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GⅡー69 雪の季節がやってきた


 ロディ達に冬のイネガル狩を教えて町に戻る途中、雪が本格的に降り出した。

 ブーツに結んだ蔦のおかげで雪原も安心して歩けるけど、明日以降は雪靴やスノーシューみたいなカンジキを履かないと歩けないんじゃないかな。


 獲物を肉屋とギルドに渡して報酬を分ける。

 イネガルはロディ達で、グリコスは私達で、そしてガトルの毛皮と牙の報酬は全員で分ける。


「良いんですか? 狩を教えて頂いたんですから、本来なら全員で分けるべきだと思うんですが」

「私達は見てただけだから、これで良いのよ。でも、ロディの気持ちはありがたく思うわ。他のハンター達と一緒ならそうするのよ」


 ロディにそう告げたところで、私達の報酬の分配をオブリーに任せ暖炉の傍で手招きしているミレリーさん達の所に向かった。

 ベンチに座ると、テレサさんが暖炉からポットを外してお茶を入れてくれる。だいぶ体が冷えたから、一杯のお茶は何よりのご馳走だ。


「上手く狩れたようだね。あんたが失敗するとは思ってなかったけど、ロディ達は覚えたってことかい?」

「洞に入ったイネガルを狩る方法を教えました。今年の冬には町の人達の食べる肉が少しは増えるんじゃないかと」


 私の話に2人が笑っている。

 山懐の町だけど、住人は2千人近いのだ。ロディがたまにイネガルを狩ることになっても、それほど住人に回ることは無いのが本当のところだからね。


「リスティンが町で消費されるのは5頭に1頭でしょう。ですがイネガルならば……」

「半分は町で消費されるよ。それだけイネガルは身近な存在なんだけど、狩るとなればそれなりの力量と度胸がいるからねぇ」


 ロディ達はグラム達とイネガルを狩っていたみたいだ。これからは、ネリーちゃん達と一緒に狩ることもできるだろう。


「ところで、ハンター達はやってきましたか?」

 私の言葉にテレサさんが嬉しそうな表情を見せる。そんな友人にミレリーさんは顔をほころばせている。


「2つのパーティがやって来たよ。黒1つに青7つだね。軽く狩場を見てくると言って出かけたけど、マリーの話ではガトル狩の依頼を受けてたそうだよ」

「中々慎重なパーティのようです。狩場を一歩きすればおおよその状況を掴むことが出来ますからね。武者修行ではあるのでしょうが、十分に黒の高レベルに上がれるでしょう」


 ご婦人方2人の評価は高いようだ。

 本来なら、ハンターはかくあるべし、ということになるんだろう。とはいえ、遜んな手間を省いて直ぐに狩を始めるのもハンターなんだよね。 

 お茶を飲み終えたところで、ミレリーさんと一緒に家に帰ることになった。キティが分配した報酬を私に渡してくれたんだけど、75Lはこの季節では十分な報酬になる。

 ミレリーさんの家には明かりが点いていた。

 すでにネリーちゃんは帰っていたんだろう。あたたかなリビングのテーブルで何やら広げて細工をしている。


「おかえりなさい! スープは出来てるわよ」

「ありがとう。それじゃぁ、パンを焼いて夕食にしましょう」


 パンを焼くと聞いて、キティ達がネリーちゃんの応援に向かった。2人が乱暴に脱ぎ捨てたマントを壁のハンガーに掛けて、自分のマントも隣に掛けておく。


「ダノンとカインドさんがいませんでしたね?」

「ダノンは子供達に冬の罠猟を教えてますよ。今日は昼過ぎに戻ってきました。あの空でしたからね。カインドはプレセラ達と湖近くで野犬狩りです。冬のラビー狩りを前に掃除をするんだと言ってましたよ」


 冬のラビー狩りは、雪レイムも混じる美味しい狩だ。罠猟初心者連中が競う狩でもあるのだが、ガトルや野犬も同じようにラビーを狩るからね。

 ダノン達が安心して罠猟が出来るように、群れを小さくしているってことなんだろう。

 カインドさんなら安心してプレセラを任せて置ける。この冬で白になるんじゃないだろうか?

 パンが焼けたところで夕食が始まる。

 ネリーちゃん達の狩と、私達の狩の様子を話しながらの夕食は結構楽しみでもある。


 食器類の片付けが終わったところで、ネリーちゃん達は順番にお風呂に入るようだ。

 そんな子供達を見ながら、私とミレリーさんはワインを飲みながらシガレイを楽しむ。


「明日はお休みですか?」

「だいぶ降ってますからね。新雪が凍って足元が良くなってから次の狩をしたいと思ってます」


「根雪になるかも知れませんね。今年の降り出しは遅かったようです」

 雪の狩はそれなりに準備が必要になる。昨年の装備を点検して不備があれば買い足すことも必要だ。明日はそんな準備になってしまいそうだ。


「出来ればギルドで準備をして頂けませんか? ミチルさんがそれをするなら、若いハンター達も自分達の装備を確認するでしょうからね」

「分かりました。でも、それぐらいは自発的に行ってほしいところです」


 そう言ってミレリーさんに目を合わせると、互いに笑ってしまった。

 ちょっと過保護すぎる話なんだよね。

 でも、ミレリーさんの心配も頷けるところではある。ギルドの奥で毛皮を広げてキティ達に準備品を確認させれば良いだろう。

 笑って見ているハンター達なら、すでに装備を終えたハンターだ。興味を持って見に来るハンターがいるとなれば、まったく準備をしていない連中になるんだろうな。


 翌日は朝からギルドでキティ達が冬用装備の確認をしている。ホールの奥に大きくテント用の布を敷いて店開き中だけど、テーブルセットから離れているからハンター達の邪魔にはならないだろう。隣でネリーちゃん達もおなじように店開きしている。


「今日は、狩りは休みなんだね? なら、ここをお願いしても良いだろうね?」

「はぁ……、任せてください。ということはテレサさんはプレセラ達と?」


 昔はここで一日いたんだから、今日一日ぐらいは何でもない。それより、昨日から降り続いている雪の中、狩に行くのだろうか?


「まさかだよ。少し店を広げてるのさ。その手伝いもしてやらないとね」


 私の肩をポンと叩いて席を立ったテレサさんは、そう言ってギルドを後にする。

 そういえば、そんな話をしていた。

 プレセラ達も泊まってるはずだから、意外とカインドさん達の手伝いをしているのかもしれないな。

 貴族の館ではそんな経験はできないだろう。彼らにとっても良い経験に違いない。


「おや? 今日はキティ達は雪山装備の手入れってことだな」


 テレサさんが出ていって直ぐに、今度はダノンが入ってくる。暖炉を挟んだベンチに腰を下ろしながらパイプでキティ達を指さしている。


「まぁ、そんなところかな。ああして広げておけば、雪山が初めてのハンターも少しは装備に気を付けられるでしょう?」

「どちらかと言うと、オブリーが興味深々だぞ」


 あまり雪深い場所での狩をしたことは無かったに違いない。質問にキティとネリーちゃんが答えてるのも微笑ましいところだ。

 それに釣られて、何人かのハンターが遠巻きにキティ達を見ている。

 初めて見る顔だから、冬の狩をするためにやって来たハンター達なんだろう。


「でも、興味を持ったハンターもいるみたいよ。他人に聞けば良いのだけれど、それを良しとしないハンターだっているわ。それでも、ちびっ子ハンターが店開きして道具の手入れをしていれば……」

「どうやって使うかぐらいは聞いてみるだろうな。だが、過保護には違いねぇ」


 ダノンが暖炉でパイプに火を点ける。今日は子供達を引き連れて、罠の確認には出掛けないのだろう。


「それにしても降り続けるわね。これでは荒地を超えるのに苦労しそうよ」

「3つのパーティが戻っていねぇらしい。クレイ達は心配ねぇが、秋にやって来たハンター1組と、昨日やって来たハンターだ」


 クレイ達なら問題ない。冬の雪の怖さを最初の年に知ったはずだ。となれば、残りの2組が問題になる。果たして装備を何処まで整えて出掛けたか、それに食料をどれだけ持って行ったのだろう。

 獲物があれば、それで食いつなぐという方法もあるのだが、狩が上手くできたとは限らないからね。

 とはいえ、私達が出来ることにも限りがある。この降りでは、探しに向かうのさえ困難だ。


「この町ならではの事なんでしょうね」

「確かに、他の町や村から比べても、雪が多いな。俺の生まれた村は、ずっと東なんだが、この町の半分も雪は積もらないぞ」


 その原因は、この町がそれだけ北にあるということだ。町に雪が3か月以上積もる場所など、この王国ではこの町だけだからね。

 農家の人達も、冬は暖炉際で内職に忙しい日々が続いているはずだ。主な製品は毛糸の編み物なのだが、この町の暮らしに合った製品だから緻密に編まれている。

 暖かさ抜群とのことで、ブランド化されているのもそんな暮らしが長く続いているせいだろう。


「ところで奥さんの具合はどうなの?」

「だいぶ大きくなってきたな。来春ってことはなさそうだ。若いのが2人いてくれるから俺も安心できる」


 どっちが生まれるんだろうか? なるべくダノンには似てほしくない気がするな。

 きっと子供を甘やかす両親になるに違いない。


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