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GⅡー64 プレセラ達が戻ってきた


 夏が過ぎ去り秋がやって来る。

 畑の穀物の取入れが一段落すると、この町にハンター達が集まって来る。「青だが実力は黒だ」なんて言う連中が多いのもこの季節ならではの事だ。

 そう言う連中が多いと怪我をする連中も増えることは容易に予想が付く。

 新たなハンターがカウンターで登録をするのを、奥のテーブルで眺めながらオブリーと手術道具の手入れと中身の確認をしていた。


 そんな中に、見知った連中が現れた。うん、やはり人数が増えたな。新たな仲間は……、ネコ族の青年だ。


「お久しぶりです。お元気でしたか?」

「ラケス達も元気でやっているようね。王都はおもしろくないってことかしら?」

 

 私の言葉にラケスは微笑んでるけどラズーは頷いている。この場合、ラズーの反応が合ってるんだろうな。2年ほどこの町でのびのび暮らしたんだから、王都は息が詰まるんだろう。

 やって来たと言う事は、裏でガリクス辺りが動いてるに違いない。ガトルだけでなくハンターとしてのレベルを上げて来いと送り出されたに違いない。


「どうやら、仲間を増やせたようね。青の中位というところでしょうけど、ラケス達を頼んだわよ」

「さすが、我等の頂点に立つだけの事はある。ガリクス殿の薦めもあり軍から除籍してラケス殿のパーティに加わった」

「ちょっと固そうだけど、貴方達が一緒なら十分に黒を狙えるわよ。でも、最初はミレリーさん達に相談して狩りの依頼を受けなさい」

「分かってます。今回は教会に世話になるわけにもいきませんから、カインドさんの宿に長期滞在することにしました」


 あの2人と話をしたかったのかもしれないな。色々と世話になってるだろうし、ラズーの目標はテレサさんだったはずだ。


「何かあれば手伝ってもらうかも知れないわ。その時はよろしくね」

 私の言葉に5人が頷いたところで帰って行ったけど、ネコ族の青年が私にビシ! っと最敬礼をしていった。まだ軍の生活から抜け出ないんだろうか?


「やって来ましたね。テレサの宿なら問題ないでしょう。テレサもいつ来るのかと言ってましたから今夜の食堂はご馳走が出そうですね」

「やはり、王国の手足にラケス達は使われそうですね。貴族ですからそれも良いでしょう」


 ガリクス達も公爵の代が変われば、あまり王都からは出られなくなるだろう。その時に備えるわけだな。それを私達に委ねようというんだから、貴族と係わると碌な事が無いというのが良く理解できる。


「これで少し賑やかになりますね」

「確かに、おもしろくなってきましたね」


 2人でシガレイを楽しみながらお茶を飲む。オブリーは静かに私達の会話を聞いていた。

 

 数日が過ぎると、プレセラの指導はテレサさんとカインドさんが交替で行うようになった。ラケス達のたっての願いらしいけど、ラズー達がテレサさんを目標としているからなんだろうな。

 そうなると、ギルドでのコンサルティングはミレリーさんと言う事になってしまう。


「だいじょうぶですよ。判断に迷う時にはミチルさんの指導を受けさせますから」

「はぁ……。申し訳ありません」


 肌寒くなってきたので、ミレリーさんはハンター装備を整えた状態で、暖炉の傍で編み物をしている。退屈しのぎにはなるんだろうけど、この季節にやって来るハンターは色々いるからね。


「たまに交替してくださいね。私もグラム達の狩りに付き合ってあげたいですから」

「了解です。出来れば私のところと交替してくださっても良いですよ」


 そんな私の申し出に笑顔を返されてしまった。やはりキティ達を育てるのは私になるんだろうな。

 

                 ・

                 ・

                 ・

 秋も深まってくると、ハンター達がこの町を去っていく。

 ちょっと寂しい気もするけど雪深いこの町の周辺で狩りをするのは、レベルの低いハンターには無理がある。

 まだ頑張っているハンター達もいるけれど、そろそろ大型の獣が山から下りてくるころだ。ミレリーさんがまだ若いハンターに説得している姿を何回か見たけれど、昔は私がしていたから、ちょっと懐かしくなってしまう。


「今日はイネガルを狩るにゃ!」

 リトネにキティがそんな事を言ってるから、ギルド内に笑い声が起こる。

 半分は冗談だと思っているんだろうが、残りの半分は私がどうやってキティ達に狩らせるのかを、仲間と相談しているようだ。たまに賭けまで行われているらしいからあまり高望みはさせないでおこう。

 さすがにグライザムは私もやらせないけどね。


 私が頷いたのを確認してキティ達がカウンターに向かった。

 そんな私を、暖炉傍で一緒にシガレイを楽しんでいたミレリーさんが微笑んで見ている。


「まだ赤の6つでしたよね。イネガルなら白の中位は欲しいところです」

「実際に狩るのはオブリーになるでしょうね。キティとリトネには穴からイネガルを出して貰います」

「あれを使うんですか?」

「あれを使えば簡単ですよ。でも、風向きをきちんと考えて使わねばいけませんから、そんな狩りの前段階に行う事をきちんと覚えさせませんと……」


 あれとはカラリーナのことだ。他の方法を全て試してからでないと使うなとダノンは言っていたけど、それだとイザという時に使えないんじゃないかな?

 ハンターの持つ化学兵器は取り扱いが難しいのだ。しっかりと練習させて自由に使いこなせるようにしなければなるまい。


「終わったにゃ!」

「それじゃあ、出掛けるわよ! ……それでは2日ほど狩りに出掛けて来ます」

「あまり急ぎ過ぎてもダメですよ」


 私にそう言って、ミレリーさんは小さく頷いてくれた。


 晩秋から初冬に移るのはそれ程間があるわけではない。

 山脈から吹き下ろす冷たい北風に耐えるために皮の上着の下に長めのセーターを着こむのが私にとっては冬の始まりになる。

 ギルドの暖炉傍では、そんな装備は必要ないけど、魔法に袋にはいつでも入っているから必要になれば直ぐに着ることができる。

 プレアディスの連中も、まだセーターは着ていないけど腰のバッグに入れた魔法の袋には入っているだろう。


 北の門を出て東に下る大きな荒地は薬草がたくさんあるのだが、この季節は草も枯れ始めるから薬草採取を行う子供達の姿も1組しか見当たらない。

 冬が始まると暖炉の前で春の薬草採取をじっと待つことになるのだ。貧しい子供達には辛い季節なるが、それぞれの家で両親達の手伝いをすることになるんだろうな。

 食事の支度を手伝うだけでも、母さん達が編み物をする時間を増やせるのだ。


 荒地は東にある大きな湖に向かってなだらかに傾斜している。キティの足取りも2年前から比べるとだいぶ良くなった。

 すでに14歳を過ぎている。私と一緒に狩りをするのはあとどれ位なんだろう。

 このまま、この町で私と過ごしても問題は無いけれど、自分の幸せを探せれば良いなと思う時もある。

 もっとも、ミレリーさんのところのネリーちゃんだって年頃なんだけど、そんな話は無かったな。


 荒地の先には林があり、段々と森になって来る。林と森の境は明確じゃないんだけど、立木がまばらで見通しの良い場所を林と呼んでいるのは昔からだ。

 私達は林の端で昼食を取り、森の出口で野営をする。

 いつものように入念に周囲をロープで囲み南に向かったロープの柵が開いている場所に焚き火を作った。

 ここまで行う必要はないのだが、キティとリトネがいるからね。

 

「ところで、イネガルはどの辺りにいるのですか?」

「そうね……、この季節ならそろそろ穴倉にいると思うわよ。森の中の太い立木の根元に3D(90cm)程の穴があったら、イネガルが入ってるかも知れないわ」


 どうやら、夏のイネガルは狩ったことがあるらしいけど、晩秋のイネガルは狩ったことが無いようだ。


「得物は長剣でよろしいでしょうか?」

「槍の方が確実だわ。6D(1.8m)位の杖ぐらいの太さの枝を2本取って来て頂戴。私とオブリーの分よ」

「「私は?」」


 キティとリトネがお茶を飲むのを止めて私を見ている。はっきり言って戦力外なんだけど……。


「二人にはイネガルを穴から追い出して貰うの。かなり危険な役割なんだけど、素早い貴方達なら任せられるわ」

 

 私の言葉に、うんうんと頷いている。ちゃんと自分達の能力に合った役割だと思ってくれたに違いない。オブリーが頬を膨らませて笑い出す寸前だったが、やおら立ち上がって林の中に消えていく。

 しばらくして大きな笑い声が聞こえてきたけど、そんなにおかしな話だったかな?


 夕暮れが近付き、焚き火に鍋を乗せる。乾燥野菜に干し肉を入れたスープとパンが夕食になる。

 途中でラビーを狩った方が良かったかな? 明日の夕食はキティの腕に期待しよう。


「誰かやってくるにゃ!」

 キティの指差す方には数人のハンターの姿が見える。

 狩りを終えて町に帰るのだろう。重そうに引いているのはイネガルだな。


「こっちにやって来ますね。もう少し場所を広げた方が良かったかもしれません」

「これで十分だと思うわ。でもクレイ達でも、グラム達でも無さそうね……」

「テレサおばさん達にゃ!」


 と言う事は、プレセラ達ってこと? まだ赤レベルなんだけど、テレサさんがいれば安心できるか……。

 やがて、嬉しそうな5人を従えたテレサさんが私達の前に現れた。


「おや、こんなところで野営かい? 私達も一緒にお願いしたいね」

「奇遇ですね。どうぞ、ご一緒に。そろそろ夕食が出来上がるからラケス達も食べなさい。スープはまた作れば良いんだから」


 キティとリトネで皆の織機に半分だけスープを配っている。とりあえずお腹に入れて貰おう。次はたっぷりと作れば良い。


「イネガルを狩って来たよ。やはりネコ族が入ると狩りは上手く行くね。パメラ並みの能力を持ってるよ」

「それで、イネガルを草原で狩ったと?」

「見付ければこっちのものさ。ラケスの采配も中々だ。最期は私が引導を渡したけどね」


 追い込んだ先にテレサさんがいたってことか。と言うことは、今回のイネガル狩りはプレセラ達の連携がどこまでできているかを確認するためだったようだ。

 もう少し簡単な狩りもあっただろうけど、今回は宿屋暮らしだから丁度良いって事になるんだろうか?

 王都から出て来る時にたっぷりと懐に入れて来てはいるんだろうけどね。


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