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GⅡー66 滅多にない依頼


 ラビーよりも少し大きなデリスをキティ達が弓で狩りをする。野犬ぐらいの大きさなんだけど、ラビー用の罠では狩れないから、ガトルの群れに対処できないハンターたちにとっては良い獲物ではあるのだが、意外と狩るのは難しい。

 デリスは数匹の群れで行動する。同じような体形で周囲を警戒する1匹が代わりばんこに藪から姿を現すので、はた目には素早くあちこちと移動しているように見えるのだ。

 警戒心が強いから接近して矢を放つのはネコ族にとっても難しいところではある。

 あまり動かずに、最初の1匹が顔を出した藪に近づき、ジッと姿を現すのを待つことがこの狩の秘訣だ。


 狩場の奥と手前に私とオブリーが立って周囲を警戒すれば、キティ達の狩に危険はそれほどない。リトネがデリスの姿が現れる藪を次々と動き回るのは陽動ということになる。

 近くの藪からデリスが顔を出した瞬間、隠れていたキティが矢を放った。


「当ったにゃ!」

 藪から姿を現したキティの体にはあちこちに枯れ葉や小枝が付いてるぞ。

 獲物をその場でさばいて私のところに持ってきた。

 次はキティとリトネが役目を交代して同じように狩を行うのだ。


 小さな焚き火を作って皆でお茶を飲む。まだ日は高いけど日暮れは早いからね。そろそろ町に引き上げねばなるまい。


「デリスは6匹です。リトネの弓もだいぶ上手になってきました」

「魔導士だからって、他の武器が使えないんじゃ困ることになるわ。弓なら今の位置で前衛を助けることができるからね」

 オブリーの報告にうんうんと頷いている2人を横目に見ながら、何故にリトネにまで弓を使わせているかを教えておく。


 攻撃的な弓と防衛のための弓があればいろいろと役に立つはずだ。ガトルの大群に囲まれたら、魔導士の魔法なんてすぐに枯渇してしまう。

 

「誰かこっちにやってくるにゃ!」

 リトネがポットに水筒の水を追加する。森の奥から私達のところにやってきたのは、グラム達だった。

 私達だということが分かったらしく、足を速めてやってくる。


「ミチルさん達とは思いませんでした」

「立ってないで座りなさいな。グラム達も狩の帰りみたいね。今回は何を?」

「イネガルです。どうにか単独で狩れるまでになりました」


 カップを取り出した彼らにキティがポットのお茶を注いでいる。

 誇らしげな彼らの表情は、思い通りの狩ができたということに違いない。すでに上級ハンターとして十分に通用するだろう。とはいえ、グライザムはまだまだ先の話だが、クレイ達のグライザム狩を手伝うことはできる。クレイ達もさぞかし心強いかぎりだろう。

 

「キティは何を狩ったにゃ?」

「デリスを狩ったにゃ。まだまだパメラ姉さんのように弓が使えないにゃ」

 

 姉妹のようにパメラはキティに接してくれる。そんなだからキティもお姉さんと呼んでいるに違いない。パメラもキティの言葉が嬉しかったのか頭をなでているぞ。


「もうすぐ雪が降りだします。ギルドのハンターたちの多くが南に向かいました」

「でも、あなた達は困らないでしょう? 大型の獣が山を下りてくるし、ガトル達も群れで下りてくるわ」

「最初の頃は、震えながら雪レイムの罠を見て回ってたにゃ。今では良い思い出にゃ」


 今でも居候してるみたいだけど、グラム達もお年頃だ。今後の展開が楽しみなんだけどね。

 獲物を持ってグラム達と町に帰ることにした。グラム達が3人がかりで大きなイネガルを急ごしらえのソリに乗せて引いているから、私達の歩みはいつもより少し遅くなる。それでも狩の様子を互いに話しながら歩けば時間なんてすぐに経ってしまう。

 夕暮れ前に、私達は北門をくぐることができた。

 キティ達は肉屋に向かい、私とオブリーはパメラ達と共にギルドに向かう。


 ギルドに入ると、マリーが私を見とがめて、暖炉傍を指さした。そこにいたのは、ガリウスだ。私と視線が合うと軽く頭を下げている。こんな時期に何だろう?

 先にガリクスのところに行って、向かいのベンチに腰を下ろした。


「今の時期に珍しいわね。変わった依頼は無かったはずだけど?」

「ラケス達の様子を見に来たところだ。まだ、帰っていないそうだから待っているのだが」

「そういうことね。テレサさん夫婦とミレリーさんが指導してるわよ。目標はテレサさんだとしても前衛にはミレリーさんやカインドさんの姿が目標になるんでしょうね」

「ベクトの場合はミチル殿だぞ」


 そう言って、オブリーの持ってきたお茶のカップを受け取った。私も、テーブルのカップに口を付ける。

 現国王の依頼なんだろうか? それともレイベル公爵かな。いずれにしても王族の差し金には違いないのだろう。


「ガリウス達の方は上手くやってるの?」

「まぁまぁってところだろうな。次期公爵は青の7つに上がっている。このまま行けば、黒のレベルを持つ公爵が王都に誕生するぞ。国王が楽しみにしている」


 冗談ではなくなったか。貴族の筆頭として文武両道に優れた存在になるんだろうな。ひょっとして軍を率いるなんてことになりそうで少し心配になってきたぞ。


「それほど深刻な話にはならんだろう。貴族を統括する者として認められるのは間違いないだろうが」

「子供もいるんでしょう? あまり無茶な仕事はしない方が良いわよ」

「その時は、ミチル殿を頼ることにするさ。来年にはミチル殿も知っている王女が輿入れをする。隣国の王子とは同い年だからお妃様も乗り気だな。俺も悪い話ではないと思っている」


 どうやら東の王国に嫁入りするらしい。スノウガトルの帽子は良い嫁入り道具になりそうだな。まんざら知らない間ではないし、この町のハンターに武器を新調してくれたこともある。

 何か贈った方が良いのかな?


「その気持ちで十分だと思うな。ミチル殿の贈り物など、相手の王子が気の毒になってしまう」

 笑いながらのガリウスの言葉に、少しムッとしたけど確かに今度は隣国からお返しが届きそうで怖くなる。ここはガリウスの言葉に従っておいた方が良さそうだ。


 プレセペの連中がテレサさんと共に帰ってきたようだ。席を譲って、私は少し奥のテーブルで待っているプレアデスのところに向かった。


「報酬は15Lが6匹で90Lになりました」

「3人で25Lずつ分けなさい。私は15Lで良いわ」

 

 3人で分けても良いのだが、少し貰っておけば皆も安心してくれる。これは明日の昼食代にすれば良い。

 

「ところで、明日の獲物は見つけたの?」

「白1つの依頼にグリコスを10匹というのを見つけたのですが……」


 また、レアな依頼があったものだ。

 グリコスは獣ではなく昆虫の幼虫なのだ。あまり気色の良いものではないのだが、ある病気の特効薬になる。今では採取の容易な薬草に変わってしまったから、グリコスを知らないハンターの方が多いんじゃないか?

 グリコスの特効は唯一、イボ取りなんだけどね。即効を求めるならグリコスということになるんだろうな。薬草は煎じ薬だから半年以上かけてイボを小さくするというものだし……。


「グリコスは図鑑に載ってるはずよ。カウンターで借りてきて!」

 リトネが席を立って、カウンターに向かうと子供達と一緒に罠猟を終えたダノンが椅子を持ってやってきた。


「少しは獲れたの?」

「ラビーが3匹だ。これからが季節だからな。今度の連中も中々に物覚えが良いぞ。ところで姫さんは?」

「今のところ、デリスよ。次はグリコスを教えようと思ってるの」

「グリコス?」


 ダノンも知らないようだ。あまりお世話になることもないんだろうな。簡単に説明すると、「そんな虫もいるんだなぁ」と感心している。

 リトネが図鑑を持ってきたけど、マリーも一緒に着いてきたぞ。初めて見る依頼だったようだ。


 パラパラと図鑑をめくるが、相変わらず整理されていないようだ。名前とページの目録を作った方が良いと言ったんだけど、「ページって何ですか?」と質問される始末だ。図鑑の整理は前途多難という外にない。


「これこれ。この虫なんだけどね」


 テーブルに図鑑を広げるとみんながのぞき込んだ。大きさはキティの小指よりも小さな芋虫なんだけど、赤地に黒の水玉模様だからな。


「薬効はイボの除去ですって?」

「即効性らしいわよ。今では薬草を使うことが多いらしいけどね」

「薬草のおかげで廃れたってことなのか? 俺も初めて見る虫だが、姫さんはどうやって捕まえるつもりなんだ」


 図鑑の下に書かれた注意書きを指さした。


「ここに書いてある通りよ。グレハの実を好んで食べるの。鳥だって、この虫を嫌うぐらいだからこの季節にグレハの実が残ってたら間違いなく中にいるわ」

「グレハとなると北の森ってことだな。ガトルはまだ下りて来ないようだが注意しといた方が良いぞ」


 キティ達のレベル上げに丁度良さそうな気もするけど、ダノンにはまだまだキティがちびっ子に見えるんだろうな。「ありがとう」と礼を言っておく。

 依頼書をよく読んでみると、生死を問わないと書いてあるし、必要なのは頭部のみとも但し書きがしてあった。火酒に漬け込んで使うのだろう。グリコス10匹で200Lとは破格な依頼でもある。


「だが、よく誰も手を出さなかったな?」

「獲物がどんなものか分からなかったんじゃないの。それに、誰も受けなくて正解だったかも知れないわ。グリコスの牙には毒があるの。血液毒だから噛みつかれなければ良いんだけど、腫れ上がって数日は苦しむことになるわ」


「蜜グモ取りと同じにゃ!」

「それが正解。小さな木の板を持っていけば良いわ。梱包用の板を雑貨屋で分けてもらえば良いわ。手のひら2つ分もあれば十分よ」


 板に乗せたところで採取ナイフを使って頭を落とせば良い。触らないで始末するのはそれほど難しいことではない。


「できればロディ達に教えてやってほしいんだが……」

「良いわよ。ついでに適当な獲物を狩ってくるわ」

「姫さんの適当ってのが問題だな。今年はイネガルを狩らせたいと思ってるんだが」


 となると、カラリーナの出番になるかな? 使い方はキティ達が覚えただろうし、ロディ達にも覚えさせときたいところだ。ダノンはカラリーナの使用に慎重だけど、使い方を間違わなければグライザムにだって効果があるんだからね。


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