を昔は狙ったことがある。だが、あいつは俺が知る罠は効かねえんだよな」

「う~ん、餌を使った罠猟の一つなんだけど、罠を買うことはしないわよ。現地で組み立てることになるから。

 ダノンを連れて行ってあげたいけど、もうすぐ生まれるんでしょう? 傍にいてあげなさい」


 私の言葉を聞くと、嬉しいようながっかりしたような複雑な顔をしている。

 傍にいてはやりたいが、私の罠猟に興味が湧いてるということだろう。だけど、ダノンが指導したハンターに罠猟を教えるんだから、次の機会には教えて貰えば良いんじゃないかな?


「確かに、もうすぐ生まれそうだ。テレサさんが付き添ってくれてるから、安心はしてるんだが……」

「それなら、なおさらよ。生まれた時に町にいないとなったら、大怪我では済まないかも知れないわ」


 ギルドのホールにいたハンター全員が、私の言葉に同意して頷いている。

 考えることは同じということだから、かなり確証が高いということになるのだろう。

 ダノンもがっかりしたような表情をしてベンチに座りなおしたところを見ると、あきらめてくれたようだ。


「仕方ねぇな。ここで結果を待ってるよ。だけど、子供の名付け親は頼んだからな」

「知らない仲じゃないし、それぐらいはしてあげるわよ。でも、本当に私で良いの?」

「妻のたっての願いだ。俺も考えたんだが、良い名前はクレイ達の子供に付けてしまったからな」


 狩りの間に考えないといけないな。

 私の考える名前は、ともすればこの世界の名前と異なる響きになってしまう。その辺りに注意しなければ……。


 ギルドの扉が開いてキティ達が入って来た。

 さて、出掛けるか。グラム達もベンチから腰を上げて、装備の確認を始めた。


「直ぐに出掛けるけど、だいじょうぶ?」

 私の問いにキティ達が元気に頷いてくれた。

 2人の装備をもう一度確認したところで、グラムの方に顔を向けると私に頷いてくれる。彼のパーティも準備が出来たということだ。


「出掛けるわよ。ダノンもあまりギルドを離れてはダメだからね」

「だいじょうぶだ。外回りはカインドとミレリーさんがやってくれる。俺は暖炉で焚き火の番だからな」


 それが一番だろう。家に戻ればテレサさんに邪魔物扱いされかねない。

 パイプを取り出したダノンに片手を振って、私達はギルドを出る。

 今日は曇り空だ。雪にはならないだろうけど、私達にとっては雪原の眩しさが緩和してくれるだけでもありがたい。


 グラムが先頭に立つと、北の門に向かって歩き出す。私は最後尾をのんびりと歩いて行こう。

 


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