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GⅡー65 イネガルの狩り方


「ミチルさんは何を狙うんだい?」

 食事が終わってテレサさんが美味しそうにパイプを咥えている。

「キティがイネガルを狩ると言い出しまして……」

 テレサさんの眉がピクリと動いた。やはり呆れてるんだろうな。

「あんたがいるならグライザムも無理とは思えないけど、どうやって狩らせるんだい?」


 簡単に狩りの方法を説明する。イネガルの巣穴をいぶって追い出して、オブリーが槍で止めを刺すと言う手順で行うのだ。


「私達は、イネガルを探すのに半日ほど森を歩きました。イネガルの巣穴の話は聞いたことがありますが、それは冬の狩り何では?」

「そろそろ冬の準備を始める頃よ。貴方達が狩った獲物もでっぷりと太ってたでしょう。そんな状態になったら冬ごもりの巣穴を探し始めるの。真冬の雪の中の方が狩りはし易いんだけど、これの使い方を教えようと思ってね」


 ラケスの質問に答えたところで、バッグの中からカラリーナを1本取り出して見せてあげた。


「やるのかい? とんでもない効き目は確かなんだけど、私は自信が無いねぇ。それを自由に使えるのが銀レベルなのかも知れないねぇ」


 テレサさんは呆れているんだか、褒めているんだか微妙なところだな。ラケス達は驚いて声も出ないようだ。


「それ程驚くことはないわ。使い方次第って事だから」

「でも、それは使うなとダノンさんが言ってました。狩る立場が狩られる立場になりかねないとも言ってましたよ」

「そこがダノンの良いところでもあり、悪いところでもあるんだけどね。ダノンは慎重派なの。一度瀕死の重傷を負っているからとは思っているんだけどね。だから子供達の狩りの先生としては貴重な存在なんだけど……」

「先が見えるって事だね。間違いを起こさないことは大事だけど、冒険を忘れてもダメだと言う事になるね。怪我を負わせたくないという気持ちは大事だけどねぇ」

「後に残るような怪我は問題だけど、少しぐらいは怪我をさせるべきなのよ。でないと、いつまでも慎重な狩りをするか、いつか命を落とす事になりそうだわ。だから、狩りの初めはダノンが面倒を見ても、その後はテレサさん達が付いてくれるでしょう。ダノン程過保護じゃないから、怪我は諦めなさい」


 私の言葉にテレサさんが笑っている。テレサさんの指導は、どちらかというと狩りの後見人に徹しているんじゃないかな。ラケス達に任せて、大怪我を負いそうになったら介入することに徹しているように思えるんだけどね。


「教え方は、人様々と言う事になるのかねぇ。私は今の方法が一番だと思うんだけど、旦那はそうは思ってないんじゃないかと思う時もあるね」

 カインドさんは一緒に狩りをするタイプだからな。ミレリーさんはテレサさんに近いタイプなんだけどね。


「でも、ラケス達には一番適した教え方だと思います。冬のリスティン狩りが楽しみです」

「そうだね。またやるのもおもしろそうだねぇ。宿を少し広げないといけないかも知れないけど、息子達とも相談しとこうかね」


 カインドさんの意見も聞いた方が良いと思うんだけどな。

 もっとも、テレサさんとしては旦那さんの意見は聞くまでも無いと思ってるのかも知れない。長年連れ添った仲というところだろう。

 夕食後の一時を、昔の思い出話をしながら過ごしたところで、焚き火近くで横になる。3人が常に焚き火の番をしてくれるから安心して眠れそうだ。


 翌日。朝から綺麗に晴れている。少し寒いくらいだから冬が駆け足でやって来そうだ。

 朝食をラケス達と一緒に食べて、私達は森の奥に入って行く。ラケス達がイネガルを倒したのが森の北東だったらしいから、私達もその方向に向かった。


「狩れるかにゃ?」

「だいじょうぶよ。でも相手を見付けないとね」

 

 心配そうにキティが私の顔を見上げる。だいぶ大きくなったから昔ほどのように見上げることは無くなったけど、まだまだ肩には達していない。

 これから先はキティとオブリーの目が頼りになりそうだ。私もいるけど、ネコ族を越えることはないし、リトネには無理な注文に違いない。

 あちこちの太い木を眺めながら私達は少しずつ森を移動して行った。

 

 そろそろ昼食を取ろうかと考えていた時、キティの歩みが止まった。身を屈めて少し右側に移動していく。どうやら見付けたらしい。

 口笛を吹いてオブリーとリトネに見付けたことを知らせると、直ぐに私と所に戻ってきた。


 ゆっくりとキティが後ろに下がっている。かなり離れたところで私の所に急いで帰ってきた。

「いるにゃ。大きいイネガルにゃ」

 キティに比べれば、子供のイネガル以上は全て大きいんじゃないかな。

「そう。この狩りで一番大変なのはイネガルを見付けることなの。それじゃあ、始めるわよ。先ずは枯れ枝を集めて頂戴」


 直ぐに焚き木が集められる。その間に私は周囲の草を切り取って束にした。2つもあれば十分なはずだ。

 焚き木を抱えてきた3人に、もう一度役目を確認させる。


「木の根元近くで焚き火を作ること。これはキティとリトネに頼むわ。2人とも【アクセル】を自分に掛けなさい。イザとなれば私の所に逃げられるでしょう。それで、焚き火はね……」


 ただ焚き火をするだけではダメなのだ。煙が穴に入るようにしなければならない。イネガルは雪で入り口が塞がれないように南向きの洞穴を好むんだけど、全ての洞穴や木の洞が南を向いていることは無い。ほとんどがすこし東西にずれている。そのずれた位置と風の方向を読むことが大事になる。


「風を見るには小さな木の葉を千切って落とせば良いわ」

 近くの藪から木の葉を千切って下に落とす。少しの風だが北西方向から吹いているようだ。

「これで風の向きを知るの。木の洞近くでもう一度やってみなさい。森の中は複雑に風が吹いているからね。方向が分ったら、風下に洞穴が来るように焚き木を積んで火を点ける。燃えて来たら、この草を乗せなさい。その辺に生えてる雑草だけど、煙を作るには丁度良いわ。煙が出て来たら、これを2つに折って焚き木に投げ込みなさい。風上でやるのよ。絶対に風下に立たない事。それが終わったら、一目散に逃げなさい。逃げる方向は、オブリーが立っているから、最初に確認しとくと良いわ」


「イネガルを倒すのは久しぶりです。槍を投げた後は長剣を使いますよ」

「お願い。長剣の一撃で倒せない時は私が介入するわ」


 トラ族の投げる槍で倒せないのはグライザムぐらいだろう。長剣を使うことは無いだろうし、オブリーが蔦に足を取られてひっくり返らない限り、私の出番は無いだろうな。

 オブリーがキティ達に自分の立ち位置を教えているようだ。それ程距離が無い。100D(30m)ほどの場所だが、この意味をキティ達が理解するのはまだまだ先になりそうだな。

 飛び出したイネガルが走り始めても、まだ速度が上がらない距離にオブリーは立つことになる。


 2人が枯れ枝を両手で抱えて木の洞に少しずつ近付いて行く。どれ、私も準備しよう。腰のM29を引き抜いてお腹のベルトに挟んでおく。

 少し洞に近付いて、キティ達の焚き火作りを眺める。焚き木を下に置いてリトネが木の葉で風の向きを確認すると、少し場所を変えたようだ。

 

 焚き木に火が点くと、勢いよく燃え上がった。その上に草の束を乗せた途端に煙が出始める。リトネがポンと投げ込んだのがカラリーナに違いない。2人がオブリーに向かって駆けだすと同時にイネガルが飛び出して来た。

 くしゃみをするような感じで咳き込んでいる。たっぷりとカラリーナの煙を吸い込んだに違いない。それでもキティ達の姿を見付けたようだ。

 キティ達に狙いを付けて走り出したが、本来のスピードが出ないようだ。これがカラリーナの特徴だ。吸い込んだらしばらくは息苦しさが続くし涙が止まらないからね。


 大きな木を避けるように左右に分かれた2人の後ろからオブリーが姿を現すと素早く槍を掲げてイネガルに向かって投擲した。あの距離だと10mも無いんじゃやないか。槍を受けたイネガルがその場に転倒した。

 オブリーが長剣を抜いてイネガルの首を両断する。


 これで狩りは終了だ。内臓を抜くのはオブリーに任せてキティ達とソリを作った。

 細長い枝を2本組み合わせて作ったソリにイネガルを乗せて、蔦で転がらないように縛りつける。

「そうそう、キティ。イネガルの牙を折り取っておきなさい。ギルドに依頼完了の確認証になるわ。忘れた時には、肉屋で依頼書にサインを貰う事になるわよ」


 あまりサインを貰うハンターがいない事も確かなのだが、それも可能ではあるのだ。肉屋にしても大きなイネガルなら喜んでサインしてくれるだろう。


「さぁ、運びましょう。町は遠くよ。それに、いつガトルが来るとも限らないわ」

 

 1km程ソリを動かしたところで、遅い昼食を頂く。今日中には町に帰れそうもないけど、森の出口付近で野営をしたいものだ。

 ともすれば下り坂に向かいがちだけど、森の出口は荒地の斜面になる。なるべく荒地の北に位置する場所に向かわねばならない。それだけ斜面が緩やかなはずだからね。








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