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GⅡー72 冬のお祭りのようなもの


 2日後に、私達35人はギルドに集結してリスティン狩りに向かった。

 冬の狩りにこの町を訪れたハンター達は、私達を見て目を白黒させていたが、他の村や町ではこんな狩りをすることはないだろう。

 参加するクレイ達だって、ある意味お祭り気分だ。

 この町で暮らすハンター達、総出の狩りに近いものがあるからね。


「一体、どんな狩りをするんだ? 巻狩りだとしたら。俺達にも場所を教えてくれんと困るんだが」

「なぁに、リスティ狩りさ。心配はねぇぞ。この町の冬の行事みたいなもんだから、数日はガトルもおとなしくならぁ」


 見知らぬハンターとダノンの会話を面白そうに聞きながら、シガレイを楽しみグラムの最終点検結果を待つ。

 冬の狩りの怖さを知らない仲間ではないけれど、ちょっとした見落としがあるかもしれない。今ならまだ間に合うから、出掛ける前の確認は重要だと彼らも分かってきたようだ。


「ミチルさん、全員問題ありません。お弁当も届きましたから、いつでも出掛けられますよ!」

「そう、ありがとう。……ダノン。出発よ!」

「分かった。ヨシ、出発だ。最初はクレイ達が先導してくれ。殿は姫さん達に頼むからな」


 ぞろぞろとギルドを出ていく私達を、あっけにとられた表情で見知らぬハンター達が見送ってくれた。

 春先にどんな噂が王都で飛び交うか分からにけど、かなり誇張して伝わるに違いない。『あの町では、町中の連中が一緒になって狩りをする』ぐらいになってしまうのかもしれないな。


「何かおもしろいことがありました?」

 私が噴き出すのを堪えているのを見て、ミレリーさんが聞いてきた。

「いえねぇ、あの見知らぬハンター達が私達の事を王都でどのように吹聴するかを想像してたら……、アハハハ」

 とうとう笑ってしまった。

 周囲の連中も、その訳を知って皆が笑い声を上げる。


「ワハハ……、確かに酒の席での面白い話になるのは間違いないな。だが、他の町や村では真似をしたくても無理だろう。この町のハンターは、皆ミチルさんとダノンの指導を受けている。いまだに指導される身であることを自覚してるからなぁ」

「そうだね。私もそう思うよ。プレセラの連中だって、あの時ミチルさんはこう言ったと、仲間内で口にするからねぇ。私は後ろにいるだけで十分さ」


 とはいえ、ラズーはいつもテレサさんの動きを見ているに違いない。何といってもテレサさんを目指しているんだからね。


 町の北にある広場で、全員が雪靴とスノーシューを付ける。この先は、一面の雪原だ。ハンターの足跡だけが残っているのだが、かなり雪が深そうにも見える。

 全員の装着が終わったことを確認したクレイが。鋭く笛を吹いて出発を告げた。


 狩場まで1日半を掛けて移動し、3日目に狩を行う。

 クレイとグラムが仲間達を的確に配置してくれるから、私達は周囲の見張りと配置の微妙な修正だけを行う。

 もっとも、修正しなくとも十分だとは思うのだが、立ち位置を少し変えるだけで危険を未然に防げることを教えておくだけのことだ。


「リスティンみたいな大型の獣を狩る時には、たとえ細くとも必ず立ち木の後ろに位置するのよ……」

 ロディ達なら問題はないけれど、トビー性質のパーティはともすれば一人前の振りをしたくて立ち木の前に位置してしまう。


 やって来たリスティンを矢で傷つけ、遅れたものを槍でし止める。いつもの方法だが、ネリーちゃん達にも可能な方法だ。

 それでも11頭は少し多かったんじゃないかな?

 ダノンが急いで解体の指揮を執っている。


「静かなのが問題だねぇ……」

「やはり来るでしょう。リスティン狩りでガトルと遭遇しないことはありませんでしたからね」


 急いで、狩場を離れて野営地を早めに探すと、次の狩りの準備が始まる。

 ガトル狩りの準備と配置も慣れたものだ。

 私達は焚き火の傍で、クレイの指揮を見守るだけで良い。


「ダノンよ、ガドラーの話はあったか?」

「いや、まだ見かけた者はいねぇぞ」


 群れがまだ来ていないということなんだろうか?

 確かに、あまり見かけなかったけれど……。


「スノウガトルということはないですよね?」

「それは無いでしょう。そもそもが遥か東の土地に住む獣です。私達と違って獣は縄張りをきちんと守りますわ」


 それを邪魔しない限りの話だけどね。

 焚き火を囲むミレリーさん達も苦笑いで頷いている。私の言葉だけでなく、その売れにある考えも御見通しということなんだろう。


「冬に現れる物騒な奴は、グライザム以外にもいるのかい?」

「バシュに寄りますね。一番物騒だと思ったのはスノウタイガーです。真っ白な大型のネコ科の猛獣です」


「聞いたことがねぇ……」

「ずっと東の方よ。スノウガトルの先の先って感じかな」


 私の話を聞いて、ほっとしたような表情を作ったのはダノンだけではない。たぶんユキヒョウの一種なんだろう。魔気であれほど大きくなるとは思わなかったけどね。

 そいつと遭遇した王国でもめったに姿を現さないということで、国王に進呈ししてさっさとこっち向かったから、その後どうなったかは分からないけどね。


「グライザムなら、誰かが見ているはずよ。やはり少し遅れてやって来たガドラーが群れを率いたとみるべきでしょう」

「なら、あの配置で十分だろう。俺達は後ろで左右を守れば丁度良い」


 率いるガトルの数が問題だからね。私もそれで良いと思う。

 クレイやグラム達は何頭ものガドラーを倒しているのだ。

 

 そんなことを話しながら夜中に備えたのだが、やって来たのはガドラーに率いられたガトルが30頭前後だった。

 ダノンも私達の見学組に入って、若い連中の狩りの様子を眺めている。


「クレイにグラムは良いハンターになったな。あれならどこに出しても問題ねぇ」

「トビー達も、後ろをしっかりと守ってますね。娘の活躍を直に見ることができるとは思いませんでした」


 ネリーちゃん達はバトンを振るって活躍している。キティもあの状況下できちんと狙いを付けられるみたいだ。隣のリトネを信頼しているんだろう。もっとも、万が一にはオブリーが駆け付けられる距離でもあるんだけどね。


「となると、俺達は次の世代を育てないといけないのかもな」

「俺はちゃんと育ててるぞ。雪レイムや、ラビーは十分に猟ができる。来年は林に足を延ばして、再来年は森になるな」


 カインドさんとダノンがハンター教育の引継ぎの話をしているようだ。

 新たなハンターは再来年ということになるんだろう。少なくとも四季の罠猟と冬の怖さを教えてあげれば、野犬やガトルの対処の仕方をカインドさん達が教えることになるんだろう。

 初心者と中級者の指導ができるんだから、この町のギルドは王国内でも特筆されるべき場所に違いない。


「終わったみていだな。まったく、俺達がお荷物に見えてしまう」

「お荷物でも良いのよ。問題は、私達がいなくてもクレイ達が同じことができたかを考えないといけないわ」

「俺達が見てたから、できたこともあるってことか?」

「言われてみれば、そんな気もするねぇ。でもグラム達だけだよ。クレイは堂々としたもんさ」


 グラムではね。どうにかマリーの呪縛を逃れつつあるけど、今でも恐れてるようだ。1年ぐらい町を出てみるのも良いのかもしれない。パメラが付いている限り、危険な目には合わないんじゃないかな。


 町に獲物を乗せたソリを曳いていくのはどうしても時間が掛かってしまう。

 2日目の夜もガトルの襲撃を受けたが、これにはガドラーが付いていなかった。新たなガトルの毛皮と牙を上乗せして帰りを急ぐ。


 リスティン狩りを行ってから、私達が町に着いたのは3日目の事だったが、獲物の数を考えると仕方のないことなんだろう。

 1頭を肉屋で解体してもらい、半分を皆に分けてもう半分を今夜の宴会に使う。

 報酬は1人160Lだから、私の分配金と残金が今夜の酒代になる。


「それにしても、4人分の肉は食べきれませんね。近所に分けても良いでしょうか?」

「そうですね。私の分はオブリーに渡しましたし、こんやはタップリ食べられますからね」


 明日の夕食分を残して、近所に配るのだろう。リスティンの肉は王都に運ばれる。町では滅多に食べられないんだよね。

 ラケス達も武器屋やマリー達に受け取った肉を渡していた。宿暮らしだし、テレサさんに1人分の肉を渡しておけば十分だろう。明日は宿を利用するハンター達もご相伴にあずかれるに違いない。


 宿の食堂に教会の鐘が鳴ってから集合というのは、宿を利用する連中の食事を優先するということになるんだろうな。

 その間に肉を届けたり、装備をいったん自分の家に置いてこれたりできる。

 私は、キティ達とギルドの暖炉で時間を潰すことにした。


 そんな連中も何人かいるから、ちょっとしたゲームでもできれば良いんだけどね。

 雑貨屋に頼んで、トランプを作って貰おうかな?

 狩りの途中でも、焚き火を囲んで楽しめそうだ。


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