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GⅡー68 カラリーナは絶大だ


 獣が潜む大きな穴は広葉樹の根元にある。針葉樹にも洞があるときもあるけど、比較的小さなものだ。

 イネガルが潜むとなれば広葉樹以外にはないのだが、ロディ達にもその位の経験は持っているようだ。

 教えたのはダノンだろう。子供達に狩の仕方をそれなりに教えてはいるようだが、狩の仕方をあまり教えていないから、どちらかと言うと危険防止の観点から教えていたんだろう。

 根元に開いた大きな洞を直ぐに覗き込まないで、遠くからゆっくりと近付いて確認している。

 この狩で絶対にやってはいけないこと。それは洞を直ぐに覗き込むという愚になるからね。


「どうやら見つけたみたいですよ」

 ロディが洞の中を指さして、後ろで槍を構えている仲間に教えている。

「ちゃんとできるかしら?」

「キティとリトネがいるからだいじょうぶでしょう。一応、狩り手の後ろに待機します」


 クレイ達なら難なく狩れるのだが、この狩りの仕方はロディ達には少し問題があることも確かだ。イネガルが飛び出した一瞬をロディ達は槍でし止められるだろうか?

 ロディの慎重すぎる狩の仕方とは少し違うから戸惑ったりしたら大怪我に繋がりかねない。オブリーもそれに気が付いているに違いない。


「周囲は私が見てるわ。確実にし止めたことまで確認してね」

「止めを刺すまでを確認します。任せてください」


 ロディ達を見ると、洞の近くに焚き木を積み上げている。リトネが針葉樹の小枝をたくさん抱えてきたから、あれで煙を出すつもりのようだ。

 さて……、カラリーナは誰が持ってるのかな?

 

 準備が整ったところで、カラリーナの実をキティがライズに渡している。どうやら大役はライズが努めることになるようだ。


 周囲を一度見回して何事も無いことを確認しておく。この頃は私よりもキティの方が勘が鋭くなったようにも思えるが、私だって森の民である以上それなりに気配には敏感だ。


 小さな焚き火を作って、松明を作るようだ。直接洞の前に積んだ焚き木に火を点けないのはロディらしいな。

 松明の炎と煙で、慎重に風向きを確認しながら2人の狩り手を配置している。一人が2本の槍を持っているのはロディの分に違いない。

 カラリーナの煙をそれほど恐れているのはちょっと問題だけど、ロディだからねぇ……。

 

 焚き木に火を点けると枯れ枝が直ぐに燃え上がり、針葉樹の葉が煙を出し始めた。さらに大きく煙が上がった時、ライズがカラリーナの実を手の中で折りながら焚き火の中に投げ入れた。

 さて、始まるぞ……。


 直ぐに茶色の大きな塊が飛び出した。

「「ヤァー!」」

 気合のこもった叫びが森の中に響くと、ドサリ……、音を立ててイネガルがその場に転倒する。

 槍を投げた3人が片手剣を引き抜くと、5人の娘達が魔法の杖を持っていつでも攻撃できる体制を取る。

 ゆっくりとロディが転倒したイネガルに近づいて首に片手剣を突き刺した。

 グイッと上下に動かしているから、確実に頸動脈を断ち切ったはずだ。


「お見事! さて、次は?」

 私の声にロディが仲間に矢継ぎ早に指示を出した。


 イネガルを運ぶソリを作らなくてはならないし、縛り付ける蔦も必要だ。イネガルだってかなりの大物だから、臓物だけでなく首も落とす必要があるだろう。

 狩は一瞬だけどその後はやることがいろいろとある。ぐずぐずしていると血の匂いに敏感なガトルの群れが来る可能性だってあるのだ。


 私達が周囲を見張っている中で、ロディ達がイネガルの解体と運ぶ準備を始めた。

 この時間がいつも長く感じるのは私だけだろうか?

 ハンターが襲われる可能性が一番高いのは、狩りを成功させてからの2時間ほどの間になる。


「終わりました!」

「そう、早めに戻るわよ。ガトルもしくは野犬の気配がするわ」


 私の言葉にキティが小さく頷いている。かなり遠くで、こっちを見ているようだ。イネガルの臓物と頭で諦めてくれれば良いのだが……。


 ロディ達に交じってオブリーやリトネもイネガルを乗せたソリを曳くのを手伝っている。キティは前方で、私は後方で周囲の監視を怠らない。このまま2kmは休憩なしで進みたいものだ。


 森の中は風がそれほどないから寒さはそれほどでもない。でも、空模様はますます悪くなっている気がする。

 早めに今夜の野営地を確保しといた方が良さそうだ。


 どうにか狩場から間を取ったところで昼食を取る。

 なるべく簡単に済ませたいが、大きなイネガルを運んできたからね。スープを作って携帯食である歯ごたえのあるビスケットを頂いた。


「降ってきましたね……」

「まだ先が長いのよね。大雪にならなければ良いんだけど……」


 休憩を早めに切り上げて先を急ぐ。まだ森の中だけどやることができた。早めに枯れ木を集めないと雪の中では探すのが困難になってしまう。生木で焚き火を作れなくはないが、煙が多いから面倒なことになってしまいそうだ。

 見つけるたびに、ソリに積んだイネガルの上に載せていく。

 そんな状態でどうにか森が林に代わるころにだんだんと辺りが暗くなってきた。


「ミチルさん。あれなんかどうですか!」

 ロディが大声を出して少し離れた場所にある数本の雑木を指さした。広葉樹の若木なんだろう。直線状に数本の木が並んでいる。並んだ長さは私の身長以上あるようだから、風下にテントを張れそうだ。


「そうね。あそこで野営をしましょう。数本枝を切って来てくれない?」

 ロディ達が持ってきた枝は槍よりも少し太いくらいの枝だ。テントを張った上に枝を組み合わせて布を屋根型に張る。同じテント生地だからフライシートという感じだが、これでテントの入口の前に屋根代わりに広げれば、少しは雪や風を防げる。


 張り出した布が燃えないような距離に焚き火を作ると、リトネ達がスープを作り始めた。

 焚き木が心もとないと思ったロディ達が焚き木を集めに向かったところで、シガレイを咥えて火を点ける。


「来るでしょうか?」

「半々というところでしょうね。一応来ると思って見張りを付ければ良いわ。イネガルはロディ達が集めてくる焚き木で覆えるでしょう」

「少し尻尾が膨らむにゃ」


 やはり遠くで私達を見てるということだろう。

 人数が多いからだいじょうぶだと思うし、この季節ならガトルがまだ飢えるということは無いはずだ。


 スープが出来たところで、焚き火の周りに集まって食事を始めた。

 夜になってだんだん雪が多くなった気がするけど、気にするほどではない。とはいえ、これからどれだけ降るかによっては明日の行動が左右されてしまいそうだ。

 食事を終えてお茶を飲み始めた時に、明日に備えて準備を頼むことにした。


「この蔦を潰すんですか?」

「潰せばロープのように使えるでしょう? 明日は町まで行きたいけど、雪原は滑りやすいわ。蔦を良く潰してブーツに巻けば滑りにくいわ。スノーブーツは持ってきてないでしょう?代用品ってわけ」


 俗に言う生活の知恵なんだけど、ロープや革紐でも代用できる。いつも何本か革紐をバッグに入れてはいるんだけど、さすがに全員分は無いからね。

 私の説明に納得してくれたのか、ロディ達が蔦を焚き木で打ち始めた。

 リトネとキティに見張りを頼んで、私達はテントの中で仮眠をとる。

                  ・

                  ・

                  ・

 ゆさゆさと体を揺すられて目が覚めた。

 眠そうな目で相手を見ると、真剣な表情のキティが私を見つめている。


「やって来たの?」

「ガトルにゃ……。数はそれほどでもないにゃ」


 十数匹ということだろう。ガドラーがいなければロディ達には丁度良い獲物ではある。

 テントの中で寝ている連中を起こして、狩りの準備を急がせる。

 外に出ると、ロディ達が短い槍を構えていた。


「テントの左が私で右がオブリー、リトネとキティはテントの中でクロスボウを使って! ロディ達3人は焚き火の前、ライズ達は焚き火の後ろで援護すること。分かったかしら?」

「「了解!」」


 大きな声を上げるとそれぞれの場所に向かっていく。

 ロディ達の前に大きなイネガルがソリに乗った状態だから、それだけでもちょっとした足止めに使えるだろう。ロディ達の槍は杖の使い方を基本にしているからガトル相手に丁度良い。


「来たぞ!」

 上手く雑木を後ろに出来たから、ガトルがやってくるのは正面寄りになってしまう。

 少し左に反れているから私が一番多く対峙することになるのかな?

 

 グォン! 

 吠えながら飛びついてきたガトルの頭に、私の魔法の杖であるパイプを振り下ろす。

 次のガトルの攻撃を、体を斜めに反らして受け流しながらパイプで背骨を折った。

 3頭めは? と周囲を見回したが、すでにガトルは去ったようだ。


「皆、怪我は無い!」

「私とキティはだいじょうぶです!」

「私も何ともないぞ!」

「俺達もだいじょうぶだ……」


 どうやら全員無事なようだ。雪がうっすらと積もったばかりだから、足元が滑らなかったのが良かったのかもしれない。

 ホッとしたところで、焚き火に焚き木を追加してお茶を沸かす。

 先ずは休憩しよう。その後でガトルの毛皮を剥ぐ仕事が待っている。

 ロディが素早く倒れているガトルの数を確認したようだ。全部で8頭ということは、まだ群れが大きくなっていないようだな。

 でも、町が雪で包まれる季節になれば最低でも30頭にも群れが膨らむし、山からガドラーがやってくると50頭を超える群れになることだって珍しくは無い。

 いよいよ本格的な冬の狩のシーズンがやってくる。

 ハンターの腕を競う季節になってきたのだ。


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